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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学30巻1号

1979年02月発行

雑誌目次

特集 生物物理学の進歩—第6回国際生物物理学会議より 総説

筋収縮および収縮タンパク質について

著者: 丸山工作

ページ範囲:P.2 - P.5

 〔Ⅰ〕
 総数2,000人(内,外国から700人)というマンモス学会の意義とはいったい何であろうか?国際的な学問の交流,研究者間の議論,友好などいろいろあげられる。しかし,実際には,いくつものシンポジウムが平行して開かれているし,ポスター・セッションも広い会場で多数展示されているので,ごく限られたものしか知ることができない。知人とは話せても,始めてのひとと打ちとけて話す機会は少ない。それに,何といっても英語が主な言葉であるから,私たちにとってはハンディキャップがある。
 何年もかけて準備をし,とくに予算上の問題,プログラムの編成,会場の用意など,かなりの数の研究者の時間を割いてまで行うのに値するのであろうか?という疑問すら,はじめ抱いたものである。

精子,纎毛,バクテリアの運動

著者: 毛利秀雄

ページ範囲:P.6 - P.9

 はじめに
 ここ10数年の間に,非筋肉系の細胞運動にアクチン・ミオシン系とは異る収縮タンパク質が関与していることがしだいに明らかになってきた。たとえばバクテリアの運動はフラジェリンよりなる鞭毛がその根本にあるモーター装置で回転することで起こり,ツリガネムシの柄の中にあるspasmonemeの収縮にはCa結合タンパク質であるスパスミンが関与しており,また精子の鞭毛や繊毛虫の繊毛の運動はチューブリン・ダイニン系の働きによって起こる。
 ここでは第6回国際生物物理学会議における標題のようなシンポジウムでの講演を中心に,その後に名古屋で行われた"アクチン,ミオシンおよび関連タンパク質による細胞運動"に関する山田コンファレンス,箱根で行われた"原核生物および真核生物の鞭毛運動の機構とその調節"に関する日米セミナーでの話題についてもまとめてのべることにする。

生体膜の構造と機能

著者: 藤田道也

ページ範囲:P.10 - P.12

 第6回国際生物物理学会議が盛況であったことは他のレビューにも明らかな通りである。なかでも生体膜は発表の多い分野であった。内容も生物学的なものから化学的なもの,物理学的アプローチに至るまでじつにさまざまである。主催者側はそれを,"構造","分子運動","生理学","赤血球","ミトコンドリア","輸送","機能"などに分類していて,その事情をよく反映している。また,受容体が生体膜から独立した項目として扱われているのが印象に残った。これらのすべてにわたって通覧することは限られた紙面では不可能に近いので筆者の関心のあったものを重点的に扱うことを許してほしい。

興奮性の分子機構

著者: 福田潤

ページ範囲:P.13 - P.16

 第6回国際生物物理学会において,興奮性膜に関するシンポジウムは大会第2日目の9月5日午前に"The Molecular Basis of Excitability"と題し多くの聴衆を集めて行われた。このシンポジウムは,chairmanにAUCL医学部生理学の萩原生長教授,co-chairmanに東北大学医学部薬理学の遠藤実教授のもと,米国からW. K. Chandler教授,英国からR. D. Keynes教授,ソ連邦からP. G. Kostyuk博士,ドイツ連邦からP. Läuger博士,そしてわが国から東大医学部脳研の高橋助教授の5人の演者が興味深い講演を行った。

Bioenergetics

著者: 香川靖雄

ページ範囲:P.17 - P.21

 1978年9月3日から9日まで第6回の国際生物物理学会議が開かれたが,その内でBioenergeticsという表題で行われるものはシンポジウム8aと8b(いずれも9月4日)である。しかしこの分野に含まれるものは生体膜,光生物学,細菌や筋肉の運動機序などがあり,シンポジウム,ポスターともに広汎に及んでいる。さらにこの会の前後に行われた16のサテライト集会のうち,チトクローム酸化酵素,Biocalorimetry,カチオン輸送,紫色膜と視覚色素,細胞のアクチン-ミオシン,筋肉のスライディングフィラメントモデル,べん毛運動の合計七つは直接にBioenergeticsに関するものであった。
 12個所の会場で同時にポスターが展示され,毎日午前,午後おのおの3個所の会場でシンポジウムが行われたので直接に見聞できた発表は限られていた。したがって抄録や内外の研究者の意見も入れて紹介をしたい。

