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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学3巻1号

1951年08月発行

雑誌目次

巻頭言

日本での研究の進め方

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.1 - P.1

 幸いに機會を得て10年ぶりに米國を再び訪れることが出來た。今度は何分にも2カ月半という短期間のことであつたし,同位元素の應用技術という特殊な狭い範圍の見學を用件としていたので,到底一般的なことはわかる筈はないが,それでもその狭い見聞を通して,昔とくらべて見ると大變なちがいがあるのがはつきりわかつた。
 とにかく,いろいろの研究室をまわつて見て,實驗装置の機械化がこんなにも進んだものかとおどろくばかりであつた。私がこの前米國にいたのは丁度10年前,太平洋戰爭がまさにはじまろうとしていた時であつたが,正直なところ,米國の研究室そのものの設備は日本のそれにくらべて手のとどかない程のへだたりがあるとは思わなかつた。勿論,よく訓練された實驗員や秘書がおつて日常の仕事はテキパキと處理してくれるし,動物小屋の管理はすばらしくよいし,教室内の連絡が圓滑で自由に他の專門の援助が受けられるというように,機構のうえでの能率的な優れた點はいくらもあつたが,實驗室の設備には,全般的に見てそれ程の事はないように思つた。

總論

癌の發生

著者: 守山英雄

ページ範囲:P.2 - P.7

 1,癌細胞と性細胞
 癌細胞が胎兒細胞に種々の點でよく似ているという事實は,久しい前から注目されている。癌細胞が糖を分解して乳酸とする解糖作用正常細胞に比しておどろく程大きく,酸素の供給が充分である時は,正常細胞は解糖作用をいとなまないのであるが,癌細胞ではきわめて活溌である。ところが胎兒や胎盤組織も癌細胞と同樣その解糖作用はいちぢるしい。
 Zamenick1)やFriedberg2)の同位元素を用いての實驗によると,アミノ酸をとりこむ能力は,正常細胞よりも癌細胞の方がずつと強大であるが,胎盤組織もそうである。Dickens等3)は正常細胞が癌細胞に變化すると,ピルヴィン酸から糖を伴つたりカプリリン酸からアセト醋酸を合成する樣な高度に分化した機能はほとんど全く消失することを見出した。その他種々の酵素の働きから見て,胎兒組織が正常組織よりも癌組織に似ていることは,動かすべからざる事實のようである。癌細胞に有害に作用するX線が性細胞に有害に働き,去精作用を現すことはよく知られている。

論述

微小電極法に就て

著者: 富田恒男

ページ範囲:P.8 - P.16

 1.緒言
 加藤門下1)2)により完成せられた單一筋並に神經線維の剔出法が神經筋生理學の進歩に大きな貢献を齎したことに就ては,今更申述べる迄もないことゝ思う。然し反面如何なる方法もその應用範圍には又自ら限界が存することは當然で,例えば末梢神經等に對しては極めて有力である剔出法も,中樞神經系や感覺受容器,或は又單一線維の剔出に不向きな腦神經の或ものなどに就ては,それ等の中の單位活動を分離して検することは先づ不可能に近いと見られる(但しHartline3)参照)。微小電極法は恰もこの剔出法め盲點を補う所の方法と考えられるものであるが,本法の目覺しい應用は近々10年來のものである。それにも拘らず,例えば中樞神經系の分野ではLorente de Nó4),Renshaw5),Lloyd6),Therman7),Eccles8)等の數多くの貴重な研究業績があり,又Granit9)等は網膜へ本法を應用して色覺學説の實證的批判へと進んで幾多の成果を擧げつゝある。更にGalambos及びDavis10)は之を聴神經へ應用してHelmholtzの共鳴説(一層正しくは部位説)を一氣に實證し去つた觀があるしAdrian11)は嗅覺の研究,又Gernandt12)は内耳平衡器官の研究へも本法を用いている。

