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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学3巻4号

1952年02月発行

雑誌目次

卷頭言

生理學的統合へ

著者: 杉靖三郎

ページ範囲:P.139 - P.139

 自然科學は大きくわけると"生きたもの"を對象とする生物的科學(Biological Science)と"生きていないもの"を對象とする物理的科學(physical Science)とにわけられる。また生物的科學のうち,主として技能的なことを取扱うものをフイジオロギー(physiologie,生機學,または廣義の生理學)といい,形態的なことを取扱うものをモルフオロギー(Morphologie形態學または解剖學)という。
 このphysiologieとmorphorogieとは,元々一體となつて"生きたもの"の理解に達することが出來るのであるが,前者は主として醫學關係で,後渚は主として生物學關係でとわあげられ,兩者は別々になつて專門分科してしまつたものである。また生體の機能の學であるphysiologieは,物理學的な方法を主とする生理學(Biophysik)と,化學的な方法を主とする生化學(Biochemie)とは,これも元々一體となつて,生體の働きの把握に資することが出來るものであるに拘らず,大學の講座(日本の大學の講座はドイツ流の分立的立場に立つものである)として,別々に分けちれ,また研究の上でもわかれわかれとなつてとり扱われているのである。

綜説

放射性同位元素の生理科學への應用

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.140 - P.146

 同位性元素を生物の物質代謝の研究に應用した先驅者はHevesyであつた1)。彼が最初利用したのはRa Dであつたが,このものはRaの逐次崩壌によつて生ずる鉛の同位元素であるが,Ra Dを鉛から分離することが不可能な事實から之を利用してRa Dを含む鉛の放射能をたよりに硫化鉛,クローム酸鉛の溶解度を測定した。その後123年にこのことを植物に擴張し,鉛の植物における吸收,移動の研究を行い2),ついでRa D及び蒼鉛の同位體なるRa Eを用いて鉛及び蒼鉛の動物體における吸收及び排泄の研究をした3)。當時は天然の放射性元素が唯一の材料であつたので應用の範圍はせまかつたが1934年Curie及びJoliotの人工放射性同位元素の發見はこの極限された應用範圍を著しくひろげる動機となつた。1935年Chiewitz及びHevesy4)は人工放射性燐P32をはじめて動物の代謝研究に應用した。
 人工放射性元素の發見の少し前に重水素Dが發見され,Hevesy及びHofer5)は之を含む水を以て金魚の水代謝の研究を行つたのが,1934年で,後にSchoenheimer一派が脂酸及びアミノ酸の代謝をこの重水素及び重窒素N15を用いて研究した6)

展望

比較生理學の展望

著者: 井上淸恒

ページ範囲:P.147 - P.151

 1.比較解剖學と比較生理學
 比較生理學という名稱は可なり古く,ヨハネス・ミューラーもこれを使用しているが,その内容が充實して生物學の一つの分科として,地歩を確定してきたのは20世紀に入つてからであり,その學としての歴史は若く,獨自の方法が確立しているわけでもなく,明白な研究分野が定まつているのでもなく,學的體系の成立からは程遠い状態である。從つて比較生理學の名稱の下に種々な異る内容が理解されるのであり,實際比較生理學の標題をもつ教科書も夫々著者によつて異る内容を盛つている。これは比較という言葉の概念が明白でないためである。さてこの比較の意味はしばらく保留して,比較生理學がどのような経週をたどつて發生したかを一應振返つて見ることにしよう。
 比較生理學の母胎は比較解剖學である。ルネッサンスの頃から次第に地歩を確立した。比較解剖學から比較生理學は分離,獨立したのである。この間の事情は人體生理學が人體解剖學から分離したのと同じである。ウイリアム・ハアベー以前の解剖學は單なる形態の記載に停まらず,更に進んでその機能までも探求したのであつた。いわば形態學と生理學の未分化の状態で進んできたのである。

