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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学29巻6号

1978年12月発行

雑誌目次

特集 最近の神経科学から 講義

運動単位と運動

著者: ,   渋木克栄

ページ範囲:P.425 - P.434

 東京大学で日本神経科学協会の方々を前にしてお話するのは,私にとって大きな喜びであり名誉です。日本に来たのは今回が最初ですが,文字どおり歓待に圧倒されてしまいました。この場を借りて,この旅を非常に感銘すべきものにして下さった人々に感謝いたします。
 私が皆さんにざっと紹介Lたいと思うのは,過去12年間,われわれの研究室で行っていること,すなわちいろいろな運動単位群の構成に関する研究であります。われわれはとくに,ネコの二つの足関節伸筋,内側腓腹筋(MG)とヒラメ筋(SOL),の運動単位を集中的に研究してきました。というのは,これらは運動系の生理学で長年材料とされてきましたし,筋肉全体としての性質が互いに全く異なるからです。これらの作用は同じでも,つまりどちらも足関節を伸展させますが,ヒラメ筋はゆっくり収縮し,疲労しにくい赤筋の典型であり,一方,内側腓腹筋はより速く収縮し,疲労しやすい白筋の典型です。これらの差異と機能的な相関をもつ諸因子を調べることは,いまはもはや古典的なSherringtonとその弟子達の研究以来,興味の的となってきました14,16)。われわれ自身の仕事も,直接これらの先駆的業績へとさかのぼることができます。

視細胞と更新現象の原則

著者: ,   一色桂子

ページ範囲:P.437 - P.443

 はじめに
 今日,ここで皆さんにお目にかかれたことを大変光栄に思っております。ご招待をいただき,また,それ以上に私の話を聞きに来て下さったことは,私にとって大変幸せなことです。
 私の目的は皆さんにとって面白く,またお役に立つ概念をいくつかご紹介することです。私自身の研究結果から最も重要だと思われる概念を選び出しました。この研究は,眼の中の非常に特殊な細胞に関するものです。しかし,私が今日ご紹介しようとするアイディアは,特殊なものではありません。実に一般的で,また,基本的なものであります。

ネコの前肢を制御する脊髄固有運動中枢における統合

著者: ,   渋木克栄

ページ範囲:P.445 - P.458

 脊髄における統合機能と題して,前肢運動ニューロンに関する最近の知見を概説することにする。前肢運動ニューロンは,いろいろな上位中枢からの興奮を,C3とC4の脊髄分節にある短突起の脊髄固有ニューロンを介して受けること,そして,これらの脊髄固有ニューロンによる制御はきわめて複雑であることを示そう。興奮性,抑制性入力の収束は,いろいろな上位中枢からだけでなく,前肢の求心性線維からも起こる。
 運動ニューロンに対する脊髄固有の制御は,最初にLloyd21)により研究された。彼は延髄から脊髄への斉射をいろいろな分節の高さで記録し,上部腰髄ニューロンへの単シナプス性結合を示した。Lloydは,脊髄内で中継される斉射と運動ニューロンの発火とを比較し,短突起の脊髄固有ニューロンを介する延髄から運動ニューロンへの二シナプス性経路の存在を想定した。彼はまた,前もって運動皮質や後肢からの一次求心線維を刺激しておくと,脊髄固有ニューロンへの斉射の伝達が促通されることを示した。腰髄短突起脊髄固有ニューロンの機能は,Vasilenkoら32,33)やKazhonov and Shapovalov16,17)によってさらに研究されている。

—通信シンポジウム—"神経科学における創造的コミニケーション"—国際神経科学学会のモデル試行

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.460 - P.468

 1977年11月5日米国カリフォルニア州アナハイムで行われた第7回北米神経科学協会年会において会長主催の特別シンポジウムとして,いささか破天荒な試みがなされた。アナハイムの会場とベセスダ,レキシントンの3地点を通信衛星によりつなぎ,会長のブルーム氏の司会により,ベセスダに居るアクセルロッド,ニレンバーグ,オブライアン,ゴルダー,オーメン氏ら,レキシントンのマーチン氏とアナハイムのアグラノフ,ブリッジマン,メルネチェック氏との間に学術的および,科学行政的な神経科学の諸問題の討論がくりひろげられた。
 このシンポジウムには日本神経科学協会よりビデオテープによりメッセージを送り,これがシンポジウムの中に挿入されている。本稿はそのメッセージへの返礼として日本神経科学協会へ送られたビデオテープより再録したシンポジウムの記録である。