ビタミンB2の化學的定量について(Ⅱ)—ビタミンB2各型の分劃定量法

著者: 八木國夫

ページ範囲:P.17 - P.24

 1.はしがき
 既に本誌上においてビタミンB2以下B2と略)總量の測定法,特にルミフラビン螢光法の簡易な實施法について述べた。その方式によれば検體に含まれる微量のB2を比較的簡易に且つ正確に測定する事が出來るが,B2のエステル型であるFlavin mononucleotide(以下FMNと略)及びFlavin adenine dinucleotide(以下FADと略)も遊離型B2と同樣ルミフラビンを生ずるので得られた値はB2の總量を示すものにすぎない。生體に於て酵素學的意義をもつのはFMN及びFADであつて,FMNは舊黄色酵素などの,FADはD-アミノ酸酸化酵素,キサンチン酸化酵素,ディアホラーゼなどの重要な酸化酵素の補缺分子簇として知られているが,一方遊離型B2もそれらの前階級としてのみならず光化學反應に意義のあるものとして追求されている。從つて生化學的研究においてこれら3者の量を分劃して同時に測定することが屡々必要となる。
 1934年Euler, Adler1)は検體を0℃においてコロヂウム膜にて透折すると遊離型B2は透折され内液に蛋白質と結合したB2が残り遊離結合両型を定量出來ると述べ,魚類の網膜B2が全く遊離型のみであると報告した。その後Emmerie2)は遊離型B2がベンチルアルコールに溶解するのにエステル型は不溶であるから両者を分劃定量しうると報告した。

報告

X-線障碍に對する精痘の防禦効果に就て(マウス實驗)

著者: 矢追秀武 ,   武井盈 ,   前田博司

ページ範囲:P.25 - P.27

1.まえがき
 精製痘苗の非經口的投與によつて一般抗原の免疫抗體産生作用が著しく増強され,或いはモルモット試驗によつて著しい脱感作作用が認められ精製が遂に喘息を初めとし,多くの所謂アレルギー性疾患の治療に應用される樣になつたことは既報の如くである。1)2)3)4)
 更にマウス試驗によつて精痘の發育増進作用が認められ5)組織學的にも諸種の臓器特に内分泌臓器長管骨等の發達を促進することが證明された。6)

ドナヂオ反應保護膠質のpH系列に於ける態度

著者: 齋藤紀一

ページ範囲:P.28 - P.31

 緒言
 ドナヂオ反應の本態論については大體その反應機序に關する研究と夫を現わす物質の検討との2點にかゝつている。勿論その反應の機序については陽性荷電をもつメチレン青(以下M.T.B.と略す)にモリブデン酸アンモン(以下Mo.A.と略す)の陰性イオンが衝突して,M.T.B.が荷電を失つて落ちるのに對し,尿中の或物質が夫に保護膠質作用を現わすものであると云う考え方は略々確かであるらしい。この保護物質に就ては從來種々の物質が考えられている。吉川等はプロテオーゼであろうと云い或は燐酸鹽其の他の物質が影響を與えるとも云われている。しかし山添氏はオキシプロテイン酸の如きものを想定している。
 これらの研究について從來は尿の透折内外液について化學的に性状を調べる方法がとられているが著者等は方向を變え此の反應の本態を物理化學的見地から考察せんとして検尿をpH系列に展開した際に如何なる變化が現われるかを觀察してこれによつて反應物質の性質を推定せんとしてこの研究を初めた。

筋疲勞時における大腦機能の檢査報告

著者: 鈴木健二

ページ範囲:P.32 - P.34

 大脳皮質機能の動きかたについて
A.目的(1)筋勞動負荷と疲勞の大腦生理學的判定の一つの試みであり,
(2)大腦機能の變動のしかたについては,すでに短時間の場合はすでに實驗ずみなので〔≠〕長時間の場合をさらに追求するためである。〔cf. 大島正光"筋勞作時の大腦機能の變調について"勞働科學No. 5 Vo. 26.(1950)〕
 B.方法(1)長時間筋作業の典型として,農繁期農耕作業をとり,1949, 1950年,新潟縣,愛知縣農家主乾勞動者3人,計14日間,補助的實驗は勞研式自動車Ergometre作業を2人計4日間おこなつた。前者1時間後者15分おきに測定検査をおこなつた。

