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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学28巻6号

1977年12月発行

雑誌目次

特集 青斑核 総説

睡眠と青斑核

著者: 鳥居鎮夫

ページ範囲:P.414 - P.420

 はじめに
 青斑核はネコやラットでは橋被蓋の背外側部に位置しており,ノルアドレナリン(NA)含有ニューロンからなっている4,20,21)。この青斑核が睡眠覚醒サイクルの調節に関係があるとしたのはJouvet13)であるが,その根拠として,青斑核を破壊すると脳内のNAが減少すると同時に,REM睡眠が消失することをあげている。このことからJouvetは ①青斑核はREM睡眠に関係している領域である。
 ②REM睡眠は青斑核のNAニューロンによってつくられる,
 とした。このJouvetの想定に対していろいろな批判がある。
 ①破壊実験は非特異的であって,青斑核の破壊は他の線維も切断している。
 ② 刺激実験で青斑核を刺激してもREM睡眠が増加しない。
 ③Jouvetの考えが正しいとすれば,青斑核のニューロン活動はREM睡眠で上昇することが期待されるが,そのような結果が少なく,むしろ低下するという報告が多い。
 ④神経薬理学的実験から脳内NAが減少するような状況下では,REM睡眠が増加し,逆にNA脳内が増加する状況では,REM睡眠が減少する。
 ⑤エゼリンのような抗コリン作動性薬物を投与するとREM睡眠が誘発されることも無視されている。
 コリン作動性ニューロンが存在する橋網様体を破壊するとREM睡眠が抑えられること2,15),また橋網様体を電気刺激するとREM睡眠が増加することが知られている5)

青斑核の形態学的研究

著者: 清水信夫

ページ範囲:P.421 - P.431

 はじめに
 成人脳の第4脳室底の吻側部を見ると,内側隆起のすぐ外側に米粒大の青くすけて見える部分がある。これが青斑核(LC)で,その神経細胞がメラニンを含むためである。高等のサル類でもLCはメラニンを含むが,それ以下の哺乳類では本核は存在するがメラニンを含まない。したがって後者でLC細胞の同定,分布を決めることは必ずしも容易ではない。本核が発見され青斑核(Locus coeruleus)または銃質(Substantia ferruginea)なる名称が与えられたのは前世紀前半であり,以来多数の形態学者により細胞構築的,線維連絡的に研究がなされた1〜3。これら初期の研究では三叉神経(とくに中脳路およびその核)との関係を主張するもの,否定するものがあり,LCの下行路についてはProbst束が重視され,さらに血管支配の豊富なことが注目された。しかしLCの機能的意義については定説がなく,三叉神経との関係の他,自律作用に関する中継核であり,また呼吸調節に関連があると考えられた。
 さて本核が注目され,脚光を浴びるようになったのは1962年スウェーデン学派4)により組織螢光法が開発され,これによって脳内アミンニューロン,アミン線維の分布が詳細にされ,LCがその中心的地位を占めることが明らかとなったためと思われる。

ラット青斑核ニューロンの電気生理学的研究

著者: 中村彰治

ページ範囲:P.432 - P.438

 本実験で用いた動物はウレタン麻酔のラットである。
 ①LCニューロンの上行性経路である中脳背側路を逆向性に刺激すると,LCに限定して頂点潜時5.7〜6msec,振幅1〜1.5mVの陰性の集合電位があらわれる。単一LCニューロンの放電は,集合電位に重畳して記録される。
 ②LCニューロンの逆向性スパイク放電においては,AスパイクとBスパイクの後にしばしば第三のスパイク成分(Cスパイク)が観察された。Cスパイクは逆向性反応だけでなく自然発火においてもみられた。
 ③逆向性スパイクは,ときに特徴的な長いA-B遅延を示すことがあった。同様なA-B遅延は,中脳背側路を二発刺激(刺激間隔は約10msec)したときに,試験反応のスパイクでもみられた。長いA-B遅延の生じる原因として,LCニューロンの反回性抑制と促通の存在が推測される。LCニューロンの軸索の伝導速度は,0.3〜1.4m/秒で平均0.69m/秒である。
 ④LCニューロンは,大脳皮質前頭野,大脳皮質視覚野,海馬,小脳のどれか一つ,あるいは,これらのうち二つ以上から逆向性反応を示した。LCニューロンの約70%が大脳皮質前頭野へ投射していることが判明した。1個のニューロンで,大脳皮質,海馬,小脳皮質の三つの皮質へ同時に投射しているものもある。
 ⑤LCニューロンには,体性感覚,視覚,聴覚などの末梢感覚神経から入力の収束があることがわかった。ニューロンの投射部位からも稀に入力を受ける。