論述

心臓の温度

著者: 田坂定孝

ページ範囲:P.152 - P.157

 著者は未だ文献に動物並に人體に就て心内温乃至心筋温を精確に測定した記載を見ない。わが教室では20數年來生體温調節能の研究を行つているが,そのため諸種の生體温度測定装置を作り,人體並に動物に就て諸臓器組織温,血温等を測定して,その成績に就ては屡々報告したところである。ここに興味あることは温調節にあたり,血液がその温度運搬に重要な役割を果している事である。著者は更にこの度その血液の温度運搬の原動力である心臓壁並に心臓内の温度を動物或は人體に就て測定したのでその2・3の實驗成績に就て次に簡單に述べてみる。

藥物による小腸運動の變化の解釋

著者: 大久保義夫 ,   柳谷岩雄

ページ範囲:P.158 - P.162

 緒言
 小腸運動は幾つかの型に分類することが,出來るが一般に主なる運動型として蠕動,分節運動及び振子運動が認められている。從つて生體内に於て小腸運動に就いて,藥物その他の影響を検索せんとする場合にはこの運動型を考慮しないわけにはゆかない。
 一般に單一の運動型については,その收縮力の強化又は頻度の増加等を指標として運動の亢進或は抑制を論ずることが出來るが,生體内の小腸運動に於ては前述の如く種々の運動型が混在するのでこの樣な判定が困難である。例えば蠕動と分節運動とが大凡同じ位の頻度で現われている樣な状態に於て或る藥物を與えた場合に,蠕動は收縮力を増し頻度も増加したが分節運動は殆んど現われなくなつたと言うが如き状態となつたとする,この時には蠕動については亢進であり,分節運動に就いては抑制であるが,小腸運動については亢進であるか,或は抑制であるかを論じ難いのである。

講座

ヒスタミン

著者: 熊谷洋

ページ範囲:P.163 - P.168

 昭和7年來筆者が,訓練した犬を無麻醉のまゝ長時間に亙り横臥させて,慢性子宮瘻管法(東,熊谷,1934)によつて生體内子宮運動の研究中(熊谷,1936)麥角アルカロイドと共に麥角中に存するヒスタミンが單獨靜注の際特異な作用,即ち一過性の收縮とこれに次ぐ運動並にトーヌスの抑制を來し,その經過がアドレナリンの夫れ及びピトレッシンの作用の一部に近似し,而もこの作用は殆どすべての性週期を通して不變であり,又無麻醉海猽生體内子宮に於ても全く同一であつた事實は,剔出子宮に於てはヒスタミンが常に收縮を來す事實と對比考察すると,極めて興味ある事實で,而も筆者にとつては一つのなぞとして殘つていた,けれどもヒスタミン作用は,當時は他の實驗の一部として行つたものであつたため,特にこれを追求する機會がなくて濟んでいた。
 その後吾が教室の山本(1977)が大腸菌毒素の藥理學的研究中,その作用が質的にヒスタミンに近似しながらも海猽生體内,子宮に對する作用が明確にヒスタミンと異る事實を經驗した。これも亦筆者が特に興味を感じた處であつたが,時正に大戰のさ中であり(發表は遙に遲れて,1947年となつたが),これ亦深く追求する機會がなくで止んだ。

報告

皮膚壓追の筋緊張に及ぼす影響—第一報 人の上肢筋に及ぼす影響

著者: 高木健太郞 ,   長谷川渙 ,   倉島昭示

ページ範囲:P.169 - P.171

 前おき
 手術的に大腦を取り去つた所謂視床體猿は歩行することができない。かかる猿を床の上に横に寢かせると,上側になつた上下肢は屈曲され,下側になつた上下肢は強く伸展して強直状態になる(1.2.3)。Magnusはかかる現象は横位に寢たため皮膚から受ける刺激,恐らくは壓刺激が體の左右の面に非對稱となるためであるといつている。事實このような状態に於て上側になつた體側面に板を押しあててやれば,體の兩側面から受ける壓迫が對稱性となるために,上下肢の伸展,屈曲の度合が左右とも等しくなるといつている(Board Test)。
 Bieber, Fulton3)は運動領及び前運動領を取り去つただけの猿でも上と同樣なこともみとめ,更にFulton, Dow4)は雨側迷路のみを破壞した猿で同樣なことをみている。

