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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学28巻2号

1977年04月発行

雑誌目次

特集 生体の修復 総説

バクテリアにおけるDNA修復

著者: 賀田恒夫

ページ範囲:P.70 - P.76

 はじめに
 生体の修復は生体の構成分の種々なレベルで起る。本稿では,数億年といわれる生命の流れの物質的な基礎であるDNA(デオキシリボ核酸)の修復を中心にのべる。DNAは,突然変異を通じて生物進化の"本流"をなす構成分であるとともに,現実の細胞一個体の生死の要(かなめ)でもある。この分野の研究の進歩は最近とくに著しい。その成果の示すところは,個体の生死のみならず,その老化,発がん,突然変異の誘発生物進化などと深い関係を有することが明らかとなっている1〜4)
 DNAの修復に関する研究の現状を限られた紙面で述べることは至難であるが,著者はバクテリアにおけるDNA修復に関する遺伝生化学的研究に従事してきたので,あえて筆を執った次第である。

ヒトおよび哺乳動物細胞における修復と回復

著者: 小野哲也 ,   岡田重文

ページ範囲:P.77 - P.85

 放射線生物学においてはすでに1940年代より,細胞に放射線傷害より回復し得る能力があることを示唆する実験がいくつかあった。
 しかし,これがはっきりした形でとらえられ,分子レベルでの解明がはじまったのは,1960年代である1,2)。細胞の回復は,放射線,紫外線傷害に限らず,他の傷害,たとえば,数多くの化学物質からの傷害にもあてはまることが明らかになってきている3〜5)

心筋の修復

著者: 西江弘

ページ範囲:P.86 - P.96

 はじめに
 心筋の修復には筋原線維,小管系膜構造やミトコンドリアなどの修復,細胞膜の修復,境界膜の接合変化とその修復,さらには壊死細胞の吸収と線維化による組織修復の段階が考えられる。心臓は周期的に収縮と弛緩を繰り返し全身の組織へ新鮮な血液を送り出している。心筋細胞自身,血流を遮断して酸素欠乏を起こさせると種々の障害を引き起す。一定時間以上,酸素欠乏状態が続くと心筋細胞は不可逆性変化をきたして壊死に陥るが,吸収され壊死巣の線維化によって修復される1〜3)。心筋を切断したり細胞膜を破壊したりすると静止膜電位が消失するが,Ca2+を含むリンガー液中で数分以内に静止膜電位は回復し,再び活動電位を発生し収縮するようになる4,5)。この場合の回復は,心筋細胞間の機能連絡を担っている境界膜がCaイオン存在下で脱接合を起して,損傷細胞が健常部から切り離されて起ると考えられている5〜7)
 細胞膜に対する微小な損傷は膜構造内での修復,すなわち"sealing"あるいは細胞表面での"plug"形成により修復される8〜11)。筋線維内で筋原線維数の増減や個々の筋原線維の肥大あるいは細小化が起り得ると考えられるから,心筋の筋原線維レベルでの修復も同様な仕組みで起るかも知れない。本稿では筋原線維,その他の細胞内小器官レベルの修復については触れない。以下において,細胞膜や境界膜の修復,心筋の組織修復について述べることにする。

創傷の治癒

著者: 手塚統夫

ページ範囲:P.97 - P.106

 もしも外科患者の数パーセントでも傷の癒合が起らなかったり遅延したりするものであったなら外科医は容易に手術にふみきれないであろうし,現在の外科学も存在しなかったに違いない。幸いに,このような例は稀であって,外科の日常業務を阻害するには至っていない。しかしきわめて稀ながら,創傷治癒の遅延を示す症例は存在するのであり,近年になってそれらにおける欠損因子もおいおい明らかになってくると,創傷の治癒機転そのものにも多くの知見が加えられるようになってきた。これらの知見がきわめて広い領域にわたっていることは,図1からも想像されようし,Rossがその総説2)の冒頭にあげている問題点からも察することができる。
 問題点の概略はつぎのようである。

解説

ミトコンドリア代謝の周期性

著者: 内海耕慥 ,   井上豊治

ページ範囲:P.107 - P.116

 はじめに
 まず,生物の周期現象におけるミトコンドリア代謝の周期性の意味について考えてみよう。生物の周期現象は,長いものでは周期単位が月・年にわたるものから,短いものでは秒当り何百サイクルというものまで様々である。生命それ自体は細胞の寿命,細胞内構成要素や酵素系の代謝回転をはじめあらゆるものが輪転していて,それ自体が周期現象の一単位として存在しているとも考えることができる。しかしここで述べる生物体内での代謝調節における化学反応速度論を中心に考えたinstability,bistability,あるいはoscillationは,細胞の代謝調節機構や生物リズムの研究における解析手段として有益であろう。とくに本稿で取扱うミトコンドリア代謝のoscmationは生体内の不均系,solid systemにおける調節機構やフィードバック・メカニズムの一つのモデル系としてすぐれており,しかもその速度周期が比較的短く解析しやすいという利点がある。
 一般に化学反応論におけるkinetic responseは,つぎのような機構で分けることができる。

上丘の構造

著者: 大谷克巳

ページ範囲:P.117 - P.124

 はじめに
 中脳の天井は,上丘と下丘と呼ばれる2対の高まりからできている。これらのうち,上丘は視覚性,下丘は聴覚性の身体反射中枢とされてきた。上丘が視覚性身体反射中枢といわれるようになった解剖学的根拠は,これが多量の視神経線維を受け,他方,身体運動のために視蓋脊髄路を投射するということにあるらしい。また,視神経線維の他の重要な終止核である外側膝状体が,大脳皮質の視覚領と相互的な結合関係をもちながら,脳幹および脊髄に投射しないことも理由にされている。最近になって,上丘はgrasp reflex, orienting responseないしsensorimotor transformationのモデルとして,生理学的にも注目を集めるようになってきたが,他方,その構造についても再び関心が寄せられるようになってきた。

