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講義
脳と意識経験
著者:
所属機関: 1
ページ範囲:P.201 - P.211
文献購入ページに移動 物理学者として研究を始めた者が一流の生理学教室に招かれて話をするということは名誉でもあり,きびしい試練でもあります。また,哲学的かつ科学的な意味のある話題を選ぶことは,私にとっては無謀な誤りであったかもしれません。しかし,私を招いて下さった伊藤教授が親切に勇気づけて下さったので,いまや多くの神経生理学者が関心を示しているこの事柄を皆さんと共に取り上げることにしました。この事柄とはわれわれが見たり,聞いたり,感じたり,考えたりする意識経験からわれわれ自身について得る情報と,脳と神経系の生理学的研究から得る情報を正しく関係づけようとする試みのことです。
われわれ一人一人が自分自身についてもつ情報を二つの並列の長い行に書き出すことができます。まず,われわれの意識経験から得る情報として,たとえば,私には人々で満員の部屋が見える,私は何々を聞く,私はこれこれを考える,そしてこれこれを信ずる,といったようなことがあります。これはわれわれ各人が自分について述べることができることで,正しいかさもなくば嘘をついていることになります。つまりこれらはわれわれ自身には判っていることで,これを否定することは嘘をつくことになるのです。こういう表現をまとめて「己れの物語(I-story)」と呼びます。私は見る,私は聞く,の中の私を表わす己れのことを考えて下さればよいのです。
われわれ一人一人が自分自身についてもつ情報を二つの並列の長い行に書き出すことができます。まず,われわれの意識経験から得る情報として,たとえば,私には人々で満員の部屋が見える,私は何々を聞く,私はこれこれを考える,そしてこれこれを信ずる,といったようなことがあります。これはわれわれ各人が自分について述べることができることで,正しいかさもなくば嘘をついていることになります。つまりこれらはわれわれ自身には判っていることで,これを否定することは嘘をつくことになるのです。こういう表現をまとめて「己れの物語(I-story)」と呼びます。私は見る,私は聞く,の中の私を表わす己れのことを考えて下さればよいのです。
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