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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学32巻3号

1981年06月発行

雑誌目次

特集 リポプロテイン 総説

リポたんぱく質の構造

著者: 猪飼篤

ページ範囲:P.202 - P.208

 最近は子供達が食べ物をとりあうという光景も少なくなって世の中が本当に豊かになったと思う事が多い。又一面,少々のものをおみやげに持っていっても眼を輝かせて喜ぶという事もなくなってしまった。なんだ,又シュークリームか,というような具合で面白くない事甚しい。このように食生活が豊かになると子供達の血液の化学組成も大分変化するようであり,"コレステロールっ子""都会で5人に1人"などという新聞の見出しが目に入るようになる。もっとも原因はあまり高級な食品の普及にあるのではなく,インスタント食品のせいらしいが,いずれにしても,こういう子等が将来,動脈硬化,心臓病等の成人病予備軍となる,というような談ものっており,血液中にコレステロールが多いのはよくないのだという事は,市井の人々にもよく普及した知識となっている。
 私には血中の脂質の成分の変化や量的な変動がどの位成人病の原因になるのかは全くわからないが,血清リポたんぱく質というものに興味を持って,そのたんぱく化学的な構造研究について取組んでいるので,最近の話題や自分の研究について御紹介しようと思う。

リポ蛋白レセプター

著者: 竹内一郎

ページ範囲:P.209 - P.215

 リポ蛋白と細胞とのinteractionには,何種類かのものが考えられる。リポ蛋白表層に存する燐脂質(PL)や,コレステロール(CH)と,細胞膜のPL,CHとの間の分子交換1)や,移行1,2)(transfer),細胞表面のreceptor へのリポ蛋白の結合(binding),及びそれに続く取り込み(endocytosis),更にレセプターを介さない無差別の取り込み3)等が知られている。リポ蛋白と培養細胞とのin vitroにおけるinteractionの研究4,7)は,多くは動脈硬化の発生機序を解明する目的で行われていたが,GoldsteinとBrownらは,ヒトの培養線維芽細胞に低比重リポ蛋白(LDL)に対するレセプターを証明し,家族性高コレステロール血症の発生に,レセプター欠損が関与することを示した5,6)。又,彼らの提唱したレセプターを介した取り込み(receptor-mediated endocytosis)は,新しい概念として,とくにmacromoleculeのレセプターを知る上での意義が大きい。
 レセプターの定義は必ずしも一定していないが,機能的には①細胞外の情報を特異的に認識すること,②細胞内の諸反応の調節を行う,という点が重要と考えられる8)

肝臓におけるリポプロテイン形成

著者: 松浦志郎

ページ範囲:P.216 - P.222

 小胞体内腔やゴルジ装置の槽内にしばしば見られるosmiophilicな顆粒(径300〜1000Å)が血清中に存在するVLDL(very low density lipoprotein)顆粒の前駆体ではないかということは,形態的観察28,29)からも,ゴルジ装置から分離したVLDLと血清中のVLDLとの生化学的分析の比較からも推察されている4,12)。肝細胞内で合成されるtriglyceride(TG)の運搬を担う各種アポリポタンパクや脂質の性質,リポタンパクの脂質とタンパクの組成については,他の綜説を参照されたい23〜25)。ここでは肝細胞におけるリポプロテインの形成がどのようなステップでなされ,血中へ放出されるかを追って見たいと思う。

小腸における脂質吸収とキロミクロンの形成

著者: 太田英彦

ページ範囲:P.223 - P.233

 小腸は独自のリポプロテインを合成できる肝臓以外の唯一の臓器であり,リポプロテインは,脂質の吸収に密接な関係をもって合成されている。
 脂質の吸収過程を追う研究は,光学・電子顕微鏡による形態学的知見を基に進められてきた感がある。ことに,吸収された脂質の行方が電子顕微鏡で追えるため,他の物質の吸収とは違ってその過程について仮説が立てやすいことが特色であった。その様な仮説を補強する生化学的な知見も加え,広義の脂質の吸収は大きく数段階に分けて考えられる様になっている(図1)。即ち(a)管腔内での消化と吸収上皮細胞内への移動,(b)上皮細胞内での再合成,(c)リポプロテイン成分の合成とリポプロテイン粒子の形成,(d)細胞内での移動,(e)上皮細胞外への分泌,(f)リンパ管内へのリポプロテイン粒子の移動,がそれらの段階である。