青斑核の薬理学的研究

著者: 高折修二 ,   笹征史

ページ範囲:P.439 - P.446

 はじめに
 青斑核(Locus coeruleus)は橋背側部にあって,古くは銃質(Substantia ferruginea)といわれた。ヒトおよびサルではmelanin顆粒を多く含む,青黒色を示す神経細胞の集団であり,比較的容易にその範囲を知ることができるが,その他の動物では色素顆粒をほとんど含まない。類人猿より有袋類に至る28種類の哺乳動物の青斑核について,比較解剖を詳細に行ったのは,東大解剖の佐野1)である。彼はPalkarminおよびNissl法を用い,細胞の大きさ,形状および主核からの連続性などにより青斑核を,主として中心灰白質にあるもの,大部分が網様体の領域にあるもの,およびその両者にまたがるものの3型に分けた。しかし,これらが現在いう青斑核細胞群の範囲と完全に一致するか否かは不明である。
 青斑核の機能的役割については昔から諸説があった。咀嚼運動に関係があるとするもの,木登りや飛跳などの特殊な運動と関係があるというもの,高位の呼吸中枢であろうと考えるもの,または三叉神経知覚系との関係をのべたものなどである。また,Parkinson病において青斑核にも変性像を認めることから,錐体外路系の一部であろうという説もあった。しかし,これらの考えはその当時では,いずれも推測の城を出なかった。

解説

膜興奮とタンパク質

著者: 吉岡亨

ページ範囲:P.447 - P.457

 はじめに
 まず題名についてお断わりしておきたい。ここでいうところのタンパク質とは,興奮性膜の内に存在すると思われるチャネルタンパクとか,あるいは,おそらくタンパク分子であろうと想像されているgating particlcなどを指すのではなくして,興奮性膜の内側,または外側にあって,興奮現象に何らかの係り合いをもっていると思われているタンパク質のことである。このようなタンパク質の研究を行う際にもイカの巨大神経はやはり最も適当で得難い材料であることは間違いない。そこでこの小文では,イカの巨大神経を用いて行われているタンパク質研究の現況を御紹介してみたい。
 内容の大半はごく最近に得られたものばかりなので,もしかしたらこの数年間に生き残れるようなしっかりしたデータは一つもないかもしれない。あるいは内容的に偏っているかもしれない。それにも拘わらず,あえてこの一文を草するに到ったのは,もはやわれわれ生理学関係者だけでは興奮現象の理解が限界にきていることを他の分野の方々に知っていただき,協力を仰ぎたいからに他ならない。

鳥の飲水行動とホルモン

著者: 川島誠一郎 ,   竹井祥郎 ,   小林英司

ページ範囲:P.458 - P.464

 はじめに
 脊椎動物は地球上のほとんどの地域に分布しているが,地表の約1/3を占める砂漠では個体密度が非常に小さい。砂漠という環境では水不足の問題を解決した生物だけが生存できるからである。砂漠に適応している脊椎動物にはどのような生理学的および行動学的特徴があるかというテーマについては,
 ①体温調節,
 ②水分保持機構,
 ③他の生理機能,
 ④行動学的適応,
などを焦点として研究が行われている。熱ストレスに抗して体温調節を行うことについては,多くの総説や単行書があり1〜7,体温調節のための水分要求に関してもかなりの数の論文が最近公表されている(たとえば,文献8〜11)。ここでは2の水分保持機構について,主として砂漠種と非砂漠種の鳥類における水分代謝および飲水行動を比校しながら,研究の現況を紹介しよう。

研究のあゆみ

神経系の継ぎ目:シナプスの研究の回顧

著者: 内薗耕二

ページ範囲:P.465 - P.471

 Ⅰ.興奮伝導の研究から興奮伝達の研究へ
 私どもが終戦直後に研究室へ復帰したころ(昭和22年頃)の世界の神経研究の主流は興奮伝導の問題であった。たとえば体外に取り出された神経線維の興奮がどのようなメカニズムによって伝導されるかということが主たる関心事であった。この方面では日本の研究者が世界の研究者に伍して全く遜色のない研究を展開していた。とくに大きな神経幹の無数の神経線維の中から1本だけを無傷に取り出すというミクロの手術にかけては,日本人研究者の中に天才肌の人があって,世界的な注目を浴びていた。その中でひときわ目立つ存在は,当時目白にあった徳川研究所の田崎一二博士であった。同氏のまわりに戦争帰りの若い研究者たちがたむろしていた。
 一方ではケンブリッジにイカの巨大神経線維を利用するグループがあって,このほうは天然に存在する単一線維を用いるという独自の研究方法を展開していた。巨大線維は体内ですでに単一線維として存在する神経であるから,とくに天才的なミクロの手術など必要としないわけである。

