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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学34巻2号

1983年04月発行

雑誌目次

特集 モノアミン系

中枢神経系におけるセロトニンニューロン系

著者: 佐野豊 ,   竹内義博

ページ範囲:P.82 - P.90

 前世紀の中頃から,多くの研究者によって,血液中に血管収縮作用をもつ物質が含まれていることが明らかにされ,高血圧症の成因との関連において,この不明の物質の抽出に向かって,多くの努力が注がれて来た。1948年,Rapport,GreenとPage49)は,ついにウシ血清からserum vasoconstrictorとして板状結晶を純化し,クレアチニンおよび硫酸部を除去したインドール部,すなわち5-hydroxytryptamineを,改めて"serotonin"と呼んだ。
 一方,VialliとErspamer(1933)73)は,ウサギの消化管粘膜にアミンが存在することを証明し,さらにErspamer(1940)17)は,この平滑筋収縮作用を有する物質が消化管に広く分布するenterochromaffin cellsで産生されていることを明らかにし,"Enteramin"と名付けた。しかし,後年,ErspamerとAsero18)は,このアミンがセロトニンと同一の物質であることを確認した。

モノアミン系と脳の発達

著者: 前田敏博

ページ範囲:P.91 - P.98

 脳内アミンニューロンの数は少ない。例えばヒトの脳では総数2〜30万個ぐらいと推定される。それらの神経突起が多数分枝して百億をこえる神経細胞と関係するのであるから,その影響は広範囲かつやや非特異的なものとならざるを得ない。神経伝達の様式で云えば,ある特定の興奮を伝えるのではなく,おもにそれを修飾,調節しているものと考えられる。私はこの様な系をmodulatory transmitting systemと呼んでいる。このような系は興奮の伝達に限らず,神経組織の代謝,形態の保持などまでもっと広く影響を与えているのではないかとさえ考えられる。
 一方その個体発生,系統発生をみると,ともに早期に出現,発達する。大脳皮質の発達においては,全く未熟な外套中にアミン線維が進入しシナップスを形成していく。まだ機能していない未熟ニューロンあるいは芽細胞群に,このmodulatingsystemが関わりを持つ理由は何であろうか? これは非常に面白い問題として取り上げられ多くの実験的研究がなされたが,最初予想されたほど明確な結果は得られず,巨視的な意味での形態形成への影響については否定的なものが多く,こまかくはシナップス形成の速さとか機能的分化などについて肯定的な成績が報告されている。考えてみれば,これがアミンニューロンの本質であるとも云える。

アミン産生細胞—特に副腎クロム親和細胞のオピオイドペプチドに関する電顕免疫組織化学について

著者: 小林繁 ,   内田隆

ページ範囲:P.99 - P.106

 生体にはアミンだけを分泌する細胞は存在しないと考えたほうがよい。アミンを分泌する細胞は同時に分泌性のペプチドを産生し,逆にペプチド分泌細胞には,原則としてアミンを代謝する能力が備えられている1,2)。「アミン産生細胞」と一般に考えられているものは,「伝統的にアミンだけが検出されていた細胞」および「分泌されるアミンの意義が解明された一方で,ペプチドに関しては作用が不明のままに存在そのものが過小評価されている細胞」である。
 ここで言うアミンおよびペプチドはいずれも生体の機能調節系におけるメッセンジャーとして分化・発達してきた物質である。生体の機能調節系は神経系と内分泌系を2本の柱とし,前者では情報が電気現象として神経線維(つまり細胞の突起)を経てすみやかに伝達される。一方,内分泌系では情報はホルモンによって伝えられ,これが血流を介して標的細胞に作用する。

ノルアドレナリンと視覚中枢

著者: 津本忠治 ,   佐藤宏道

ページ範囲:P.107 - P.116

 脳内視覚中枢──外側膝状体背側核(dorsal lateral geniculate nucleus,LGN),大脳皮質視覚領及び膝状体外視覚路の中心的存在である四丘体上丘──は,青斑核より豊富なノルアドレナリン(NA)線維の投射を受けていることが,1960年代に開発された組織螢光法1)等により明らかとなった2〜5)。それではこのNAはそれらの視覚中枢において如何なる働きをしているのであろうか?NAの微小電気泳動投与法により1960年代から70年代にかけて試みられた夥しい実験では,残念ながら,ある実験では抑制的作用が,次の実験では促通的作用が報告されたりして結果が一致せず,上記の疑問に対する明確な答を提出する事ができなかった。注意すべきことは,これらの実験はほとんど全てが視覚中枢ニューロンの自発活動あるいは薬物で誘発した活動に対するNA投与効果をみたものであり,視覚中枢ニューロン本来の機能である光反応性に対する効果を充分に解析したものではなかったという点である。このような観点に立ち,又新しいNA拮抗薬を用いての研究が1980年前後に精力的に行われ,現在,視覚中枢におけるNAの機能的意義の全貌がかなりの程度に迄明らかとなってきた。

モノアミン系の病態生化学

著者: 永津俊治

ページ範囲:P.117 - P.128

 モノアミン系は,カテコールアミン類のドーパミン,ノルアドレナリン,アドレナリンと,インドールアミン類のセロトニンを神経伝達物質とする神経系を総称する。カテコールアミン系はアミノ酸のチロシンよりドーパを経て1),インドールアミン系はアミノ酸のトリプトファンより5-ヒドロキシトリプトファンを経て2),芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素による脱炭酸反応により生成される(図1)。モノアミン系は神経伝達物質として脳と末梢神経の作用を介して広範囲な生理活性をもつので,神経疾患,精神疾患,高血圧などの循環器疾患などにおいて病態に重要な役割を果すと考えられている。
 最近,異型フェニルケトン尿症Ⅱ型,Ⅲ型(atypicalphenylketonuria typeⅡ and typeⅢ)のようなモノアミン系の生合成障害を来す新しい疾患が発見され,モノアミン系の病態生化学に大きい進歩がみられた。