解説

肺表面活性物質

著者: 澤田英夫

ページ範囲:P.234 - P.241

 肺胞を形成する肺胞上皮の表面は組織液でぬれているため気道内空気との間に広大な気・液界面を形成し,この気・液界面に一種の界面活性物質が吸着して界面活性膜を形成し,種々の界面活性能が発揮されているものと考えられている。肺の気・液界面に働く表面張力にはじめて注目したのはK.von Neergaard(1929)で,肺を空気でふくらますほうが生食水のような液体でふくらますより,より大きな圧を要すること,さらに含気肺胞表面の表面張力が通常の組織液のそれ(ほぼ30dynes/cm)よりもはるかに低く未知の界面活性物質の存在することを予言した1)。後年Macklin(1943)2)およびPattle(1955)3)がこの問題に注目し,気道内より界面活性物質をとり出したこと,Clementsがこの物質を用いてin vitroで記録した表面張力・表面積曲線から肺の圧・量曲線に及ぼす肺表面活性膜の効果をきわめて明解に示したことにより肺表面活性物質の存在意義が確立されたと言えよう4)

グリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)と糖尿病

著者: 浅倉稔生

ページ範囲:P.242 - P.249

 糖尿病は膵臓から分泌されるインシュリンの不足によって起こる病気で,血液中のブドウ糖が異常に上昇し,尿中にも多量のブドウ糖が排泄され,適切な治療を行わなければ患者は種々の合併症を起こして死亡する。
 糖尿病の診断は,従って患者の血中又は尿中のブドウ糖のレベルを測ることにより,比較的容易に行うことができる。この方法の問題点は,血中又は尿中のブドウ糖値が,食事の内容や,時間,運動,インシュリン使用等色々の要因により影響されることで,ブドウ糖のレベルだけから病状を判定することが困難なことである。殊に糖尿病患者を外来患者として取り扱う場合,応々にして患者は検査前に食事を控えたりインシュリンを使ったりして病院に現れることが多く,血糖値を作為的に変えるケースが見られ,これまで医師の側からこういう患者の作為を見抜く適当な手段がなかった。

論壇

人類の染色体研究—主として古典について(中)

著者: 牧野佐二郎

ページ範囲:P.250 - P.253

 人類の染色体研究が,古典切片法の影響のもとに,渾沌としていた時代(染色体数が±24とか±30とか報告されていた時期)に,染色体数の一定性,即ち基本染色体数の存在を発見した最初の学者はウィニワルテル(de Winiwarter, H.,1912)である。1912年という研究渾沌の時代に人類の染色体数は24とか30前後というような数の少ない,しかも不定なものではなく,47という基本数をもつということを,生殖細胞においてきわめて詳細な研究を行いこれを設定した。すなわち,男性生殖細胞には精原細胞に47,第一精母細胞に24,第二精母細胞に23と24,女性生殖細胞には卵原細胞に48という染色体数を確認した(図13〜15)。この時代におけるこの研究業績は具眼の学究者の注目を引いたのはいうまでもなく,毅然として他を睥睨するの観があり,細胞学研究史に記として残る偉業である。ウィニワルテルの発表以後にもなお不鮮明,不審なる染色体数をあげている研究もあるが,具眼の研究者の人類の染色体数に関する観念はウィニワルテルのみた所に集中し,Grosser(1921,1927),Rappeport(1922),Schachow(1926),Kemp(1930)などの研究にそれをみることができる(前号の表1-a参照)。ウィニワルテルの研究はそれ以後における研究の発達に貢献した所が大きい。

講義

電気受容—新しい種の感覚の末梢機構と中枢処理

著者: ,   小原昭作

ページ範囲:P.255 - P.269

 今日お話しするのは,比較生理学の応用によって,ヒトの神経系の基礎を理解しようとする1つの試みです。このような試みは単に基礎生理学や生物行動学のみでなく,医学にも関係するなんらかの洞察を与えるものと考えられます。これはまた極めて日本的なお話でもあって,多くの部分が私の研究室その他での日本人研究者の発見に依存しており,場合によっては完全に日本人の業績です。