神経系による視覚情報の分析

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.22 - P.25

 生物物理学の領域の中で中枢神経系の働きに関する研究は比較的小さな部分を占めているに過ぎないが,それだけにユニークな分野でもある。IUPABの中には神経情報に関する委員会があり,その示唆に基づいて視覚系における情報処理と動物と環境のコミニケーションの二つのシンポジウムが企画され,このたび実現の運びとなったものである。座長はイギリスのキール大学教授で上記の委員会委員長のD.M.MacKay氏と筆者がつとめ,西ドイツ・ゲッチンゲンのマクス・プランク研究所のW.Reichardt教授,NHK放送科学基礎研究所の深田芳男主任研究員,東大医学部生理学教室の外山敬介助教授,米国ハーバード大学神経生物学教室T.N.Wiesel教授,米国NIH研究員R.H.Wurtz博士の5名の発表が行われた。

Supracellular biophysics

著者: 堀田凱樹

ページ範囲:P.26 - P.28

 第6回国際生物物理学会のシンポジウム23「Supracellular Biophysics」は9月5日午後3時から,大沢文夫(大阪大学)・Julius Adler(ウイスコンシン大学)・Seymour Benzer(カリフォルニア工科大学)およびMarcus Jacobson(ユタ大学)を迎えて行われた。また国際生理学連合の特別講演としてD. E. Koshland Jr.(カリフォルニア大学バークレー)も加わって5人の講演が行われた。
 会の始まる前から会場のあちこちで「Supracellular Biophysics」とは何だろういう声が聞こえていた。これはなにも日本人ばかりではなく,外国人にもこの言葉は目新しいものと映ったようであった。このシンポジウムの企画者からは特別な説明も釈明(?)もないので,講演する者も聞く者も,演者リストから,その目指すところをボンヤリと推察することしかできないわけで,このようなヒソヒソ話が聞かれたわけであろう。

生物レオロジー

著者: 米田満樹

ページ範囲:P.29 - P.32

 第6回国際生物物理学会議での24のシンポジウムの中でも,「生物レオロジー(Biorheology)」はとくに奇妙なセッションであった,と今私は思っている。どの点が奇妙なのかは後からふれるとして,まず生物レオロジーとはいかなる研究分野なのかを調べておく必要があろう。
 岡小天著の「レオロジー(副題)生物レオロジー」1)によれば生物レオロジーのうち「最も広くかつ深く研究されている分野はヘモレオロジー(hemorheology)である」という。事実この大著を構成する11の章のうち,第1章の「レオロジー」(一般論)につづく9章はすべて血管と血液とそして血流のレオロジーに当てられ,最後の1章だけが「その他の生物レオロジー」を駈足で扱っている。

解説

肺がんとMyasthenic syndrome—その神経筋伝達異常の実験的再現

著者: 石川行一 ,   ,   岡本達也

ページ範囲:P.33 - P.39

 はじめに
 がんに併発して,いろいろな神経症状が起きてくることがある。それらの神経症状の中で,直接的な原因,すなわち,転移巣,浸潤,圧迫などによるものではなくて,まったく,間接的な影響によるものを総称して,"がんの遠隔作用",または"がん性ニュロマイオパティー"とよんでいる。
 比較的にまれな疾患群であり,注目されることも少なく,その本態などについてはあまりよく研究されているとはいいにくい。その病因については,背景のがんが何らかの物質を産生していて、その毒作用によるものといわれているが,まだ,そのような物質が同定されたわけではない。ただ,よく知られているように,がんの中には,各種の生理的なホルモン,その前駆物質,あるいは異型物質などを産生するものがあるので,この推論は十分納得できるものであろう。このがん性ニュロマイオパティーについては,種々の総論を参照されたい1,2)