実験講座

モノクローナル抗体とc-DNAプローベの神経科学への応用

著者: 山本三幸

ページ範囲:P.129 - P.136

 近年,神経系解析の手段として応用され,これからも多くの成果が期待される2つの方法が開発されている。1つはハイブリドーマによるモノクローナル抗体1,2)を用いるものであり,他の1つはcomplementary DNA(c-DNA)を用いる方法である。この稿では,神経系において,既に多くの研究報告のあるモノクローナル抗体法を中心に,特に神経系に特殊と思われる問題と,これ迄に得られている知見をまとめてみる。更に,応用は緒についたばかりではあるが,これからの発展が期待されるc-DNAを用いた方法について少し紹介したい。

生物試料のX線マイクロアナリシス—未固定新鮮試料による

著者: 高屋憲一

ページ範囲:P.137 - P.142

 X線マイクロアナリシスは,電子顕微鏡で像を観察し,電子ビームを試料の微小領域(最小で直径10nm)に当て,発生するX線を検出し,分光器によりスペクトルに分けて元素の分析を行う。試料の破壊無しに行うことが出来る。この方法はCastaing(1951)により考案され1),金属や材料の分野で広く用いられ,定性および定量的分析が高精度で行われている。生物試料は標本作製に多くの困難があるが,定性から定量的分析へとその応用が広げられている。従来の超薄切片を用いたX線マイクロアナリシスでは,主に高密度の微細構造,特に顆粒のCu,Zn,FeやCaを検出するのに有用であることが示され,さらにこれらの元素の定量的分析も行われている2)。しかし細胞内外に高濃度に存在するNa,K,Mg,Cl等の電解質元素の細胞内での分布の研究には,未固定の新鮮な試料を用いる必要がある。液滴3)や単離細胞4〜6)が定性および定量的分析に用いられて来た。しかし細胞内の微細構造レベルの定量的分析には切片で行う必要があり,新鮮未固定組織片の凍結乾燥切片や含水凍結切片を用いたX線マイクロアナリシスにより,いろいろな生理的および病的状態での電解質および金属元素の濃度の変化が研究されている7,8)

高分解能走査電子顕微鏡法

著者: 田中敬一

ページ範囲:P.143 - P.149

 走査電顕が実用に供されるようになって十年余りになるが,もともとこの器械は医学生物学用に造られたのではなく,集積回路の検査用として誕生した。従って分解能はそれ程要求されなかったし,又,理論的にも,電子線が試料にあたった後,その内で拡散することから,分解能の限度は30Å止まりとされ,透過電顕程には研究機器として期待されなかった。
 医学生物学への応用は,器械の出現後すぐに始ったのであるが,上述の理由から,光学顕微鏡と電子顕微鏡の間をつなぐもの,すなわち電子ルーペとして期待され,研究対象も主として器官,組織オーダーの構造が用いられた。無論,この領域においても,走査電顕は透過電顕と異なり表面構造の観察に有利であること,又3次元的な像を与える事などから,脾,肝臓などで新しい研究が行われた。

談話 コンファレンス・ディナー研究集会

脳と環境(1)—学校および社会環境の中での「脳」に関する意識発展

著者: 今堀宏三 ,   久保田競

ページ範囲:P.150 - P.160

 司会 最初のお話は,今堀宏三先生に,"学校および社会環境の中での「脳」に対する意識発展"ということがお願いしてございます。今堀先生は,われわれにとっては大変こわい先生でして,特定研究,「脳の動的神経機構」の審査委員長ということでして,われわれの首根っ子をぐっと押さえているお方です。
 先生は,広島大学の生物学科を戦争中にご卒業になり,ご卒業後,広島で原爆に遭っておられます。で,原爆障害をずっとお持ちのようでして,そのおかげでいろいろ変わった人生を歩まれたとお聞きしております。ご専門はシャジクモの研究でして,大変立派な英文の本をお書きであります。戦後は金沢大学へお移りになり,それから昭和35年に大阪大学の教養学部の教授になられました。以後,科学教育や生物の進化の問題に関係してこられたわけです。

コミニケーション

基質とカルシウム

著者: 山口寿夫

ページ範囲:P.161 - P.163

 近代病理学がVirchowの"Zelluläre Pathologie"を基礎としていることは衆知の事実であるが,その基本となる考え方は,細胞や細胞の集団の動態を総ての生体反応の基盤とし,それらを通じて生命現象や疾病のあり方を理解しようとするものである。他方これらの細胞の周囲を囲続する基質については,それが極めて形態学的にとらえ難いものであり,又均質的構造を有していることから,今日にいたるも尚病理学領域では比較的等閑視され,僅かに生化学的定量や各種の特殊染色によってその存在と性状の変化をうかがうにとどまって来た。しかしながら,生体反応に於ける細胞の役割はいうまでもなく不可欠な要因であるとしても,なお生体反応の場に於けるmediumとしての基質の役割を全く無視し得ず,今後この領域での研究はその重要性を益々増してくることは当然である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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