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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学34巻6号

1983年12月発行

雑誌目次

特集 蛋白質の代謝回転

蛋白質の代謝回転とその吟味

著者: 大村恒雄

ページ範囲:P.418 - P.424

 細胞内に存在する種々の蛋白質は,可溶性蛋白質も生体膜や細胞骨格などの構成成分となっている蛋白質も絶えず代謝回転している。細胞蛋白質の代謝回転は細菌を含む微生物から動物まで広く認められるが1,2),特に高等動物の組織については,酵素誘導が酵素蛋白質の代謝回転速度の変化によって起こる場合のあることがラット肝臓の酵素について1965年にSchimkeら3)によって報告されて以来注目を浴び,酵素誘導あるいは代謝調節を研究する際には関係する酵素について代謝回転速度を測定するのが通例となっている4)
 実験動物の臓器,特に肝臓については,これまでに数多くの酵素,蛋白質について代謝回転速度の測定結果が報告されている5)。しかし,全動物を用いての蛋白質の代謝回転の測定にはいろいろな問題があり,同じ臓器の同一の酵素についてかなり異なった測定値が報告されている例も多い。本稿では細胞蛋白質の代謝回転について簡単に解説した上で,実験動物を用いて細胞の全蛋白質または特定の酵素蛋白質の代謝回転速度を測定する場合の問題点について記述したい。

細胞内蛋白分解とリソゾーム

著者: 勝沼信彦

ページ範囲:P.425 - P.430

 本稿では細胞内蛋白分解の機構をlyoosomeの関与のしかたを中心にして分子レベルで考えてみたい。蛋白分解は当然,proteaseによるのであるが,細胞内proteaseは単に成熟蛋白の分解に関与するばかりでなく,前駆体型で合成されたものが,生物活性を持つ成熟蛋白・成熟ホルモンになる過程(processing)にも作用しているという新たな事実が加わった。
 従って,蛋白質のturnoverと言ってきた内容も変更する必要がある。合成と見ていたのは成熟蛋白までのプロセスを指しているので,前駆型から成熟型までのproteolitic stepsも含まれていることになる。即ち合成速度(Ks)のうちにはprocessingが含まれるわけで,今日まで狭義の合成ステップと見てきたtranscriptionとtranslationにprocessingを加えて,そのどこに律速段階があるか,病的な場合には,その何れに異常があるのかを分けて追求する必要があるようになってきた。

ライソソームと細胞内蛋白質分解

著者: 古野浩二 ,   加藤敬太郎

ページ範囲:P.431 - P.440

 ライソソームには,細胞内蛋白質をアミノ酸にまで分解するカテプシンと総称される一群の酸性プロテアーゼが含まれており,ライソソームは細胞内蛋白質の主要な分解の場と考えられている。ライソソームが細胞内蛋白質を分解する機作としてはautophagyが知られている1)が,autophagyでは,細胞内小器官を含む一部の細胞成分が膜によって隔離され,形成された自己貪食胞(autophagosome)にライソソームから分解酵素が供給されて分解が行われる。Autophagyに関する報告2〜6)は1960年以降になって数多く見られ,多くの細胞に普遍的に存在する現象であることが明らかになったが7〜10),その報告のいずれもが単に現象の記述に留まり,autophagyの制御機構,あるいはその生理的意義については長らく不明であった。最近,細胞内蛋白質分解に関する生化学的研究が活発になり,autophagyの誘起に関する知見が集積されるようになったが,その結果,アミノ酸の欠乏やグルカゴンによって誘起される細胞内蛋白質分解の亢進はautophagyによることが明らかになってきた。本稿では,このautophagyを介した細胞内蛋白質分解機構について最近の研究状況を述べ,概説を試みる。なおautophagyに関しては,主として形態学的な観点から書かれた総説11)があるので参考にされたい。

