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実験講座
コバルト—リジン複合体による細胞染色
著者: 松本修文1
所属機関: 1大阪大学基礎工学部生物工学科
ページ範囲:P.304 - P.308
文献購入ページに移動 I.コバルト—リジン複合体の開発とその意義
塩化コバルトCoCl2による細胞染色の方法がPitmanら1)によって発表されたのは1972年のことであった。この方法は主として無脊椎動物に適用されてきたが,Székelyのグループは脊椎動物の神経系に細胞外注入法を適用して,いくつかの成果を得てきた2〜4)。しかしながら,CoCl2の軸索内輸送はせいぜい6〜10mmで,しかも電顕的には重大な欠陥があることが指摘されている。また,細胞内注入の適用については,電極抵抗が高すぎるため,先端を太くしても細胞内記録の可能な無脊椎動物の大きな細胞に限られていた。CoCl2法のこのような欠点が指摘される中で,HRP法が急速に広まり,この方法は脊椎動物の中枢神経系の研究の中では,ほとんどかえり見られない状態であった。
Gallyasら5)は,CoCl2法における2価のコバルトイオンに毒性があるため,長距離の輸送を困難にしているのではないかと考え,Co2+の複合化合物としてCo2+-lysine(cobaltous lysine)複合体を開発した。そして,Lázár6)はこの複合体をカエルの網膜—視蓋投射に適用して輸送距離をのばすことに成功した。その後Görcsら7)は3価のコバルトの複合化合物,Co3+-lysine(cobalticlysine)複合体を開発して,Co2+-lysineよりもはるかに長い輸送距離を実現した。
塩化コバルトCoCl2による細胞染色の方法がPitmanら1)によって発表されたのは1972年のことであった。この方法は主として無脊椎動物に適用されてきたが,Székelyのグループは脊椎動物の神経系に細胞外注入法を適用して,いくつかの成果を得てきた2〜4)。しかしながら,CoCl2の軸索内輸送はせいぜい6〜10mmで,しかも電顕的には重大な欠陥があることが指摘されている。また,細胞内注入の適用については,電極抵抗が高すぎるため,先端を太くしても細胞内記録の可能な無脊椎動物の大きな細胞に限られていた。CoCl2法のこのような欠点が指摘される中で,HRP法が急速に広まり,この方法は脊椎動物の中枢神経系の研究の中では,ほとんどかえり見られない状態であった。
Gallyasら5)は,CoCl2法における2価のコバルトイオンに毒性があるため,長距離の輸送を困難にしているのではないかと考え,Co2+の複合化合物としてCo2+-lysine(cobaltous lysine)複合体を開発した。そして,Lázár6)はこの複合体をカエルの網膜—視蓋投射に適用して輸送距離をのばすことに成功した。その後Görcsら7)は3価のコバルトの複合化合物,Co3+-lysine(cobalticlysine)複合体を開発して,Co2+-lysineよりもはるかに長い輸送距離を実現した。
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