実験講座

Agar-bullet法について

著者: 山口寿夫

ページ範囲:P.472 - P.477

 生物学で用いる実験法を開発する際,最も心掛けなければならないことは,如何にして素直に自然をして語らしめるかということである。その場合対象となるものが細胞のように複雑,多岐にわたる機能を有し,またなお多くの点でその機能や構造について不明の点の多いものである場合には,なおのこと細胞をしてその行動の規範について語らしめることは難しい。すなわちこのような実験法の採用に当って,著しく自然に傾斜した方法にのっとればその定量化や解析が難しいし,また他方定量化を厳密に行おうと試みれば,その自然のもつ反応性なり,行動のあり方をそこない素直な形で自然律を表現し得ないことになる。この点についての理解と洞察が多くの生物学的実験法確立の岐路となり,それを用いる人についてもその点について十分な配慮を行いうるかどうかでその方法の評価なり採用なりについて異なった姿勢が示される。
 私どもは長年炎症を取り扱う研究にたずさわってきたが,その際炎症巣における細胞のあり方,ことにそのdynamicな側面を理解するためには,その細胞の出現頻度や形態学的特徴よりも,その細胞が何を反応すべき対象として認識し,また如何なる要因に基づいて基質を含む結合織内を反応し運動していくかを最も自然な形で語らしめる必要を感じてきた。

酵素標識法—ペプチドおよびタンパクの架橋法

著者: 石川栄治 ,   加藤兼房

ページ範囲:P.478 - P.483

 はじめに
 ペプチドおよびタンパクの架橋法は種々の分野で利用されている。タンパク質の構造と機能の研究はいうに及ばず,生体膜など複雑なタンパクその他の高分子の複合体の構造研究にも用いられている。また組織化学,免疫化学の分野でも必須の手段として利用されている。これらの目的のためには,分子内架橋も分子間架橋も用いられる。分子間架橋には同種タンパク間と異種タンパク間がある。ここでは異種タンパク間,ことに酵素と抗体あるいは抗原との間の架橋に重点をおいて述べることとする。

話題

Workshop conference-muscle energeticsに出席して

著者: 山田和廣

ページ範囲:P.484 - P.486

 今年の六月に開かれた筋収縮のEnergetics(エネルギー論)を主題とするシンポジウムに参加する機会を得ました。筋収縮に関する国際会議は多く行われますが,このようなエネルギー論だけを主題とした会はこれまでほとんど開かれていません。A. V. Hillによる筋の熱産生の研究を中心として,筋収縮のEnergeticsの研究が進められてきましたが,現在ではロンドンのWilkie教授とDr. Woledgeのグループ,かつてHillのもとで学んだベルギーのAubert教授のグループ,同じくイタリアのMargaria教授のグループの他,米国ではMommaerts教授,Davies教授などが中心となって,それぞれ若い研究者を輩出し,筋収縮におけるエネルギー変換機序に興味をもつ研究者の数が増してきました。またその結果いくつかの展開が行われました。このシンポジウムは,ちょうどこのような各国の研究者たちが必要とした時期に行われたため,新鮮でかつ熱心な討論の行われたよい会となりました。
 会は6月14日〜18日の5日間,米国東部のカナダ国境に接するバーモント州に位置する,University of Vermont,College of Medicineで行われました。この大学の生理学,生物物理学教室主任であるAlpert教授がホストとなり,プログラムの計画と司会は主としてロンドン大学のDr. Woledgeが行いました。