実験講座

真性粘菌ミトコンドリア核の単離とその特性

著者: 鈴木孝仁 ,   黒岩常祥

ページ範囲:P.270 - P.276

 細胞内小器官であるミトコンドリアは,葉緑体と共に,DNAを含有し,細胞核の遺伝情報にかなりの部分を依存しつつも,半自律的にRNA,タンパク質の生合成を行っている1)。一方,そのDNAのミトコンドリアでの存在様式に関しては,Nassらがニワトリ胎肝細胞ミトコンドリアなどを用い,電顕超薄切片像を観察して提出されたモデルがよく知られている2,3)。すなわちミトコンドリアDNAは,あたかも裸に近い状態でミトコンドリアマトリクスに存在するというモデルである。
 しかるに黒岩らは,真正粘菌Physarum polycephalumのミトコンドリアにおいて,その中心に電子密度の高い1個の核様構造があり,その核は32〜64本のミトコンドリアDNAがタンパク質やRNAと共に複合体を形成したものであることを明らかにした4〜6)。さらに他の生物のミトコンドリアや葉緑体でも,多かれ少なかれ,細胞小器官DNAはタンパク質分子によって組織化され,核構造をとっていると主張してきた7)。黒岩によれば,これら細胞小器官の核様体は,その電子密度の相違や形態的特徴から,陰性核様体(negative nucleoid,electron transparent nucleoid)と陽性核様体(positive nucleoid,electron dense nucleoid)の2種に分類される5)

話題

ポーランドのNencki Instituteをたずねて

著者: 川村浩

ページ範囲:P.277 - P.280

 ポーランドの首都ワルシャワ市には63年の歴史をもつ由緒のあるNencki Institute of Experimental Biology(図1)がある。この研究所の最大の部門であるDept. of Neurophysiologyは,かつてJerzy Konorski(1903〜1973)教授を主任として名声を博し,Boguslav Zernicki(ゼルニツキー)教授(図2)に引継がれた今も100人のスタッフをもつ有力研究室である。Zernicki教授はかつてイタリーのピサ大学生理学教室に留学し,三叉神経前・橋部切断ネコ(midpontine pretrigeminal preparation)を用いて古典的条件づけの実験を行った(Arch. ital. Biol.,100:305-310,1962)。筆者の研究室でも,筆者のピサ大学留学(1965〜66)中の経験をもとにして,池上司郎博士が中心となり,三叉神経前・橋部切断ネコでの眼球運動のオペラント条件づけの研究を進めている。このオペラント条件づけに関するわれわれの最初の論文(1977,Brain Research,124:99-108)以前にも,Northwestern大学のShlaer & Myerによってこの標本でオペラント条件づけに成功したという報告(1972,Brain Research,38:222-225)がでている。

談話 コンファレンス・ディナー研究集会

進化する脳(1)—脳と心

著者: 久保田競 ,   植木幸明

ページ範囲:P.281 - P.285

 食事の後,酒も程よくまわって気持ち良くなられたところで,予定の講演に移りたいと思います。私の司会も3度目になりましたが,うまくやり通す自信はありませんが,今回は「進化する脳」という非常に大きな題を掲げております。過去何十億年にわたって生きてきた生物の個体の歴史を,脳を中心に考えると言う事になる訳でございます。
 人間の方から「進化する脳」と言うものを考えてみますと,第1は大脳化と言われている事で,系統発生的に新しい所が脳の高いレベルの所にでき,大きくなって,新しい機能がつけ加わる。第2は,大脳半球の側方化(hemispheric lateralization)とか相補的特殊化(complimentary specialization of hemispheres)とか言われている事で両半球の対応する場所はそれぞれ特殊に機能するようになったという事,分化が起こったという事だと思います。側方化では感覚機能だけでなく運動機能にもみられ,利き手が起こってきます。このような事がどうして起こったかと言うような事が,今日先生方のお話を聞いて分かってくると,広い視野で脳をみる事ができ,今後の脳研究に役立つんだと思います。

コミニケーション

第1回 軸索内輸送ワークショップ(Elmau,1981年4月27日〜5月2日)

著者: 田代朋子

ページ範囲:P.286 - P.287

 南ドイツの人里離れた小さな城に参加者約80名を幽閉し,軸索内輸送を主題とする第1回国際ワークショップが開かれた。初の試みに対する主催者の張り切りぶりを反映して,5日間の会期中は連日,夜中までスケジュールがびっしり。この分野の専門家をほとんど集めたのみでなく,細胞内運動など関連する他分野の研究者も招いて,総合的に討論しようという盛り沢山な会であった。約30名は応募の結果,参加を認められた若手研究者で,私のようなかけ出しも仲間に加えていただけたわけである。
 会は以下の10セッションから構成されていた。①神経系以外の系における細胞内運動,そこから何を学ぶべきか?②軸索を構成する分子及びその構造③実験手法の開発,④軸索内輸送現象の特徴.⑤いろいろな物質の輸送dynamics,⑥軸索内輸送の必須条件,⑦軸索内輸送機構のモデル,⑧軸索内輸送の生理的意義,⑨再生神経における軸索内輸送,⑭軸索内輸送の臨床的意味。このうち,特に重要と思われる④〜⑦,⑩について以下に簡単に紹介したい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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