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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学33巻1号

1982年02月発行

雑誌目次

特集 細胞核 総説

核と核小体の微細形態

著者: 鵜沼直雄

ページ範囲:P.2 - P.9

 赤血球や血小板には核がない。核がないと蛋白合成を支配できず,その機能も限られ,1代で死滅する。核1,2)(nucleus)は遺伝情報をもつDNAをもち,それはRNAに転写されて細胞質へ運ばれ,蛋白合成をつかさどる。すなわち,細胞質リボゾームは核小体RNAからつくられ,メッセンジャーRNA(m-RNA)やトランスファーRNA(t-RNA)は核質でつくられる。このようにして核は細胞全体の構造を決定し,機能を支配する。核は核膜で境され,核膜には核膜孔があり,それは核と細胞質間の物質交換の場となる。核内DNAは形態学的にクロマチン(chromatin)となるが,電顕的に染色されて観察されるのはヘテロクロマチン(heterochromatin)であり,分散した形のクロマチン(euchromatin)はみることができない。細胞分裂の際にはクロマチンは集合して一定の形態をとり染色体(chromosome)となる。核は通常は円形ないし,楕円形であるが,さまざまな形を示すことがある。蛋白合成の盛んな場合,癌細胞などでは凹凸のはげしい複雑な形をとることが多い。遺伝物質が数倍多く含まれている核ではそれに応じて大きくなる。核と核小体の微細構造について,最近の知見を中心とし,特にその形態の示す意味を明らかにしながら述べる。

クロマチンならびに染色体の高次構造—ネットワーク連続構造

著者: 渡部真

ページ範囲:P.10 - P.20

 Ⅰ.細胞のネットワーク連続構造
 細胞学草創期のVon Mohl(1846)以来,最近の教科書や解説書に至るまで,細胞の基本構造体として,‘原形質protoplasm’をコロイド粒子の流動体とみなす既成通念は,いまだにはなはだ根深いものがある,しかしながらヒトをはじめとする高等動植物の細胞(真核細胞)の細胞核内ならびに細胞質内の基本構造は,原形質説が長年の間,暗黙の前提として想像していたような単なるコロイド状の流動体ではなく,微細な三次元網目状連続構造を骨組みとしていることが明らかになりつつある。
 すなわちコロイド状粒子からなると仮定されてきた細胞質の基質は,高分解能の超高圧電子顕微鏡その他によって最近明らかにされつつあるように,極めて細い(直径約6nm),タンパク質繊維からなる三次元網目格子(微細梁格子microtrabecular lattice)および微細な繊維束(微小管microtubuleなど),いわゆる‘細胞骨格cytoskeleton’を基本としている1〜4)

ヌクレオソーム構造と動態

著者: 倉科喜一

ページ範囲:P.21 - P.28

 真核細胞のクロマチンを形成している物質はDNA,塩基性蛋白質であるヒストン,ヒストン以外の非ヒストン性蛋白質と呼ばれる多種類の蛋白質,少量のRNAである。クロマチン構造は主にヒストンの結合によって決定されるから,その結合様式,結合していることの生理的意義などが1960年代を通じて研究されてきた。1970年代に入り,単離細胞核を低張処理して膨潤させて得たクロマチンの電子顕微鏡像1,2),ヌクレアーゼによる限定分解で得られるDNAの長さが約200塩基対の整数倍であるという観察3,4),ヒストン同士の会合性の性質,X線回折像5),ヒストン分子種の量比に関する考察6)などから,クロマチンはヌクレオソームと呼ばれる基本単位が繰り返している構造をとっていることが明らかにされた。全ての細胞のクロマチンがヌクレオソーム構造をとっていること.ヌクレオソーム構造などについてはいくつかの詳細な総説7〜9)が書かれているのでここでは.要点のみを記し,ヌクレオソーム形成部位とDNA塩基配列との関係(phasing),ヌクレオソーム構造の可変性について述べたい。