アセチルコリン受容体の代謝回転

著者: 城所良明

ページ範囲:P.441 - P.447

 我々は神経筋接合の形成に興味を持っており,長いこと電気生理学的に追求してきたが28),だんだんとアセチルコリン受容体そのものの性質,分布,代謝回転,制御などをもっと詳しく知らざるを得なくなってきた。したがって,我々は特に機能との関連において受容体の生化学的性質に興味を持っている。この綜説もその観点から書いてみた。もっと詳しい生化学的な記述は他の綜説を参考にしていただきたい2,22,26,41)
 神経筋接合形成の過程で神経は筋表面膜内のアセチルコリン受容体にたいしていろいろな作用をおよぼす。まず神経と筋が接触すると神経終末から放出されるアセチルコリンが受容体を活性化する。これが機能的神経筋伝達の開始である。ひきつづいて受容体の筋表面上での分布に劇的な変化がおこる.すなわち,それまで全体的に分布していた受容体が神経の接触した部分に集まってくる。これは受容体が膜中を移動しておこる現象であって,我々は神経によるアセチルコリン受容体の集合と呼んでいる。この時期では受容体は接合部も含めて代謝が速い。すなわち半減期が短く,ニワトリでは30時間ぐらいである。さらにずっと後になって(孵化後3週間)接合部の受容体は半減期がずっと長くなる(5日以上)12)

筋蛋白の代謝回転とその調節

著者: 石浦章一

ページ範囲:P.448 - P.456

 骨格筋蛋白質の代謝の研究は,1960年代のおわり頃より現在に至るまで隆盛をきわめているが,他の臓器での研究に比して遅れをとっているのが現状である。その理由としてまず第1にあげられるのが測定法の困難さである。骨格筋の中ではその50%が筋原線維を構成する構造蛋白質であるが,細胞骨格構造に組み込まれているため種々の方法で測定した代謝回転速度が真の蛋白質の代謝を反映しているのか,細胞内プールと構造との平衡速度を測定しているのかが明らかでない点が問題である。第2は一般的に骨格筋構成蛋白質は代謝速度が遅いため,アミノ酸の再利用が起こり,正確な速度論が使えないことで,これはin vivoの還流実験,in vitroの単離筋インキュベート実験,培養すべてについていえることである。第3は骨格筋細胞自体が線維状になっているため,細胞内小器官の分離がむずかしく,また電顕でのライソゾームの同定すら困難であるのが現状である。このため,骨格筋蛋白質が一度構造からほぐれてライソゾームにとり込まれるのか,ある程度の大きさの筋原線維断片がそのままライソゾームにはいるのかわかっていない1,2)
 しかしながら欠点ばかりでなく,長所も多い。その最たるものは,構造蛋白質の数が限られており,個々の性質がよく知られているため精製が容易であることで,比較的簡単に,しかも正確に比放射活性が測定できる点である。

核蛋白質の代謝回転

著者: 緒方規矩雄

ページ範囲:P.457 - P.465

 核蛋白質として最も典型的なものとしては,細胞質では,rRNAと共にリボソームを形成しているリボゾーム蛋白質であり,核では,DNAと共にヌクレオソームを形成しているヒストンであろう。動物細胞では,その他大部分のRNAが核蛋白(RNP)として存在することが知られている。mRNA(又はその前駆体)はmRNP(HnRNP)として,核,ポリゾーム,細胞上清に存在し,核内低分子RNAもRNPとして存在している。しかし,これらの代謝回転については未だよく研究されていない。このことは,RNAと特異的に結合する蛋白が尚明確でないこと等が原因と考えられるが,今後の研究に待つ分野といえよう。
 以上のことから,ここでは主として,リボゾーム蛋白とヒストンについての代謝回転や,それをもたらす生合成や分解についての知見を述べよう。

