特集 細胞間コミニケーション
総説
局所神経回路の形態学—視床皮質系を中心に
著者:
平田幸男12
所属機関:
1東京都神経科学総合研究所解剖発生学研究室
2東京医科大学第1解剖学教室
ページ範囲:P.422 - P.428
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神経細胞間の機能的コミニケーションの主たる部位とされるシナプスは,形態学的には電子顕微鏡像で一定の構造的分化を示すところの神経細胞の部分の間で成り立つと理解されている。とくに小胞構造を形質膜近くにもつ細胞部分が自他の細胞の一部と狭い細胞外空間を隔てて相接し,相対する形質膜にその他の形質膜部分とは違った特徴が見られるとき,神経筋接合部との形態的類似その他から,化学的シナプスの存在を予想する。しかし,このような細胞部分間シナプス結合が,細胞間のコミニケーションにおいてどのような意味なり比重をもつのか,またそれ以前にシナプス結合を構成している両細胞部分は,どの二細胞間のコミニケーションの構成要素であるのかを問われた時,答えるのはそれほど容易ではない。一方,神経組織とくに中枢のそれにおいて,これまで神経細胞間のコミニケーションの路,すなわち神経回路図が多数書き記されてきた。変性法をはじめ神経路の種々の標識法によって描かれた結合図,回路図は,多くの場合,神経細胞間の結合を表しているように模式的に示されている。実際にゴルジ像や変性終末の鍍銀像,その他各種の光学顕微鏡レベルの標識法では,しばしば神経終末と細胞体や樹状突起との接触像が観察される。しかし,これらの接触像のかなりの部分とくにゴルジ像でのそれのほとんどすべては,その部分を,直接電顕下で観察してみると,実際には予想された神経要素間のシナプスではないことが判る。