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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学29巻2号

1978年04月発行

雑誌目次

特集 腎機能

特集「腎機能」によせて

著者: 星猛

ページ範囲:P.86 - P.86

 腎臓の機能の研究を年代をさかのぼって展望すると,方法論の面でかなり明瞭な一つの流れを感ずることができる。腎臓は微細な管構造をなすネフロンが無数に複雑にからまり合ってできた臓器であるので,初期の段階から腎臓に固有な研究法が用いられてきている。まず1940年代までの研究はクリアランス法が主で,その段階では,腎内の細かな過程は別として,入口と出口の関係から,器官全体として血中の種々の物質をどのように処理しているかを知るのに主眼が置かれていた。すなわちこの時期の研究は器官機能の全体像を把握するものであったと見ることができる。その分野の研究はH.W.Smith によりThe Kidney:Structure and Function inHealth and Disease(Oxford Univ.Press, 1951)に集大成されているが,今日もなお貴重な基礎資料として価値を保っている。
 ついで発展した研究は,腎内過程を単一ネフロンについて詳細に観察するものであり,それに用いられたのは微小穿刺micropuncture法である。腎臓は単位構造(ネフロン)の集合体であるので,単一ネフロン内の過程を詳細に見ることによって腎内過程をより具体的に理解することができる。

総説

腎の微細形態

著者: 安田寛基

ページ範囲:P.87 - P.102

 はじめに
 腎臓は電子顕微鏡による微細形態学的立場から最も広く研究され論議されてきた臓器の一つである。それは血液から原尿をロ過するという機能と糸球体という単位の明白な形態また原尿内の有効成分を再吸収し,不用物質を分泌するなどの機能と特徴ある細尿管上皮の微細形態がすなわち,機能と形態が最も端的にとらえやすいといら魅力を腎という臓器が,内蔵していたにほかならない。
 このようないわば病態生理学的な興味とは別に,ヒトにおける腎の病態は,とくに糸球体という形態単位に病理診断上の位置づけが明白に求められる関係上,臨床病理医の検索の対照として不可欠であり,さらに針生検によって得られた小片は,そのまま電子顕微鏡的検索の材料として,格好な試料を研究者たちに提供してきた。

尿細管のNa-K-ポンプ

著者: 田島陽太郎

ページ範囲:P.103 - P.113

 はじめに
 腎機能のうち,尿生成能,とくにNa, Kの再吸収について述べる。NaとKに注目したのは,成人1日当りのNa再吸収量が約600gにも及ぶことと,細胞内外のK濃度差が細胞膜電位に著しい影響を与えること,それから,Naの能動輸送はKと共役して行われることなどの理由による。
 腎の糸球体瀘液と血漿の限外瀘液は同一であるから,糸球体での瀘過は単純な限外瀘過と考えてよい。その瀘過膜は,細胞間隙—基底膜に存在するはずだが,実体については現在不明であり,この点に積極的に迫る生化学的手段も乏しいので,当分の間は基底膜や,細胞表面の化学構造の分析など,基礎的研究成果の蓄積を待つほかない。免疫学的手段による糸球体の研究が活発なので,この分野からなんらかの手がかりが得られるかも知れない。糸球体については腎炎の病理,人工透析術など,臨床医学と密接に関係する研究課題だが省略する。

ネフロンの機能的分化とホルモンの作用局在

著者: 今井正

ページ範囲:P.114 - P.125

 はじめに
 尿細管は異った機能をもつ,いくつかのセグメントよりなることは周知のことである。従来この機能単位としては,①近位尿細管,②Henleのループ,③遠位尿細管,④集合尿細管の四つ分けられると考えられていた。これらのネフロン各部位の機能的特性は,主としてマイクロパンクチャー法によって明らかにされてきた。しかしながら,マイクロパンクチャー法には腎表面または露出した乳頭先端部の尿細管のみしか穿刺できないこと,穿刺した尿細管の形態学的均一性を確認できないなどの技術的限界があった。Burgら1)により開発された単離尿細管灌流法は,この欠点を克服して形態的特徴を確認した尿細管各部位の機能を明らかにすることを可能にした。さらに,単離した尿細管の生化学的特性も次第に明らかにされつつある2〜8)
 このような方法を用いた一連の研究から,ネフロンの機能的分化は,従来考えられていた以上に複雑なものであることが明らかとなりつつある9〜11)。ネフロンの機能的分化は2種類に大別される9)。第1は同一ネフロン内の機能分化(intranephron heterogeneity)であり,第2は異ったネフロン(表層supcrficial,SFと深層juxtramedullary,JM)間の機能分化(internephronheterogeneity)である。

