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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学30巻6号

1979年12月発行

雑誌目次

特集 細胞間コミニケーション 総説

細胞間の通路

著者: 菅野義信

ページ範囲:P.402 - P.408

 はじめに
 植物のコルクの網目状の構造からまず細胞の概念が出発し,高等動物であっても,形や機能こそ異るが,やはり細胞という単位から生体が成立つことは今日では全く確立した事実である。
 すなわち細胞は生体の最小の機能単位であり,細胞は細胞膜(形質膜plasma membrane)によって囲まれた一つの独立した形をもち,分裂し,時に動き,環境の変化に反応し,代謝し,分裂後は増殖し,分化する。分化によって機能の異る細胞群が生じ,細胞群はホルモンによる液性調整と神経による神経調整によって生体全体の調和を保っている。

シナプス結合と栄養性因子

著者: 宮田雄平

ページ範囲:P.409 - P.415

 はじめに
 神経系における細胞間の情報伝達手段として化学伝達物質(neurotransmitter)機構はすでに確立している。伝達物質の作用時間は速く,通常msecの単位で作用を終結する。作用部位はシナプスである。このような速い情報伝達機構は,動物の行動・反射などの分子レベルでの基礎となっている。
 一方,個体においては長い時間経過で起るいろいろの現象が知られている。たとえば個体の生長の過程では,細胞の形態や機能が長い時間をかけて変化してくる。長期間にわたって細胞の形態や機能を維持し,あるいは変化をひき起している一つの機構としてホルモン機構がある。この場合ホルモンは特定の分泌細胞から分泌され,血流によって運ばれ空間的に離れた標的細胞に作用し効果を表わす。

Ionotropic伝達とmetabotropic伝達

著者: 山本長三郎

ページ範囲:P.416 - P.421

 最近シナプス伝達物質の働きをionotropicとmetabotropicに二大別することが提唱された1,2)。古典的なシナプスで知られているように,伝達物質が受容体に働いて膜のイオン透過性を直接高め,そのために膜電位の変化が起る場合に,これをionotropicという。一方,伝達物質が受容体に働くと,cyclic AMP(cAMP)合成のような化学反応が起り,その結果としてシナプス伝達が進む場合,これをmetabotropicと呼ぼうというのである。Ionotropicな伝達の特徴としてつぎの点が挙げられる。
 ① 潜時が短い。
 ② イオンチャネルが開く結果として,後シナプス膜のコンダクタンスが増大する。
 ③ 膜電位の変化の大きさを決めるのは,開いたチャネルを通り得るイオンの平衡電位,およびコンダクタンスの変化分である。
 ④ 電位変化の持続時間は伝達物質の作用時間よりもわずかに長いだけである。

局所神経回路の形態学—視床皮質系を中心に

著者: 平田幸男

ページ範囲:P.422 - P.428

 神経細胞間の機能的コミニケーションの主たる部位とされるシナプスは,形態学的には電子顕微鏡像で一定の構造的分化を示すところの神経細胞の部分の間で成り立つと理解されている。とくに小胞構造を形質膜近くにもつ細胞部分が自他の細胞の一部と狭い細胞外空間を隔てて相接し,相対する形質膜にその他の形質膜部分とは違った特徴が見られるとき,神経筋接合部との形態的類似その他から,化学的シナプスの存在を予想する。しかし,このような細胞部分間シナプス結合が,細胞間のコミニケーションにおいてどのような意味なり比重をもつのか,またそれ以前にシナプス結合を構成している両細胞部分は,どの二細胞間のコミニケーションの構成要素であるのかを問われた時,答えるのはそれほど容易ではない。一方,神経組織とくに中枢のそれにおいて,これまで神経細胞間のコミニケーションの路,すなわち神経回路図が多数書き記されてきた。変性法をはじめ神経路の種々の標識法によって描かれた結合図,回路図は,多くの場合,神経細胞間の結合を表しているように模式的に示されている。実際にゴルジ像や変性終末の鍍銀像,その他各種の光学顕微鏡レベルの標識法では,しばしば神経終末と細胞体や樹状突起との接触像が観察される。しかし,これらの接触像のかなりの部分とくにゴルジ像でのそれのほとんどすべては,その部分を,直接電顕下で観察してみると,実際には予想された神経要素間のシナプスではないことが判る。

