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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学32巻1号

1981年02月発行

雑誌目次

特集 細胞骨格 総説

細胞骨格としての微小管

著者: 佐藤英美

ページ範囲:P.2 - P.11

 生体膜で囲まれた原形質は,"蛋白質繊維の骨組で整型されその間に各種の細胞器官がつまっている親水性ゲル"と考えられるが,この骨組を一般に細胞骨格(cytoskeleton)と呼ぶ。そして,機能との対応から細胞の"かたち"を規正する骨組の柔構造は,収縮性蛋白質によって構築される場合が多い。すなわちアクトミオシン系,10nm微細繊維系,またチュブリン・ダイニン系などであって,広く共通の素材として使われている。これらの収縮性蛋白質の特徴は,単独に,あるいは特定の修飾蛋白質と協同して,整然とした分子配向パターンをもつ微細繊維または微小管となり,ベクトル量として表現される定方向性細胞運動を支配することであろう。
 細胞骨格構築制御の分子機構は,微細構造の重合・脱重合反応を制御するイオン強度の調節系,ATP分解酵素として機能するミオシンやダイニンなどの修飾蛋白質と切離しては論じられない。また,細胞骨格の生理機能は,本書の各章に述べられている生体膜の裏打ち蛋白質や,artifactであるかもしれないmicrotrabeculaeのとじめ構造等と考え合せ,総合的な把握を試みなければならぬ課題であろう。しかし,私達が現在持ちあわせている技法の限界と,生きている細胞に実在するであろう繊維構造の生理機能を直接さぐる作業の難しさから,このテーマは今後の新しい研究方法の展開に待つほかはない。

細胞骨格としてのアクチン系

著者: 秦野節司

ページ範囲:P.12 - P.18

 Ⅰ.真核細胞のアクチン,ミオシン
 もともとアクチンやミオシンは,横紋筋の収縮性蛋白質として発見されたものであるが,最初,非筋細胞からは粘菌の変形体から初めてアクチンやミオシンが抽出精製され1),その後いろいろな細胞から抽出,精製されるようになった(文献2〜7)参照)。また,石川ら8)は,F-アクチンに筋肉のH-メロミオシンが,特異的に結合し矢尻構造を作る性質を利用して,いろいろな動物細胞に,F-アクチンが存在することを明らかにした。現在では,真核細胞には,アクチンやミオシンが一般的に存在することが明らかになっている。
 最近,螢光抗体法で,細胞内のアクチンの分布を顕微鏡レベルで観察できるようになった。培地の上に広がった動物組織細胞には細胞の縦軸方向にアクチン抗体で染色される細胞質の糸が観察される。サイトカラシンBなどで,このアクチン糸を壊すと細胞は丸くなってしまうことなどから,アクチン糸は細胞の骨格をなし,それが細胞の形を決めているのであろうと考えられるようになった。

10nmフィラメント

著者: 黒川正則

ページ範囲:P.19 - P.24

 真核細胞には10nmフィラメントと総称される外径7〜11nmのフィラメントが存在する。その径がミクロフィラメント(5〜6nm)と微小管(25nm)の中間にあることから,中間フィラメントintermediate filaments(IF)とよばれる場合も多い。
 10nmフィラメントははじめ培養骨格筋細胞において,アクチン・フィラメントとミオシン・フィラメント(15nm)の中間の径を示す,あたらしい型のフィラメント(intermediate-sized filaments)として記述された32,33)。その後,各種の細胞においてこのクラスのフィラメントが識別され21,23,38),細胞の骨格,運動,分化をめぐるさまざまの角度から注目されている。微小管(チューブリン)やミクロフィラメント(アクチン)とは対照的に,10nmフィラメントの蛋白種は細胞の起源によって多様である。すなわち抗原性または電気泳動上のちがいによってニューロフィラメント蛋白(神経細胞),グリア繊維酸性蛋白(星状膠細胞),ケラチン(上皮性の細胞),デスミン(筋細胞),ヴィメンチン(間葉性の細胞)などが区別されている。いく種類かの細胞では免疫螢光法によってヴィメンチンとデスミン,あるいはヴィメンチンとケラチンの共存がみとめられる。これらの蛋白の化学的な性質,あたらしい蛋白種がみいだされる可能性,細胞分化との対応などについて,今後の研究に待たれる面が多い。

