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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学31巻4号

1980年08月発行

雑誌目次

特集 化学浸透共役仮説 円卓討論

化学浸透共役仮説をめぐって

著者: 香川靖雄 ,   安楽泰宏 ,   二井将光 ,   星猛 ,   藤田道也

ページ範囲:P.274 - P.311

第1部 H-ATPase
 藤田(司会) 今日は「化学浸透共役仮説をめぐって」というかなり大げさなテーマを設けたわけですが,お集まりくださった方々は,世界的に見ても最前線というか,指導的な立場におられる研究者でして,こういう機会を持ちえたことはたいへん幸運だと思います。
 Bioenergeticsというのは,電気自由エネルギー,化学自由エネルギー,浸透エネルギー,そういうものの変形・交換の起こる膜過程だというふうにいわれているわけですが,その中でも,プロトンの膜に関する非対称分布が中心的な現象となっているわけです。プロトン勾配の形成,およびそのADPのリン酸化と物質輸送への共役が主な問題です。

解説

視細胞電位の最近の進歩

著者: 斉藤建彦

ページ範囲:P.312 - P.323

 脊椎動物の網膜には杆体と錐体という2種類の光受容器がある。杆体と錐体はそれぞれ外節と内節および内節に続く脚部と終末部より構成されている(図1)。杆体の外節は円筒状をしており,そのなかに二重膜円板(ディスク)が数百枚重なって浮いている。錐体は一般に外節が円錐形をしていて,ディスクの一方は細胞膜と接し外節の外側に開いている。それぞれの外節には性質の異なる視物質が存在していて杆体視物質および錐体視物質とよばれ,杆体視物質は薄明視に,錐体視物質は昼間視に関係している。
 視細胞の機能は光のエネルギーを視物質で吸収することから始まり,一連の光化学反応を経て細胞膜の電気信号に変換し,2次ニューロンへその情報を伝達することである。視細胞の光化学反応については他の総説95)にゆづることにし,ここでは視細胞の電気信号(視細胞電位)の性質とそのイオン機構を中心に最近10年間の研究の進歩を追ってみることにする。

講義

夢見の神経生理学

著者: ,   中村嘉男

ページ範囲:P.325 - P.342

 はじめに
 夢見の神経生理学について論ずるということは,まことに野心的な試みであります。そこで,まず,この演題によって,私が何を意味しているか,また,何を意味していないかについて述べたいと思います。私は,夢見の主観的体験すなわち心理学的現象とREM睡眠すなわち生理学的現象との間にみられる相関を,脳の状態と意識の状態との間の関係に関する一般的問題を考察するための1つの好機であると考えます。そう考えますと,私は現代イギリス哲学の学派の伝統の流れの中に自分が位置することになりとても気が楽になります。その学派は,唯物論者でも観念論者でもなく,もちろんまた二元論者でもなく,Russelによって「中立的一元論者」と名付けられたものであると自己を規定しています。一元論者という言葉で私が意味するのは,私は,心と身体とを,おそらく単一と思われる過程の2つの局面とみなしているということです。また,中立的という言葉によって私が言いたいのは,心と身体のどちらが基本かという点について,いずれかがもとであるという見解を取らないということなのです。私は,心的現象が脳の現象の原因であるとも考えなければ,また,脳の現象が心的現象の原因であるとも考えません。言いかえますと,私は,夢見の間の私の主観的状態とREM睡眠時の私の脳の状態とは,総体としては相関があることを信じていますが,心と身体との接点を介する因果関係的断定はいたしません。

実験講座

動物タンパク質の無細胞合成系

著者: 森正敬 ,   三浦恵

ページ範囲:P.343 - P.350

 mRNAを加えてタンパク質を合成する無細胞タンパク合成系(cell-free or in vitro proreir synthesis)は最初はタンパク合成の分子機構を研究する目的で開発された。しかし最近では,特定のタンパク質のmRNA準位の測定やmRNAの精製に不可欠の方法となっている。さらに,タンパク質の細胞外分泌機構や細胞内における局在化機構の解析に威力を発揮している。筆者らは尿素排出型動物の肝ミトコンドリアに局在する2つの尿素サイクル酵素──カルバミルリン酸合成酵素I(CPS,EC 6.3.4.16)とオルニチントランスカルバミラーゼ(OTCEC 2.1.3.3)──のミトコンドリア局在化機構を解明する手段として無細胞タンパク合成系を用いている1,2)。CPS(サブユニット分子量160,000)2a)とOTC(36,000)2b)は共に肝ミトコンドリアのマトリックスに局在するが,その情報は核DNAにコードされ,細胞質リボソーム系で合成された後ミトコンドリア膜を通過してミトコンドリア内部へ輸送されねばならない。CPSとOTCのmRNAを無細胞タンパク合成系で翻訳させたところ,両酵素共にmatureサブユニットより分子量の少し大きい前駆体の形で合成されることをつきとめた1,2)。現在,前駆体のプロセシングとミトコンドリア膜輸送機構の研究を進めている。

