icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学28巻1号

1977年02月発行

雑誌目次

特集 生体の科学の現状と動向 総説

細胞生物学—とくに甲状腺の形態学を中心として

著者: 藤田尚男 ,   石村和敬

ページ範囲:P.1 - P.11

 細胞生物学の現状と動向という漠然とした大きいテーマを与えられたが,すべてを一貫した物語として30枚にまとめるのはきわめて難しい。我が田へ水を引くべく一策を案じ,私が最も力を注いできた甲状腺の分泌現象の解明のために,細胞生物学的諸方法がどのように導入され応用されてきたかを説明することによって,そこから細胞生物学の一端を覗いていただくことにしたい。それでも個を通して普遍を把握していただくことが可能であると信じている。
 甲状腺は,その分泌現象において他の器官にない特殊性をもっている。濾胞細胞内で,いったん高分子タンパクであるthyroglobulinを合成し,濾胞腔へ放出し,たくわえ,必要に応じて再吸収して加水分解し,甲状腺ホルモンであるthyroxineやtriiodothyronineを解放し,細胞の基底部から結合組織腔を経て血管へ放出する。ペプタイドやタンパクを分泌する器官では,細胞内でこれらの物質を合成して放出するだけであるのに対し,甲状腺ホルモンは二つのtyrosineがペプタイド結合でなくエーテル結合をしているのが特色である。このことが,ホルモン合成→放出という簡単な道でなく,高分子タンパク合成→濾胞腔へ放出→再吸収→加水分解→ホルモンの放出という複雑な経路をとらねばならぬ原因の一つと思われる1)。この経路の中には多くの問題が含まれている。思いついたものを拾ってみる。

神経解剖学—ニューロン連絡研究の現状

著者: 水野昇

ページ範囲:P.12 - P.21

 はじめに
 神経解剖学を定義することは次第に難しくなってきている。さしあたりわれわれは解剖学を「形態原則を究明し,また,機能の坦体としての形態を具象的に把握し分析することを目的とする生命科学の一分野である」と考えている。しかし,神経解剖学という呼び方で統括される生命科学の分野はきわめて広く,その境界は方法論の発展とともに次第に膨張的に不明確化されつつある。
 昭和50年に東京で開催された第10回国際解剖学会においても神経解剖学の演題が最も多数を占めた。このように神経解剖学の領域は広範囲にわたり,ニューロンの分化・シナプスの発生・可塑性・再生・軸索内輸送・シナプス受容物質など重要なトピックも多いが,ここではわれわれがこれまで最も力を注いできた分野である中枢神経線維連絡ないしニューロン連絡の形態学的研究についてその「流れ」を概観するにとどめざるを得ない。

分子遺伝学—現状と動向

著者: 石浜明

ページ範囲:P.22 - P.28

 Ⅰ.分子遺伝学1960年
 遺伝情報伝達の分子機構についてわれわれがいまもっている知識の源泉は,1960年に求めることができる。Crick(1957)が,「一般原理」(central dogma)(図1)を提唱したあとは,WatsonとCrick(1953)が明らかにした遺伝子DNAの二重らせん構造とそれに由来する反応性から出発して一般原理の全過程に参画する諸実体を同定し反応様式を明らかにすることがとりわけ重要であろうと考えられていた時代であった。その前年に,ラット肝でその存在が指摘されていたRNAポリメラーゼは,その年になると大腸菌などの細菌でも確認されて遺伝情報発現の研究の新たな飛躍の基礎が準備された。
 一方,JacobとMonod(1960)は,その年発刊され今日までこの分野の情報交換の中心的役割を果してきた雑誌Journal of Molecular Biologyに,遺伝情報発現制御に関する歴史的論文を発表した。酵素β-ガラクトシダーゼは,大腸菌では,培地にβ-ガラクトシド結合をもつ糖を添加したときに合成される誘導酵素である。酵素誘導機構を遣伝学・生化学・生理学を動員し解析して彼らが到達した結論は,酵素生産の制御は,DNAからの情報発現レベルで,負の様式,つまり発現量を抑制減少させる方式でなされるというものであった。

脳機能—そのメカニズムの解明

著者: 外山敬介

ページ範囲:P.29 - P.36

 脳機能の研究はその目指すところにより,三つの流れに分けられるように思われる。その第一は機能の局在の研究,第二は神経細胞の発火の意味を探る情報の符号化の研究,第三は神経細胞と神経回路の特性の研究である。これらの流れに含まれる脳の機能の研究はきわめて広汎で,かつその進展もはなはだ早い。したがってこのすべての分野にわたり現状を論じかつ将来を展望することはとうてい筆者の能力の及ばぬところである。したがって現在最も進歩が著しく,かつ筆者の興味をひいている研究を取り上げ,その責務を果たさせていただくことにしたい。