解説

コラーゲンの新しい架橋物質

著者: 藤本大三郎

ページ範囲:P.469 - P.474

 Ⅰ.コラーゲンの架橋
 コラーゲンは動物の結合組織の主成分の線維性タンパク質で,動物の体や臓器を支え,形状を保つ役割をはたしている。ヒトについていえば,コラーゲンは真皮,腱,軟骨などの主成分であり,骨や歯の有機成分の主体である。その他の臓器や組織でも,細胞と細胞の間のすきまにコラーゲンがつまっている。ヒトの全ダンパク質の20〜30%はコラーゲンであるといわれている。
 コラーゲンの構造を模式的に示したのが図1である。コラーゲンは生体の中で約700Åの周期構造をもつ線維を形成していることはよく知られているが,この周期構造は,長さ約3,000Åの棒状の分子が,およそ1/4ずつずれながら規則正しく会合することによって生ずると理解されている。コラーゲンの分子は分子量約10万のポリペプチド鎖3本が,3本らせんを形成してでき上っている。ただし分子の末端には,3本らせんを形成していない,非ヘリックス部分が存在する。

実験講座

Flow cytophotometry(FACS-Ⅱ)を用いた細胞螢光偏光度の測定法

著者: 工藤秀機 ,   渡辺京子 ,   松井良樹 ,   桃井宏直

ページ範囲:P.475 - P.480

 はじめに
 細胞を構築している高分子のミクロ構造や運動を研究する際に,電子スピン共鳴法や螢光法などの測定法が用いられる。とくに螢光法による場合は,螢光性分子の電子エネルギー緩和の時間尺度を基準時間尺度として分子運動の緩和時間を測定する方法がとられる。異方性の高い螢光性分子を細胞に標識すると,螢光性分子は標識部位でのミクロな環境の変化を分子の回転ブラウン運動として反映するため,その運動挙動を螢光偏光解消でとらえ,細胞における流動性,微小粘性に関する知見を得ることができる。このような方法は広く生体における諸現象を追究する際の一つの手段として用いられており,すでにInbar, Shinitzky1〜5)およびCercek6〜9)らは生体細胞での螢光偏光度を測定し,一連の報告を行っている。
 しかしながら,測定装置に関しては,従来ほとんどが細胞浮遊液を石英角セルに入れて測定する細胞集団についての偏光度測定法か,あるいは顕微鏡を用いて100ないし200の細胞について1細胞ごとに測定する方法がとられているにすぎない。個々の細胞の偏光度を知る意味では顕微鏡による方法はよいが,この方法では,4桁以上に及ぶ多数の細胞の偏光度を短時間に測定することは不可能である。

小腸刷子縁膜小胞の分離精製—迅速簡便法

著者: 大沢一爽 ,   鹿野亜砂子 ,   星猛

ページ範囲:P.481 - P.489

 はじめに
 細胞の表面あるいは細胞内の特定の部分の膜を分離精製し,その機能や生化学的諸性質をより分析的に研究する試みは,すでに多くの分野で数多くなされてきている。しかし,細胞の特定の膜系を分離するためには,一般にごくわずかの膜の比重の差や,膜の表面電荷の差または電気泳動易動度の差を利用して分離するため,超遠心分離,あるいは密度勾配遠沈法を繰返し行うか1〜5),またはある程度まで分離遠沈法で分離した膜標本をさらに電気泳動法によって分ける技術が用いられてきている6)。このような技術は時間を要し,かつ遠心機を複数必要とする。またとくに遠心分離技術に習熟した研究者のみが駆使しうる方法であった。
 しかし,近年この膜の分離調製の経験が集積されるに従い,ある膜については,意外と簡単に,かつ短時間に分離調製することが可能であることが知られてきている。とくに小腸の刷子縁膜については分離が次々と簡便化されつつある現状で,従来複雑な遠沈法を用いていた人も,それに変えつつある。われわれも,簡便であると同時に,十分高い機能を保持した膜小胞標本を得ることを小腸の刷子縁膜で検討してきたので,そのことを中心に紹介してみたい。

話題

第7回国際薬理学会(パリ)印象記

著者: 野々村禎昭

ページ範囲:P.490 - P.493

 第7回国際薬理学会は7月16日から21日まで,パリ大学薬理学教室Lechat教授主催のもとにパリ市国際センター(Centre International de Paris)に56カ国,約5,000名の参加者を集めて盛大に開かれた。第5回,第6回と連続2位という多数の参加者を送っている日本から今回も300名に達する出席者があったが,ヨーロッパ交通の要地に位いし,名にしおう世界観光地のメッカ,パリとあっては大西洋を囲んだ各国からも空前の参加者が集まり,900名のアメリカを筆頭に,700名の地元フランス,430名のイギリスに次いで,さすがの日本も参加者数では4位におちてしまった。
 このような膨大な参加者を集めて普通の会場ではとても消化しきれるものではないが,ドゴール時代にフランスの威信をかけて建築に着手したといわれる国際センターの規模は素晴らしいもので,この大学会を美事にのみこんでしまった。もっとも会議場はパリの西に位置しているとはいえ,地下に地下鉄駅をもち,ブローニューの森の前にあるという散歩には好適な場所にあり,7月とはいえ気温は20℃前後という心地良い温度とあっては,学会参加者達もついついパリの街に出かけたくなってしまって,各会場の出席者を手頃な数になるように自己調節していた。

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生体の科学 第29巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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