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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学28巻4号

1977年08月発行

雑誌目次

特集 微小管の構造と機能 総説

細胞運動と微小管—細胞分裂を中心に

著者: 藤原敬己

ページ範囲:P.242 - P.257

 はじめに—細胞運動と線維構造
 「動く」ということは,生物と無生物を区別する場合よくあげられる性質の一つである。生物の動きを研究する立場にはいろいろあり,個々の細胞やその一部の運動を取り扱う細胞運動の研究はもちろん,生物体全体を扱う個体の運動,さらには,個体が集まって作る集団の運動などがある。この総説では細胞運動のうちで,微小管が関係していると考えられている運動系を取り上げ,現在までの研究成果を簡単にまとめてみることにする。
 細胞運動の研究の歴史は古いにもかかわらず,運動機構がかなり明確にわかっているものは,骨格筋の収縮と鞭毛・線毛の運動以外にほとんど見当らない。もちろんこのことは生物学者の怠惰や興味不足に由来するものではなく,問題のむつかしさや科学技術的手段の限界を反映している。

細胞骨格としての微小管

著者: 重中義信

ページ範囲:P.258 - P.268

 はじめに
 細胞内に小管状の線維構造が存在することについては,すでに1950年代にもいくつかの報告があるが,それは線毛内微小管1,2)のように化学的要因に対して比較的安定性のある微小管(microtubule)に限られていた。細胞内微小管が,細胞構成要素の一つとして一般的に認められるようになったのは,グルタール・アルデヒドを主体とする一連のアルデヒド系固定液が電子顕微鏡用に導入されてからである3)。やがて,このような細胞内構造は真核細胞で一般的な構造物として確認されるようになり,しかも,真核細胞における諸種の基本的な現象において,微小管が重要な役割を果たしていることが判明してきた。
 この構造は,その名の示すように,直径が24±2nm,内径が15nmの真直ぐな円筒状構造である。その周壁は5nmの厚さを有し,球形または楕円球形の小単位(sub-unit)が連続してできた原線維(protofilament)で構成されている。このような微小管は,とくに,原生動物,色素細胞,神経細胞,線毛上皮細胞,精子などについてよく調べられ,線毛,鞭毛,軸足など各種細胞器官における微小管の配列様式とその機能的意義についても研究されてきた。さらに,いろいろな生物学的活性,すなわち,有糸核分裂,細胞運動,原形質流動,形態形成などにおける微小管の役割が詳細に調べられるようになり,微小管の生化学などについても研究が進んできている。

微小管の生化学

著者: 新井孝夫 ,   上代淑人

ページ範囲:P.269 - P.280

 はじめに
 微小管(microtubule)は直径約25nm,長さ数μ〜数10μmに及ぶ細長い管状構造のオルガネラで,その局在部位から,線毛と鞭毛の微小管,紡錘体の微小管,および細胞質微小管の三者に大別される。前二者の微小管は,それぞれ線毛・鞭毛運動および分裂時における染色体運動の機能を果たしているが,細胞質微小管の機能は多様である。細胞質微小管は,神経細胞や色素細胞のような突起をもつ細胞に多く存在して,細胞骨格としての機能とともに,物質の細胞内輸送(神経細胞の軸索輸送,色素細胞の色素顆粒の移動など)の機能を果たしている。このほか,ホルモン,神経伝達物質などの分泌の際のエクソサイトーシス,また細胞膜の流動性の制御などにも関与していると考えられている。
 本稿では,最初に細胞質微小管の構成成分の生化学的諸性質を述べ,ついで無細胞系における微小管の再構成を中心として述べる。紡錘体の微小管および線毛・鞭毛の微小管については,それぞれ酒井と馬渕1)および毛利2〜4)の総説を参照していただきたい。また,微小管の生化学と再構成については,他にもいくつかの総説がある5〜7)

