icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学35巻3号

1984年06月発行

文献概要

特集 神経科学の仮説

仮説のすすめ

著者: 村上陽一郎1

所属機関: 1東京大学教養学部科学史

ページ範囲:P.162 - P.166

文献購入ページに移動
 Ⅰ.我は仮説を造らず
 科学一般のなかで,"仮説"と聞くと誰でも思い出すのはニュートンの言葉だろう。"我は仮説を造らず"(hypotheses non fingo)という言葉は,科学が経験主義の上に立っていることの厳然たる表明であり,経験的科学のマニフェストとして永らく語りつがれてきた。
 しかし,多少歴史的な事情に立ち入ってみると,実はニュートンのあの言葉は,どうも必ずしも額面通りではないらしい,ということがわかってくる。そもそも,この言明が掲載されている『自然哲学の数学的原理』(Principia mathematica philosophiae naturalis)のなかには,実に数多くの仮説が使われているのだ。ニュートンは,「我は仮説を造らず」の言明の箇処で,「現象から導き出すことのできないもの」と定義した上で,それは「実験哲学においては所を得ることができない」と宣言する。しかし,例えば,この書物の中で提案されている有名な一つの概念,すなわち絶対時間(絶対空間)を取り上げてみよう。彼はその定義として,外の世界に全く関わりなく,一様に一方向に流れる時間という概念規定を与えている。これは何としたことか。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら