icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学30巻4号

1979年08月発行

雑誌目次

特集 輸送系の調節

特集「Na輸送系の調節」によせて

著者: 星猛

ページ範囲:P.242 - P.246

 Na輸送の調節には大別して二つの重要な問題があると思われる。一つは生体の細胞外液中のNa保有量を適切に維持するための経細胞性のNa輸送の調節に関する問題であり,もう一つは細胞内液のNa濃度を低く保つためのNaの膜輸送の調節の問題である。臨床的にも比較生理学的にも問題が多く,かつ調節機構も複雑で問題が多いのは前者であるように思われる。
 Naは脊椎動物では細胞外の主要な陽イオンであり,その濃度変化は直ちに体液浸透圧に影響し,体液浸透圧調節機構が正常に働いている場合には,その体内保有量は直ちに細胞外液量に反映される。細胞外液量は,管内細胞外液(血漿)と管外細胞外液量(問質液)の二つの分画に分けられるが,両者は組成の点でも量的な点でも平衡しており,そのため細胞外液量の調節は血液量の調節にも直接結びついており,循環系の統合の上からも重要な意味をもっている。

総説

Aldosterone系の比較生理学

著者: 曾我部博文

ページ範囲:P.247 - P.251

 はじめに
 Aldosterone系の進化に関しては,1965年Denton1)が有名な総説を書いている。そこではAldosterone分泌の調節と食塩摂取欲salt appetiteが主題となっている。その後14年間の研究の進歩は,この方面の知識を大幅に増大し,すでにそのあるものは教科書レベルのものとなった2〜4)
 Aldosteroneで代表される鉱質コルチコイドは,脊椎動物が陸に上り,水とナトリウムの不足に直面したときに,始めて生理的重要性が生まれたと考えられる。図1に脊椎動物の系統樹を示すが,肺魚類と両生類以上でこの問題が起った。哺乳類ではaldosteroneの分泌の調節は,ACTH,血漿NaとK,renin-angiotensin(RA)系などによって行われている。本稿ではaldosterone系,RA系それぞれの進化を追い,この両者の結びつきに焦点をあててみたい。

哺乳動物におけるrenin-angiotensin系

著者: 山本研二郎

ページ範囲:P.252 - P.257

 Ⅰ.Renin-angiotensin系
 哺乳動物では大動脈から分岐した左右の腎動脈はおのおのの腎臓に豊富な血液を送る。腎臓のなかでは血液は主として皮質に供給されるが,血管の分枝はつぎのようである。
 腎動脈→葉間動脈→弓動脈→小葉間動脈→糸球体輸入細動脈→糸球体毛細血管→糸球体輸出細動脈→尿細管周囲毛細血管→小葉間静脈→弓静脈→葉間静脈→腎静脈。

海水魚の腸管の水・電解質輸送

著者: 安藤正昭 ,   平野哲也

ページ範囲:P.258 - P.265

 はじめに
 生命の起源は海であるとされている。事実,下等無脊椎動物の多くは,海産であり,彼らの体液のイオン組成および浸透圧は,海水とほぼ等しい。これに反し,動物界で最も進化しているとされている脊椎動物は,海水・淡水あるいは陸上といった環境に広く分布しており,その体液のイオン濃度は,円口類のメクラウナギ類の体液が海水とほぼ等しいことを除けば,下等,高等あるいは生息環境の如何に拘らず,すべて海水の約1/3に保たれている。これは脊椎動物が進化の過程で海から汽水さらには淡水に進出したことを示すものと考えられている。
 水生の脊椎動物である硬骨魚類には淡水産と海産のものがある。淡水魚の体液の浸透圧は約300mOsmで,周囲の淡水(0.1〜1.0mOsm)より高いので,水は絶えず体内に浸入し,イオンは流出する。そのため淡水魚は,ほとんど水をのまない。他方,海産魚の体液は,350〜400mOsmと淡水魚のそれと大差ないが,外界である海水の浸透圧(1,000〜1,100mOsm)よりはるかに低く,彼らは絶えず脱水の危険にさらされている。この脱水による水不足を補うために,海水魚は多量の海水をのみ,水を1価イオン(Na,Cl)と共に腸から吸収している。また腸および体表より濃度差により体内に入った過剰の1価イオンはえらから能動的に排出され,体液の恒常性が維持されている1〜6)

解説

好塩菌の紫膜とバクテリオロドプシン

著者: 徳永史生 ,   吉澤透

ページ範囲:P.266 - P.275

 Salt Lakeのように非常に塩濃度の高い所には,高度好塩菌(Halobacterium)と呼ばれるバクテリアが生育している。このバクテリアの細胞膜には紫色をした構造体がある。この構造体は紫膜と呼ばれている。紫色の本体はレチナール(ビタミンAアルデヒド)を発色団とする膜タンパク質である。1971年OesterheltとStoeckenius1)が,このカロチノイドタンパク質にバクテリオロドプシンという名称を与えて以来,紫膜は非常に活発に研究されてきた。
 その理由の一つは,ロドプシンがバクテリアにも存在するという耳よりな話であったからである。動物のロドプシンは眼の網膜の中にあり,視覚の光受容物質である。とくにその光反応機作の研究は,生体高分子反応の中でも最も魅力的な研究課題の一つと考えられている。加えるに,ロドプシンの存在している膜は,それが存在するがゆえに,生体膜の中でも最もよく研究されてきた。したがって,生体高分子や膜の物性に興味をもつ物理学者や化学者にとって,それらはきわめて魅力的な研究材料である。しかしながら,その研究材料を調製するには,彼らの苦手とする血なまぐさい作業を,しかも暗室の中で行わねばならず,この障害を乗り越えて初めて動物の眼から,ロドプシンやそれを含む膜を取り出すことができるのである。

実験講座

ホヤ未受精卵における定常電流雑音

著者: 大森治紀

ページ範囲:P.276 - P.282

 はじめに
 生体における情報の伝達および処理は,活動電位と呼ばれる膜電位の変化を用いて,神経細胞において行われている。1952年にHodgkin, Huxleyら1)により神経細胞膜興奮の理論が発表されて以来,四半世紀にわたる研究の結果,活動電位は細胞膜に組み込まれた数種類のイオン透過性チャンネルの存在,および個々のイオン透過性チャンネルの性質の違いにより発生することが知られてきた。現在,Na, Ca, Kチャンネルなどが電気生理学的に調べられている2)。こうしたイオン透過性チャンネルの細胞膜表面での存在密度,あるいは個々のチャンネルでのイオン透過の能力などに関する微視的な知見は,神経細胞膜を含めた興奮性膜の機能を理解するうえで重要であろう。
 横紋筋膜3)などですでに観察されている内向きK電流(異常整流電流)は,内向き方向の電流に対しては,高いコンダクタンスを示すが,外向き方向の電流はほとんど流れない特殊な整流機能をもったKイオン透過性チャンネル(異常整流機構,anomalous rectifier)を通る電流である。さらに,ヒトデ卵細胞4),カエル横紋筋5)などを用いた実験により,この内向きK電流は,膜電位の過分極パルスに応じて増加し,続いて減少する過渡的な成分と,最終的にその膜電位により決まる定常電流値とを示すことがわかっている。

螢光抗体法—アクチン,チューブリンを中心に

著者: 尾張部克志

ページ範囲:P.283 - P.289

 はじめに
 アクチンやチューブリン,その他の細胞骨格を形成する成分(cytoskeletal elements)の機能を研究するのに螢光抗体法がよく用いられている。螢光抗体法は電子顕微鏡ほどの解像力はないが,特異抗体により目的とする物質の同定と存在部位を直ちに知ることができる。また操作が簡便,迅速で結果の信頼性も高い。
 ここでは筆者らが使用している方法を中心にアクチンとチューブリンの螢光抗体法について述べる。螢光抗体法一般の解説は他の論文や成書1〜6)を参照していただきたい。筋タンパク質に焦点をあわせた解説7)もある。一般的な注意点を一つあげると,螢光抗体法で一番大事なことはよい抗体を得ることである。よい抗体とは抗原特異性が高く,高力価の抗体である。螢光抗体法は高感度であるから,夾雑物に対する抗体が少量(もちろん沈降反応では検出されない量)混じっていても検出される場合が十分あり,判定を誤まることがある。一方,抗体価が高ければ高倍希釈することができ,それだけでも非特異螢光を弱めることができる。またコントロールにとる非免疫グロブリンの濃度も低くできる。

