文献詳細
解説
文献概要
Na+,K+-ATPaseがATPの加水分解と共役して,Na+とK+を濃度勾配にさからって輸送することは広く認められている1〜3)。ここ数年の間にNa+,K+-ATP-aseが種々の動物組織1〜5)から比較的多量に安定な状態で精製できる方法が見い出されてきた。得られた標品は分子量約10万と5万の共に糖を含むペプチド6)と,リン脂質からなり,触媒活性は10万のユニットにあることが明らかにされている。また非常に不安定であるが高い活性をもつ標品には5万のユニットが検出されないとする報告もある7)。精製酵素標品とアゾレクチンまたは合成リン脂質から形成された小胞が8,9)赤血球で観察されると同様に,1分子のATPの加水分解と共役して,3分子のNa+と2分子のK+を濃度勾配にさからって輸送することが明らかにされている8〜10)。これはいうまでもなく,Na+,K+-ATPaseがNa+とK+の膜を通しての能動輸送を行う本体であることを示している。ATPの加水分解が,いかなる機構でNa+とK+の輸送をもたらしているかに関しては,リン酸化中間体(EP)の形成および分解の速度論的研究が精力的に行われた結果,かなり明確になってきた1〜3,11〜22)。しかし,EPのエネルギーレベルの推定,また酵素とリガンドの結合の熱力学的性質に関する研究は,ここ数年前に始められたばかりである。
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