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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学27巻6号

1976年12月発行

雑誌目次

特集 松果体 総説

松果体の比較形態学

著者: 森亘 ,   輦止勝麿

ページ範囲:P.421 - P.427

 はじめに
 松果体は,その形態にかなりの差があるとはいうもののとにかく,円口類から哺乳類にいたるまでごく少数の例外を除いて広く脊椎動物に存在している。その真の機能については未だ解明されていない部分が多いが,最近の,ことに生化学の分野における松果体研究の進歩はめざましく,今ようやくその全貌を現しつつあるといつても過言ではあるまい。
 概略を述べると,魚類から哺乳類にいたるまで松果体ではメラトニンが産生されていることが知られており,そのメラトニンを介して,生体が本来有している活動性のリズム—その中枢は視床下部にあるといわれる—を地球の自転,公転によつて変化する光周期に一致させ,このような面から個体を環境に適応させるという作用を荷なつているらしい。しかし,この点については本特集内で他の著者によつて詳しく論ぜられると思うので,ここでは主として形態学の立場から,このような日周リズムが松果体構造の上に如何に反映されているかを中心に述べてみたいと考える。

メラトニンの代謝と生理的リズム

著者: 平田扶桑生

ページ範囲:P.428 - P.437

 はじめに
 あらゆる生物は自分の周囲の環境の変化に応じて活動を変化させながら生活している。高等動物がその生命を維持するためには構成する各器官が協調し,一定の規律のある機能を営む必要があり,これらの調節に動物の神経系および内分泌系の両系が関与していることは衆知の事実である。動物が示す夜間の睡眠,昼間の活動,摂食などの行動のリズムばかりでなく,呼吸,血圧,血糖,血中のホルモン濃度などの生理現象のリズムは,光,温度などの外的要因と内分泌および神経系の内的要因によつて調節される生体の適応現象の一表現型ともいえる。
 最近,この動物の生理的リズムにおいて,松果体が重要な役割を演ずることが多くの研究者により提唱されている。これは主として松果体ホルモンと目されるmelatoninの代謝が光の明暗に同調した日内リズムを有すると共にmelatoninを投与するとホルモン分泌をはじめとして,いろいろな生体の生理機能の日内リズムが変化をうけるという実験観察に基づいているといつて過言ではない。本稿ではこれらの問題点について簡単に要約したい。

松果体の機能形態学

著者: 松嶋少二 ,   加地隆 ,   向節子 ,   森沢裕子

ページ範囲:P.438 - P.444

 哺乳類の松果体機能に関する研究は,近年めざましく進展したが,これまでの松果体研究では生化学的レベルでの検討が主流をなしており,形態学的領域からの追求は一歩後退していた感があつた。実際,今日よく知られている松果体機能の光による調節機構の詳細は,主として生化学的観察によつて明らかにされたものであり,この問題に対する形態学的裏付けは今日でもなお十分とはいえない。今日までの松果体機能に関する研究において,形態学的側面からの検討が比較的少なかつた理由はいろいろ考えられるが,従来の形態学的観察では,この器官の顕著な特徴である日内リズムの現象を的確に捉えることが困難であつたことも一因であろう。
 私どもは従来から松果体の機能を形態のレベルで捉える試みを続けてきたが,最近ようやく松果体における日内リズムの問題をマウス松果体のグリコゲン量や交感神経線維にみられる小胞の超微形態などを指標として把握できるようになつた。本稿では,光刺激と松果体の機能的関連性の問題を交感神経線維の小胞にみられる日内リズムの面から考察してみようと思う。

解説

サーカディアンリズムの中枢機序

著者: 井深信男 ,   川村浩

ページ範囲:P.445 - P.455

 はじめに
 生物行動を含む生命の現象には,心搏,呼吸などのような非常に速いリズムから,幼児にみられる数時間周期の睡眠—覚醒,ラットの自発的活動性やヒトの睡眠に代表されるほぼ24時間を周期とした行動,性周期のように動物により数日から数カ月に及ぶリズム,さらには鳥の渡りのような1年を単位とする行動などの多くのリズム現象がみられる。このなかでもほぼ24時間を周期としたリズムは最も多くの研究の対象となつてきた。Halbergは24±4時間の範囲のリズムをサーカディアンリズム(circadian rhythm)と呼び,これより周期の速いリズムをultradian rhythm,おそいリズムをinfradian rhythmと呼ぶことを提唱し,これは広く採用されるに至つた。
 これらの生体リズムの研究はかなり古くから,甲殻類,昆虫,鳥類,哺乳類などさまざまの動物種についてなされてきたが,その生理機構に関する研究は少なく,昆虫での実験が最初である。哺乳類についてもその研究はここ数年間にはじまつたばかりであるといつてよい。なかでも,げつ歯類のサーカディアンリズムに関してはきわめて最近になつて,松果体のセロトニンアセチル転移酵素(NAT)24),副腎の皮質ホルモン量の変動22),水飲み行動37),車回し行動37),さらに筆者らの睡眠—覚醒リズム16,17)などの研究により徐々にその中枢機序が明らかにされつつある。

講義

横紋筋の構造と機能における諸問題

著者:

ページ範囲:P.457 - P.467

 当時ハンガリーにいたAlbert Szent Gyögyiがその研究グループと共に,筋の収縮性素子が二つのタンパク質,アクチン(actin)とミオシン(myosin)からなる複合体であることを発見してから,わずか30年ほどしかたつていません。それ以来今日までに,しかもかなりの部分が江橋教授とその共同研究者たちによりまして,筋の分子生物学および生化学の分野できわめて顕著な発展がみられております。しかしながらこれらの分野での知見と,形態的に無傷な筋線維の生理的活動との間の関連については,大部分が推測の域にとどまつております。多くの細胞内構造,たとえば筋小胞体SR,トロポニン(troponin),トロポミオシン(tropomyosin)それから多分まだ他のものも同様に,筋の収縮活動の過程に参加し,そしてこれを複雑にしていると考えられます。さらに筋形質膜および横行小管系(Tシステム,TTS)が選択透過性の膜として働く性質や,Tシステムが深く筋線維内へ入りこんでいることも,これらの細胞内構造に対して実験的操作を加えることを難しくしております。
 約20年ほど前,名取教授は筋形質膜の一部をオイルの中で取り除き,こうして"はだかにされた(skinned)"部分で筋線維の内部に到達できることを示しました。しかしこのような標本は,オイル中に保ちながら溶液を交換することがやや難しいために,広く使われるにはいたりませんでした。

実験講座

ナノセカンド・パルス螢光法—螢光とその異方性の減衰過程の直接測定

著者: 御橋廣真

ページ範囲:P.468 - P.476

 螢光の減衰過程を,ナノセカンド(10-9秒)の時間分解能で直接観測することができるようになつた1)。これは,数ナノセカンドの時間幅をもつた励起パルサーが開発されたことと,シングルフォトン計測の技術の進歩(主に原子核物理学の領域での開発が基礎になつている)による。この方法を用いれば,螢光強度の減衰過程から螢光寿命が求まり,また螢光の異方性の減衰過程から分子のミクロブラウン運動の相関時間が求まる。特記すべきことは,この相関時間の決定が,単一の溶媒条件下でできることである(従来の定常励起光による偏光解消法では──いわゆるペランプロットでは──溶媒の熱力学的パラメーター,温度か粘度,を変化させる必要があつて,結果の解釈に不確かさが生ずる2))。さらに,この方法は,螢光分子の励起状態での反応性のキネティックスや螢光分子をプローブにして分子あるいはその集合体の内部のダイナミックな性質も,今までより精度よく検知する可能性を与えているので,汎く分子生物学の領域でその応用が注目されてきている。ここでは,この新しい螢光測定法の原理の要点をまず概観し,つぎに私達が行つた応用例をあげながら,この方法の特徴や限界をできるだけ具体的に吟味していくことにしたい1)

酵素電池法—酸化還元酵素の新測定

著者: 八木達彦

ページ範囲:P.477 - P.482

 はじめに
 生体には種々の酸化還元酵素があり,その研究に活性測定は欠かせない。また,臨床検査でルーチンに多数試料の活性を測定する酵素もある。酵素電池法は,酸化還元酵素の活性測定のために開発した新技術である。将来,現行法にとつて代るか,単なるアイディアに終るかは,これからの研究にかかつている。ここに現状と将来の展望を述べて御助言,御批判を期待したい。

話題

アイオワ大学解剖学教室での体験

著者: 千葉胤道

ページ範囲:P.483 - P.485

 アイオワ大学
 中西部の代表的な農業州のアイオワに1847年に創立されたというこの大学は,現在Iowa cityとAmesとに分れているが,医学部はIowa cityにあり,州内に一つだけしかないために,ベッド数2000に近い大学病院は,州の医療センターの役割も果たしていると聞いた。Iowa cityは,人口約5万人,その内3万人は大学関係者という文字通りの大学町で,近くを走るinterstate 80と約15マイル離れたCeder rapid空港により外界と連絡する静かで平和なところであつた。
 私の所属した解剖学教室は,1973年に完成した基礎医学ビルの1階にあり,薬理,微生物,生化学,生理の各教室が他の各階を占めていた。この建物は,シカゴのある設計グループにより,field theoryに従つて建てられたとのことで,モダンな美しいものであつたが,内部は,5角形の部屋,迷路のような廊下の交錯する,利用者には評判のよくないものであつた(図)。

第10回国際生化学会の印象

著者: 太田英彦

ページ範囲:P.486 - P.489

 第10回国際生化学会(1949年の第1回から3年毎に開かれている)は,7月25日から31日まで,西ドイツのハンブルク市で開かれた。
 ハンザ都市ハンブルクは人口約190万,ドイツ第2の大都市であり,ドイツ連邦の一州を構成している。第2次大戦で徹底的に破壊されたため古い町らしいふん囲気には乏しいが,「中世のカラ」を付けたままのドイツには珍しく国際性が豊かといわれる。ドイツ最大の国際貿易港である一方,市の中央部の大きな人工湖にはヨットの白い帆が揺れ,岸近くに寄つてくるハクチョウやカモに餌をやる人も見かける。また,草木が豊かであり,市中央部の自動車がビュンビュン走る(東京の車よりずつと速い)道の傍の草むらに,灰色の小型のウサギが何か食べていたりする。

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生体の科学 第27巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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