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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学3巻2号

1951年10月発行

雑誌目次

卷頭言

文献讀むべきか

著者: 戸塚武彦

ページ範囲:P.47 - P.47

 或る偉い有名な學者に向つて,「近頃こんな事を研究しかゝつています」と話したらば,「君,それは意味ないよ」と一言の下に斥けられてしまうことがある。そして彼は更に語を繼いで「その問題に就ては最初○○年に○○の○○○が手を着けたのだけれども,次いで○○の○○が○○年に之々の事をやり,更に○○年には○○と○○とが之々の問題を解決したので,もう大體話はついていることなのだから,今更もう何もする事は殘つていないよ」と,その理由をつけ加える。
 この學者は誠にたぐいまれな博識の人であることは,誰も疑わないほどの人である。勿論たくさんの事を識つていると云うことは,識らないよりも遙に尊いことではあるけれども,この人の場合は,この樣にして識れば識るほど,益々する事がなくなつてしまうのであつて見れば,かえつて困つたことになるのではないかしら。

論述

遺傳學への確率論の應用

著者: 崎野滋樹

ページ範囲:P.48 - P.51

 メンデルの法則
 メンデルの法則はゲン或は因子として知られている遺傳因子(atoms of heredity)の存在を假定するのであるが,以下に於て極めてsimpleな場合について述べることにしよう。子孫は對のゲンを持つた兩親から各々一コづつ受けることになる。例えば優性因子の對をAA,劣性因子の對をaaで現わすとき,第一代の因子構成はAaとなる。この因子構成が遺傳學では雑種として知られている。このような考えから交配による子孫の色々な因子構成を持つ確率を計算することが出來る。
 今兩親の因子構成を記號X1,X2,子孫の因子構成をYで現わすとすれば
 (ⅰ)X1=AA,X2=AA
   P{Y=AA/X7=AA,X2=AA}=1
   P{Y= A /X1=AA,X2=AA}=0
   P{Y=aa/X1=AA,X2=AA}=0
 (ⅱ)X1=Aa,X2=AA
  P{Y=AA/X1=Aa,X2=AA}=1/2
  P{Y=Aa/X1=Aa,X2=AA}=1/2
  P{Y=aa/X1=Aa,X2=AA}=0
 これはX1=AA,X2=Aaとしても全く同じである。

呼吸中樞の活動機序について

著者: 高木健太郞

ページ範囲:P.52 - P.58

 まえがき
 呼吸が呼息と吸息とが交互にくりかえされることによつて行われていることは周知の事實である。この交互性,或は交代性(periodicity)が維持される機序に關する假説を次の3通に別けることが出來る。その第一は末梢説とでも名付くべきもので,中樞自體には交代性はなくて,末梢からの週期的變動によつて中樞が變調されるという説たとえば呼吸運動に伴う血液ガス濃度の變動がある位相のずれを以て中樞に作用する(Winterstein),或は呼吸運動に關與する筋,又は肺からの求心性衝撃を交代性の原因とする説である。この説は遊離した金魚の腦幹から呼吸のリズムに一致した働作流が得られるというAdrianの實驗2),又Heymans8)の遊離頭部灌流實驗から,完全に否定されねばならなくなつた。第二に呼吸中樞それ自身に交代性ありとするもので,ちようどそれは心臓に於ける靜脈結節を連想させる。即ち腦幹のある特定の部位,たとえば閂(obex),(Pitts,Woldring20)),或は聽條(Striae acousticae)の部分(福原12)),の網樣組織(formatio reticularis)から週期性の衝撃群が發射されるとするものである。

生物電氣發生論—膜説批判(3)

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.59 - P.62

 10.いわゆる“熱電流”について
 負傷電流の電動力は,正常部の温度が傷害されない程度に高まると,大きくなり,温度が降ると小さくなる。これははじめ骨格筋についてみられた(E. du Bois-Reymond 1848)。ついでHermann(1871)によつて同樣の實驗がおこなわれ,正常部のみが温度に對して,電動的効果を示し,負傷部の温度變化は,ほとんど影響がないという結果がえられた。これは,骨格筋の一部に負傷を與え負傷部と正常部とを油の中で誘導しながら,温度を變化させて電動的効果を測つたのであつた。
 その後,Bernstein(1902)は,自分では實驗はしないで,Hermannの實驗的結果を借用して熱力學的論文"Untersuchung zur Thermodynamik"(Pflüger's Arch. 92,1910)という論文を書いて,彼の膜説の基礎づけをやつたのであつた。すなわち彼は,化學電池についての熱力學的考察から,化學的エネルギーと電氣的エネルギーとの關係の種々なる場合について論じ,(E=V+TdE/dT,Eは電氣的エネルギー,Vは化學的エネルギー),これを筋の場合にあてはめて考えた。そして,筋の正常部(膜の外側,中側,内側における濃淡電池として取扱つたのである。