細胞骨格とコネクチン

著者: 丸山工作

ページ範囲:P.25 - P.29

 Ⅰ.コネクチンとは何か?
 100年も前から,生理学者は,筋肉には収縮性要素のほかに弾性要素があるものと仮定していた。収縮性要素については,1940年代にアクチン,ミオシン系が確立し,ついで,滑り説が1954年に提出された。
 弾性要素に関しては,筋細胞をおおっているコラーゲン膜の関与が一時いわれたが,長い間無視されていた。1954年,慈恵医大の名取は,彼の手になる細胞膜をはがしたNatori's skinned fiberを用いて,弾性構造の存在することを実証した1)。すなわち,skinned fiberを引っぱると,張力を発生し,放せばもとに戻ってゆく。滑り説の基礎となっている筋原線維の構造では,重なり合いが消失するまで引っぱったのでは,もとに戻ることを説明できない(図1A)。何かとなりあうZ線間をつなぐ弾性構造が存在するはずというのが名取の指摘で,彼は,"内部弾性膜"とよんだ。また,単離した筋原線維から,ミオシンやアクチンを抽出しても,Z線は,ばらばらになることはない。すなわち,何かでとなりあうZ線は連結されている(図1B)。このことは,HuxleyとHansonによって1954年に言及されていた2)。しかし,彼らは,1955年以後,Z線をつなぐ構造については一言もふれようとはしなかった。

興奮膜と細胞骨格:axolemma-ectoplasm complex

著者: 岩浅邦彦 ,   田崎一二

ページ範囲:P.30 - P.35

 神経興奮の分子論的な理解のためには,膜構造の研究とともに興奮の際の物理化学的な量の変化の研究が必要とされる。この方向の研究は最近めざましい進歩をとげた。
 古くLoeb1),Höber2)とBethe3)は神経興奮におけるCaイオンの役割を強調し,興奮には膜の構造変化が伴われることを予想した。のちにまたTeorellは彼の神経模型4)を拡張することにより膜内部の圧力の変化による膜構造の変化を予想した5)。しかし,当時それを直接支持する実験結果は得られなかった。

膜骨格としての裏打ち構造

著者: 石川春律

ページ範囲:P.36 - P.41

 生体膜のモデルとして,現在,流動モザイクモデルが広く受け入れられている。膜は基本的には脂質2分子層からなる二次元の流動体であり,これに蛋白質がモザイク状に組み込まれていると考える1)。この膜モデルは,電子顕微鏡で見える膜の微細形態のみならず,いろいろな膜現象をよく説明する。膜の特性として,膜は容易に形を変え,分離や融合を起こし,膜内蛋白質は比較的自由に側方移動することができる。では,実際の生体膜でこれら特性が無制限に麦現されているであろうか。
 細胞を構成する膜は多様に機能分化しており,これに相関して,形態の分化も認められる。異なる膜相互は認識され,別個の区分をなし,自由に融合や連続することはない。中でも,細胞を周囲環境から境する形質膜(細胞膜)は極めて多様な形態分化を示す。形質膜は細胞の種類により,また,連続した同じ形質膜でありながら,部位により,機能や形態が異なる。このような形質膜の形態,とくに局所分化がいかに保持されているかは非常に興味ある問題である。この疑問に対しては,流動性の膜自体を周囲から構造的に支持する仕組みを想定することで一応は説明できる。そのような仕組みを漠然と膜骨格(membrane cytoskeleton)と呼ぶとすれば,このカテゴリーに含められる構造は多岐に亘る。

解説

Na+,K+-ATPase(Na+ポンプ)へのリガンド結合の熱力学的パラメータ

著者: 谷口和弥

ページ範囲:P.42 - P.50

 Na+,K+-ATPaseがATPの加水分解と共役して,Na+とK+を濃度勾配にさからって輸送することは広く認められている1〜3)。ここ数年の間にNa+,K+-ATP-aseが種々の動物組織1〜5)から比較的多量に安定な状態で精製できる方法が見い出されてきた。得られた標品は分子量約10万と5万の共に糖を含むペプチド6)と,リン脂質からなり,触媒活性は10万のユニットにあることが明らかにされている。また非常に不安定であるが高い活性をもつ標品には5万のユニットが検出されないとする報告もある7)。精製酵素標品とアゾレクチンまたは合成リン脂質から形成された小胞が8,9)赤血球で観察されると同様に,1分子のATPの加水分解と共役して,3分子のNa+と2分子のK+を濃度勾配にさからって輸送することが明らかにされている8〜10)。これはいうまでもなく,Na+,K+-ATPaseがNa+とK+の膜を通しての能動輸送を行う本体であることを示している。ATPの加水分解が,いかなる機構でNa+とK+の輸送をもたらしているかに関しては,リン酸化中間体(EP)の形成および分解の速度論的研究が精力的に行われた結果,かなり明確になってきた1〜3,11〜22)。しかし,EPのエネルギーレベルの推定,また酵素とリガンドの結合の熱力学的性質に関する研究は,ここ数年前に始められたばかりである。