解説

鳥類のてんかん

著者: 大川隆徳 ,   高木健太郎

ページ範囲:P.126 - P.133

 はじめに
 中枢神経系の障害を主徴とする先天性狂気鶏(congenital loco chicks)は,すでに半世紀前から知られていたが1,2),これらのニワトリが脳波学的に研究されたのはつい最近である3)。1969年,常染色体に素因するてんかん様発作ニワトリが発見され4,5),これらの突然変異鶏は閃光刺激により異常脳波を伴うけいれん発作が誘発される6,7)。一方,鳥類の脳波に対する痙攣薬の影響が判然としなかったため,鳥類のてんかんの存在が疑問視され,とくに,比較動物てんかんの権威者であるServít(1959,1972)8, 9)が烏類のてんかんの項10)を削除しているためか,あたかも鳥類にはてんかんがないという印象を一般に与えた。なかでも,ニワトリにストリキニンを全身性に投与したSpoonerら(1966)の報告11)では,異常脳波のスパイクが誘発されない主因として,終脳が解剖学的に哺乳類の大脳皮質と全く異なるからであるとの見解を述べている。また,他に0.85mg/kg最のストリキニンに対して,幼若鶏では痙攣を呈するが,成育鶏では全くこの反応を示さないという報告もあった12)。これに反し,その後,大川(1973,1974)13, 14)はストリキニンを全身性に投与したニワトリの終脳脳波上にスパイクの発火を認め,さらに,0.85mg/kgのストリキニンを静注して,成育鶏でも痙攣発作を誘発した15)

神経毒素—ペプチドおよびタンパク質

著者: 阿部輝雄

ページ範囲:P.134 - P.142

 はじめに
 神経細胞は興奮膜を有し,刺激はインパルス(活動電位)という形で軸索を伝わり,シナプスと呼ばれる2個の細胞の接合部を通じて,もう一方の細胞に導かれる。インパルスの伝導とシナプスにおける細胞間の相互作用は,脳の驚異的な高次機能の土台を成すものと考えられる。
 最近の生化学の進歩により,従来,単に推測の内に留まっていた,神経インパルスの伝導やシナプス伝達の分子機構を追究する機は熟してきたようにみえる。神経系に選択的に作用して,神経系の機能を損う物質を神経毒素と総称するが,神経毒素はそのための有力な武器である。

実験講座

電子顕微鏡オートラジオグラフィーの実際

著者: 広沢一成

ページ範囲:P.144 - P.151

 オートラジオグラフィー(autoradiography,以下ARGと略す)とは放射性同位元素(radioisotope, RI)のβ崩壊または電子捕獲に伴うβ線のエネルギーを写真学的に検出する方法である。したがって,RI標識物質が生体内に取り込まれ,合成,代謝される過程を形態との関連で同定できることがARGの特徴である。元来,RIの検出にはシンチレーションカウンターなどの検出器を用いるほうが精度は高く,かつ,定量的であるが,ARGによる検出は,①組織・細胞内に存在するRIを視覚的に捉え得る唯一の方法であり,
 ②同一構造内での標識物質の移動を知ることができ,
 ③特定の細胞を標識する手段として用い得る。
 などの特徴をもつ。これらの特徴によりARGは他の手段では得ることのできない情報を細胞生物学に提供してきた。
 ARGという現象はRIの発見される以前から知られていたが,科学的に利用がはじまったのはRIの発見,原子核乳剤の開発など関連分野の進歩を経たのちである。第二次大戦時のRI開発および写真技術の進歩はARGを生物学の分野へ本格的に応用するきっかけとなった。

