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特集 チャネルの概念と実体 総説
ミトコンドリア膜のチャンネルの化学構造と機能
著者: 香川靖雄1
所属機関: 1自治医科大学生化学教室
ページ範囲:P.94 - P.100
文献購入ページに移動 生化学者にとって生体膜はリン脂質二重層内に浮遊する各種の機能性タンパク質の集合体である1)。広義の生体膜,たとえば細胞壁などまで含めればこの定義は拡大しなければならないが,とにかく形態学者が細胞の表面と内部に見出した厚さ70〜100Åの膜状構造において,この特集号に書かれているような諸機能が生理学者によって記述されて来たのであった。生理学者の扱ったチャンネルはその殆どがイオンチャンネルであるのは,主として電気生理学的な方法を介して,生体膜のイオン透過性を測定して,チャンネルの概念そのものを生み出して来たからであった。これに対して生化学の主流は1960年代までは,有機分子の代謝経路とそれを構成している諸酵素の解明にあったので,イオンの移動そのものは関心をもたれず,もっとも代謝活動の盛んなミトコンドリアの酸化的リン酸化反応の化学的実体の解明の過程ではじめてイオン輸送が生化学的にとりあげられたのである。化学浸透圧説2)というパラダイム3)が生化学会に定着するのには約20年を要したが,その一因は生化学者が生理学的対象に不慣れであったためである。化学浸透圧説自身は「酸化的リン酸化反応とはH+の電気化学的ポテンシャル差を介して電子伝達のエネルギーをH+輸送性ATPaseに伝える生体膜上の反応である」という生理学的解答にすぎない。
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