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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学29巻4号

1978年08月発行

雑誌目次

特集 中枢のペプチド

特集"中枢のペプチド"によせて

著者: 矢内原昇

ページ範囲:P.244 - P.245

 生体微量成分に関する生化学的研究の著しい進歩により,新しい活性ペプチドがつぎつぎに単離され,その構造決定がなされるとともにただちに化学者により化学合成が試みられ,構造が確認されると,ついで合成ペプチドによる生理学的研究に発展するという一般的なパターンで広範な領域にわたり,活性ペプチドに関する研究は迅速に展開されるようになった。さらに純粋な天然または合成ペプチドが入手可能になるとともに抗血清の作成が試みられ,ついでその特異性が確認された抗血清を用いる免疫組織化学あるいはラジオイムノアッセイなどの免疫化学的手法による研究も最近著しい発展がみられる。
 これら一連の研究はいずれも新しい活性ペプチドまたはペプチドホルモンの発見によってはじめて展開される事実から,中枢のポリペプチドについても,GuilleminおよびSchallyらによるTRH,LH-RHおよびソマトスタチンの視床下部からの単離,あるいはLeemanらによる同様視床下部からのsubstance Pおよびニューロテンシンの単離はきわめて大きい意義をもつものといえよう。

総説

ペプチド性伝達物質研究の現状

著者: 金澤一郎

ページ範囲:P.246 - P.255

 はじめに
 10年程前から内分泌学の進歩の帰結としてペプチドホルモンの純化の努力が実を結びはじめていた。その当時,神経科学の分野に顔を出していたペプチドはsub-stance Pだけであったといっても過言ではない。その後数年の間に,そのsubstance Pが神経伝達物質として着実にその地位を確保してきたのには,大塚を中心とする日本の研究グループの果たした役割は大きい。さらに,このsubstance Pを追って他のペプチドも,神経伝達物質の可能性を秘めて神経科学の分野につぎつぎと登場してきた結果,今日の神経ペプチド研究の隆盛をもたらしたといえよう。
 本稿では,このようなペプチドのおのおのが現時点でどの程度神経伝達物質として確からしいか,いいかえれば神経伝達物質の同定基準に照らしてどこまで証拠があるかについて現状を眺めてみることにする。ここで取り上げる伝達物質の同定基準は,つぎの三点に限った。

ポリペプチドと行動

著者: 出水干二

ページ範囲:P.256 - P.271

 はじめに
 過去15年間のモノアミンに関する生理,薬理および生化学的研究は飛躍的に進展し,パーキンソン病におけるドーパミン代謝異常の発見とそれに基づくL-DOPA療法の開発に大きく寄与したことは周知の事実である1)。加えて,近年哺乳動物の脳内アミノ酸,とくにGABA2)やTaurine3)の中枢神経作用が新たに注目されるようになった。一方,これらモノアミンやアミノ酸の基礎的研究の発展とともに,視床下部ペプチドホルモンの発見が神経内分泌学や行動薬理学の進展に貢献していることも事実である。視床下部より抽出されたペプチドホルモンは下垂体ホルモンの放出または放出抑制因子としての作用以外に,それ自体が生理・薬理作用を有することがわかってきた。
 脳ペプチドは
 ①ACTHやMSHを中心とした下垂体ペプチドホルモン,
 ②TRH,LHRH,somatostatinおよびMIFなどの視床下部ペプチドホルモン,
 ③Angiotensin,lysine vasopressin,sleep-inducing peptide,dark-avoidance peptide,scotophobin,ameletin,substance Pおよびenkephalin,endorphinなどの中枢神経内ペプチドに分けることができる。