膜電位に関連した蛍光・吸光変化の測定

著者: 藁科彬

ページ範囲:P.152 - P.158

 はじめに
 興奮性生体膜の興奮は現象論的には電気的な物理量による記述が最も適している。しかし問題が興奮を可能にする膜の分子論的構造と機能という面に立ち至った今日,従来の電気生理学的手法に加え新たな測定手段の導入が必要視されてきている。色素分子をprobeとして生体膜の興奮現象を研究しようという試みも光散乱・複屈折など他の光学的測定と同様このような目的で始められた実験である。
 TasakiおよびCohenを中心とする両研究グループは独自の努力により,興奮に伴う螢光発光強度の微小変化1)(螢光response)と吸収強度の微小変化2,3)(吸収response)が実際に測定可能であることを示した。その後,より大きなresponseを与える色素が次々と発見されるに及び,所期の目的と共に,これらのresponseを従来の電極法を補う膜電位測定の手段として使用するという試みも活発化して注目されるに至っている。本稿では著者がTasakiらのグループの一員として研究に参加した際の経験を中心に,これらのresponseの測定に関連した事項を述べてみたい。

話題

ジョンス・ホプキンスから

著者: 佐川喜一

ページ範囲:P.159 - P.161

 ジョンス・ホプキンス大学は一昨年創立百周年を迎えた。創立当初からのモットーは「small but excellent」。大きくすればするほど内容も充実するだろうという観念が支配的だった最近のアメリカにあって,こういう叛逆者的な信条を維持することは必ずしも容易ではなかったろうと思われる。多彩な記念行事が催されたが,中でも感心したのは,各教室単位で記念シンポジウムを開き,世界中から講演者を集めて,各領域の研究の過去,現在,未来の展望をはかったことである。全学でおそらく100に近いシンポジアが年間を通じて開かれたと思う。私のいる,BME教室ではつぎのようなシンポジウムを2日間にわたって開いた。
 Ⅰ.BMEの工学への貢献:E. Baer,C. E. Molnar,W. A. Rosenblith,J. A. Truxal
 Ⅱ.BMEの基礎医学,生物学への貢献:A. C. Guyton,O. H. Schmitt,W. M. Siebert,F. E. Yates
 Ⅲ.BMEの臨床医学および医療への貢献:N. G. Anderson,E. E. Baken,W. J. Kolf,R. F. Rushmer
 Ⅳ.BMEの健康管理,医療供給システムへの貢献:G. O. Barnet,M. F,Collen,M. D. Schwartz

第27回国際生理科学会議衛星シンポジウム印象記・3

「歩行の神経生理学的メカニズム」のシンポジウム

著者: 森茂美

ページ範囲:P.162 - P.164

 昭和52年7月15,16日,国際シンポジウム「歩行機構の神経生理学(Neurophysiological Mechanisms of Locomotion)」がP. Buser教授を主催者の一人としてキューリー大学で開催された。このシンポジウムは同年7月キューリー大学を主会場として開催された第27回国際生理科学連合総会のサテライトシンポジウムとして位置づけられ,12ヵ国から約30名の研究者が参加した。日本からは本間三郎教授(千葉大・医),島村宗夫研究部長(東京都立神経研),有働正夫助教授(大阪大・基礎工)と筆者の4名が招待され発表した。

シンポジウム「Active Touch」印象記

著者: 岩村吉晃

ページ範囲:P.164 - P.166

 第27回国際生理科学連合(IUPS)会議の衛星シンポジウムの一つ"active touch"はパリから約300km離れたワインの産地Bourgogne地方の小都市Beauneで開催された。Beauneはフランスの代表的生理学者E.J.Marey(1830〜1940)の生地でもあり,彼の住んだ家,野鳥観察のために彼が自作した石室,そしてMarey博物館などがある。博物館には,Mareyの考案したさまざまな連続撮影カメラをはじめ,実験ノート,ヒトや動物の運動を記録した写真やスケッチが保存されている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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