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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学29巻1号

1978年02月発行

雑誌目次

特集 膜脂質の再検討 総説

生体膜の超微形態と脂質

著者: 石川春律

ページ範囲:P.2 - P.11

 生体膜は細胞を構成するすべての膜をいう。周囲環境から細胞を境する膜の存在は形質膜として古くから想定されていたが,その実体は電子顕微鏡の導入によってはじめて明らかにされた。そのうえ,同様の膜構造は細胞内部にも見出され,糸粒体,小胞体,核膜,ゴルジ装置などのいろいろな細胞小器官が膜からできていることが示された。したがって,膜を適切に配置すると細胞の基本像ができ上るくらいである。
 生体膜は細胞が示す多くの生命現象に決定的な役割を果している。電子顕微鏡により実体が明らかにされて以来,生体膜への関心は急速に高まり,この分野における最近の進歩にはめざましいものがある。今日,生体膜の超微形態もそれを構成する分子を考慮せずして論ぜられないところにきている。

膜脂質の多様性と膜タンパクとの相互作用

著者: 石塚稲夫 ,   加納いつ ,   新村幸雄 ,   只野桂子

ページ範囲:P.12 - P.25

 生体膜はSinger, Nicolsonのモデルに代表されるように,流動脂質二重層と膜タンパクからなっていると考えられている。これらのタンパクの生物活性の発現は,膜の局所的環境,とくに膜脂質によって調節されていると考えられている。
 本稿では,下の四つのトピックを取り上げて脂質とタンパクとの"リポフィリッグな関係について考察してみたい。

膜脂質に作用する物質

著者: 野沢義則

ページ範囲:P.26 - P.37

 はじめに
 生体膜脂質が,諸種の膜機能の発現に際して重要な役割を果していることはよく知られており,"構成"脂質に対して"機能"脂質とも呼ばれるべきものの存在が考えられている。したがって膜脂質の組成あるいは物理化学的な存在様態の変化が膜の構造および機能に影響をもたらすことにもなる。そこで,本稿では膜脂質に作用する物質の作用機構と誘起される膜現象の変動について述べるが,この類の物質にも脂質に直接に作用するものと間接的な作用を呈するものとがあり,しかもその種類も,きわめて多いために限られた紙数ではすべてを網羅することは不可能に近い。そこで,ここでは膜脂質との相互作用がかなり明確にされている物質に限定して,その主なもの,たとえば麻酔剤,環状抗生物質,毒素,金属イオンをとりあげ,これらの物質の膜脂質への作用に対する物理化学的根拠を示し,あわせてそれらの作用に随伴して生じる膜機能の変化を概説的に述べることにする。

脂質の物理的状態と膜の機能

著者: 池上明

ページ範囲:P.38 - P.45

 はじめに
 生体膜の構造状態を最もよく反映していると信じられているモデルとしてfluid mosaic modelがある。膜中でリン脂質は,疎水的な炭化水素鎖を内側にし,親水的なリン酸部分を外側にして二次元的に並び,二重層を形成する。そしてこの二重層膜に種々の機能をもったタンパク質がモザイク状に溶けこんだり,表面に吸着したりしている。脂質部分は液体的かつ液晶的で流動性に富み,しかも秩序構造形成的である。すなわち脂質二重層の構造は種々の外部条件で微妙に変化し外部からの刺激に応答するという膜の機能にふさわしい構造体といえよう。膜の機能の主要な部分はいうまでもなく機能タンパク質によっているが,この機能タンパク質が,このような脂質二重層膜の中に入り込んでいる点が重要である。
 タンパク質の高次構造や集合状態はその環境である二重層膜の物理的状態に左右され,それによってタンパク質の機能が変化するからである。

講義

神経系の可塑性の解剖学的な証拠について

著者:

ページ範囲:P.47 - P.54

 私がロンドンの国立医学研究所の神経生物学研究室で行っている解剖学的研究のいくつかについてお話したいと思います。まず私どものおおまかな興味についてお話ししてから2〜3の個々の仕事の主要な点について説明するつもりです。私どもの興味はシナプス結合の形成をコントロールする要因にあり,シナプス結合を研究する方法は主に電子顕微鏡を用いた解剖学的方法によります。
 初めに私が常日頃興味をもっているある科学的問題に触れることにします。これは一つの知的なパズルに似たようなものです。昔の解剖学者達が中枢神経系の構成に関する詳細な地図を作るために日夜努力をしてくれたために結合,経路,構成に関する膨大な文献があります。中枢神経系の構成を調べる理由は,神経系の構造と,その構成のパターンが,その機能から必然的に生ずるものであるからです。構造は神経系の機能の基本であります。とくにヒトや高等動物の神経系の最も重要な機能の一つは,各個体をその環境に適応させるような行動のパターンを作ることです。ですから神経系の機能の最も重要な要素として,行動を異った状況に適応させる能力を含んでいます。われわれの脳の機能に関しては適応ということ以上に重要なことはおそらくないと思います。そしてこのことは人類が環境に適応することに成功した重要な要因です。