論壇

脊椎動物網膜論:第3,4部

著者: 中研一

ページ範囲:P.51 - P.61

 第3部 電流注入実験
 1.網膜細胞内の連絡
 網膜のように複雑な神経回路網での信号の流れ──すなわち,そこでの感覚情報処理様式──を解明するのに最も有力な手法はその回路網のある1点に信号を注入し,もう1つの点からそれによる反応を記録することである。これは電子回路の解析には常に用いられている方法である。しかし脊椎動物網膜の回路網解析にはなぜかこの方法はあまり用いられずなまず網膜以外では数編の報文があるにすぎない2,17,37),しかし,各種の細胞間の信号伝導様式の知識なしには,脊椎動物網膜内の神経回路の構成模式はいつまでも推測の域を出ず,知識とはならない。この伝導様式の決定には電流注入が最も有力な方法である。もちろん電流注入法も万能でなく,他のあらゆる方法と同じく,利点もあり欠点もある。後者の1つは電流注入は点に限られ,網膜にとっては非常に不自然な刺激である。

講義

Ca++電流による調節作用—シナプスの可塑性の一般的機序の探究(上)

著者:

ページ範囲:P.63 - P.73

 "脳の働きを機能局在に基づいて理解しようとする生理学的教説は,たとえどんなに優れたものであっても,精神活動の機序については依然として何も分からせてはくれない。精神活動は,疑いもなく神経細胞の分子レベルでの修飾作用を伴うし,かつ精神活動に先立ってニューロン相互の結びつきの複雑な変化が起こっているにちがいない。精神活動の理解には,これら分子レベルの修飾作用とニューロン相互の関係の変化を理解することが必要である。もちろん,脳の諸中枢とその神経路の完全にして正確な組織学を知らなければならない。しかし,それだけでは十分でなく,知覚と思考,意識と情動に伴って起こる神経系のエネルギー変換について知ることが必要であろう"

実験講座

手軽なマイクロ2次元電気泳動法と高感度蛋白染色法—微量蛋白分析のために

著者: 三川隆

ページ範囲:P.74 - P.78

 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動1)(SDS-PAGE)の開発以来,複合蛋白の分析は大幅に容易なものになった。さらにO'Farrell2)が導入した等電点電気泳動(IEF)とSDS-PAGEを組合せた2次元電気泳動(IEF/SDS-PAGE)または非平衡pH勾配ゲル電気泳動(NEpHGE)3)を組合せた2次元電気泳動(NEpH/SDS-PAGE)によって分解能は非常に高いものになった。しかしながらO'Farreliらの方法で2次元電気泳動を行う時に最初に出会う問題は,①結果を得るまでに長時間を要すること,②IEF泳動中の熱発生をさける為に低温操作が必要なこと,③しばしばIEF泳動中にゲルが抜け出ること,④泳動後ガラス管からゲルを取り出す手間,⑤1次元目のゲルをSDS-平衡化液から取り出し上手く2次元目のゲルにセットする際の緊張感,⑥2次元目のゲルが大きくその取り扱いに注意を要すること,等々幾つかあり決して気軽に扱えるものでないことも事実である。
 筆者らは現在、筋蛋白の遺伝子発現の様式を単細胞毎に調べているか,全てのサンプルをO'Farrellらのsystemで処理した場合相当な費用と労力と時間を覚悟しなければならない。手軽な方法が必要であった。費用だけでも安くあげようとO'Farrellのsystemをマイクロ化したところ,上述した幾つかの問題が予想外に同時に解決してしまった。