神経ペプチドの受容体

著者: 小川紀雄

ページ範囲:P.272 - P.283

 はじめに
 ペプチドホルモンは一般に細胞膜に存在する受容体(receptor,以下Rと記す)に結合することにより作用を発揮し,その細胞膜Rに関しては
 ①ホルモン特異性がある。
 ②結合親和性がきわめて高い。
 ③結合部位数が一定である。
 ④標的細胞に局在する。
 という各条件を満たす必要があり,また,結合は可逆的であると考えられてきた。しかし,このホルモンとRの結合は非可逆的である可能を示す成績も報告され1,2),結合能については,あるRがホルモンと結合すると,残りのRの結合能が変化するというnegative-あるいはpositive-cooperativityという現象が知られるようになり,最近ではRは形質膜の中を自由に移動しうるものと解釈されている。このようにRはもはやホルモン分子とRとの1対1の物理的な結合という過去の概念から脱却して複合反応系における現象として動的にとらえねばならなくなっている。また,ペプチドホルモンのRは組織膜表面にのみ限局するとされてきたが,最近ではLH-RH3〜6),melanotropin7),growth hormone8),prolactin,8) insulin8)およびsomatostatin9)の結合部位が細胞内あるいはcytosol分画に見出され,細胞膜Rの前駆体である可能性についても論議されている。

解説

ゾウリムシにおける纎毛運動の制御

著者: 内藤豊

ページ範囲:P.284 - P.293

 Ⅰ.細菌と分子生物学
 過去約20年間,分子生物学や分子遺伝学は,大腸菌(Escherichia coli)を研究材料として画期的発展を遂げ,生命科学の各分野に大きな影響を与えてきた。これは,大腸菌で得られた知見が,大腸菌のみにとどまらず,われわれ人間も含めた一般生物の機能の解明に役立つことを意味している。つまり,生命現象における一様性を如実に示しているといえよう。
 細菌などの微生物が研究材料として優れている点はつぎの二点である。

講義

免疫不全症候群,自己免疫性疾患および悪性腫瘍に伴う免疫統御細胞機能の障害

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.295 - P.302

 免疫グロブリン合成の異常を伴う原発性免疫不全症候群や自己免疫性疾患,リンパ系組織における悪性腫瘍などは,免疫応答の統御機構を洞察するためにきわめて興味ある疾患群である。なぜならば,これらの疾患の患者においては,正常な免疫応答を起すために必要な細胞の成熟,細胞間相互作用,細胞内物質合成におけるいろいろな障害のモデルを提供しているからである。図1はリンパ系細胞機能について一般的な考え方を図示したものである。
 プラズマ細胞は骨髄の造血幹細胞からさまざまの段階の分化の過程を経ることによって,最終的には免疫グロブリンを産生する細胞に分化したものである。その分化の最初の段階では,骨髄の幹細胞は,抗原刺激を必要とすることなく,いわゆるBリンパ球(B細胞)へと分化する。このB細胞は抗原,Epstein-Barr Virus(E. B. Virus),補体第3因子,抗原抗体結合物,Pokeweed Mitogen(PWM)を含む一連の植物レクチンなどに反応することが知られており,細胞膜表面の免疫グロブリンを含めた種々のレセプターを細胞表面に有するリンパ球として末梢血中に認められる。特定の抗原やPWMと,これに対応する膜表面レセプターとの間に相互作用が起ると,B細胞は細胞増殖を経て抗体分泌をするプラズマ細胞へと分化する。こうしたB細胞の成熟過程はいくつかの異った細胞集団によってきわめて精密に統御されていることが近年明らかにされつつある。

実験講座

細胞融合を利用した細胞内注入法

著者: 山泉克

ページ範囲:P.303 - P.308

 はじめに
 細胞内で営まれる複雑な生命活動には,多くの生体分子が関与している。これらの機能を解析するために,分離精製された物質を直接細胞内へ注入してみようという考えのもとにそのための新しい技術が最近いくつか開発されてきた。話を動物細胞,とくに培養系へ移された動物細胞における細胞内注入法に限定すると,それらの方法はつぎの三つに大別される。
 ①顕微鏡下でマイクロキャピラリーを用いて直接注入する1)
 ②細胞にある種の処理(たとえばウイルス感染)をすると細胞膜の透過性が高まることを利用して,培地に溶解した状態の外来性物質(exogenous substance)を細胞内へ取り込ませる2)
 ③一旦その物質を袋(vesicle)の中へパッキングして,しかる後その袋を細胞膜と融合させることによりその物質を細胞質中へ導入する。

