icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学31巻1号

1980年02月発行

雑誌目次

特集 ゴルジ装置 総説

ゴルジ装置—微細形態から

著者: 藤田尚男

ページ範囲:P.2 - P.11

 はじめに
 肉眼解剖学は16〜17世紀に素晴らしい進歩をとげたが,物をさらに細かく観察しようという人間のあくなき欲望は肉眼に加えて顕微鏡を武器とする解剖学の勃興をもたらした。19世紀には組織学が分化し,その世紀末に細胞学が急速な進歩をとげたのである。細胞にとって生命の源ともいうべきミトコンドリアが発見され,また小胞体にあたるエルガストプラズマが見出されたのは1894年であり,ゴルジ装置が最初に記載されたのは1898年であった。ちなみに日清戦争の始まった明治27年は1894年である。
 イタリアのCamillo Golgi(1844〜1926)(図1a)は渡銀法を用いてフクロウの小脳やネコの脊髄神経節の神経細胞を染めているとき偶然に神経細胞の中に網状に広がる銀に染まる構造を見出し,apparato reticolare interno(内網装置)と命名したのである(1898)。したがってゴルジ装置は1898年に見出されたということになっている。Camillo GolgiとスペインのSantiago Ramón y Cajal(1852〜1934)は共に渡銀法による神経系の研究で1906年にノーベル賞をうけたが,Golgiの名前は神経系の研究の副産物ともいうべきゴルジ装置の発見によっても不滅のものとなっているのである。

ゴルジ装置の細胞化学

著者: 斎藤多久馬 ,   松下正也

ページ範囲:P.12 - P.21

 固定のartifactを見ているのではないかと永らくその存在が疑問視されていたゴルジ論議に終止符を打ったのは位相差顕微鏡によるゴルジ装置の観察と,オスミウム標本を電顕観察しゴルジ装置が滑面の槽の層板状配列を中心に空胞,小胞からなることを明らかにしたDalton1〜3)の研究による。1961年Novikoff and Goldfischer4)およびAllen and Slater5)がthiamine pyrophosphatase活性を組織化学的に検出する方法を報告し,ゴルジ装置が染色されることを指摘したことによりその後のゴルジ装置研究の発展は組織化学に負うところが多い(図1)。Allen and Slater5)が導入したthiamine pyrophosphatase活性検出の方法はGomoriのalkaline phosphatase活性検出法を土台にしたCaを捕捉剤に用いたもので,Novikoff and Goldfischer4)法はGomoriのacid phosphatase検出法を基本に鉛を捕捉剤にするものであった。それより早く1955年にScheldonら6)により組織化学標本の電顕的観察が可能となっていたので新しく検出法が呈出されたthiamine pyrophosphatase活性もさっそく電子顕微鏡的観察が試みられ,活性はゴルジ装置に局在することが明らかとなった。

NovikoffのGERL説の批判—とくに分泌機能との関連について

著者: 黒住一昌 ,   井上金治

ページ範囲:P.22 - P.32

 ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医科大学病理学教室のAlex B. Novikoffは電子顕微鏡による細胞学の領域に組織化学を導入した開拓者の一人であり,とくにGomoriによる酸性ホスファターゼ(acidphosphatase,AcPase)の検出を電子顕微鏡レベルで成功した功績は大きい。この超微細組織化学の技術は各種の細胞で水解酵素を特異的に含む細胞小器官である水解小体(またはライソゾーム,lysosome)を容易に染め出すことを可能にした。
 このようにして超薄切片の中に出現する水解小体は,多くの場合,電子密度の高い物体で,しばしばdensebodyとよばれ,球形あるいはやや不規則な卵形をなし,内部構造は一般に非常に密であるが,均質性ではなく,各種の小果粒,層板状の膜,脂質滴,結晶様構造など種々の物体を含んでいる。