解説

胃腸膵ホルモン,神経伝達物質としてのペプチド

著者: 菅野富夫

ページ範囲:P.281 - P.289

 Ⅰ.ホルモンと伝達物質
 ホルモンという概念が生まれたのは今世紀初頭である。その誕生の様子がMartinによって生々と記録されている2)。彼はロンドン大学で1902年1月16日の午後にBaylissとStarlingによって行われたつぎのような実験を目撃していたのである。イヌの空腸を結紮し神経を切断し,空腸に分布する血管だけを残し空腸を身体の他の部分から切り離す。この空腸内に稀釈HClを注入すると無処置in situの空腸内に注入したときと同様に膵臓から膵液が流出しつづけた。そのとき,空腸と膵臓とをつないでいるのは血流だけであるから,空腸から何か液性の物質が血液中に放出され,その物質が膵臓に作用して膵液を分泌させるものと推定された。BaylissとStarlingはさらにつぎのような実験を行った。空腸粘膜を剥離し,0.4%HClを加え,磨砕し濾過した液をイヌに静注するとやはり膵液の流出が持続するようになる。このように身体の一部から血液中に放出され,身体の他部に効果を及ぼす物質をホルモンと呼ぼうと1905年のCroonian lectureでStarlingが提案したのである2)。このとき彼は化学伝達説についても示唆しているのである。

色素細胞内顆粒の輸送機構

著者: 松本二郎

ページ範囲:P.290 - P.297

 Ⅰ.体色変化の効果器としての色素細胞
 自然は時折,われわれに思わず目を見張るような劇的な出来事を見せてくれる。そんな現象の一つに動物の体色変化をあげることができよう。体色変化という機能は,動物が外敵から身を守るために環境の色調に体色を調和させるのに役立つ保護色の形成とか,天敵の威嚇とか,外界の日照量や紫外線量の変化から体内の恒常性を保つための調節とか,あるいは個体間の識別や異性の誘引信号として生命維持という生物の設計意図に合目的な意義をもつと考えられる。
 体色変化の効果器は色素細胞であるが,色素細胞とそれに付属する制御装置の構築や機能は種によって異り,系統発生的にはいくつかの型に分けることができる1,2)。たとえばイカやタコなど軟体動物では色素細胞は運動性をもたない単なる色素物質の容器として存在し,この細胞に付属する筋肉細胞が神経細胞からの刺激によって収縮することで他律的に伸縮し体色変化を惹き起している。この構築は脊椎動物にみられる体色変化の装置とは基本的に異っており,本稿では魚類,両棲類,爬虫類などの変温脊椎動物で観察される体色変化の効果器としての色素細胞が対象となっている。

実験講座

ガラス被覆"エルジロイ"微小電極の作り方・使い方

著者: 鈴木寿夫 ,   東正夫

ページ範囲:P.298 - P.301

 近年,単一神経細胞の活動電位を記録し,その発火パターンから神経情報がどのように符号化されているかを調べ,神経細胞の属するニューロン集合(neuron population)の機能をさぐろうとする研究が盛んになってきた。ところで,この種の研究も,他の場合と同様,実験方法の技術的進歩とあいまって発展してきた。まず,動物実験の条件としては,麻酔下の急性実験から無麻酔無拘束下の慢性実験へと発展した。また,ニューロン活動を記録するための微小電極の改良もこの研究の発展に重要な役割を果たしてきた。すなわち,初期のガラス管微小電極から始まって,この種の実験で取り扱う活動電位の細胞外記録が,神経細胞を損傷することなく,より長時間,より安定にできるのに適した金属微小電極へと変わってきた。金属電極でも,その電極材料としてタングステン1)のほかに,ステンレス・スチール2),白金イリジウム3)が取り上げられた。被覆絶縁材料も各種合成樹脂1,2)からガラス管4),ソルダ・ガラス3)と変わってきた。このような進歩によって電極はより慢性実験に適し,より容易にインパルス放電を記録できるようになってきた。
 一方,微小電極は脳表面からブラインドに脳内に挿入されるから,活動電位を記録した部位の確認がしばしば問題となる。そこで記録部位を同定する試みがなされてきた。

