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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学28巻5号

1977年10月発行

雑誌目次

特集 小胞体 総説

小胞体の発見

著者: 渡辺陽之輔

ページ範囲:P.318 - P.321

 小胞体(endoplasmic reticulum)は広く各種の細胞に分布する細胞質内の膜性小器官である。基本的には膜とそれにかこまれた腔よりなっているが,その形は変化に富んでおり,嚢状,小胞状(vesicular)ないし管状の形をとり,これらが互いに連絡して,細胞質内に水路系を形成している。本特集においては小胞体に関する最新の知見が述べられているが,ここでは小胞体の発見から,その概念の確立に到るまでの歴史的経過をかえりみたい。
 光顕的細胞学においては,細胞質内のミトコンドリア,葉緑体,ゴルジ装置,中心小体などの有形形質は均質性のゲルないしゾル体の礎質すなわちhyaloplasmの中に浮遊していると考えられていた。電子顕微鏡の使用により,従来望むべくもなかった高解像力が得られるようになり,小器官の微細構造が明らかにされると同時に,hyaloplasmの中にも新たな小器官が発見された。小胞体もその一つである。

滑面小胞体

著者: 山元寅男

ページ範囲:P.322 - P.334

 はじめに
 電子顕微鏡が生物学の分野に導入されるようになってから,細胞の内部構造について,それまでの光学顕微鏡的研究では予想もつかなかった構造物がつぎつぎと発見されてきた。その一つに小胞体(endoplasmic reticulum)がある。
 1945年,まだ今日見られるような超薄切片技法の開発されていない時期に,Porterと彼の協同研究者は培養線維芽細胞の伸展標本を電子顕微鏡で観察し,その細胞質に小管構造がレース様細網構造をとって存在することを発見した1)1)。そして,その網構は,細胞質の表層部にではなくその内側部にのみ存在することから,細胞の内形質(endoplasm)に存在する細網構造という意味で,endoplasmic reticulumと名付けた1)。このことが,小胞体研究のはじまりである。

粗面小胞体の生化学

著者: 高木正道

ページ範囲:P.335 - P.349

 はじめに
 粗面小胞体(rough-surfaced endoplasmic reticulum=RER)は滑面小胞体(smooth-surfaced endoplasmic reticulum=SER)にタンパク質合成の場であるリボゾーム,ポリゾームが結合したものである。特殊な細胞を除きほとんどすべての真核細胞にみられる構造であり,また逆に前核細胞にはみられないものである。生化学的研究のために欠くことのできない手段としての細胞破壊の際に,ERは切断され,遠心法による分画でミクロゾーム画分(microsomal fraction)に集められる。このミクロゾーム画分は超遠心することによりはじめて沈殿する画分であり,SERとRERの切片を含むが(遊離のリボゾームやポリゾームもまたくるが),このうちRERの切片のみを対象とする場合にはrough microsomal fractionという言葉を用いることもある。すなわち細胞内でのSERとRERがそれぞれ切断され,smooth microsomeとrough microsomeとして得られることになる。本稿では,これら切断された後の構造をも含めてSERとRERという言葉を用いたい。
 "RERの生化学"として取り扱う範囲を決めることは難しい。個々の研究者,著者によって当然異なるであろう。これは,SERとRERの膜自体の差異が十分に分っていないことによる。

小胞体膜の生化学

著者: 今井嘉郎

ページ範囲:P.350 - P.361

 はじめに
 細胞を機械的に破砕すると,細胞内網目状構造物である小胞体(endoplasmic reticulum)は破壊され,その破片は小胞化する。この小胞体破片は細胞ホモジェネートを遠心分画したとき,高い遠心力で沈降する微小顆粒集団の主成分として回収され,ミクロソーム(microsome)と呼ばれている1)。小胞体のin vitroでの生化学的研究はおおむねミクロソームを材料として行われており,細胞内にもともとある姿でではなく断片化したものについて調べているので,問題により一定の限界は避けられないが,小胞体膜の構造と機能を明らかにするうえで大きく貢献してきた。このような経過から,小胞体膜の生化学を扱う本稿では,細胞内にもともとあるものと,断片化してから単離したものとをとくに区別しないで,小胞体という名称で呼ぶことにする。
 表面にリボソームの付着している粗面小胞体と付いていない滑面小胞体とは,リボソーム(d≒1.6g/cm3)に基づく両者の密度の違いを利用して分離できる2,3)。すなわち,滑面および粗面小胞体はショ糖溶液中でそれぞれd=1.10〜1.18および1.22〜1.27であるので,細胞ホモジェネートよりミトコンドリアなどの大顆粒成分を遠心除去した上清を1.3Mショ糖溶液に重層して遠心分離すると,滑面小胞体は界面に留まるのに対して,粗面小胞体は沈降する***

