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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学32巻5号

1981年10月発行

雑誌目次

特集 ペプチド作働性シナプス 総説

免疫組織化学による脳・腸管ペプチドの研究

著者: 岩永敏彦 ,   藤田恒夫 ,   矢内原昇

ページ範囲:P.394 - P.408

 視床下部の神経分泌ニューロンに含まれるソマトスタチンが,膵臓と腸の内分泌細胞(D細胞)にも存在することが1974年から75年にかけて発見されて以来1〜3),ニューロンと内分泌細胞にまたがって存在する(産生される)生理活性ペプチド──"脳・腸(管)ペゾチド"──が次々に見いだされた。新しい神経伝達物質と目されるVIP(vasoactive intestinal polypeptide),P物質(substance P),ニューロテンシンが胃腸膵の内分泌細胞にも出現し,典型的な膵島ホルモンであるインスリン,グルカゴン,PP(pancreatic polypeptide),そして代表的な胃腸ホルモンであるガストリン,CCK(cholecystokinin)が中枢や末梢のニューロンに局在し,さらにはモルヒネ様ペプチドの数々もニューロンと内分泌細胞に認められている。
 一方,私たちは胃腸膵の内分泌細胞をはじめとする一連のペプチド/アミン産生内分泌細胞と感覚上皮細胞には,ニューロンと共通する構造と機能が数多く存在することに着目し,1975年,これらの細胞にパラニューロンという名称をつけた4)

P物質作動性シナプス伝達

著者: 大塚正徳

ページ範囲:P.409 - P.416

 ペプチド作動性シナプス伝達,あるいはペプチド性伝達物質の概念は最近約10年の間に急速に発展し,ある程度の信頼を得るに至ったものである。いわゆるペプチド性伝達物質のなかでもsubstance P(SP, P物質)は最も古い歴史をもち,その発見1)以来,今年で丁度50年になる。SPは神経伝達物質neurotransmitterであろうか?また,神経組織中に見出される多数の神経ペプチドは神経伝達物質であろうか,それとも神経調節物質neuromodulatorであろうか?このような問いかけが最近しばしばなされているが2,3),それに対する答えはsemanticな問題であるといわれる4,5)。つまり伝達物質の定義によるというのである。しかし,これだけでは読者の十分な納得は得られないであろう。現在,いくつかのペプチドに関しては,それが伝達物質であるかどうかについて,もっと具体的な答えを与え得るように思われる。以下,SPを中心に,その伝達物質としての現状を分析し,またSP作動性シナプス伝達をめぐる新しい知見,さらにSP以外のペプチド性伝達物質についても簡単に触れる。

オピオイド・ペプチド及びキョートルフィンの脳内分布と鎮痛作用機序

著者: 高木博司

ページ範囲:P.417 - P.424

 Ⅰ.オピオイド・ペプチドの多様性とその分布
 1975年Kosterlitzグループ1)によりブタ脳からmethionine-enkephalin(met-enk)及びleucine-enkephalin(leu-enk)が単離され,その化学構造が明らかにされた。それ以来表1に示したような多数のオピオイド・ペプチドが脳から分離されており,その数はさらに増加の傾向にある(各々の文献は筆者の綜説27)参照)。これらすべてのオピオイド・ペプチドが脳の中でそれぞれ固有の生理的役割を演じているのか,あるいは,ある種のものは抽出過程で生じた「人工産物」なのかなど今後整理すべき点が残されている。
 ナビオイド・ペプチドの生理作用を知る上で,重要な手掛かりになるのはその脳内分布,細胞内分布である。さらにこのペプチドの神経伝達物質としての可能性を考える上で,生合成,貯蔵,遊離,分解(不活性化),生理・薬理作用などの知見も重要である。表1に示したペプチドのうち,上記の諸知見が比較的豊富なのはmet-及びleu-enkであり,次いで,β-endorphin,(β-end)kyotorphin,dynorphinなどである。

実験講座

脳切片標本を利用して得られた最近の知見

著者: 山本長三郎

ページ範囲:P.425 - P.429

 哺乳類の脳切片は,神経化物分野で古くから実験に用いられているが,神経生理学や薬理学的研究に広く使用され始めたのはほんのここ数年のことである。ここでは,この方法が開発された経過と最近までの研究を概観して,将来どのような実験にこの方法の特徴が生かされるかを考えてみたい。したがって,今回の実験講座はいつものように実験法のノーハウを記述するのではなく,いわば方法論とでもいう部類のものである。

