特集 ゲノムの構造
H+-ATPase遺伝子の構造
著者:
能見貴人1
金沢浩1
二井将光1
所属機関:
1岡山大学薬学部微生物薬品化学
ページ範囲:P.250 - P.254
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生細胞において大部分のATPは酸化的リン酸化または光リン酸化によって合成されている。リン酸化反応を触媒する酵素はH+-ATPaseと呼ばれ,ミトコンドリア内膜,細菌細胞膜,葉緑体チラコイド膜などに普遍的に存在している。いずれの場合も電子伝達鎖によって膜内外に形成されるH+の電気化学的ポテンシャル差と共役してATP合成を行っている。H+-ATPaseは膜表在性のF1と膜内在性のF0から成り,それぞれα,β,γ,δ,εおよびa,b,c(大腸菌の場合)のサブユニットから構成される複雑な膜蛋白質である。1960年に初めてF1がウシ心筋ミトコンドリアから精製され,以来ATP合成反応を担う実体としてF1F0が明らかになってきた1)。現在ではH+-ATPaseの分子レベルでの反応機構,すなわちH+の輸送に共役したADPのリン酸化をアミノ酸残基のレベルで理解する方向に研究が進められている。このような研究のためH+-ATPaseに関する基本的な情報として分子量約50万という本酵素の全一次構造の決定は不可欠であった。以上のような観点から筆者らは本酵素の遺伝子の全塩基配列を決定した。その結果,各サブユニットの一次構造が明らかになり,構造遺伝子の配列が確定した。また遺伝子の発現に関しても新しい知見が得られた。本稿ではこのように遺伝子の側からF1F0について得られた知見をまとめる。