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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学3巻5号

1952年04月発行

雑誌目次

巻頭言

學術研究のすすめ

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.185 - P.185

 この三月をもつて,國立の研究所や大學附屬の研究所のいくつかが,「行政整理」によつて廢止になつたが,さらに,また行政管理庁から,國立研究所の統合整理案が,文部省に傳達された。
 これによると,たとえば,岩手縣にある水澤の緯度觀測所を,東大の附屬研究所にしようとか,東京にある東大の東洋文化研究所を,京都にある京大の人文科學研究所とを合併しようとか,あるいは,遺傳研究所のような綜合研究所を,學部附屬の講座式のものにしようとかいうのである。

綜説

リポイドの化學

著者: 大野公吉

ページ範囲:P.186 - P.193

 Ⅰ 緒論
 リポイド(Lipoid)なる名稱は有機溶媒(エーテル,アルコール,クロロホルム等)に可溶なるすべての細胞構成分を包含する。此の定義により細胞の主要構成分は水,蛋白質及びリポイドに大別され得る。リポイドは細胞の構成に關與するすべての脂肪性物質を包含するが,又若干の非脂肪物質の混在を避けがたく,且それは使用せる溶媒の種類並びに抽出條件(溶媒の量及び温度)によりかなり變動がある。此の非脂肪性物質はリポイドの化學的探求には障害を與えぬ程の少量でもその機能的考察(例えば抗原抗體反應)には顯著な影響を與えるが故に注意を要する。
 リポイドの化學は主として動物體に於て詳細に研究されているが故にこの線に沿うで論述を進めることにする。

焦性葡萄酸代謝とVitamin B

著者: 水原舜爾

ページ範囲:P.194 - P.201

 KrebsのCitric Acid Cycle(C. A. C.)は猶未知の代謝過程を殘している。しかもこの未完成の箇所はVitamin B1酵素の作用する段階に於て特に著しく目立つている。その最も未知なるものはPyruvateが如何なる中間代謝經路を經てOxalacetateと合しCitrateを生ずるかと云う問題であり,他の一つはα-KetoglutarateからSuccinateに到る間である。
 著者が專ら問題にしている箇所は前者であるが,後者について一言申し述べて置かねばならないことがある。それはGreen1)が豚の心臓から作つたCarboxylaseはa Ketoglutarateに作用してSuccinateではなく,Succinate Semialdehyde(formyl propionicacid)を生すると云うことである。

展望

神經興奮の機構—電氣生理學と生化學との境界領域

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.202 - P.208

 神經の興奮過程ば近年迄主として電氣生理學の立場から研究されて來た。然し乍ら神經は,物理化學的機構であつて電氣生理學の立場をとる限り一定の限界を越えることはできない。神經興奮の綜合としての電氣的變化の蔭にいかなる化學變化が行われているであろうか。これは電氣生理學者誰しもの抱いた疑問であつた。今日電氣生理學はこの問題に關して一應の發展を遂げ新たなる段階を待望している。他方化學特に酵素學の素晴しき發展はこの問題に大きな光を投げ始めた。ここにその主なものを展望してみたい。

論述

筋原線維の性質とその短縮過程

著者: 名取禮二

ページ範囲:P.209 - P.212

 Ⅰ.
 この數年の間,筋生理學の領域ではSzent Györgyi一派が行つたactomyosinとadenosine triphosphate(ATP)の研究が大きな刺戟になり若い研究者の次々の發表と共に,A. V. Hillをはじめ諸大家が,嘗つての自己業績をかえりみつゝ再びすばらしい勢で研究を行つているのは,何といつても目覺しいことであろう。Szent Györgyiのactin,myosin及びATPによる牧縮弛緩の機轉の想定は1),抽出した蛋白質の短縮縮過程が,生筋線維のそれとは異なるため,たとえglycerol筋による研究を一つのより所としたとしても3),發熱その他の點で一見超え難い問題を與えていた。それで一方では大きな衝動を學界にあたえると共に,他方それが靜まつて各面より検討が進められるにつれて,段々難點も指摘されてきた3)。そして,actinとmyosinとATPに關する實驗結果そのものは,ゆるぎないものであつても,それからする短縮機轉の解釋は,少しづゝ變えられているのが現況であろう。

生體内に於ける酸素の測定

著者: 望月政司

ページ範囲:P.212 - P.218

 緒言
 生物學に於ける酸素代謝の研究の重要性は今茲に特筆する迄もないことであるが,酸素濃度の測定法として從來主として用いられているWarburgの方法の樣なmanometricな方法或いは,volumetricな方法は操作が困難である許りでなく,in vivoの測定は不可能である。從つて生體内の限られた局所の酸素の濃度變化を追求したり亦O2—濃度の藥物に依る影響を研究する爲には更に簡便に測定出來,然も再現性のある方法が取り入れられねばならない。
 Vitek(1935)1)は溶液中に溶けている酸素を水銀滴下陰極を用いて定量することの可能なことを初めて報告し,續いて此の應用としてKarsten2)は土壌内のO2—濃度の定量をPetering及びDaniels3)はgreen alge(緑藻)の酸素代謝の測定を亦高瀬,望月15)は大腸菌の酸素消費の測定を行つている。然し滴下水銀を用いる此の方法は,水銀の毒性とその流動性と相待つて,生理學的測定法としての要求には縁の遠いものである。