講義

伝達物質の放出とシナプス小胞仮説の現状

著者: 高橋智幸 ,  

ページ範囲:P.363 - P.375

 ただいまは大変過分な御紹介にあずかりましてありがとうございます。この第50回の薬理総会に講演者としてお招きいただき,大変光栄に思っております。ことに私は,自分自身,薬理学者であるとはいい難いわけでありまして,はじめは,私の友人であり恩師であるA. V. Hill教授によって電気生理学の手ほどきをうけ,生物物理学者として育てられたのであります。しかし,後にはSir Henry Daleの発見と業績に感化を受け,薬理学に親しみを感じるようになりました。私が,はじめの方向から転じてシナプス伝達,ことに私の研究生活の大部分を占める,神経筋接合部の研究を行うに至りましたのは,全く,Dale氏の仕事に負うところが多く,深く感謝しております。それで,友人であり,共同研究者であるPaul Fatt,del Castillo,そして,最近の20年間はRicardo Milediとともに,電気生理の技術,微小電極,生物物理的なアイデアなどを使って,神経筋接合部における残された謎を探り,それによってDale氏から受けた知的恩恵に報いたいと努力してきたわけであります。
 さて,それでは,過去に私達が得た知見の中から,いくつかを述べたいと思います。はじめに,1950年に,Paul Fattと私は,ある事実を観察いたしました。私にとって,これは,いまなお興奮さめやらない事実であります。はじめのスライドをお願いします(図1参照)。

研究のあゆみ

日本における化学伝達物質の研究

著者: 大塚正徳

ページ範囲:P.376 - P.385

 「日本における化学伝達物質の研究」と題しまして,この分野を歴史的に総説する機会を与えられましたことを大変光栄に思っております。化学伝達物質に関する研究は,長い歴史をもち,薬理学の中でも広範な領域でありまして,その中にはわが国の薬理学者によって行われた数多くの重要な発見が含まれているのであります。そのすべてをここで述べることは時間的に無理かと思われますので,今回はとくに私が個人的に興味をもっております「伝達物質の同定,確立」を中心に述べたいと老えております。したがいまして伝達物質の作用,代謝,組織化学などについては比較的不十分になるかと思いますが,あらかじめ御了承いただきたいと思います。また現在活発に進展している分野につきましては,各研究者の方々から直接うかがうチャンスが多いかと思いますので,すでに比較的過去のものとなった研究に重点をおきたいと考えております。
 最初に化学伝達学説のおこりからまず始めたいと思います。化学伝達学説は1904年つまり明治37年,Cambridgeの医学生でありましたElliott1)によって提唱されたのが最初とされておりますが,その重要なきっかけを与えたのがわが国の高峰譲吉博士のadrenalineの単離であります。図1は高峰博士の幼年時代を示したものでありまして,右から2番目が高峰譲吉博士であります2)

解説

化学進化研究の近況から

著者: 長野敬

ページ範囲:P.386 - P.392

 どんな先進的な学問分野でも,確立して一定の時間がたつうちには一つの形を整えてくる。よくいえば一つの斉合した学問体系をなしてくる。悪くいえば「体制化」してくる。生命の起源研究も,Oparinによる最初の試行的な発言から(1924)半世紀,またMiller(1953)によって問題が実験室にもちこまれてから四半世紀を経て,そうした時期にさしかかっている。ちょうど本年(1977)4月に京都で,第2回の生命の起源研究国際会議があったが,その印象も,こうした一般論を裏づけるもののような気がする。生命の起源研究は,一定度の順調な発展ののち,一つの曲がり角にさしかかっているということになろうか。
 ただ,たいていの学問的発展は微視的にみれば,常に曲がり角にあるともいえなくもない。現在の生命の起源研究は大局的に見ても曲がり角だと筆者は思うのだが,ひとり合点にすぎないのかどうか,また本稿でそのような点まで浮き出させる記述ができるか否かは,あまり自信がない。ともあれ,そのような問題意識を念頭におきつつ,現在の一般的研究情況のうち,生命進化の初期の部分である化学進化を中心に概観してみたい。

