icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学29巻3号

1978年06月発行

雑誌目次

特集 心臓のリズム発生 総説

作業心筋と特殊心筋の微細形態

著者: 河村慧四郎 ,   鷹津正

ページ範囲:P.168 - P.179

 はじめに
 心筋は作業心筋と特殊心筋に大別される。前者は心房と心室の筋層の大部分を占め,機械的収縮に主役を演じ,後者はリズミカルな自働性興奮の生起とそれを作業心筋に伝導する組織,すなわち刺激伝導系を構成する。本稿では成熟した哺乳動物の正常心筋の微細形態の概要を解説する。

培養心筋細胞の拍動リズムの同調

著者: 五島喜与太

ページ範囲:P.180 - P.185

 はじめに
 体内心臓の示す自動的な収縮—弛緩の繰返し(以下,拍動とよぶ)は,培養下の個々の細胞に再現できる。1912年にBurrows1)はニワトリ胚心臓片の組織培養下の移殖片から遊出してきた細胞のなかに自働拍動をしているものがあることを観察した。その後1952年にMoscona2)により細胞培養法が開発され,より単純化した実験系において個々の細胞を扱うことができるようになった。それはトリプシンなどのタンパク分解酵素で組織片を消化し,組織を構成している細胞を個々の細胞単位に分離し,それらを培養する方法である。Cavanaugh3),Fängeら4)およびHararyとFarley5)はこの方法をニワトリ胚あるいはラット新生児心臓に用いて,細胞培養下の心筋細胞の拍動を観察した。
 培養心筋細胞の拍動に関する研究は,つぎのような理由で,ここ数年の間に,臨床心臓病学を含む多くの分野において関心をもたれるようになってきた。それは,体内心臓の示す正常な,あるいは病的な諸機能のいくつかと類似したふるまいを培養心筋細胞に再現できるようになってきたこと,ならびにそれらの諸機能を解析するうえで培養系は独特の利点をもっていることによる。ここでは,筆者の観察を中心に,培養心筋細胞の拍動の基礎的性質6〜11),同調拍動12〜16),不整脈17〜19)について紹介する。

心筋細胞の自動性について

著者: 瀬山一正

ページ範囲:P.186 - P.194

 はじめに
 ガラス管微小電極法の導人により,心筋細胞,神経細胞,受容器細胞など生体内で自動性を有する細胞の活動電位には,確ならず緩徐な脱分極(前電位)を伴っていることが解った。それゆえその性質の解明が自動性解明に結びつくと考えられ,多くの電気生理学的解析が試みられてきた。心筋については,プルキンエ(Purkinje)線維においてWeidmann30)が,また洞房結節細胞(S-A細胞)においてWest31)が自動性発生時前電位を認め,この間のslope conductanceが時間と共に減少することを認めている。前電位は膜の脱分極であるからその機序としてつぎの三つが考えられる。
 ①Naに対する透過性が時間と共に増大する。
 ②Kに対する透過性が時間と共に減少する。
 ③Na-K pumpの起電力が最大拡張期電位の時最大となり時間と共に次第に減少する。

下等動物の心臓リズム

著者: 江原有信

ページ範囲:P.195 - P.202

 はじめに
 1928年William Harveyが心臓の拍動と血流について画期的な研究を発表してから,心臓は生物学,医学などの研究対象になることの多い臓器であるとともに,近年は心臓病による死亡が目立つこともあって,相変らず注目を集めている。Harveyは研究材料として脊椎動物ばかりでなく,甲殻類・昆虫類および軟体動物も使い,心臓が血流を生じさせていることを明らかにした1)
 心臓は動物体から取り出して適当な条件においても,自動的規則的に拍動を続けることは18世紀後半以来知られた事実である2)。適当する外液条件はRingerによって研究され3),その成果は生理学実験に広く応用されている。心臓リズム発生の根源は心臓に内在していることも明らかである。しかし,心臓と名がついているリンパ心臓は脊髄神経によって駆動されている4,5)

解説

下等動物の生物時計

著者: 青木清

ページ範囲:P.203 - P.211

 はじめに
 生物時計がわれわれの体内にあることを知るのは,われわれが今日,周期の異る他の環境に急に移ったとき,自分の体内に起るどうしても制御しがたい生理的な混乱の体験をもったときである。つまりジェット機によって東京から一気にニューヨークに飛ぶ,あるいは日中の仕事から夜勤にかわったとき,生理的な混乱が起ることである。この混乱にかかわる日周性体内時計とはどんなものであろうか。最近その体内時計に関して,また広くはリズムに関する神経機構を解明せんと生物学者達の眼が注がれだした。体内時計は初めに述べたように誰しも体験することから,その現象には興味をもつのであるが,いざ自然科学的に研究の主題として取り上げるとなると,いかようにその機構解明を試みるかという困難さを感じ,手をこまねいていたというのが実情であった。一方,最近の流行であるかもしれないが,生物学の内で行動生物学が一つの主要な流れとなってきた今日,生物時計も重要なテーマとなってきた。また行動生物学の分野での,たとえばわれわれが行った魚の偏光視覚における行動生理学的実験においても,魚のもつ体内時計を無視することなく行えるものではなかった1,2)。それは魚が偏光によって学習づけられるという実験で,偏光の方向と自分の体内時計をあわせて覚えるということである。