走査型電子顕微鏡のための浮遊系生物試料作製法

著者: 筒井潔 ,   公文裕巳 ,   市川弘幸 ,   俵寿太郎

ページ範囲:P.302 - P.308

 Ⅰ.目的
 リンパ球,赤血球などの遊離細胞あるいは(液体培養した)各種微生物類などの,いわゆる浮遊系生物試料の表面構造を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察しようとするとき,これら試料の作製法は必ずしも容易ではなく,また確立された方法もない。そのため研究者各自により種々の方法1〜12)で試料作製が行われている。それはその問題点がつぎのような点にあるからである。たとえばカバースリップ上に単層に培養された培養細胞では,固定するにはそのままカバースリップごと細胞を固定液中に浸せばよく,また同様に脱水・乾燥などの処理を施せば,難なく試料を作製することができる。ところが,細胞懸濁液を出発材料として試料を作製しようとすると,これら浮遊細胞を物理的原因などによる試料の変形,あるいは微細構造物の逸脱を来たすことなく,いかにして支持体あるいは下地(培養細胞におけるカバースリップに匹敵するもの)に付着させるかという問題が生じてくる。この点においてさまざまな工夫が必要とされ,SEM観察用試料の作製が容易ならざるものとなるゆえんである。しかも,観察するまでには何らかの方法で試料を支持体へ付着させる技術上の必要性があり,一連の作製過程のうち,なるべく最初の時期に付着させる方が無用な物理的変形を回避できる点で,また簡便・迅速さから考えても望ましい。

話題

オーストラリアの研究生活雑感

著者: 竹中敏文

ページ範囲:P.309 - P.311

 オーストラリア政府のグラントが3年間とれたから好きなときに来ないかという手紙をもらったのはもう4年も前のことになる。当時自分にとってオーストラリアという国はなんとなく魅力ある国であった。如何にも大陸的な国柄であるにもかかわらずNobel laureateの中でも一級品の免疫耐性の研究のSir F.Burnetや,わが国の電気生理学に大きな影響を与えたSir J.Ecclesなどが出現したということも不思議なことであった。いく所は,研究のメッカであるANUでなくUniv.of Queenslandの数学教室であった。ここのProf.Bassという人は物理化学が得意で,以前から膜研究にこちらのデータを使用していたからである。日本の数学教室に比べて内容が非常に幅広いので,問い合わせてみたところ日本の方が例外で片寄っており,たとえばイギリスにいけば波動を研究している人が教室主任になっているという話であった。そこでいままで全く経験のない教室に入ってもまれてみるのも面白いので彼の地に向かった。

コロンビア大学での研究生活

著者: 板東武彦

ページ範囲:P.312 - P.315

 コロンビア大学生理学教室 昭和49年11月から51年11月末までの2年間ニューヨーク市にあるコロンビア大学医学部生理学教室のW. A. Spencer教授の研究室に居ました。この研究室は総勢3人に大学院生(PhD-student)という小世帯ですが,E. R. Kandel教授のグループに属していて,グループとしては総人数は20数人になります。セミナーを一緒に行い,また週1回雑誌抄読会を開いていました。電気技術者(2人)やメディカル・イラストレーター,小使いさんを共同で雇い秘書も一応の所属はありますが5〜6人が必要に応じて手伝いあって働いていました。研究費もグループの中で複雑にプールしており,またグループとして私立財団からのtraining grantをもっていて,この中からpostdoctoral fellowや大学院学生などの給料や奨学金を出したりもしていました。
 生理学教室は教授が8人,助教授が数人いて,各々研究室ももっていますが,われわれのグループとDr. Chienおよび宇佐美駿一先生のレオロジーのグループが大きく,かつ活発に仕事をしていて,残りの人は多少の例外を除いて小規模にやっていました。ChairmanはDr. Tagartという,昔,腎臓の研究をしていた人で,いまはChairmanに専念しています。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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