話題

第2回国際細胞生物学会議

著者: 嶋田裕 ,   大日方昂

ページ範囲:P.79 - P.81

 細胞生物学は,細胞の構造と機能,さらには細胞間の連関を理解する学問で,最近ではその境界分野,すなわち分子生物学,生化学,遺伝学,解剖学,病理学,免疫学などにおける新しい研究方法の開発により,飛躍的に発展している学際的な学問である。第1回の国際細胞生物学会議がアメリカ細胞生物学会の主催で1976年にボストンで開催されたのは,まだ記憶に新しいが,4年毎に開かれるこの会議は,今度はヨーロッパ細胞生物学会の主催により,ドイツ連邦共和国(西ドイツ)のベルリン(西)で,1980年8月31日(日)より9月5日(金)まで開催された。
 この会議の開催期間の前後には,国際組織細胞化学会議,ヨーロッパ地区電子顕微鏡学会議,国際超高圧電子顕微鏡学会議,国際発生生物学会議等の関連会議が,いずれもヨーロッパ内で続いて開催されたので,日本などの遠隔地からの参加者には,2〜3の会議を連続して出席できるという便利さがあった。ベルリンは緯度では樺太の北部に位置し,9月の初旬でシャワーが時にはあったが,気温・湿度ともに東京におけるよりも低く,概して快適であった。

ウッヅホール臨海生物学実験所の日々

著者: 竹田俊明

ページ範囲:P.82 - P.85

 米国北東部のマサチューセッツ州の東南部に突出した小さな半島Cape Codの一端に位置するウッヅホール臨海生物学実験所(Marine Biological Laboratory,以下M. B. L. とする)は,ヤリイカの巨大軸索の使用で英国plymouthの臨海実験所と並んで興奮膜の生理学の進展の舞台となったところとして有名である。筆者は昭和54年8月から1カ年余り,M. B. L. にyear roundの研究室を構えるNational Institute of HealthのDaniel L. Alkon博士のもとに留学する機会に恵まれたので,M. B. L. の活動の概要とAlkon博士の研究室での活動について御紹介したい。
 1888年創設になるM. B. L. の性格はユニークかもしれないM. B. L. はどこかの大学の付属の研究所といったものでなく,600人余りの科学者が所有する私的な法人組織なのである。従って会員の中から選出された執行委員会によって運営されている。広い敷地にそれぞれLillie,Whitman,Loebの名を冠する3棟の研究,教育棟と150人収容の宿舎,集会棟その他の施設を配している。全体で約140の実験室をもち,特に5月〜9月初旬の夏場に各地からの研究者が思い思いに実験室を借りて,新鮮な海の材料で研究していくのである。

ゲーテボルグ大学にて

著者: 佐々木成人

ページ範囲:P.86 - P.88

 昨年10月より2年間の予定でスウェーデンGöteborg大学生理学教室で学んでいます。こちらに来てまだ約10ヵ月と日も浅く十分な見聞を持ち合わせていませんが,こちらの研究体制や日々の雑感など述べさせていただきます。
 ここGöteborgの町は人口45万,スウェーデンの西の玄関口に当るこの国第2の都市です。漁業と造船業の町として古くから栄え,近年は有名なVolvoの自動車に代表される工業都市として発展しています。緯度は,モスクワとほぼ同じで約北緯55度にあります。北に位置するので厳しい冬の寒さを想像しますが,メキシコ湾流の為,気候は意外なほど凌ぎやすく,冬は雪が10〜20cmほど時々積りますが1週間ほどで解けてしまいます。気温もマイナス10℃以下になることはごくまれです。長い冬が終わり,春の雪どけが始まるころは,スウェーデンの人々の最も心踊る季節です。夏の間は太陽が遅くまで沈まず,森と湖の恵まれた自然の中で,夜が更けるまでたっぷり,短い夏を満喫します。町は,多くの小高い丘からなり,大学はその小さな丘の上にあります。

コミニケーション

第28回国際生理科学会議衛星シンポジュウム「霊長類と下等哺乳類の視覚機序」の印象/Dr. Nirenbergの来日

著者: 酒田英夫

ページ範囲:P.89 - P.90

〔場所〕西ドイツ,ブラウンラーゲ
〔日時〕1980年7月21〜23日
 今年の7月,ブダペストでの国際生理学会のあと,ゲッチンゲンにほど近いハルツ山中の街,ブラウンラーゲで視覚のメカニズムのシンポジュウムが開かれた。組織委員はマックス・プランク生理化学研究所のO. CreutzfeldtとB. B. Lee,オーストラリアのP. O. Bishop,NIHのR. H. Wurtzの4人で,参加者は160名を越えホテルの大きな講堂で講演とポスターを織りまぜて行われた。会議は午前・午後2回のセクションに分かれ,それぞれほぼ3名の講演者の発表とポスター・セッションがあって最後に座長がポスターの内容を要約して一般討論をするという形式で行われた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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