発生のモデル—細胞構造を考慮した生物形態発生の工学的モデル

著者: 福本一郎 ,   斉藤正男

ページ範囲:P.393 - P.399

 はじめに
 生物の発生現象は単細胞の受精卵から多細胞系である成体への変化の他に,傷害後の再生現象や奇形・ガン化機序など多くの現象を含んでいる3〜13)。しかし現在の発生学は,発生現象独自の原理を見い出すまでにはいたっていない10)。一方,分子遺伝学の進歩は,生体の基本的な情報が遺伝子に蓄えられていることを明らかにし,その機序を解明しつつある16,17)。とはいうものの,この分子遺伝学と発生学との間には,はるかな隔りがあり,生物学におけるミッシングリングの一つとなっている。とくに発生学がわからは,発生に必要な情報はすべて遺伝子に含まれているのか?また遺伝子情報から作られたタンパク質から如何にして形態形成が行われるのか?など興味深い問題が数多く提起されている。ここでは形態発生に必要な全情報が遺伝子内にあるのではないという立場に立ち,可能な限り発生学の知見と矛盾しない生物発生のモデルをつくることを試みた。
 生物発生の工学的モデルとしては,「生体の科学」27巻4号29)に鈴木・真島氏が解説されているように,拡散方程式を用いたTuring(1952)やHerman & Giere(1972)の流れと,順序機械論を用いたLindenmayer(1975)の流れとがある37〜40)。このうち前者は生体を細胞構造を有しない一様な拡散の場とみなしている点で,また後者は形態形成の具体的な説明に乏しい点で,現実の発生現象と相似なモデルとはいい難い。

実験講座

双面フリーズ・レプリカ法の実際と問題点

著者: 外崎昭 ,   鷲岳宏 ,   溝口二郎

ページ範囲:P.401 - P.406

 はじめに:なぜ双面レプリカが必要か
 凍らせた組織片を削るか,割るかしたときに露わになる断面からレプリカを採り,それを透過電子顕微鏡下で観察する。これがフリーズ・レプリカ法である。そのさい,組織片にじかに刃物をあてず,ポキリと折ってやると互いに向い合う二つの断面があらわれ,そのおのおのからレプリカを採ることができる。これが双面フリーズ・レプリカ法の原理である。フリーズ・レプリカ法が盛んに利用されるわけは,これが細胞形質膜中層の姿を明らかにしてくれるただ一つの方法だからである。凍らせた組織細胞を割ると,一般に形質膜は,超薄切片でいう単位膜構造の中層に沿って外側のE面と内側のP面とに分かれる。細胞には多くの種類があるにもかかわらず,この形質膜の割れ方はたいへん普遍的である。この"PとE"という組み合わせの単純さは,「Pを見ればそのに対応すべきEの有様は見なくとも自明である」という考え方を生む。一般にP面には,直径10nm内外の粒状体の影が多数現われ,対するEでは,その数が相対的に少ない。電顕という研究機器の特徴は何よりも微細な局所的所見の正確さにある。断面の一方のみを観察して,他方の状態は経験的に推測する,それではどこか欠けていないであろうか。よく知られているように超薄切片では連続切片をつくる仕事は苦労の多い高等な技術であるが,それに報いるに十分な貴重な結果が得られる。

話題

ロックフェラー大学,最近の状況—神経生理学研究室

著者: 福島菊郎

ページ範囲:P.407 - P.411

 ロックフエラー大学
 ニューヨーク市内を散策して,ロックフェラー大学構内に入ると,あたかも別の世界に来た感があります。いかにも生き生きとした,手入れのよくいき届いた芝生。うっそうとした,しかし整然とした木立。幾種類もの渡り鳥……。
 春のきざしは,2月初旬,クロッカスが,一斉に咲き出す頃に始まります。それに続いて,水仙,チューリップ,桜,つつじと,ロックフェラー構内が,実にあざやかに色どられます。5月中旬以後は,構内全体が深い緑に変わりますが,この頃,しばらく立ち止まって耳をすますと,新しい雛鳥の声を耳にします。ロックフェラー大学正門から構内をみると,正面に,つたにおおわれたFounder's Hallがあります。このHallは1975年,米国政府によりNational Historic Landmarkに指定されました。Hallの入口には2本のギリシャ風円柱が立っており,中に入ると,いくつかの先人の肖像画とともに,創設者John D.Rockefeller氏の肖像画と胸像があります。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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