細胞間コミニケーションにおけるホルモンリセプターの役割:ホルモン不応症との関連

著者: 山下亀次郎

ページ範囲:P.429 - P.435

 はじめに
 細胞から細胞への情報伝達のうち現在まで多くの研究がなされ,生理的にも重要な意味をもつものとして内分泌系と神経系とがある。内分泌系は一般に情報を出す細胞とこれを感受する細胞とが遠く離れており,その伝達物質としてのホルモンは血行を介して到達する。この系での情報伝達の発現は神経系と比較するとながい時間を要する調節機構である。一般に 視床下部—(向下垂体ホルモン)—下垂体—(下垂体ホルモン)—各内分泌腺—(ホルモン)—標的細胞の経路をとる。一方,神経系では情報を発する神経末端とこれを受け取るつぎの神経細胞あるいは標的細胞とはシナプス間隙(数百Å程度)で接しており,情報伝達はきわめて速く伝わる機構になっている。このような場合の刺激伝達物質としてアセチルコリン,ノルアドレナリン,ドパミン,セロトニン,ヒスタミン,アデノシン,β-エンドルフィン,ATPなどが知られている。
 ここではペプチドホルモン,カテコールアミン,アセチルコリン,ステロイドホルモンの受容体について概説し,とくに前二者の情報伝達に重要な働きをしているcyclic AMP系およびCaイオンについて述べる。さらにホルモンリセプターと関連して現在多くの知見が得られてきているホルモン不応症について概説する。

講義

下部側頭回と網膜上刺激等価性

著者:

ページ範囲:P.437 - P.450

 これからお話ししますことは,主に,下部側頭回の視機能についての私の新しい考え方であります。私たちの最近の研究知見を皆さんに理解していただくために,以前に得られた研究結果をまず簡単に述べたいと思います。
 大脳皮質の視覚第一次領野(図1のOC領野)に始まる皮質視覚系は,おおまかに,二つの系に分けることができると私たちは考えています。一つは脳の背側方向に経路をとるもので,視覚第一次領野から,後部下頭頂葉および弓状溝周辺領域に投射している系です。この系は上縦束と呼ばれている経路に含まれるもので空間視に関する情報処理にとくに重要な役割を担っていると私たちは考えております。この系で処理された情報は,さらに,運動系に伝達されます。すなわち,この経路の主な役割は視覚情報のうち,空間的な性質を抽出することであり,一般的には,視覚刺激に対応する四肢や身体の動作に重要な役割を果たしているということができます1,2)

解説

シグナル仮説の現状とシグナル配列の遺伝的解析

著者: 藤田泰太郎

ページ範囲:P.451 - P.455

 はじめに
 原核,真核細胞を問わず,リボソームで合成されたタンパク質がいかにして細胞内の所定の細胞内小器官に組み込まれるか,あるいは分泌タンパク質の場合細胞外へ放出されるかは,細胞の構成および機能上本質的な問題である。
 1975年,BlobelとDobberstein1)により新生タンパク質のN末端に,タンパク質が細胞質膜を透過すべきか否かを決める一次構造をもつというシグナル仮説が提唱されて以来,分泌タンパクおよび細胞膜タンパクの膜透過機構を研究するうえでの作業仮説となってきた。

抗体産生の分子生物学

著者: 西澤芳男 ,   岸本忠三

ページ範囲:P.456 - P.469

 はじめに
 1950年代後半から1900年代前半にかけてGoodら,Millerら1,2)が生体の免疫機能を担うリンパ球に,機能を異にする二つのクラス,すなわち,T細胞とB細胞が存在することを明らかにし,その後,Miller3),Clamann4),Dutton5)を初めとする多くの研究者たちによって抗原刺激をうけたB細胞が抗体産生細胞へと分化増殖してゆく過程にT細胞が重要な役割を果していることが明らかにされた。こうした一連の抗体産生機構解明の研究の内で1970年代前半が主として現象論の研究であったのに対し1970年代後半は,これら抗体産生機構を分子のレベルでとらえようとする時代への入り口であったといえよう。
 そこで,本稿ではB細胞の抗体産生細胞への分化増殖機構,すなわち,B細胞がいかにして抗原を認識する細胞へと分化してゆくか,B細胞活性化のシグナルがいかなる機構によりB細胞へ与えられ,活性化のシグナルをうけたB細胞がT細胞の調節機構のもとにいかにして抗体産生細胞へ分化増殖してゆくか,現在分っていることを中心にできる限り物質レベルから論じてみたい。