実験講座

アセチルコリンの生物検定法—ハマグリ心臓とfluid potentiometer

著者: 大沢一爽

ページ範囲:P.125 - P.130

 はじめに
 シナプスの化学伝達物質としてのアセチルコリン(Ach)に対する研究は,20世紀初頭から始まり,その生物検定も1926年,LoewiとNavratilが迷走神経の化学伝達物質としてAchを同定したときかち多くの報告がなされた。Ach定量の生物検定法としてDale1)が発表してから50年の歳月が経ている現在でも──種々のabstractのAch欄を総計しただけで,──毎日一編以上のAchに対する報告がなされている。薬物としてのAchに興味をもつ研究者が多いのは,神経と筋細胞の膜を興奮または抑性させる現象を惹起させるからであろう。Na,K,Caイオンと同じようにAchの動態が膜分子モデルの相関として捉えられつつあるけれども,定説はない。ここではAchの動態には触れずに,Achの微量検定の実験と現象を記してみる。
 Achの測定は物理化学的には螢光法,ガスクロマト,偏光,放射性物質などの分析方法2)に移りつつある。Achの化学的滴定の初期は塩化金3)とAch化学的比色法4)に頼っていた。この方法は生体ではAch以外にも4級アミンがあるので特異性がなく,各種コリンを選別することができず,低感度の測定法なので生物屋にとっては顧みられる機会が少なかった。

コミニケーション

既成概念にとらわれない研究体制を/特定の人達・分野に限られない「生体の科学」に

著者: 臼倉治郎 ,   上里忠良

ページ範囲:P.131 - P.131

 新設された「コミニケーション」という欄を通して,どのような意見が交され,また,どのような話題が生まれるのか,読者の一人として,興味を感じていました。もちろん,もとより,傍観者を決めこんでいましたが,突然,締切直前に「何かありませんか」という決第で,読者としての義理を感じ,筆を取ることにしました。多くの読者の要望で,出来上りながら,原稿の集りが悪いというのは,考えればおかしくもあります。しかし,それはこの欄が漠然とした内容を秘めているので,何を書こうかと,多くの読者が躊躇しているためでしょう。したがって,私も漠然とした希望を寄せたいと思います。
 最近の生命科学の発達は目覚しいもので,多くの学際的領域が開拓されました。逆にそのような領域に手を染めないかぎり,研究対象の真実の姿は現われないのかもしれません。たとえば,興奮性膜を例にとると,この膜は形態学的にはunit membraneとして構造しかもちませんが,生理学的には興奮伝導やそれに伴うgating機構,channel機構などactiveやpassiveな機構のより集まった場と見ることができるかもしれません。また,物理化学的には液体に近い状態の半透膜,あるいは陽イオン交換膜としても考えられるかもしれません。また,物理化学的には液体に近い状態の半透膜,あるいは陽イオン交換膜としても考えられるかもしれません。

話題

日米セミナー「細胞の膜とカルシウム」

著者: 石川春律

ページ範囲:P.132 - P.135

 ロッキー山脈の麓の町,Boulderで,昨秋(1976年)9月12日から15日までの3日間,「細胞の膜とカルシウム—細胞機能のコントロールにおけるカルシウム」の主題で日米科学協力セミナーが開かれた。海抜約1600mにあるためマイルシティと呼ばれるDenver市から北へ車で1時間のBoulderはColorado大学の本部がある,いわば大学町である。ここに有名なK. R. Porter教授らの分子・細胞・発生生物学研究所がある。10年前の1966年9月,奈良において,日本側浜 清教授,米国側K. R. Porter教授の世話で,細胞の膜,とくに小胞体について日米セミナーがもたれた。昨年はちょうどその10年目に当たる。両教授の間で再び同様のセミナーをもちたいと希望が出されていたが,幸い日本学術振興会および米国のNational Science Foundationの採択により実現するに至った。
 カルシウム(Ca)が関与した細胞機能のうち,筋収縮におけるCaの調節的役割については分子レベルまで解明されている。これには,江橋節郎教授ら日本人科学者の貢献が非常に大きい。他の細胞のいろいろな細胞機能もCaにより調節されていることが明らかになってきている現時点で,このような総合的な討論の場がもたれたことの意義は大きい。

Non-mnscle細胞の収縮系に関する国際シンポジウム印象記

著者: 柴田宣彦

ページ範囲:P.136 - P.140

 1976年9月19日から22日までの4日間,イタリー領アルプスのチロル地方のブレッサノーネにあるパドバ大学"夏の学校"の講堂を会場に,筋化学における世界的指導者の一人であるS. V. Perryを会長,A. Margreth(パドバ大学,総合病理学教授)を組織委員長として"非筋組織における収縮系"に関する国際シンポジウムが開かれた。参加者は約35名の招待講演者と一般参加者合せて約120名ぐらいであった。
 本シンポジウムは欧州筋クラブの第5回定期集会と関連して催されたもので,この方の会員の参加が多いようであった。日本からの参加招待者は,江橋教授(東大・医・薬理),tubulinの精製命名者である毛利教授(東大・教養・生物),白血球の運動機構をその収縮性タンパクの作用面から追究している千田博士(大阪府立成人病センター・所長,内科学)の三名で私と巽(大阪市大医,中検)は千田博士に随行して本会に参加した。今回編集部より,本シンポジウムの印象記を記すよう依頼されたが,英会話に弱い私にはかなりの重荷で,本シンポジウムでの理解度はかなり低く,必然的に自分に興味のある領域に片寄った紹介に留ることをお許し願いたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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