ゴルジ装置の細胞生物学—細胞内輸送を中心として

著者: 田代裕

ページ範囲:P.33 - P.46

 はじめに
 1898年Camillo Golgiによって発見されたゴルジ装置の機能は永らく不明で,固定による人工産物であると考えられたこともあった1,2)。しかしながら1954年DaltonとFelix3)によってゴルジ装置の電顕的観察が発表されてからはその存在は確立し,機能的にもきわめて重要な細胞小器官であることが明らかとなった。
 ゴルジ装置の関係する機能としてはつぎの四つが考えられる。

解説

腸管平滑筋に対するカテコルアミンの作用

著者: 富田忠雄

ページ範囲:P.47 - P.54

 緒言
 平滑筋に対するカテコルアミン(catecholamine)の作用は古くから興味をもたれ,消化管平滑筋のみならず,子宮,輸精管,輸尿管,気管,血管などの平滑筋で調べられている。ここでは消化管の平滑筋のみを取り上げ,現在の問題点を指摘してみたい。消化管に限っても,catecholamineに対する反応は食道,胃,十二指腸,胆管,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸などの部位によって,また,同じ部位でも動物の種類や実験条件によって違う場合があるし,また分析の程度もそれぞれ異っているので,一般論として述べるのに難しさが感じられる。なお,縦走筋,輪走筋,あるいは粘膜下に存在する平滑筋(粘膜筋板)に分けて,厳密性の高い実験を行ったものは少ないので,実験結果の解釈に問題があるものも存在する。
 Catecholamineを平滑筋に作用させる場合,平滑筋を支配する神経に作用し,神経から放出される伝達物質の量を変化させることによって,間接的に平滑筋の動きに影響を与える場合と,直接的に平滑筋細胞に作用する場合とが考えられる。しかし,多くの実験で,これらの点が十分に考慮されていないので,間接作用と直接作用との区別をつけにくに場合がある。

実験講座

吸引電極法による細胞内灌流

著者: 赤池紀扶

ページ範囲:P.55 - P.71

 序
 1961年Oikawaら1)とBakerら2)の二つのグループにより時を同じくしてそれぞれ独立に開発されたヤリイカ巨大神経線維の細胞内灌流法は,興奮膜を横切るイオン電流の電気生理学的定量解析の急速な進歩を促し,今日においても興奮膜研究の主流の一つとなっている。そしてこの研究で知られる米国東部海岸のWoods Holeは,基礎生理,薬理および生物物理学者のメッカの感がある。
 さて筆者は,1975年11月より約8ヵ月間,A. M. Brown教授とK. S. Lee君の協力を得て,直径15μ以上の単一神経細胞ならびに心室筋細胞を人工液や薬物で細胞内灌流し,同時に細胞を電流または電圧固定下に刺激し,かつ記録できる吸引電極(Akaike-Brown-LeeよりABL吸引電極とも呼ばれる)の開発に従事した。ところでこの新しく考案したABL吸引電極法について述べる前に,従来から使用されているヤリイカ巨大神経線維の細胞内灌流法およびLing & Gerard3)による微小ガラス電極法の長所と短所を知ることは,吸引電極法との比較の上で有意義と思われる。

ゴルジ装置の分離とその細分画

著者: 日野幸伸

ページ範囲:P.72 - P.80

 はじめに
 ゴルジ装置はおそらくすべての有核細胞に存在し,他にない複雑で独特な外観を呈する細胞内小器官である。
 ゴルジ装置は図1のように模式的に描くことができる1)。中央にはプレート様構造が位置し,その周辺には綱目状に織り重なった小管によるネットワーク(tubular network)がとりまいている。プレート様構造の領域はcisternaeあるいはflattened sacと呼ばれており,超薄切片像において,末端部分が膨らんだ平滑な扁平嚢として観察される。数枚の桶平嚢が平行に並び重なって図に示すような層板状を呈している。ネットワークを構成する小管は超薄切片像において,扁平嚢の周辺に散在する小円形状のゴルジ小胞(Golgi vesicle)として観察される。cisternaeはimmature face(forming face,convex face,cis faceとも称される:図では上のcisternae)からmature face(secretory face,concave face,trans faceとも称される)に向けて成長する。mature face側のネットワークを構成する小管の末端からはゴルジ空胞(Golgi vacuole)が形成され,分泌されるべき物質がここに選択的に濃縮されるため,超薄切片像ではVLDLを含む比較的大きな構造として観察される。

