実験講座
サポニンモデルと細胞内運動機序—神経軸索輸送を中心にして
著者:
後藤秀機1
竹中敏文2
所属機関:
1岩手医科大学医学部第1生理学講座
2横浜市立大学医学部第1生理学講座
ページ範囲:P.232 - P.239
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細胞内の現象やその機構を研究するためには,形質膜を越えて細胞内での薬理実験を実現したいところである。そのような目的から各種薬物を毛細管で細胞内注射したり,薬物を詰めたリポソームや赤血球ゴーストを細胞膜に融合させて薬物を細胞内に拡散させたりする手法がとられている。細胞内注射の欠点は,細胞内微小キャピラリーなどの特殊な技術と道具が必要で,巨大細胞はともかく,数十μm以下の一般の細胞への細胞内注入となると容易でない。しかも,注入した薬物が細胞内で必ずしも一様に分布せず,時には薬物が生理機能を現わす前に細胞内構造によって吸着されるためか,たびたび矛盾した結果を与えてきた1)。リボソーム法は,以上のようなmicromanipulationの難しさは無いものの,膜融合の細胞生物学的機構が不明で,その細胞の形質膜に応じてリボソームの脂質の種類を変える必要があるなど,任意の細胞に応用できるとは言えない現状である。
一方,形質膜を化学的に除去したり孔を開けたりして膜障壁の無い細胞モデルを得る方法(chemical skinningor permeabilization)は,形質膜一般に応用でき,薬物の均一な分布が期待できる上に,小さな一般細胞にも使えるという利点もあるので,最近いろいろな細胞について発表されるようになった。ここでは,サポニン処理について解説する。