話題

アメリカ生活十年

著者: 藤原敬己

ページ範囲:P.290 - P.296

 ペンシルバニア大学生物学教室
 1969年も夏の終りのある日,夕立で数十メートル先も見えないフィラデルフィア空港の玄関に立って,「流石,アメリカの夕立」と感心したのはもう十年も前のことになる。登山用のリュックサックに革の肩掛カバンを両肩から交互にかけ,それに大型のスーツケースとタイプライターをもつというすさまじい姿であった。
 そもそもフィラデルフィアにきた由来は,現在,管島臨海実験所所長の佐藤英美博士が当時ペンシルバニア大学の生物学教室の教授でおられ,たまたま日本から同教室の大学院へ応募した筆者に,どういうおつもりでそうなさったのか,「自分の学生として取ってやってもいいが,来てみるか」とのことで,カリフォルニア大学に行くつもりでいたのを一夜のうちに変更したからだった。カリフォルニア大学の場合,入学するのは分子生物学教室の細胞遺伝だったが,こんなに早く自分の専門を限ってしまうことが不満だった矢先のことであったので,ペンシルバニア大の生物学教室に入ることは,もっと広い生物学の分野が学べる機会であろうと考え,こちらに来たのである。

行動の神経生理学的・神経化学的研究の冬期ワークショップに出席して

著者: 大村裕

ページ範囲:P.297 - P.299

 インド国立アカデミーおよび国際脳研究機構の主催インド国立医学研究所のManchanda教授が主体となって,行動の神経生理学的・神経化学的研究について,インドおよび東南アジア諸国の生理学教育スタッフの再教育を目的とした本ワークショップが開催された。講師は世界各国のこの方面の専門学者17名J. Engel,M. H. Chase,M. K. Menon,S. N. Pradhan,J. Stevcns(米国);A. W. Zbrozyna(英国);R. Bandler(オーストラリア);S. Algeri(イタリア);大村(日本);S. K. Manchanda,B. K. Anand,G. S. Chhina,K. N. Sharmaら他4名(インド)である。受講者はインド国立および州立大学の生理学教授,助教授および講師39名,イラン,タイ,パキスタン,マレーシア,バングラデッシュ,ビルマ,スリランカから各1名の計45名であった。またインド国立医学研究所(日本の医学大学院大学)の大学院学生20名も受講した。各講師は午前中講義,午後は実験デモを行った。期間は1979年2月19〜28日でインド国立医学研究所の講堂および生理,薬理,解剖,生化学の各研究室を用いて行われた。実験デモでは受講者はAからDまで4班に分かれて,各講師の待機する実験室に配置され,午後中2時間ずつ見学して回る。

世界に並ぶ日本の電子顕微鏡学—電子顕微鏡学会創立30周年記念講演会印象記

著者: 大隅正子

ページ範囲:P.300 - P.305

 社団法人・日本電子顕微鏡学会は今年創立30周年を迎え,その記念式典と「電子顕微鏡学の現状と将来」と題する記念講演会が,昭和54年度学会総会と学術講演会の前日の5月22日に,宝塚バウホールで開催された。
 今日では自然科学研究の広範な分野に普及している電子顕微鏡は,1932年にルスカ教授によって発明された。わが国では昭和14年(1939)に学術振興会がわが国独自の電子顕微鏡の製作開発を目的とした小委員会を設立し,電子顕微鏡の研究と製作が開始され,それが母体となり,日本の電子顕微鏡学会が,昭和24年(1942)5月13日に創立された。学会創立当時はわずかに10数台しか作られていなかった電子顕微鏡が,創立20周年記念の時には,3,360台が日本国内で製造され,その中1,800台は外国へ輸出され1,560台が国内で使用されていた。その後の10年間に8,260台が製造され,4,640台が輸出され,3,620台が国内で使用されたと会長の紹介があった。それらの数字はわが国電子顕微鏡製作技術と,電子顕微鏡を用いた研究の進歩を具体的に示し,また日本電子顕微鏡学会の発展をも意味している。

談話 コンファレンス・ディナー研究集会

明日の脳を考える(3)

著者: 手塚晃

ページ範囲:P.306 - P.309

 きょうはお招きいただきまして大変有難うございました。
 私は,自由にしゃべってよろしいということでございますので,必ずしも題にどらわれずにしゃべらせていただきたいと思います。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?