単一クローン抗体のつくり方

著者: 真崎知生 ,   田中建志 ,  

ページ範囲:P.430 - P.436

 予め特定の抗原で免疫したマウスから採取した抗体産生能力を持つ脾臓細胞と,際限なく増殖し続けるという腫瘍細胞の特性を持ったマウス由来のmyeloma細胞を融合させ,試験管内でそれぞれの特性を持ち合わせた新しい腫瘍細胞をつくることが出来る。さらにこれをクローン化するとただ1種の抗体しか産生しない雑種腫瘍細胞(hybridoma cell)が得られる。この方法は1975年にKöhlerとMilsteinによって発表された1)。それまでは抗原を注射した動物から得られる抗体はたとえ1つの抗原分子に対する抗体であってもきわめて多種類の抗体を産生するいわゆるポリクローン抗体であったため,最近の免疫学,生化学などの分野での抗体を用いる詳細な研究の場合には,この抗体の多様性がその応用の限界となっていた。これに対してこの新しい技術開発によってもたらされた単一クローンのhybridomaが産生する単一クローン抗体は唯1つの抗原決定基を認識し,しかも唯一種の抗体(1つの抗原決定基に対しても何種類かの抗体が産生され得る)であることが期待され,その上hybridomaを培養し続ける,あるいはマウスの腹腔内へ投与することによって永遠に同一の抗体を多量に得ることの出来る可能性があるため,抗体を応用して研究するものにとってはこれはこの上もない強力な武器となり得る。

研究のあゆみ

蛋白質研究の回顧と展望

著者: 今堀和友

ページ範囲:P.437 - P.445

 Ⅰ.蛋白質と生気論
 まず初めに,蛋白質ということの歴史的な背景ですが,ドイツ語のEiweissは卵の白身という言葉からきたものです。一方proteinという言葉を最初に提案したのは,オランダのMulderという学者でありまして,彼が"Annalen"に出した「Zusammensetzung von Fibrin Albumin Leimzucker Leucin und S. W.」という論文の中で,蛋白質ということを初めて提案しています。しかしながら,それは本来はBerzeliusの示唆によるもので,1838年のBerzeliusからMulderへの手紙の中で,彼はproteiosというギリシア語からproteinという名前をつけようということを提案しています。すなわらessentialfor life,つまり生命にとって最も大切なものであるから,第一義的という意味でproをつけ,proteinと名づけるということを示唆している訳です。
 当時,ギリシア時代からずっとあった一種の生気論から出発して,蛋白質の中には当然Lebenskraft,すなわちvital forceというものが収められているだろうという考え方が存在していただろうと思います。事実,例えば1861年イギリスのGrahamは,溶液の中に溶けている溶質をcrystalloidとcolloidの2つに分けております。

講義

ヒト血小板の細胞運動

著者: ,   野尻修 ,   毛利秀雄

ページ範囲:P.447 - P.452

 チューブリンとダイニンの話題が続きましたが,私のお話しする系は,チューブリンの役割が比較的小さく,アクトミオシン系が関与しているものですから,そのつもりでお聞き願います。アクチン,ミオシンといえば,筋,粘菌,アメーバ,および動植物細胞における運動の基礎をなす高分子ですが,血小板は,多分この分野の研究対象としてもっとも新顔のモデル細胞系でしょう。血小板は,光学顕微鏡で観察するには小さすぎると思われていましたから,2〜3年前までは,誰も生きた血小板を念入りに調べようとは考えなかったからです。しかも今なお,生きた細胞の研究には,光学顕微鏡がほとんど唯一の手段なのです。電子顕微鏡による血小板の研究もなされてきましたが,誤謬をもたらした情報も少なからずありました。今私たちは,「血小板パズル」に,いくつかのまだ見つかっていない断片を付け加えようとしているところなのです。
 血小板について少し背景説明をしますと,血小板は,長骨の骨髄にある巨大核細胞の無核断片で,膨大な数が血液中を循環しており,人体生理上少なくとも3つの働きを持っています。第1は,血管系から血液が失われるのを防ぐ止血作用です。第2に,血栓形成に関与しています。これには,むろん,心臓発作の際の冠動脈血栓症や,ある種の卒中の他,外傷を受けた血管を塞ぐ血全形成も含まれます。第3は,血液凝固です。