骨骼筋に對するVeratrinの作用知見補遺

著者: 澤野正晴

ページ範囲:P.171 - P.173

 緒言
 骨骼筋に對するVeratrinの作用に就ては山形1)の報告があるが,山形の考え方が當を得たものであるとすれば,變形電位が發現して居る際には骨骼筋に對するVeratrin作用が強められ,或はVeratrin痙縮が強く現われるわけである。依つて余は此の事柄を確める目的で本實驗を行つた。

白鼠剔出子宮低温法による腦下垂體後葉子宮收縮物質の檢定

著者: 熊谷洋 ,   江橋節郞 ,   武田文子

ページ範囲:P.174 - P.177

 腦下垂體後葉の子宮收縮物質(以下O.P.と略稱)の検定には,從來,幼若海猽子宮が用いられてきたが,その實際上の困難は,經驗者の等しく嘆ずるところであつた。最近,米國藥局方においては,鶏血壓降下作用を利用した検定法を採用するに至つたのは,この間の事情を説明するものであろう。しかし,子宮收縮物質の鳥類血壓降下作用と,子宮收縮作用との並行性は,一應は認められているとはいうものの,その本質的な關連が證明されていない以上,なお多くの問題を残すものである。
 我々は,平滑筋の藥物感受性に對する温度の影響を研究中,低温における白鼠子宮の性質が,O.P.の検定に好適のものであることを見出し,検討を重ねた結果,略々満足すべき結果に到達したので,ここにその概略を報告する。

豚精子の色素還元能力に關する觀察

著者: 宮薗幸男 ,   關根隆光 ,   吉川春壽

ページ範囲:P.177 - P.178

 牛,羊の精子が酸素の存在しない場合にも葡萄糖,果糖,マンノーゼを加えれば解糖作用によるエネルギーを利用して運動をつづけるが,之等糖のない場合には無酸素條件では運動を持續しない。しかるに酸素の存在下には糖が存在せずとも,内在物質を呼吸によつて酸化しつっ運動を持續し得る(1)。豚の精子においてもわれわれは同樣の事實をみとめたが,豚精液は糖(果糖)の濃度が稀薄なる故か,そのままでも無酸素條件にすると運動を停止する(2)。糖を之に添加すれば運動を開始するが,有酸素條件下には糖以外の物質でもそれを加えると酸化されて運動を持續するものもあることを見た。われわれはいかなる物質が精子によつて酸化されるかを知る一つの方法として豚精子の色素還元能力を測定し,之と運動能力との關連を觀察した故,ここに報告する。

定量的沈降反應による微量蛋白質の定量

著者: 紺野邦夫 ,   山下雅子

ページ範囲:P.179 - P.182

 1935年Heidelberger及びKendall等(1)は抗原抗體沈降反應に於て生成する沈澱の量及び組成に就いて詳しい實驗を行い,定量的理論を導いた。此の理論により,その後免疫化學的方面からの蛋白質の研究は進められつつあるが,これを利用して微量の蛋白質を定量することが出來る(2,3)。抗原抗體反應は非常に特異的であるから,此の特異性を利用すれば極く徴量の蛋白質も測定することが出來るし,又他の蛋白質と混合し他の方法にてはそれだけを測定することは不可能の場合でも本法を用いれば可能となる。只此の場合抗體を作る免疫操作があり,又定量操作も低温にて行わねばならないので少しく煩雑である。ここにその方法と二三の例について報告する。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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