話題

ハーバード大学医学部の「解剖」

著者: 力久泰子

ページ範囲:P.351 - P.355

 ハーバード大学は日本の大学の教養課程に相当するハーバードカレッジ,ラドクリフカレッジと,日本の大学の専門課程と大学院に相当する合計10の専門大学と大学院(デザイン,商業,神学,教育,法律,政治,医学,歯学,公衆衛生,芸術科学)よりなる複合体で,マサチューセッツ州のケンブリッジとボストンにあります。総学生数は1万5千人で5千人の教官と6千5百人の事務員がいます。ハーバードカレッジは1636年にアメリカで一番古く,マサチューセッツ湾植民地の税金で創立されました。この年がピルグリムがプリモスに上陸した16年後であり,衣食住にも不自由であった時代であることを考えると,その先見の明に感服せざるを得ません。ハーバードの名となったジョン・ハーバードは,銅像には創立者とありますが,実は最初にハーバードに自分の遺産を寄贈した牧師で創立者ではありません。それぞれの学部は関連はあるけれども独立に経営されており,日本のように,ハーバードカレッジを卒業するとハーバードの大学院に入学できるということはありません。医学部の解剖学科に現在17人の大学院生がいますが,そのうちハーバードカレッジ卒は2人だけです。

チューリッヒ大学脳研究所

著者: 徳永叡

ページ範囲:P.356 - P.359

 チューリッヒは,人口が40万人程ではあるが,スイス最大の商業都市である。各種の国際会議が開催されて常に世界の檜舞台となるジュネーブとは異なり,町は地味で落着いたたゝずまいをみせている。チューリッヒ大学(Universität Zürich, Uni)の本部の建物は,リンマット川東岸のロマネスク様式の大寺院(Grossműnster)の聳える旧市街を見下ろす丘の中腹に,スイス工科大学(Eidgenössische Technische Hochschule, ETH)の本館と並んで建っている。スイスの大学は州立であり,26州の内,ジュネーブ,ローザンヌ,フリブール,ヌシャテル,ベルン,バーゼル,チューリッヒおよびザンクト・ガレンの8つの州(Kanton)に大学がある。この内,ヌシャテルとザンクト・ガレンを除く6つの州立大学に医学部が設けられている。創立1833年のチューリッヒ大学はスイス最大の規模を誇り,神学,法経,医学,歯学,獣医学,哲学I(文学),哲学II(理学)の7学部を擁している。ETH(1855年創立)のみが国立であり,チューリッヒ郊外のHönngbergに一大キャンパスを整備中であるが,市内にある建物はUniのと入り混じっている。厚生施設や図書館も両方の学生,職員が比較的自由に利用できたり,医,理学部の一部の講義はETHの教官が担当しているなど,UniとETHとは日常的にかなり密接な関係をもっているように思われた。

談話 コンファレンス・ディナー研究集会

脳を創る(3)

著者: 江橋節郎

ページ範囲:P.360 - P.361

今日のテーマが「脳を創る」であるということを本当に認識しましたのは,実は二,三日前であります。どういう訳で,わたしを選ばれたのだろうか,前に話されたお二人はそれぞれ専門家ですが,ここら辺でひとつ全く脳に関係のないのを一つ入れておけば,座興になるということだろうと思います。それに時間がたりない時には,ちょっと耳打ちすれば,5分でも10分でも,どこでもやめます(笑)。ここら辺はコンピューターとどういうふうな関係になりますか。(笑)
 雑談になりますけれど,大分前にオーストラリアにまいりまして,ある所で話をしました。その時に記者がインタビューに参りましたんですが,お互に英語がひと言もわからない。15分程度悪戦苦闘しましたが,記者はついに諦めて帰りました。翌日の新聞を見ましたら,こういう大きいスペースに,私の顔が大写しになっています。その説明がマッスルマンと書いてある。(笑)……

コミニケーション

シナプス小胞仮説の問題点—Tauc講演を聞いて

著者: 黒田洋一郎

ページ範囲:P.362 - P.363

 フランス,パリ郊外の細胞神経生物学研究所所長のLadislav Tauc教授は生理研の招きで本年2月来日され,岡崎の生理研コンファレンスに出席されたあと,各地をまわられ,東大医学部生理,東京都神経研では"Vesicular hypothesis and Acetylcholine release"と題する講演をされた。
 シナプス小胞仮説〔アセチルコリン(Ach)の量子放出(quantum release)がシナプス小胞(SV)のexocytosisによって行われるという考え〕は伝達物質放出の最も考えやすい機構として広く知られている。しかしながら筆者も参加した1976年St. Andrewsで開かれた"Synapses"国際シンポジウム1)あたりから,この仮説の可否を主張するデーターの発表とそれをめぐるはげしい論争が起こり,一昨年あたりからはTrends in Neuroscience誌上で一部感情的とも思われるやりとりまで行われ,依然として結着をみていない2)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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