実験講座

軸索流の新しい測定法

著者: 竹中敏文 ,   堀江秀典 ,   杉田徹

ページ範囲:P.212 - P.216

 軸索の維持,更新または伸展などに必要とされる物質は,主として細胞体で合成され,軸索内を移動すると考えられている。このような軸索内の物質の輸送を軸索輸送という1)。軸索輸送を測定するには,顕微鏡でみえるような顆粒であれば光顕で測定できるが2),タンパク質のように小さなものは放射線同位元素で標識して,それを計測するのが普通である3)。たとえば脊髄神経節に少量の3H-ロイシンを注入する。これらのアミノ酸は細胞体に取り込まれ,タンパク質に合成された後,軸索内を輸送される。それゆえ,注入後所定の時間後に後根や坐骨神経を2〜5mm間隔で細分し,各画分について含まれている放射能を測定し輸送物質がどこまで進んでいるか,どのような分布をしているかなどを研究する。しかし,こういった方法だと1本の神経束で一つの分布だけしか得られず,動的な情報は全く得られない。軸索輸送は生理的現象なので,どうしてもその動的なものを研究しなければならない。そこでわれわは小さな半導体放射線検出器を直接神経にあてて,軸索輸送を生理的条件下で測定しうる方法を案出した4)。この方法を用いると軸索流の動的な動きを1本の神経束で追従することができるので軸索輸送の研究にとって非常に有力な手法となる。この実験講座では,まず半導体放射線検出器について解説し,つぎにそれを実験に用いた応用例について述べる。

定量的脳局所代謝測定法〔14C〕deoxyglucose法—その実験手技について

著者: 桜田修

ページ範囲:P.217 - P.221

 脳は種々異った機能を営む数多くのstructureの集合体であり,そのheterogenuityは,中枢神経系の研究において,ときに大きな障害となることがある。脳機能は,脳循環代謝と密接な関連があることから,脳機能を脳循環代謝の面からとらえる努力が数多くなされてきた。1945年Ketyらによって発表された。N2Oをトレーサーとする全脳平均循環代謝測定法1)では,このheterogenous organの微妙な局所変化を検索するうえにおのずから限界がある。小さなstructureの変化は,全脳の循環代謝に平均されて,局所変化をとらえることはできない。そこで,脳循環代謝を局所レベルでとらえる方法が望まれてきたのである。
 1955年Landauらにより発表された〔131I〕trifluoroiodomethaneをトレーサーとした,オートラジオグラムによる脳局所血流測定法2)は,技術的な問題は別にしても,脳局所レベルでの血流の変化を一度に視覚化できる画期的な方法であった。このオートラジオグラムによる脳局所血流測定法は,〔14C〕iodoantipyrine3)をトレーサーとして使用することにより,現在一応目標を達したと見てよい。オートラジオグラムによれば,全脳の局所変化が視覚化され非常に便利である。ついでSokoloffらはさらにオートラジオグラムを利用した脳局所エネルギー代謝の測定法の開発を志した。

話題

米国のグラントシステムについて—(その1)グラントの種類/(その2)研究システムに与える影響

著者: 長友孝文

ページ範囲:P.222 - P.231

 はじめに
 日本の研究者が米国へ留学を希望する旨の手紙を米国の研究室に送った時,その研究室のボスから,"私の研究室は,現在グラントがないので悪しからず"あるいは,"現在グラントを申請中なのでもう少し待ってほしい"と書かれた返事を受け取った人も多いと思います。また,実際に米国に留学した際,研究者の会話の中で,"グラント"という言葉を耳にしたり,あるいは,研究室のボスが2〜3ヵ月にわたってグラント申請書の作成に神経質になっている姿に接した方も少なからずいると思います。米国においては,研究費の獲得方法が100%グラントに依存していることを考えると,グラントすなわち研究費を獲得できるか否かがその研究者の死活問題にまで発展し,研究を維持し進めるためには,日本では想像できないほどの厳しさがあると考えられます。
 Public Health Scienceから発行された報告書によると,"Grant"の定義が以下のように述べられています。

McArdle Laboratoryの研究生活

著者: 腰原康子

ページ範囲:P.232 - P.234

 幸いにも2年間アメリカで研究する機会を与えられて,10数ヵ月を過ぎた現在,多少余裕もでき改めてMcArdle Laboratoryこそ落着いて研究できる最適の研究所ではないかと日々感じています。やや管見の誂を免れませんがいままでに見聞きした一部を紹介したいと思います。決して設備も予算も超一流ということでないことは,次に紹介する内容でご理解願えると思いますが,これほど研究することすべてを合理性で貫こうと努めている所は数少ないのではないかと思うほどです。

第6回「摂食ならびに飲水生理学」国際学会に出席して

著者: 新島旭 ,   大村裕

ページ範囲:P.235 - P.238

 パリ市内で行われた第27回国際生理科学会議(IUPS)終了後7月24日,第6回摂食および飲水生理学国際学会出席者の多くが,ソルボンヌ大学に隣接するCollége de Franceに集合した。今期の会長をつとめるJaque Le Magnen博士はこの大学の生理学教授であり,Nicoladis教授,Louis-Sylvestre博士など組織委員にはこの大学の関係者が多かった。
 大学正門の前にはClaude Bernardの立派な立像(図1)があり,中庭の壁面にはClaude Bernard,Maendieなど歴代教授の名前が刻まれているのが印象深かった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?