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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学35巻1号

1984年02月発行

雑誌目次

特集 細胞生物学の現状と展望

座談会 細胞生物学の現状と展望—第3回国際細胞生物学会議を迎えて

著者: 村松正実 ,   田代裕 ,   黒川正則 ,   江口吾朗 ,   石川春律 ,   野々村禎昭 ,   藤田道也

ページ範囲:P.2 - P.37

 石川 1984年8月下旬に東京で第3回国際細胞生物学会議が開かれます。本日お集まりの先生方は,その組織委員としても鋭意ご準備を進めていらっしゃるわけで,「生体の科学」の編集部としましても,細胞生物学の現状と展望というものを,この機会に討論してみたら意義深いのではないだろうかと考え,この座談会を企画させていただいたわけです。
 近代細胞生物学は,30年ほどの歴史を持っているといってもいいと思いますが,その研究領域は非常に広く,ほとんどlife scienceとオーバーラップするぐらいだと思います。これは細胞が生命の基本単位ということから考えますと当然のことでして,研究者の中には自分の研究が細胞生物学の領域に入るということをあまり意識なさらない方もたくさんいらっしゃると思います。そういう研究者も今度の国際会議では大勢参加され,討論していただけるだろうとその点にも大きな期待があります。

解説

植物細胞のHポンプ

著者: 三村徹郎 ,   新免輝男 ,   田沢仁

ページ範囲:P.39 - P.46

 I.起電性Hポンプ
 1)代謝依存性電位
 植物細胞(ここでは真核性の緑色植物細胞と菌類をいう)の原形質膜電位(外液に対する細胞質の電位)は,動物細胞が示す-80mV前後の値に比べてかなり大きく,-150〜-250mVになることが多い。一方,細胞膜を介してのKの拡散電位は-100〜-180mV程度であり,その差50〜100mVはイオンの不均等分布のみでは説明できない(表1)。Slayman(1965)37)はアカパンカビの,北里(1968)16)は車軸藻の膜電位が,CNやNaN3,DNPのような呼吸阻害剤で大きく脱分極することを見出し,植物細胞の膜電位には代謝依存性の成分があることを証明した(図1)。そしてこの成分は能動的にイオンを輸送する起電性イオンポンプにより形成されているものと考えられるようになってきた42)。呼吸依存性電位の存在は,藻類や菌類から高等植物に至る広範囲の植物細胞において証明されており,いずれの場合も100mV近い大きな値を示すことが多い7,11,23)
 一方,緑色植物細胞では,光による膜電位の変化が古くから知られていた(図2)1,25)。この現象は有効波長や阻害剤の実験から,光合成の関与した起電性ポンプの活性化による膜電位変化と考えられる。

生体高分子の分子構造(1)

著者: 長野晃三

ページ範囲:P.47 - P.58

 人間の体を構成している物質は約2/3が水で,あとは皮膚,筋肉,内臓,神経,骨格などを作る蛋白質や脂質,遺伝や蛋白質合成に深く関与している核酸,免疫に関係があるとされている糖質,その他に低分子量の有機物質や無機物質がある。これらの物質が時々刻々分解されて排泄されて行く一方で,食物として補給されて動的な平衡状態が保たれていること,さらにそのような系が複製されて増える機構を備えているとき生命と呼ばれる。このような物質の流れも大切であるが,ある時間の一断面で生命がどのような部品から構成されているかを調べることも重要である。しかしながら,それらの物質をビーカーの中で混ぜ合わせるだけでは生命は生じない。個々の物質は関連する物質と特異的な結合をして有機的な構造を作っている。生命に関する構造の研究は,医学史によれば解剖学の発達に伴う器官とか組織の構造から始まり,顕微鏡の発明による細胞構造の知識の蓄積,さらに電子顕微鏡の進歩発達によりそれらの知識は次第に微細構造に及んで,今日では蛋白質や核酸分子を直接眺めることも出来るようになった。
 一方で化学の発達は物質を純粋に分離し,同定し,それらの物質同志を関連づけるのに分子構造という概念をもつに至った。

実験講座

培養細胞の全載標本観察法

著者: 会津清英

ページ範囲:P.59 - P.65

 1945年にPorterら25)が,ニワトリ胚からの培養線維芽細胞を四酸化オスミウムの蒸気で固定後,五酸化燐を置いた容器内で乾燥して,いわゆる全載標本を直接電子顕微鏡で観察した。この標本で,核,核小体およびミトコンドリアなどを確認すると共に,lace-like reticulumの像を得たが,これは後の小胞体の発見へとつながる。しかし,この観察方法は,その後花々しく発展した超薄切片法の陰にかくれてあまり広まらなかった。それは標本乾燥の段階での細胞の著しい変形や,電子線の不十分な透過能力などのためであり,またPorterとStearns26)によれば,電子顕微鏡というよりは,当時の培養手技上の制約からであった。それから30年を経てBuckleyとPorter5,6)は,再びこの全載標本観察法によってすばらしい電顕像を示した。すなわち,全載標本とした結合組織性培養細胞をAnderson2)が開発した臨界点乾燥法により乾燥し,試料傾斜装置を備えた超高圧電顕で立体的に観察したのである。そして,これまで超薄切片法では,その切片の薄さ故に,または包埋剤とのコントラストがないために見過ごされてきた細胞質の三次元的網目構造に注目し,その意義を強調した。この網目構造は,続いて行われたWolosewickとPorter38〜40)の多くの対照実験によってその存在がゆるぎないものとなってきている。

研究のあゆみ

群馬大学における嗅覚の神経生理学的研究の30年—私の選んだ道

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.67 - P.79

 研究の発端—序にかえて
 私が昭和29年10月,シカゴに行き.ガラス管微小電極の考案者として当時誰一人知らない人のなかったDr. R. W. Gerardの研究室に到着すると,そこには現九州大学教授の大村裕君が先に行っていて,一緒に研究することになった。Gerard教授から与えられたテーマはカエルの嗅球に現われる不規則な脳波が1滴のニコチン液(0.1〜0.5%)によって6/secの規則的な律動波に変わるが,この現象のメカニズムを彼の微小電極を用いて解明せよというものであった。この研究は1938年以来J. Neurephysiol,その他にLibet & Gerardの名で発表されていて,その頃には大変有名な研究であった。早速2人でやってみると,人間の脳波で言えば,β波がニコチン液でたちまちα波に変化するといった見事な現象が起こった。そこで,その後の約10カ月間,表面の脳波と嗅球内の細胞活動との間の相関を調べたが,ある程度の成果を得たところで中断し,遂に論文としてはまとまらなかった。しかし,この研究が私のライフワークを決定することになった。そこで昭和32年3月,帰国して群馬大学に赴任し,新設の第2生理学教室で嗅上皮の電気活動の研究を開始した。現時点で回顧すると,今までに行われた研究は四つに区分できる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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