生体膜—膜研究の現状

著者: 池上明

ページ範囲:P.37 - P.42

 「生体膜研究の現状」を書けと編集者から依頼されて数カ月になる。いま締切がきて気軽に引受けたことをいささか後悔している次第である。この機会に少し勉強をと思ったのが間違いのもと,生体膜といった広い分野の研究の現状を紹介するなど,筆者などには初めから無理な話である。筆者が膜に興味をもったのはかなり古いが,それは外野席でのこと,外野席を下りて,とにもかくにも草野球を始めたのはほんの数年前である。それがプロ野球を論するなど思い上りもはなはだしいわけである。編集者があえて筆をまわしてきた意図を勝手に解釈すれば,それはむしろ筆者がずぶの素人で,高校野球にもプロ野球にも関与していなかったという点ではなかろうか。とにかくこの際勝手に解釈させていただいて,いままでタンパク質など生体高分子の物性的な研究をしてきた一研究者から見た「膜研究の現状」を述べさせてもらう。したがって取り上げる内容は当然かたよっていると考えていただきたい。不勉強で耳学問の部分も多いから,内容の正確さもあまり保証できないし,文献も網羅的ではない。これらの点をあらかじめおことわりしておいて話を進めたい。

座談会

生体の科学の現状と将来—外国での研究生活の体験比較から

著者: 弘中哲治 ,   千葉胤道 ,   森茂美 ,   桂勲 ,   福田潤 ,   野々村禎昭

ページ範囲:P.44 - P.56

 野々村(司会) 本日は「生体の科学の現状と将来」という企画で現在,生体の科学の分野で,非常に活躍なさっていらっしやる中堅の研究者の方々とくに最近外国に行って仕事をしてこられた方々に集まっていただきまして,外国での研究,日本での研究というものを比較しながら,生体の科学の将来をみんなで考えてみたい,というのがこの座談会の主旨です。
 まず最初にご自分の現在のお仕事,興味をもっていることと,いつごろ外国に行っていらして,どんな研究をなさっていたか,そういうことを中心にして,一通り自己紹介をしていただきたいと思います。

話題

第5回国際組織細胞化学会議

著者: 小川和朗

ページ範囲:P.57 - P.61

 Green Paris(緑のパリー)とも呼ばれるBucharestブカレスト(Rumaniaルーマニアの首都)は,自由諸国の諸都市にみられるような,あのきらびやかなネオンサインはあまりみられない,樹木の多い,静かな,落着いた雰囲気の町である。ブカレストの街では,町角の花屋が美しい。ブカレストはまた,女性の素顔の美しさがみられる町である。ブカレストの町並には,けばけばしく化粧をした女性が比較的少なく,時折りみかける美しく化粧をした女性の大部分はtouristのようである。
 ブカレストにあるブカレスト大学医学部組織学教室は,また1974年度ノーベル賞医学生理学賞受賞者のGeorge Emil Palade博士(現Yale大学医学部教授)が,医学部卒業後組織学者としての第一歩を踏み出し,さらに"Tubul Urinifer Al Delfinului.Studiu De Morfologie Si Fiziologie Comparativa."と題する論文で1940年に学位を取得された教室でもある。

第1回国際細胞生物学会議

著者: 高橋泰常

ページ範囲:P.62 - P.66

 1976年9月5日より10日まで,米国ボストンにおいて第1回国際細胞生物学会議が開催された。その模様を紹介したい。
 国際細胞生物学会議というものは1947年に形成されて,現在までに何度か会議がもたれたが,今回のものはアメリカ細胞生物学会(ASCB),ヨーロッパ細胞生物学連合(ECBO, European Cell Biology Organization)および日本細胞生物学会(JSCB)の三者を母体として,1972年はじめて国際細胞生物学連合(IFCB, International Federation for Cell Biology)が組織され,その連合が行った最初の会議である。したがって,国際会議であると同時に,母体の三団体の代表からなる第1回総会が開かれ,今後の連合の運営に関し討議され,連合として正式の発足をみたものである。

コミニケーション

「コミニケーション欄」の新設を喜ぶ/「生体の科学」に期待すること

著者: 寺沢捷年 ,   斎藤隆

ページ範囲:P.67 - P.67

 「生体の科学」も28巻をむかえたわけですが,読者の1人として,本書の発刊にあたってこられた編集室の方々はじめ,関係者の皆様に感謝と激励の言葉を贈りたいと思います。
 さて,この度,読者である私どもの要望を取り入れていただき,「コミニケーション欄」が新設されるということを知りました。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?