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発生のモデル—細胞構造を考慮した生物形態発生の工学的モデル
著者: 福本一郎1 斉藤正男1
所属機関: 1東京大学医学部医用電子研究施設
ページ範囲:P.393 - P.399
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生物の発生現象は単細胞の受精卵から多細胞系である成体への変化の他に,傷害後の再生現象や奇形・ガン化機序など多くの現象を含んでいる3〜13)。しかし現在の発生学は,発生現象独自の原理を見い出すまでにはいたっていない10)。一方,分子遺伝学の進歩は,生体の基本的な情報が遺伝子に蓄えられていることを明らかにし,その機序を解明しつつある16,17)。とはいうものの,この分子遺伝学と発生学との間には,はるかな隔りがあり,生物学におけるミッシングリングの一つとなっている。とくに発生学がわからは,発生に必要な情報はすべて遺伝子に含まれているのか?また遺伝子情報から作られたタンパク質から如何にして形態形成が行われるのか?など興味深い問題が数多く提起されている。ここでは形態発生に必要な全情報が遺伝子内にあるのではないという立場に立ち,可能な限り発生学の知見と矛盾しない生物発生のモデルをつくることを試みた。
生物発生の工学的モデルとしては,「生体の科学」27巻4号29)に鈴木・真島氏が解説されているように,拡散方程式を用いたTuring(1952)やHerman & Giere(1972)の流れと,順序機械論を用いたLindenmayer(1975)の流れとがある37〜40)。このうち前者は生体を細胞構造を有しない一様な拡散の場とみなしている点で,また後者は形態形成の具体的な説明に乏しい点で,現実の発生現象と相似なモデルとはいい難い。
生物の発生現象は単細胞の受精卵から多細胞系である成体への変化の他に,傷害後の再生現象や奇形・ガン化機序など多くの現象を含んでいる3〜13)。しかし現在の発生学は,発生現象独自の原理を見い出すまでにはいたっていない10)。一方,分子遺伝学の進歩は,生体の基本的な情報が遺伝子に蓄えられていることを明らかにし,その機序を解明しつつある16,17)。とはいうものの,この分子遺伝学と発生学との間には,はるかな隔りがあり,生物学におけるミッシングリングの一つとなっている。とくに発生学がわからは,発生に必要な情報はすべて遺伝子に含まれているのか?また遺伝子情報から作られたタンパク質から如何にして形態形成が行われるのか?など興味深い問題が数多く提起されている。ここでは形態発生に必要な全情報が遺伝子内にあるのではないという立場に立ち,可能な限り発生学の知見と矛盾しない生物発生のモデルをつくることを試みた。
生物発生の工学的モデルとしては,「生体の科学」27巻4号29)に鈴木・真島氏が解説されているように,拡散方程式を用いたTuring(1952)やHerman & Giere(1972)の流れと,順序機械論を用いたLindenmayer(1975)の流れとがある37〜40)。このうち前者は生体を細胞構造を有しない一様な拡散の場とみなしている点で,また後者は形態形成の具体的な説明に乏しい点で,現実の発生現象と相似なモデルとはいい難い。
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