ヒスチヂン投與による甲状腺腫の發生(ヒスチヂン甲状腺腫)について—ヒスチヂン代謝に關連して

著者: 新井恒人

ページ範囲:P.35 - P.38

 まえがき
 筆者はかねて病理形態學の立場から,イミダゾール核を有する鹽基性アミノ酸ヒスチヂン生體内代謝について研究しつつあり,その成績の一部,例えばヒスチヂン單獨投與の生體に及ぼす障碍作用,他種アミノ酸との併合投與—所謂アミノ酸平衡—との關係,ヒスチヂンの誘導體ウロカニン酸尿中排泄との關係,今氏銀反應にょる生體内代謝の組織化學的研究等について報告した1)−5)
 さてKapeller-Adler6)の研究以來,妊娠,月經時及思春期等には,尿中ヒスチヂンの排泄量が著しく増加する事實が生化學的に研究されており,ヒスチヂン代謝と内分泌腺の機能との間に密接な關係が豫想される。從つてヒスチヂンの長期投與,特に微量連續長期投與が各内分泌腺に相當の影響を及ぼすことが期待されるが,筆者はウサギへの投與實驗に於て,各内分泌腺に興味ある所見7),特に著明な甲状腺腫の發生を見た。本成績は單獨のアミノ酸投與にょる甲状腺腫の發生,換言すれば甲状腺腫の成因に重大な事實を與えると共に,アミノ酸代謝が内分泌系に著しい影響を及ぼす事實と考えられるので,目下研究續行中であるが,その要點を報告することとする。

S.paratyphi B多糖體による組織反應—超生體皮下結合織伸展法

著者: 武田恭一

ページ範囲:P.38 - P.39

 はしがき
 S. paratyphi B多糖體1)の生體に於ける反應像を研究する目的で,成熟家兎皮下組織に(1)生理的食鹽水10萬倍稀繹液1cc注射,(2)同液に1%の割合に墨汁加溶液1cc注射,(3)同液浸漬燈心材料の皮下接種。以上の各實驗例に就て,時間的材料採取,中性赤染色による超生體皮下結合織伸展法2)3)により研究。

負コロイドイオンによるHirst現象阻止の作用機序—インフルエンザヴィールスの赤血球凝集現象(Hirst現象)に及ぼす正負コロイドイオンの影響並にその本態に關する研究—第5報

著者: 宮本晴夫 ,   赤眞淸人 ,   森田悦子 ,   片山勉

ページ範囲:P.39 - P.42

 1.まえがき
 さきに著者等は,負コロイドイオンとしてのポリヴィニールアルコール硫酸カリ(P. V. S-K),及びセルローゼ硫酸カリ(C. S. -K)が,インフルエンザヴイールスB型Lee株による鶏血球凝集を阻止する事實を發見して報告したが1),未だ文献に見られないこの新な現象の作用機轉を追求することは,またHirst現象の本態の研究にも深い關聯性を有するものと考えられるので,その本態について定説なき今日,何か寄與するところなきやとも思い,更に各方面より検討を加えてみた。こゝに得た2〜3の知見についてその成績の大要をのべる。

梅毒抗原の血清學的反應に關する考察(第2報)

著者: 增井正幹

ページ範囲:P.43 - P.46

 緒言
 私は第1報に於て2.1%以下の食鹽濃度と,温度の影響を検討した。1)Kahn, McDermott and Ader2)は9〜10%食鹽水を用いて家兎,豚,牛血清の態度を検して,食鹽濃度が高くなると陰性或は弱陽性となることを見た。Green and Shaugh nessy3)は0〜30%の食鹽水を用いて各種動物血清の態度を調べている。私は前報に述べたよりも高濃度の食鹽水を使用し,各種血清に對する食鹽濃度及び低温の影響に關して検討し,いさゝか所見を得たので報告する。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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