核内低分子量RNA(snRNA)の構造と機能

著者: 原田文夫

ページ範囲:P.29 - P.37

 真核生物の細胞核内には,tRNAやリボソームの5S及び5.8S RNAとは異なる4〜8Sの一群の低分子量RNA(small nuclear RNA, snRNA)が存在する。これらのRNAは十数年前に発見され1〜3),その後少数の研究者達によって細胞内での分布,生合成の様式,いくつかの分子種についての一次構造の決定などがなされて来た4〜7)。最近,snRNAの内のU1 RNAがmRNA前駆体中のイントロン(介在配列,mRNAが成熟する過程で除かれる部分)の両末端の配列と相補的な配列を有することから,このRNAがスプライシング(mRNA前駆体からイントロンを除去し,成熟mRNAになる機構)に関与する可能性が示唆され8,9),これを間接的に支持する実験10)も出るに及んで,大きな関心を呼ぶに至った。この様にsnRNAの研究は,遺伝子構造の解析の進歩に伴って最近最も発展した分野の1つである。
 本稿では,現在最も良く研究が進んでいる哺乳動物細胞のsnRNAについて主に話を進めて行きたい。尚,最近大島11)及び金久12)によって総説が発表されているので,参照されたい。

核膜と核マトリックスの構成と機能

著者: 上田潔 ,   中安博司

ページ範囲:P.38 - P.46

 真核細胞と前核細胞との差異は,なによりも前者において,遺伝物質を中心とする細胞の上部構造が核膜に包まれ,細胞質と区分されていることである。したがって,核膜とそれに連なる核内構造物の問題は,真核細胞の細胞生物学的および分子生物学的特徴を解明・理解するうえで避けられない課題にあげられる。
 ウニ卵母細胞における核膜の形態的特徴は,Afzelius(1955)1)により初めて明らかとなったが,その核は二重膜に包まれ多数の核膜孔が貫いていた,このような構造が核膜の一般的特徴であるが,核膜そのものの存在は電子顕微鏡が使える以前から顕微解剖により確かめられ,核の形態はこの膜で支えられているものと考えられていた。ところが最近にいたり,二重膜をはがした後にも核がその球状形態を保持し,核マトリックス(nuclear matrix)とよばれる構造物がこれを支えており,核膜の機能にとって重要と考えられる核膜孔装置(pore complex)もそこに残ることが判つた。

解説

中枢神経回路網の再構成

著者: 川口三郎

ページ範囲:P.47 - P.57

 脳を構成する神経回路網の可塑性は学習,記憶,代償機能といった脳の高次機能の成立基盤である。脳の高次機能をはじめて生理学の研究対象にしたと云われるPavlovは条件反射の脳内機序として当初からニューロン間の結線の可塑性を想定していた。かつて大脳皮質の機能はどこも等価であり全体として機能するという機能等価説,全体機能説が広く信じられていた。今日では大脳皮質の機能局在は疑いのない事実として認められているが,脳の部分的損傷によって障害された機能が時間の経過と共に回復する現象は機能局在説にとって説明し難いことであった。なぜなら神経病理学は既に損傷されたニューロンの再生が起こらないことを明らかにしていたからである。この困難に対して,Huhling Jacksonの階層構造説すなわち1つの機能が重層的に担われており上部の階層が破壊されても下部の階層が抑制から解放されて障害された機能を代償するとか,機能代替説すなわち障害された部位の機能を障害されなかった他の部位が肩代わりするとの説明が出された。後者の説明は皮質の各領野はそれぞれ特有の機能を発揮しながら潜在的には他の領野の機能を担う能力があると考えるものである。また別の説明としてはSperryによる行動代替説とか,Luriaらによる再訓練説が出されている。