解説

イオノフォア

著者: 平田肇

ページ範囲:P.55 - P.63

 はじめに
 抗生物質として知られている化合物のなかで,生体膜に直接作用して,そのイオン透過能を高める働きをもつものを総称してイオノフォア(ionophores)と呼んでいる。この名称はPressmanら1)によって命名されたものであるが,Ovchinnikovら2)は,コンプレクソン(complexones)と呼んでいる。前者は,イオンを運ぶものという機能的な側面を強調し,後者は,イオンと複合体をつくるという構造上の内容を含んでいる。
 生体膜の構造と機能については,これまで数多くの文献や総説があるので,ここであらためて述べる必要もないが,細胞の数多くの生命現象を司る場として重要であると同時に,種々のイオンや,極性物質に対する障壁としての役割は,細胞の内部環境を外界から隔離するという意味において最も重要で,基本的な機能であるといえよう。その構造については,これまでいくつかの仮説をもとに議論が行われたが,現在,最も広く認められているモデルは,SingerとNicolson3)らが提唱したものでリン脂質二重層が基本構造であって,その中に,種々のタンパク質が,さまざまな形態で存在しているというものである。このリン脂質二重層は,電気伝導度は非常に低く,10-8〜10-9mhos・cm-2のオーダーである。これは,2分子のリン脂質分子の脂肪酸残基が互いに向きあって一つの疎水性の層を作っているためである。

実験講座

無拘束動物の交感神経活動

著者: 二宮石雄 ,   米沢良治

ページ範囲:P.64 - P.69

 はじめに
 従来,交感神経活動の記録は麻酔下で実験動物を実験台に固定し動かない状態下で行っていた。この特殊な実験状態下で得たデータから導かれた結論は日常生活時(無麻酔,無拘束状態下)の交感神経活動の指標として定性的ならびに定量的にどの程度信頼できるだろうかという素朴な疑問がもたれていた。とくに高位中枢神経の交感神経系に及ぼす影響についての研究1)は麻酔下では困難であった。また行動に伴った,あるいは行動に先行して起るであろう交感神経活動の研究2)は全く残されており効果器の応答3)から推定するにとどまった。
 これら一連の疑問を解明するには直接,無麻酔,無拘束状態下で交感神経活動を記録する必要があった。しかし困難な問題点は無麻酔,無拘束状態下の記録のために従来麻酔下で使用されていた方法をそのまま適用できないことてあった。

話題

第8回国際発生生物学会見聞記

著者: 小沢鍈二郎

ページ範囲:P.78 - P.81

 第8回の国際発生生物学会が,1977年8月29日から9月2日まで,東京の経団連ビルとパレスホテルで開かれた。参加人員は約500名という話を聞いた。団勝麿教授(もと都立大)とJ.Ebert博士(Woodshole Marine Biology Laboratory)らを中心として,主として理学部生物の方々によって運営された会で,医学部系の国際学会と違って割と小人数のスマートな会合であった。
 形の如くきらびやかな開会式で幕を開けた学会は,その夜にはもう豪華な会長招待のレセプションがあり,また最後の夜にはバンケットがあるなど,国際親善のための心配りも十分になされていた。さて肝腎の学会であるが,大きくいって三つの行事が行われた。

第27回国際生理科学会議衛星シンポジウム印象記・2

"Theory and Application of Ion-Selective Electrodes"のシンポジウム

著者: 佐藤侑子

ページ範囲:P.70 - P.71

 IUPS Satellite Symposium"Theory and Applica-tion or Ion-Selective Electrodes ill Physiology andMedicine"が1977年7月27〜29日の3日間,ドイツ・ドルトムント市で開かれました。D. W. Lübbers教授をChairmanとして,彼の所属する気持よく準備されたMax-Plank-lnstituteでo)3日間のシンポジウムは,いろいろな批判はあるとしても,実り豊かなものでありました。参加者およそ60余名,生理学者ばかりでなく,化学・物理家から臨床家にいたるまで,世界の各地から集ってきました。このシンポジウムに関して何の研究経験ももっていない私の参加を,多分不可思議に思って見ていた人も少なくはないでしょう。
 シンポジウムは次の四つのセッションにわけられていました。

