icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学30巻3号

1979年06月発行

文献概要

講義

脳と意識経験

著者:

所属機関: 1

ページ範囲:P.201 - P.211

文献購入ページに移動
 物理学者として研究を始めた者が一流の生理学教室に招かれて話をするということは名誉でもあり,きびしい試練でもあります。また,哲学的かつ科学的な意味のある話題を選ぶことは,私にとっては無謀な誤りであったかもしれません。しかし,私を招いて下さった伊藤教授が親切に勇気づけて下さったので,いまや多くの神経生理学者が関心を示しているこの事柄を皆さんと共に取り上げることにしました。この事柄とはわれわれが見たり,聞いたり,感じたり,考えたりする意識経験からわれわれ自身について得る情報と,脳と神経系の生理学的研究から得る情報を正しく関係づけようとする試みのことです。
 われわれ一人一人が自分自身についてもつ情報を二つの並列の長い行に書き出すことができます。まず,われわれの意識経験から得る情報として,たとえば,私には人々で満員の部屋が見える,私は何々を聞く,私はこれこれを考える,そしてこれこれを信ずる,といったようなことがあります。これはわれわれ各人が自分について述べることができることで,正しいかさもなくば嘘をついていることになります。つまりこれらはわれわれ自身には判っていることで,これを否定することは嘘をつくことになるのです。こういう表現をまとめて「己れの物語(I-story)」と呼びます。私は見る,私は聞く,の中の私を表わす己れのことを考えて下さればよいのです。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?