実験講座

タンニン酸固定法とタンニン酸染色法—原理・像解釈・応用

著者: 二重作豊

ページ範囲:P.470 - P.482

 はじめに
 人類とタンニン酸の係わり合いは古く,物の本によれば少なくとも二千年とあるが,ヨーロッパ人がその原料をChinese nut gallに求めていたことから推察すると四千年を越えるものと思われる。19世紀までに大工業に発達したタンニンによる鞣革業がクロム酸にとって変わられたころ,Loeffler(1890)23)が初めてタンニン酸を細菌の形態学へ応用し,限外下のべん毛タンパク質とアゾ染料の媒染剤としてタンニン酸を用い,べん毛を顕微鏡下に捕えた。Merck Indexにはタンニン酸がタンパク質,アルカロイド,金属塩などと不溶性沈殿を作るとあり,始めは精巣中のタンパク質緒合性脂質の固定効果の改善のために用いられた25)のであるが,電子顕微鏡下に精子尾部の横断面を観たとき,線毛を構成するマイクロチュブルスの13個のサブユニット像が螢光板に写し出されていた8,9,26)
 タンニン酸も1971年Bostonでの発表25)以来わずか7〜8年で,マイクロチュブルスのサブユニット像35,41)以外にも,弾性線維染色9,29,32),ギャップジャンクションなどの細胞膜間構造物4,36),ペルオキシダーゼ活性の組織化学的検出1,10,27),導電染色法30,31,34),増強染色法18,19,39,40),ネガティブ染色法22)など多方面での応用が発表され,これは筆者の想像以上の成果であった。

核膜・核球の調整法

著者: 上田潔 ,   松浦尚雄

ページ範囲:P.483 - P.488

 はじめに
 核膜の形態的特徴は,Afzelius(1955)1)がウニ卵母細胞について電子顕微鏡と超薄切片の手法を用いて初めて明らかにしたが,その核は二重膜で包まれ多数の核膜孔がこれを貫いていた。このような構造が核膜の一般的特徴であるが,二重膜は80〜100Å厚さの内・外膜が100〜300Åの間隔で不規則に相対し,その問に核周囲腔をつくり,外膜の細胞質側にはときにリボゾームの付着が認められ,内膜の核質側にはタンパク質層が裏打ちしている。さらに二重膜を貫く核膜孔には核膜孔物質がつまり,円柱状の通路が中心を通る微小管構造となり,外膜の外に盛り上るため切線切片では小環構造となってみえる。
 このように核膜は他の生体膜にはみられない複雑な構造をもつので,その単離法は研究者の目的により異り,崩壊の少ない核球から二重膜の断片を集めている場合まである。ことに最近にいたり,二重膜をはがした後にも核がその球状形態を保持し,nuclear matrixとよばれる構造物がこれを支えており,核膜の機能にとって重要と考えられる核膜孔装置(pore complex)がそこに残っていることが判った。

話題

第11回国際生化学会(トロント):クロマチンについて

著者: 堀内健太郎

ページ範囲:P.489 - P.491

 われわれ人間を含めた高等生物の遺伝情報の担い手であるDNAは,細胞核の中でヒストンやその他のクロモゾームタンパクと複合体(クロマチンと呼ばれる)を形成して存在することが長年知られていた。1974年以降,それまで5成分あることが知られていたヒストン成分のうち,H1と呼ばれるヒストンを除いた4成分がそれぞれ2個ずつ集まってコア(芯)を作り,それに約200塩基対の長さをもつDNAのうち140塩基対が非常に規則正しく巻き付き,残りの約60塩基対でH1ヒストンと結合しているいわゆるヌクレオソームと呼ぼれる複合体を形成していることが明らかにされた(図のA参照)。このヌクレオソームはクロマチンの最も基本的な構造であり,人間の場合,一つの核の中に約107個以上もつながった状態で存在しているであろうということが示されてから急速にクロマチンに関する研究が進んだ。そこで,今年(1979年)の7月8日から13日までの6日間,カナダ・オンタリオ州トロントで開催された第11回国際生化学会で行われたクロマチンに関するシンポジウムの模様と印象について簡単に紹介する。

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生体の科学 第30巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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