報告

乳酸及び焦性ブドウ酸の排泄器管としての汗腺

著者: 川畑愛浩 ,   長井由紀子

ページ範囲:P.63 - P.65

 まえがき
 汗にはその常成分の他,投與された藥物がでることがあり,たとえばMironowitsch11)は水銀鹽の皮下注射後汗に多量の水銀の排泄されることを認めている。Plaggemeyer14)は鹽化物,硫酸鹽及びりん酸鹽などについては尿と汗との間に一定の關係はないが,汗腺には尿素濃縮作用があるといい,尿毒症などの腎機能障害時の發汗の治療的意義をみとめた。尿素排泄上,汗腺の腎機能の代償的作用はCameron3),Schottin15),Bleiletren2)及びTalbert23)らもこれを認め,Greenwood5)は糖尿病患者の汗の糖濃度の大なることを指摘した。またTalbert21),22),らは血液の全非たん白窒素と汗の全窒素との間にClについて汗と血液との間に一定の相關をみとめた。
 さらにSnapper u.Grünbaum17),18),19).20)やKoriakina u.Krestownikoff7)らが筋運動による血中乳酸の増量時,汗の乳酸(以下L.A.と略記)排泄が増大すると主張するに及び,汗腺の身體老癈物排泄機能はにわかに注目をひくにいたつた。

筋収縮に關する藥理學的研究(1)—蛙骨骼筋における抗アセチルコリン作用とクラーレ作用

著者: 熊谷洋 ,   江橋節郞 ,   藤田完吉

ページ範囲:P.66 - P.71

 我々が今後一連の研究に於て意圖する所は,特定の一藥物の性格を詳細に究めることではなく,筋の機能的な特性に即して,藥物を系統的に検討し,併せて,藥物作用の定量方法を設定することにある。
 今回報告するのは,蛙骨骼筋における諸種藥物の抗アセチルコリン(以下Achと略稱)作用と,クラーレ(以下Cr.と略稱)作用の表示,及び兩作用の比較的考察である。

ツベルクリン反應と體質

著者: 福田篤郞 ,   八村正夫

ページ範囲:P.72 - P.74

 結核症の發症進展が體質的因子に支配されることは周知の事實であり,これが把握は結核對策上の重要問題である。然し現在の所この體質的因子を客觀的に追求し得たのはツ反應の個體差の統計的觀察のみであろう。即ち結核菌侵入後の結核アレルギーの消長の一部を代表するものとしてのツ・アレルギーに現われる個體的,年齡的,並びに性的差異又それが遺傳的にかなり制約されるとの事實が特にBCG接種後のツ陽轉に於て觀察された。(大里・綜説 4)染谷・綜説7))。從つてこのツ・アレルギーが如何なる素因によつて支配されるか,それが何等か他の身體的屬性と密なる關連を有するかは重大關心事となるのであるが,これに關し今日まで何等手掛が得られていない樣である。ツ反應と皮膚紋劃反射との關係を調べた大里門下の研究も遂に相關を證明せずに終り,唯だ木田2)はBCGによるツ難陽轉兒童は他の腸チフスワクチン等の注射による抗體産生の鈍いことを見ている。然らば抗體産生地と目される網状内皮系形質細胞或いは近時再び着目されるに至つた淋巴系に素因的差が見られるものかそれを支配する多種の因子,就中内分泌系の反應性の個體差によるか,に關しては何等説明を見ていない。

圓口類の血球及び血球生成組織並びに血球發生論に關する知見補遺

著者: 工藤得安 ,   杉田賢郞

ページ範囲:P.75 - P.75

 圓口類は脊椎動物の最下位にある部類で,穿口蓋類と完口蓋類の2種類に大別される。
 私は前者からぬたうなぎ後者からやつめうなぎの夫々生長せる個體を選び,標題の研究を行つたので,その知見を簡單に報告する。

光電比色計に依るヘパトサルファレイン試驗—第1報

著者: 山崎晴一郞 ,   栗原公足 ,   岡部治彌

ページ範囲:P.76 - P.78

 緒言
 周知の如く,ヘパトサルファレイン試驗は(以下HSPと記す)その鋭敏さと簡便さとのためにアメリカに於て著く發展し,吾國に於ても現在代表的な準臨床的肝機能検査法の1つに數えらるる樣になり,且つまた臨床的にも用いられんとしつつあるが,最近私共は更に光電比色計を用いて本試驗を試みつつある。
 1947年にMateerは光電比色計に依るブロムサルファレイン試驗を最良の方法として追加したが,それに依れば5mg法45分値4%以下を正常と見做し,且つ光電比色計を用うる利點を次の如くに列擧した。

鹽縮外液の瀬良反應

著者: 淺川松雄

ページ範囲:P.78 - P.79

 緒論
 冷血動物の骨體筋を等滲透壓NaCl溶液に入れると,長時間に亘り収縮を繼續するという現象は(これを鹽縮と名付ける),最近に菊地(3)によつて研究せられ,鹽縮は長時間ののち一旦停るが,その外液は新しい摘出骨骼筋の鹽縮を抑制する作用があることが見出され,鹽縮抑制物質が筋より外液中に出ることが指摘された。淺川寛(1)は鹽縮外液をHCl處理することにより,光學的にHistidin・HCl・H2Oを見出し,而もHistidinにも鹽縮抑制作用が少からずあることを發見した。よつて著者は,鹽縮外液から加水分解によつて出るHistidinを定量的に證明出來るか何うかを確めことして實驗を試みた。