話題

神経ペプチド研究の展望—第8回国際薬理学会およびシンポジウム「ペプチド神経伝達物質」に出席して

著者: 加藤武

ページ範囲:P.453 - P.458

 第8回国際薬理学会が1981年7月19日(日曜)から24日(金曜)まで東京の京王プラザにおいて開催された。筆者の興味がペプチドと生理活性モノアミンにあるためか,この学会も,また昨年ハンガリーで行われた国際生理学会も,ペプチド神経伝達物質(peptide neurotransmitter)またはホルモン物質に関する研究発表が多かったように思う。この国際薬理学会は2,000題を越す沢山の演題があり,筆者はその一端を見聞きしたのみであり,数多くの素晴しい研究を見逃し,または見聞しても充分理解していない点が多々あることを前もってお断りしつつ,本学会におけるペプチド神経伝達物質に関する発表を紹介しながら展望してみたい。

谷口シンポジウム「伝達物質受容体」

著者: 斉藤喜八

ページ範囲:P.459 - P.462

 第4回谷口財団国際シンポジウム脳科学分科会は,昨年11月10日から13日まで前回と同様にビワ湖畔の東洋紡績会社求是荘に於いて行われた。今回は"Neurotransmitter Receptor:Biochemical aspect and physiological significance"というテーマで吉田博先生(阪大・医・一薬理)をプログラム委員長として,柿本泰男(愛媛大・医・精神),鬼頭昭三(広島大・医・三内),栗山欣弥(京府医大・薬理),および高木博司(京大・薬・薬理)の4先生からなるプログラム委員による案で,アメリカから6人,フランスから2人,それに我々12人を含めた20人の参加者で行われた。
 谷口シンポジウムの設立目的などに関しては勝木先生が既に本誌で述べられているので省略する。今回も親睦をはかる意味で,シンポジウムに先立って11月9日には参加者全員による京都見学が行われた。当日は快晴で全員元気に新都ホテルを出発して午前中国立博物館と平安神宮を廻ったが,日本ははじめてという外人が殆どで日本庭園の美しさに感激し,茶会に参加する人もあった。昼食後,泉涌寺と醍醐寺を廻った後,5時頃にホテル・レークビワに入り翌日からのシンポジウムに備えた。

リン酸化カスケード仮説の真偽

著者: 林正男

ページ範囲:P.463 - P.466

 アメリカ東部,首府ワシントンD. C. 郊外の町ベセスダにあるNIH(National Institutes of Health)にきて1年半余り,全米をゆるがしている最近の「話題」を紹介したい。
 まずNIHとは,全米の医学生命科学研究開発費の43%(31億ドル)を費やすアメリカの医学生命科学研究開発の総元締めで,12の研究所,1つの病院,その他で構成されている(林・嶋武:生物物理,114:44,1981)。その中の最大の研究所,国立ガン研究所(National Cancer Institute)に私の所属する総勢93名(1981年8月1日現在)のLab. of Molecular Biologyがある。チーフは50歳のユダヤ系アメリカ人Ira H. Pastanで,彼直属のグループの他に7つのセクション(セクション1つが日本の1〜3講座分)を抱えている。その1つMembrane Biochemistryセクションが私の所属する総勢6名のセクションで,チーフは日系3世の37歳になるケンことKenneth M. Yamadaである。細胞表面及び血漿中に存在する大きな糖タンパク質フィプロネクチンの研究では世界の5指に入る人である。

談話 コンファレンス・ディナー研究集会

進化する脳(3)—古い脳

著者: 渡辺直経

ページ範囲:P.467 - P.471

 今日は,わたくしはべつに脳を研究したことがある訳ではございませんが,人類学の立場から脳の発達は人類の1つの特徴ですので,そういう意味で何か気楽に話せということで,お引受けした次第でございます。

コミニケーション

(Na+,K+)ATPaseの国際カンファレンス/行動の神経生物学—Cold Spring Harbor Course, June, 1981

著者: 福島義博

ページ範囲:P.471 - P.473

 今回で3回目になる(Na+,K+)ATPaseの国際カンファレンスがYale大学で8月17日から5日間ひらかれた。(Na+,K+)ATPaseのstructure,ligand(cardiac glycoside,ion,nucleotide,およびvanadate等)interaction,conformation change,reaction mechanism,ion translocation,biosynthesisと関連してimmunologyやこの酵素のmultiple forms,positive inotropyとendogenous glycoside,さらにdiseaseとの関係など計9つのセッションが設けられた。各セッションに2名ずつ(病気のセッションには無し)のlecturerが朝講演を行い,他は全てポスターによる発表であった。ポスターに基づいて各セッションの討論がそれぞれのchairmanのもとで2時間ほど持たれた。
 前回のカンファレンスが,(Na+,K+)ATPaseの発見の地Aarhus,Denmarkでひらかれたのは1978年であったが,それ以来この3年間で人目を引いた発見は何であったか。そのひとつはK. Sweadnerによる2種のα-サブユニット(触媒活性を持っているサブユニット)の発見であろう。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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