蛋白質によるDNAのunwinding

著者: 吉田充輝

ページ範囲:P.58 - P.65

 Ⅰ.DNAの構造を調節する蛋白質
 DNAの変性が加熱,酸アルカリ処理,イオン濃度の減少,脱水,その他種々の物理化学的手段で起こることは古くから知られている。一方,最近の研究により,原核細胞,真核細胞を問わずDNAに結合し,その構造を変化させる種々の蛋白質が見出され,これらはDNAやクロマチン構造の保持,DNAの複製,組換え,転写およびそれらの調節との関連において注目を集めている。
 このDNAの構造を調節する蛋白質を大別すると,非酵素的に働くものと触媒としての酵素として働くものとに分けられる。非酵素的に働くものとして,真核細胞に存在するヒストンやある種の非ヒストン蛋白質,大腸菌のDNA結合性蛋白質Ⅱ1),H蛋白質2)等主として2本鎖DNA(以下dsDNAと略)に結合するものと,DNA unwinding蛋白質3),helix destabilizing蛋白質4),DNA melting蛋白質5),DNA extending蛋白質6),1本鎖DNA結合性蛋白質7)等と呼ばれる1本鎖DNA(ssDNA)に親和性の高い蛋白質とに分けられる。dsDNAに結合する蛋白質はDNAの構造維持に主として関与し,RNAポリメラーゼや調節蛋白質が機能しやすいようにその構造を保持するものと考えられる。

実験講座

走査型電子顕微鏡による細胞非遊離表面の観察とその三次元的組織構築研究への応用

著者: 上原康生 ,   藤原隆 ,   出崎順三

ページ範囲:P.66 - P.70

 最近の生物形態学への超高圧電子顕微鏡の応用や,急速凍結割断ロータリーレプリカ法の開発,コンピューターによる再構築法の導入は,超薄切片にもとづく通常の透過型電子顕微鏡的観察によっては得ることの出来ない三次元的生体構築や構造物間の有機的関連の解明を意図する新しい形態学の動向を示唆しているようである。
 走査型電子顕微鏡(SEM)は本来比較的簡便に細胞組織の表面構造と三次元的構築の観察を可能とする利点を持つものであり,透過型電子顕微鏡によっては非常に多大な労力と時間が要求される超薄連続切片による再構築法を補って余りあるものと考えられる。

話題

「第8回国際薬理学会」の話題

著者: 長尾拓 ,   佐藤公道 ,   小幡邦彦 ,   倉橋和義 ,   小西史朗

ページ範囲:P.71 - P.79

 Ⅰ.Ca拮抗薬について
 Ca拮抗薬は,強い冠血管拡張作用を有し,かつ,冠血管の攣縮を抑制することなどから狭心症の治療に用いられる薬物である。そしてCa2+の細胞内への流入を選択的に抑制する性質,特に心筋においてvoltage dependentなCa channelを選択的に遮断することが明らかにされて以来,生理学者から臨床家まで広範囲の研究者に興味をもたれている。今回,国際薬理学会で取り上げられたものも時宜をえているといえよう。
 第8回国際薬理学会におけるシンポジウムの1つとして,"Inhibitors of calcium fluxes"がベルギーのGodfraind教授と米国のSchwartz教授によってオーガナイズされ,また,サテライトシンポジウムの1つとして,"Symposium on calcium blocking agents:a novel intervention for treatment of cardiac disease"が前記Schwartz教授と平則夫教授によりオーガナイズされた。なお,後者はAmerican Heart Associationがcosponsorになっており,講演内容は後日Circulation Researchのsupplementとして刊行される予定。

コミニケーション

ダレムコンファレンスに出席して

著者: 塚原仲晃

ページ範囲:P.80 - P.81

 昨年11月29日から12月4日まで,西ベルリンのダレム高級研究所で,ダレムコンファレンスが開催され,出席する機会をえた。今回のテーマは「神経系の修復と再生」についてであり,48人の出席をえて,ベルリン郊外の閑静な住宅街にあるダレム高級研究所で行なわれた。
 ダレムコンファレンスの趣旨については,1977年の会に出席された東大伊藤正男教授のレポートがあるので詳しくは述べないが,特定のテーマを中心とした学際的および国際的な情報と意見の交換と,同時に,科学研究に関する集会の1つのモデルを提供することである。特に後者に関しては,今回の組織責任者であるスタンフォード大学のNichollsにより開会の冒頭に述べられた如く,ダレムコンファレンス形式の集会はアメリカでは1つのワークショップの形式として定着しモデル化されつつあるとのことであり,極めてユニークなものであった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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