暗視野光学顕微鏡による微細構造の確認

著者: 宝谷紘一

ページ範囲:P.309 - P.314

 Ⅰ.なぜ光学顕微鏡を使うか
 電子顕微鏡の技術がこんなに進歩している時代に微細構造を調べるのにいまさら光学顕微鏡(光顕)を使ってもしかたがあるまいと思われるのは当然である。たしかに解像力の点でも光顕はよくて0.3μmぐらいであるから,電顕のそれには遠く及ばない。ところが最近,これまで光顕では観察不能と考えられていた細胞小器官や生体高分子集合体も非常に強力な光源を使って暗視野照明すれば光顕でも観察可能なことが分った1)。そして,静止像の写真撮影による定量的な研究がなされ2〜5),さらに超高感度ビデオカメラを用いて動いている映像をも記録できるようになり6),10〜数100ナノメーターの大きさをもつ生体物質を動的に調べる手段として注目されるようになってきた。
 以下,暗視野光顕観察の特徴あるいは利点を具体的に例を上げて示すことにする。逆にいえば,下記のような利点を積極的に生かすことのできる研究にはこの方法は向いているが,そうでなければ電顕にはとうていかなわないのである。

話題

病理学ならびに治療学におけるライソゾーム—C.de Duve教授の講演を拝聴して

著者: 小川和朗

ページ範囲:P.315 - P.322

 昭和52年9月6日(火)午後3時半より5時頃まで,京都大学楽友会館で,1974年度ノーベル医学・生理学賞受賞者Christian de Duve博士(米国ロックフェラー大学教授,ベルギー・ルーベン大学教授兼国際細胞ならびに分子病理学研究所所長)の「病理学ならびに治療学におけるライソゾーム」と題するご講演(主催,京都大学医学部;共催,日本組織細胞化学会,日本電子顕微鏡学会関西支部会,比較医学協会)を拝聴する機会を得た。de Duve博士がたまたま内藤シンポジウム(エーザイ株式会社)の一つとして同年9月1日〜4日の間,山中湖畔で催された,"International Symposium on Tocopherol, Oxygen and Biomembrane"の名誉会長として来日されたので,帰途,京都にお立寄りいただき,何かご講演いただけないかとお願いしたところ,ご快諾下されたわけである。
 このご講演の内容は,われわれ医学生物学の分野で研究に従事している者にとりきわめて示唆に富んだものであり,かつ本誌編集室からの依頼もあったので,ここに本誌上をお借りして講演の概要を紹介したいと思う。

米国のグラントシステムについて(その3)—NIHのグラントの決定は如何になされるか

著者: 長友孝文

ページ範囲:P.323 - P.328

 先の報告1)において,米国の大学の研究室におけるグラントシステムの役割について述べました。すなわち,米国における大学の研究費は,国公私立大学を問わず,グラントから獲得しなければならないこと,また研究の分野すべてにわたってグラントを申請するために大変な努力を要することを述べました。グラントの獲得が厳しいだけに,米国のすべての研究者は,応募したグラントがいかにして評価がなされ,そしていかにしたらグラントを獲得することができるのかという点に最大の関心を払っています。また一方,National Institute of Health(NIH)のグラントに関する職員も,公明正大にグラントの評価がなされた事実を証明するために,グラントの応募の方法や,評価の判定方法をある学会で説明会を開催したり,あるいは,論文2〜7)にて発表したりする努力が払われています。グラントがとれない場合,大学の研究者は自分の研究を発展させていくことに障害を生ずるだけではなく,最終的に大学の自分の地位にまで影響を与えることを考えあわせると,グラントの獲得に要する努力は熾烈,あるいは苛酷という言葉をもって表現しても十分に言い尽せないと思われます。
 グラントの種類は先に報告1)したように数多くありますが,UCLAの獲得したグラントの約60%はNIHから獲得されているために,NIHから獲得されるグラントのみについて述べてみたいと思います。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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