カタラーゼ能測定法による赤血球滲透抵抗微量測定法

著者: 山田英明 ,   辻成人

ページ範囲:P.80 - P.83

 緒論
 從來一般に行われている赤血球滲透抵抗測定法は,最小・最大抵抗を求める方法であるが,その正常値は測定者に依つて著しく異り1)2)3)4)5)6),かかる測定値が赤血球全體の滲透抵抗をよく代表し得るかどうか甚だ疑問である。これに較べると赤血球を各種濃度の食鹽水と平衡させた場合の溶血度と食鹽水濃度との關係を表すFragility Curve(假に赤血球滲透抵抗曲線と呼ぶ)で抵抗性を表し,50%溶血點に相應する食鹽水濃度(Median Corpuscular Fragility, M. C. F.)を以つて曲線の位置を示す方法7)8)9)がより正確であり合理的でもある。この際溶血度の測定は比色法又は血球計算法で行われているが,吾々は齋藤10)の血液カタラーゼ測定法を用いて溶血度を測定し,その簡易化と微量化を企てて成功した。

P-Chlorbenzolsulfonamid及びP-Oxybenzol-sulfonamid誘導體の嫌氣性菌に及ぼす影響

著者: 太田淸彦

ページ範囲:P.83 - P.84

 余は曩にp-Chlorbenzolsulfonamid及びp-Oxybenzolsulfonamid誘導體の合成1)2)に就いて報告した。これ等の合成物質を用いて藪株の嫌氣性菌に對する試驗管内發育阻止作用の有無を検したので茲にその成績を報告する。

赤血球表面膜物質と重金屬との親和性—(その1)鉛に就いて

著者: 小泉芳夫

ページ範囲:P.85 - P.88

 緒言
 微量な重金屬を作用させた赤血球は種々の興味ある現象をあらわすことが知られている。この樣な重金屬の赤血球に及ぼす影響に就いてはAub,Reznikoff, Smith 1),Φγsκον2) Henriques 3)Key 4)等の數多くの業績が擧げられる。しかし,其等はいずれも赤血球の表わす色々の"現象"を對象としたものが多く,重金屬の赤血球それ自體に及ぼす直接的,本質的な作用に關する充分な検討がなされるとは言い難い。
 筆者は重金屬の赤血球に及ぼす影響を直接的な角度から検討しようと試み,先づ重金屬と赤血球との親和性(結合)について實驗を行つたのである。

血清の加熱紋理

著者: 朝比奈一男

ページ範囲:P.88 - P.89

 1939年宮本教授は血清を特殊の空氣乾燥器中で110°〜130℃に加熱乾燥すると美麗な皺模樣が出來る事,及び其の成生の物理的機轉に就ての研究を發表された。其の後稻垣,增山,大淵,井染,目黒,七條,山田氏等によつて,此の雛模樣の分類及び疾病殊に結核との關聯が追求されている。
 發生の機轉に就ては,血清中に含まれる空氣が加熱による水蒸氣爆發の核となり,血清の化學成分の條件により,或いは唐草模樣になり,又はEnergieの場の分裂によつて散在性に單一な紋理を形成するものと考えられ,更に基本的條件として次の事が擧げられた。

紹介

生沼教授の思い出—勿忘草

著者: W生

ページ範囲:P.90 - P.91

 岡山大學生理學教室同門會はこの出版困難の際に恩師生沼教授の7回忌を期して勿忘草・生沼曹六博士と題する二百數十頁の追憶記念出版を敢行せられたのでこゝに紹介の一文を草して同門會に敬意を表したい。
 冒頭に同教授の退官記念講演がある。同學在職20年間を回顧せられ大正11年大學創立當時の状況より研究室に行われた研究の經路を辿り同時に未發表に終つている研究にも觸れておられる。胎盤ホルモン,角膜水晶體及び蛋白液の紫外線吸收,逆傳導(antidromic action),神經の減衰傳導,描記桿杆による記録の吟味,Hillの筋熱發生の追試,いとめ群遊,動物發光機構,低壓に於けるCO2の重要性,感覺生理學の研究,刺激閾の問題,中樞神經機能,抑制の研究,クロナキシメトリン等々が主なるものであるが研究は誠に多方面に渉りしかもいつも,up to dateの問題を取上げられたことは往年の生理學會に於て誰も皆感じたところ,上は唯その大略に過ぎない。實際書中に収められた業績目録を見れば博士の名を以て發表せられたもの40篇,博士指導によるもの470篇の多きに上つている。この大きな足跡に深い敬意を表する。筆者が大學を出て間もない生理學會で某氏の發表に對し,博士が桿杆の描記の大きさで1も2もなく攣縮の大きさを論ずることは出來ないと意見をのべられたことは尚筆者の記憶に殘つている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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