報告

汗のイオン構成,汗腺エネルギー代謝,高度發汗時における鹽分補給の問題

著者: 松岡脩吉 ,   吉川春壽 ,   佐藤徳郞 ,   福山富太郞

ページ範囲:P.219 - P.223

 汗の鹽分は從來主として食鹽について論じられた。勿論食鹽補給は一番大切な問題であるが,私達は共同研究者と共に,その他の鹽分についても分析し,發汗機能との關係を求め,高度發汗時の鹽分補給の問題を日本人の鹽分攝取量の見地から考察を加えて來た。
 それらの研究を進める上に先ず微量測定法が要求されるので,吉川等はClはSchalesの方法,焦性葡萄酸はフェニールヒドラジン法,乳酸はBarker等の方法を採用し,我が國に紹介した。KはKramer等の方法,NaはKramer等のピロアンチモン酸カリ法,PO4は鹽化錫を用いる微量法,SO4はベンチヂン法に補正を加え,CaはSobel法,Mgは燐酸鹽として沈澱させ,その燐を量つた。CO2はVan Slykeの検壓法によつたが,特に抽出室は原法そのまゝの寸法を使用した。これは本邦で市販されているものより確かに使い易い。NH3はパームチツト,ネスレル法を採用し,pHは水の試驗に用いる比色法を微量の汗に應用した。

振動容量型電位の計生物學的應用に就いて

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.223 - P.226

 1.まえがき
 Zisman1)に始まる振動容量型電位計に就いては,最近,固體の表面電位測定に應用されるようになつて以來,數多くの文献が表われている。寡聞な筆者がそれを試みに擧げてみるならば,主として測定原理及び構造に就いては2)3)4)5)等,金屬表面の電位測定の爲の應用としては6)7)8)9)等があり(此の中6)には今迄の文献が詳しく擧げられてある),一方,生物學的方面の應用に關しては,硝子電極と併用してpHを測るpHメーターとして古賀其他の文献10)11)があり,生物電位測定の爲の應用としては12)及び13)があげられる。從つて筆者は,編集者からの求めにより此の振動容量型電位計の概略の紹介をなすにすぎず,個々の要求に應じて上述の文献を參照されるように希望する。猶記述が自己の製作,試用している型式のものについて主となることは止むをえないことであると考えられ,此の點に就いては讀者の恕しを乞わねばならない。

門脈壓の週期的變動に就いて

著者: 錢場武彦 ,   岸良尚 ,   福場友重

ページ範囲:P.226 - P.230

 緒言
 靜脈血が心臓に還流する機轉に就ては未だ分明でない。殊に門脈の血行に就ては一層不明である。脾臓,腸等に週期的容積變化が見られるが,之が一般動脈壓に週期的變動を與えている事は,Barcroft & Nisimaruら3)4)が明らかにして居るが,しかし之等器官の收縮が靜脈側に及ぼす影響に就ては未だ追及されていない。又血管の週期的收縮は血行促進に與つて力ある9)が,この觀點から,腸や脾臟に見れる所の週期的容積變化が,腸及肝臓の雨毛細血管系の間に介在する門脈系に對してどの樣な影響を及ぼすかを追及して見た。一方肝臟にも他の器官に見られる樣な週期的容積變化が見られ,これも門脈血行に對しては大きな壓變動を生ぜしめる事を知つたので報告する。

上皮小體と肝臓機能の關係に就いて—(其の一)上皮小體摘出前後に於ける血中殘餘窒素量の消長

著者: 小原喜重郞 ,   瀬田孝一

ページ範囲:P.230 - P.232

 緒言
 上皮小體摘出により「テタニー」症状を發現することは周知の事實であるが其の本態に關しては諸説紛々として各々唱うる所を異にす。即ちMc-Collum一派は「カルシウム」調節不能説を唱え「テタニー」發生時には血液或は組織液中の「カルシウム」量減少し,此の際「カルシウム」劑を投與することにより其の症状の著しく輕快すること等より「テタニー」發生の主な原因は血液中の「カルシウム」量の減少なりと論じている。又Mc Cann等は上皮小體摘出後血中炭酸「ガス」含有量が増加し其結果起る血中の「アルカリ」貯藏の増加を基とし「アルカロージス」説を唱道している。
 更にNöel,Paton一派は有毒蛋白分解産物の代謝障碍による中毒説を唱え,Fühnerが「グアニジン」と「テタニー」との關係を發表して以來上皮小體の機能障碍により招致せられる中毒の原因として「グアニジン」體を擧げたもの多く,Dragstedt等は之に注目し「グアニジン」體の如き有毒蛋白分解産物を生成しない食物即ち多量の乳糖を主食として上皮小體摘出犬を長期間生存せしめ得ることを實驗的に證明し,正常健康時には腸内に有毒蛋白分解産物が發生しても上皮小體の機能により其中毒を避け得るが,若し一度上皮小體を摘出する時は中毒症状即ち「テタニー」を惹起すると述べている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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