平滑筋の興奮収縮連関に関する衛星シンポジウム

著者: 杉晴夫

ページ範囲:P.71 - P.72

 1977年度の国際生理科学会議に先立って,7月12日から16日にわたって平滑筋の興奮収縮連関に関する衛星シンポジウムが,ベルギーのR. Casteels,T. Godfraindおよび西独のJ. C. Rüeggを主催者として行われた。シンポジウムの前半(12〜14日)はベルギーのLouvain大学において平滑筋の電気現象と収縮,微小形態,細胞分画のCa uptake,La-methodによるCa flux測定などが討議された。14日午後は参加者がバスでハイデルベルグ(Heidelberg)に移動し,シンポジウムの後半はMax-Planck Hausを会場として筋フィラメントの構造,調節タンパクの諸問題,cyclic AMPとGMPの役割,mechanics,energcticsなどが論議された。以上の内容からわかるように,本シンポジウムの内容は興奮収縮連関というより平滑筋に関する生理学,生化学のほとんどすべてにわたっており,参加者も多く(延べ100人以上)盛会であった。しかし口演者数が多いため,Louvainにおいては口演(1人20分)とボスター展示が併用された。筆者はパリの国際会議でポスター展示がきわめてよい発表方式であることを経験したが,シンポジウムにおけるポスター展示(時間は1時間程度)はよい方法とは思われなかった。

「神経内分泌統合の電気的サイン」の円卓会議

著者: 八木欽治

ページ範囲:P.73 - P.74

 標題の円卓会議は,昨夏パリで開かれた第27回国際生理科学会議のsection 8 Endocrinology and Neuroendocrinologyに属し,7月21日午前9時から12時まで3時間のパネル討論形式で行われた。司会者のDr. B. A. Cross(英ケンブリッジ大ARC研究所長)は,神経内分泌制御の概念を確立したG. W. Harris教授の門下生であり,J. D. Greenと一緒に神経内分泌制御の研究に視床下部ニューロンの電気的活動の記録を取り入れた最初の人(1959年)として有名である。もう1人の司会者Dr. J. D. Vincent(仏,ボルドー大)は,1970年以来無麻酔サルの視索上核神経分泌ニューロンの電気生理学的研究に多くの成果をあげ,発火パターンによるバゾプレッシン(AVP)分泌ニューロンの同定法の提唱と浸透圧受容ニューロンは神経分泌ニューロンではないという主張で知られている。
 この円卓会議は以下に述べる三つの主題によって構成された。各主題ごとに指名された3名のmain openerはその主題に関して最近の問題点を紹介し,今後のアプローチへの展望と研究戦略を主体として10分間でまとめるようにあらかじめ要請された。各主題ごとに20分間のパネル討論がなされ,最後にさらに20分間の一般討論とconcluding remarkがなされた。

「小脳の機能」円卓会議

著者: 佐々木和夫

ページ範囲:P.74 - P.76

 一昨年5月に第27回国際生理科学会議のM. Fontaine会長からCerebellar mechanismsに関する円卓会議(Round table)を司会するよう依頼があった。ついで,時間は3時間以内であること,内容と発表者の選択はまかせるが,発表者を4〜5人以内にして地域的に片寄らないことと,他の講演や円卓会議と重ならないように配慮してほしい旨の手紙がきた。
 Cerebellar mechanismsといっても,現今その研究内容は多岐にわたり,研究者の数もとくに多い。したがって,広い研究領野を網羅することは不可能であり,ある程度テーマをしぼって討論する方が散漫にならなくてよいのではないかと考えた。Co-chairmanはDr. J. Massionに決まった。幸いにも一昨年10月前橋で開催された定位脳手術研究会でのRecent studies on the humanthalamusのシンポジウムにDr. Massionが招かれて来日し,前橋と京都で相談することができた。

「学習と記憶の脳機構」のシンポジウム

著者: 塚原仲晃

ページ範囲:P.76 - P.77

 昨年の7月25日から27日まで3日間,ロンドンで国際脳研究機構(IBRO)主催のシンポジウムが,表題のテーマで行われました。このシンポジウムは,米国カルフォルニア大学のM.Brazier博士が中心になって組織したもので,その内容はニューヨークのRaven Press社よりIBROモノグラフ・シリーズの一冊として刊行されるので,ここではごく一般的な印象を書かせていただくことにします。
 このシンポジウムは昨夏パリで開催された国際生理科学連合の本会議に引続いて日程が組まれていたので,出席者の多くはパリの学会の後,ドヴァー海峡を越え,欧州各地で開催されたいくつかのシンポジウムに出席したあと,いささか会議疲れのした身体を引きずって集まってきたわけで,私もその一人だったわけです。会場(写真)は,王立協会,すなわちバッキンガム宮殿を正面にみて右手の緑の多い高台,カールトンハウス,テラスにある白亜の建物で,由緒ある王立協会の建物にふさわしく,内部はニュートンにはじまる科学者の肖像画がずらりと並び,いささか圧倒される思いでした。医学関係では,イギリス生化学の生みの親,フレデリック,ガウランド,ホプキンスの大きな肖像画が階段の壁にかかっていました。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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