話題

王子国際セミナー「筋収縮の制御」—熊谷・名取シンポジウムに出席して

著者: 野々村禎昭

ページ範囲:P.81 - P.84

 1979年10月28日から30日迄の3日間河口湖畔富士ビューホテルで王子セミナー"Regulatory Mechanism of Muscle Contraction"が約80名(うち外国から招待者16名)参加のもとに開かれた。この会は日本における筋肉グループ育ての親である日本医学会会長熊谷洋先生の75歳の誕生と慈恵医大学学長の名取礼二先生の名取ファイバーに関する論文発表25周年を記念して,東大江橋教授,千葉大丸山教授,東北大遠藤教授の主催によって開かれた。
 会は江橋教授の開会の辞にはじまり,筋生化学の始祖ともいえる80歳を越えたAlbert Szent-Györgyi博士の祝辞を忠実な弟子であるKaminer教授が代読された。次いで特別講演としてロンドン大学のA. F. Huxley教授が日本の筋研究への深い理解を示された,一種の筋肉研究交流史を話された。この中で江橋教授らによるトロポニンの発見はどのように大きな衝撃であったかは率直に語られた。

谷口シンポジウム「生物物理」—生体膜とくに神経軸索膜の構造と機能

著者: 松本元

ページ範囲:P.85 - P.90

 第5回谷口シンポジウム(生物物理部門)は11月5日,6日および8日の3日間にわたり,筑波大学大学会館小ホールにて「生体膜の構造と機能」というテーマで,主として神経軸索膜の構造と機能の問題を取り上げ,行われた。シンポジウムの出席者は19人ですべて招待者である。出席者の顔ぶれは表1,図1のとおりで,講演者と講演題目は表2に掲げた。これら題口から判るように本シンポジウムの主題は:
 ①チャンネルタンパク質の生化学的性質が現時点でどの程度明らかになっているかを討義すること
 ②軸索鞘(axolemma)の内側(原形質側)に存在する裏打ち構造体とその生理的役割に関して討議すること
 の二つに的を絞った。多くの講演内容はまったく斬新で雑誌に投稿中あるいは数日前に投稿したというものまであり,かつそれがきわめて重要な発見を含んでいて得る所まことに大であったといえよう。国内外を問わず参会者全員がこれほど充実した会議にこれまで出席した事がないと繰り返し感想を述べていたのもあながち社交辞令とばかり思えない。オーガナイザーとしてこのシンポジウムの成功を大変誇らしく思う由縁である。逆に言うとこの分野での研究の進展速度がいかに速いかを物語っているともいえよう。

談話 コンファレンス・ディナー研究集会

脳を創る(1)

著者: 久保田競 ,   中野馨

ページ範囲:P.91 - P.102

 ただ今より,第2回コンファレンス・ディナーを開きます。幸い,第1回のコンファレンス・ディナーは盛会で,いろいろと話題が提供されました。昨年一年間いろいろと討論のタネをまきました。
 今回は「脳を創る」というテーマで,中野馨,波多野諠余夫,江橋節郎の三講師にお話しを伺い,最後に伊藤正男先生がまとめをして下さいます。「脳を創る」と言いましても,だれがいつ,どこで,だれの脳を何を素材にして創るかということは,実はプログラムには書いてありません。でも,心眼でよく見ますと実は書いてあるんですけれども……。この辺のことをいろいろ講師の先生がいろんな場合でお話し下さいます。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?