第27回国際生理科学会議衛星シンポジウム印象記・1

心筋細胞の電圧固定法についてのシンポジウム

著者: 入沢宏

ページ範囲:P.487 - P.488

 心筋細胞膜のイオン流を知るための最も直截的方法として電圧固定法が利用されているので,この方法についてはすでに本誌で再三,問題点の指摘が行われてきた1〜3)。今年も国際生理学を機会に方法についての討論会がポアチエ大学のGargouil教授の主催で行われた。ポアチエはパリの南方約500kmにある古い都市でローマ人の旧蹟や百年戦争時代の城や教会が沢山ある町であったが,郊外にある大学は壮大で新しく,これからの大学という感がした。第1日目に骨格筋についてはAdrian教授,プルキンエ線維の研究回顧についてはWeidmann教授の基調講演があった他は,方法の限界と将来の見通しについてD.Nobleの司会で討論を,第2日目はH.Reuterの司会で実験結果の説明について討論が行われた。
 電圧固定法の吟味は心筋ではきわめて重要な問題で,各自の標本について精細な吟味が要求されている。しかし心筋細胞に多数の細胞内電極を挿入するのが困難で,空間固定の可否については未だ議論がつづいている。ポアチエの会で最も多くの問題が集まったのもカエル心房筋の二重ショ糖法であって,同じような方法といっても各人各様の工夫があり,得られる結果にも差があるようであった(表1)。

温血動物中枢神経系におけるイオン泳動と伝達物質機構のシンポジウム

著者: 山本長三郎

ページ範囲:P.489 - P.490

 パリの第27回生理科学会議の衛星シンポジウムの一つとして,表記の会が7月28日から30日までの3日間,ケンブリッジのチャーチルカレッヂでKelly教授が主催して行われた。シンポジウムは総勢150名以上が参加し,発表も100題を越える盛会であった。3日間朝9時から晩6時頃まで日程が全部詰まっていて,しかもその前後に朝食やディナーがあり全体としてかなり強行軍であった。アブストラクトだけでも300頁を越える大冊となり,多くの人を網羅した利点とまとまりが少ないという欠点を合わせもった会となった。
 シンポジウムは後に説明するように7セッションから構成され,各セッションをどのようにすすめるかは,各座長の自由に任せるというやり方である。一般的には,各座長が40分間にわたってセッションをめぐる問題点と参加者からすでに提出されていたアブストラクトの概要をまとめて説明する。その後,各参加者がスライドを2枚ぐらい使って3〜5分間話す。セッション参加者が全部話し終ってから全体討論を1時間ぐらい行うという方式がとられた。この方式の成否はトピックスに適合した発表者を集めることと,事前に綿密な打合わせを発表者との間に行い,発表順などをアレンジする座長の努力にかかるところが大きい。今度のシンポジウムでは必ずしもうまく運んだともいえないが,しかし成功した場合には能率よく会が進むので,日本でも取り入れてみたい方式である。

脳幹介在ニューロンによる注視の制御のシンポジウム

著者: 前川杏二

ページ範囲:P.490 - P.492

 このシンポジウムは第27回国際生理科学連合会議(パリ)にさきだって7月12〜15日,パリ市郊外のAbbaye de Royaumontで開催された。世話人はA. Berthoz(パリ大学)とR. Baker(N. Y. 大学)で参加者は80名,日本から東大の伊藤,島津両教授と筆者が,またUCLAの野田教授も参加された。参加者の大部分は12世紀に建てられたという会場のある修道院内に宿泊しての3日間であつた。
 会議の冒頭にこの会議を今年1月に急逝したMITのHans-Lukas Teuber教授に捧げたいとの提案があり拍手をもって賛同された。

錐体路の微細結合と運動調整のシンポジウム

著者: 松波謙一

ページ範囲:P.492 - P.493

 Symposium on pyramidal micro-connexions and motor controlのシンポジウムは1977年7月12,13の両日に亘って,マルセイユにある国立科学研究センター(Centre National de la Recherche Scientifique)で行われた。この研究センターが設立されたときにも,コロキウムが行われ(1973年9月7〜9日),それはBrain Researchに掲載されている(Brain Res.,71:1974)。本シンポジウムも,1978年のJ. Physiol(Paris)に掲載される予定である。
 オーガナイザーはJ. Massion(マルセイユ)J. Paillard(マルセイユ),M. Wiesendanger(フライブルグースイス)の三人であり,形式としては講演とポスターに別かれ,前者に比重が置かれた。講演は大きく四つのsesslonに分けられ,各sessionに半日が当てられた。ポスターは両日に亘って掲示され,午前,午後の約30分のお茶の時間と昼食後の時間を使って見られるようになっていた。各sessionの題名,演題の内容はつぎのとうりである。

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生体の科学 第28巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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