解説

神経再生の生化学

著者: 高坂新一

ページ範囲:P.466 - P.473

 神経系の再生機序を明らかにしてゆくことは,脊髄損傷,神経疾患等に苦しむ数多くの患者を背景に,世界的に重要な研究課題となっている。これらの研究には,sciatic nerve1〜3),dorsal root ganglion4,5),superior cervical ganglion6),hypoglossal nerve7〜9),spinal cord10,11)等さまざまな材料が用いられているが,ほとんどのものが形態学的アプローチにとどまっている12,13)。このことは,神経の再生機序を生化学的に追求することが,いかに困難であったかを如実に物語るものである。著者らは,神経系特に中枢神経系の再生をささえている物質的背景を明らかにすべく,金魚の視覚系を用いて生化学的な研究を進めてきた。即ち金魚の視神経を外科的に切断し,その後網膜内(視神経の細胞体であるganglion cell)での生化学的変化を検討してゆこうとするものである。金魚の網膜を実験材料とすることは以下の如き利点がある。
 ①哺乳類の中枢神経系は非常に再生しにくいが,金魚の視神経は中枢神経系にもかかわらず再生能力が良く保たれている。

実験講座

神経系のモノクローナル抗体

著者: 藤田忍

ページ範囲:P.474 - P.478

 生物学医学研究の手段としてのモノクローナル抗体(以下MAbと省略)の有効な利用は,この新技術の2つの特徴に基づくものである。
 その第1はいうまでもなく,MAbは抗原決定基特異性が単一であることによる。たとえばアセチルコリンリセプターに特異的なMAbを多数とると,そのあるものはα-バンガロトキシンと競合し,他のものはしない1)。あるいはあるウイルスに対するMAbを調べてゆくと,それ自体に中和活性がないのに中和抗血清の結合を妨げるものが見つかるので,そのような部位(抗原決定基)がウイルス表面に存在することがわかる2)。このように生体高分子の構造をMAbで触ってその機能を調べてゆくというアプローチが可能になった。このことだけでも従来の抗血清では考えられない進歩であるが,さらに重要なのは次の第2の特徴である。

話題

大脳基底核国際シンポジウム

著者: 吉田充男

ページ範囲:P.479 - P.481

 去る8月24日にTokyo Garden Paleceにおいて,「International Symposium on the Basal Ganglia」が開催された。組織委員として,順天堂大学楢林博太部教授,東京大学伊藤正男教授,それに筆者が加わって3名が当った。司会者と演者は以下の如くであった。
司会 酒田英夫先生(東京都神経研)Anatomy of the Basal Ganglia Dr.Ann Graybiel(Massachusetts工科大)Dr.Yasuhisa Nakamura(金沢大)司会 塚原仲晃教授(大阪大)Functional Aspects of the Basal Ganglia Dr.Marjorie Anderson(Washinton大)Dr.Mahlon DeLong(Johns Hopkins大)Dr.Mitsuo Yoshida(自治医大)司会 豊倉康夫教授(東京大)Substance Specificity of the Basal Ganglia Dr.Ichiro Kanazawa(筑波大) Therapeutic Topics on the Basal Ganglia Dr.Hirotaro Narabayashi(順天堂大)司会 伊藤正男教授(東京大)General Discussion

研究のあゆみ

電子顕微鏡細胞学事始

著者: 山田英智

ページ範囲:P.482 - P.488

 出発
 1954年(昭和29年)4月24日午後8時に横浜港を出帆してアメリカに向かった。新日本汽船の貨客船那知春丸の乗客は,私と同室の山梨大学のY助教授(醸造学専攻)と,別室の牧師D夫妻の計4名であった。前日まで多忙だった出発準備の疲れを癒すのには,連日波と空しか見えない退屈な船の旅は丁度良かった。D牧師夫妻から色色とアメリカ生活での注意事項を教えてもらったりした。4月30日には日付変更線を通過。"アリューシャンの南を過ぎて星の降る波のたけりに子の声を聞く"と家に打電。5月8日早朝に船は金門橋をくぐって桑港に着いた。ついで10日,オークランドから夜行の寝台車に乗り北上し,翌11日Seattle駅に着き,出迎えのBennett教授と初めて対面した。

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生体の科学 第34巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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