実験講座

微小電極の冷却装置付きプラー

著者: 田崎京二 ,   鈴木均

ページ範囲:P.40 - P.42

 細胞内微小電極法を小型の細胞に適用するには,電極の先端をより細くしなければならない。先端の細い電極を作るには,ガラス管に加える熱と張力を大きくすることである,と考えられている。すると,当然のことながら電極の引延ばされた部分(先端部と呼ぶことにする)が長くなる。こうして,研究対象が小さい細胞に向けられるに従って,電極の先端部はますます長くなっていき,先端直径は細いかも知れないが,電極抵抗は高く,曲がりやすくて,標的細胞が組織内の深い所にある場合など非常に使いにくい。さらに,このように高抵抗の電極は,電流を流すことが困難で,とくにプロシオン・イエローで細胞内染色をする場合のように,大電流を必要とするときは決定的な欠点をもつことになる。このような場合,電極の先端を斜めに研磨すると電極の刺入が著しく効率がよくなり,電極の特性がよくなることから,一部では愛用されている1〜3)。しかし,先端部が20mmにもなったものでは,たとえ先端を斜角研磨しても,前に述べた欠点はとうてい補うことはできない。冷却装置のついた電極作製器というのは,これらの欠点を補うために開発されたものである。

三角形ガラス管微小電極

著者: 瀬山一正

ページ範囲:P.43 - P.44

 われわれ広島大学医学部第一生理学教室の研究グループは,2本のガラス管微小電極を用いて膜電位固定法を過去数年行ってきたが,その際,主としてつぎの二つの実験技術上の困難さに直面してきた。第一は微小電極が十分鋭利で細胞内に如何に容易に刺入できるかということであり,第二には鋭利であっても通電に際し必要な電流を一定の波形で流すことができるかということである。これらの問題はわれわれの実験だけでなく現在生理学上の研究で広く用いられている微小電極法のもつ共通の悩みであろうから,もし簡単に解決しうるならば研究向上の一助になると考え,われわれの得た一解決方法に関し広く紹介したいと思い筆を取った次第である。

話題

—生理研国際セミナー—"Structure and Function of Receptor and Ion Channels in Biological Membrane"

著者: 大村裕 ,   前野巍 ,   山岸俊一

ページ範囲:P.45 - P.48

 はじめに
 レセプターとイオンチャンネルの諸問題をめぐっての国際セミナーが1978年8月27,28,29日の3日間,建設途上の岡崎の生理学研究所で開催された。現在の国際的な流れとして,受容膜や興奮膜の電気生理学的手法による解析としては方法的な完成をみているわけであるが,その方法を一応の立脚点とはしながらも,興奮の早い現象と膜の高分子的構成,またシナプス受容膜とイオン選択性チャンネルの化学構造とそのダイナミックな変化との関わりをさまざまの新しい研究方法を模索しつつ解き明かしていこうとする潮流の中で開催された。
 このセミナーは大村 裕とC.Edwards教授によって企画,組織され,生理学研究所が研究会として開催を受け持つという形で行われた(後述)。そして,京都におげる国際生物物理学会議を機会に開かれたサテライトセミナーの性格をもつものであった。

"Actin, Myosin系による細胞運動"のシンポジウム

著者: 馬渕一誠

ページ範囲:P.49 - P.54

 昨年9月11日から13日にかけて名古屋で"Cell Motility Controlled by Actin,Myosin and Related Proteins"と題するシンポジウムが開かれた。援助財団の名をとってYamada Conferenceとも呼ばれた。このシンポジウムをオーガナイズされたのは秦野節司(名大・理),石川春律(東大・医),佐藤英美(名大・理)の3氏である。
 Actinとmyosinは筋肉を構成する主要なタンパク質であるが,これらのタンパク質が各種非筋肉細胞にも存在することが近年確認されてきて,細胞質分裂,phagocytosis,細胞形状の変化や細胞移動,原形質流動などの細胞運動を担っていることが明らかになってきた。このシンポジウムの目的は主として,非筋肉細胞においてこれらの収縮タンパク質がどのようにその運動に関っているかについての現在の知見を総括することにあった。国外,国内からそれぞれ約20名の講演者を含めて全部で200名余の参加者があった。日程と人数の関係で1人あたりの講演時間は十分とはいえなかったが,討論時間が10分とられ,活発な議論が展開された。講演は六つのセッションに分けられた。その内容を新しい知見を主にして順番に紹介していきたい。

Auerbachの足跡

著者: 中山沃

ページ範囲:P.55 - P.58

 アウエルバッハ神経叢は食道,胃腸管の平滑筋屑の間にあり,これらの収縮運動の調節に重要な役割を果している。この神経叢の名はその発見者Leopold Auerbachにちなんだものである。彼はユダヤ人の商人の子として生まれ,開業医であったにもかかわらず学問への情熱を終生失わなかった医学者であった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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