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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学35巻6号

1984年12月発行

雑誌目次

特集 細胞毒マニュアル—実験に用いられる細胞毒の知識

著者: 編者

ページ範囲:P.400 - P.400

 「生体の科学」の本年度最終号は,「細胞毒マニュアル」と題した倍大の特集をおとどけする。今後,毎年1回,このような倍大特集号を出す予定にしているのでご期待いただきたい。
 近年,細胞の機能に関するわれわれの理解は急速に深くなっている。これには,細胞,ひいては生体にとって毒作用をもつ物質の幅広い応用によるところが極めて大きいと思われる。これまで,個々の毒物質についての解説や応用論文は実に多数あるが,マニュアルとして取り扱ったものはほとんどないようである。したがって,今回「生体の科学」としては,細胞研究において有益な「道具tool」としての毒物質をまとめてみることは有意義なことと考え,本特集を企画した。

神経系に作用するもの 軸索・興奮性膜作用薬

テトロドトキシン

著者: 楢橋敏夫

ページ範囲:P.402 - P.404

 ■特性
 テトロドトキシンはフグの卵巣および肝臓に含まれている神経毒で,特に日本では長年にわたってその一般薬理作用が研究されてきた。1960年代に楢橋ら1)によってそのNaチャネルに対する選択的かつ強力な阻害作用が証明されて以来,神経生理,薬理学でtoolとして広く使われてきている2)

サソリ毒

著者: 岡本治正

ページ範囲:P.405 - P.407

 ■種類,構造
 神経,筋など興奮性細胞に存在するNaチャネルに作用を有することが知られているサソリ毒の一覧を表1に挙げた。いずれもアミノ酸60ないし70個よりなる塩基性ペプチドで,3または4の分子内S-S結合を有する。既知のアミノ酸配列を図1に示す1,2)。配列の高い相同性,特にシスチンに関するそれ(図1に□で示す)が印象的であり,一次配列ばかりでなく,S-S結合に基づく高次構造にも高い相同性のあることが示唆される。

ベラトリジン

著者: 楢橋敏夫

ページ範囲:P.408 - P.409

 ■特性
 ベラトラム(veratrum)アルカロイドはVeratrum,Zygadenus,SchoenocaulonなどLiliaceae科に属する植物に含まれており,古くは抗高血圧剤としても使われた。神経線維を刺激して反復興奮を起こさせる。この反復興奮は膜のNaチャネルが開いて脱分極するために起こるもので,現在ではこのNaチャネル刺激作用のためにtoolとして実験に広く使われている。たとえばシナプトゾームのNa influxに対する他の薬物の作用を調べるためには,ベラトリジンによってあらかじめNa influxを増加させておいて測定を容易にすることができる。

DDT

著者: 村上誠

ページ範囲:P.410 - P.411

 ■特性
 DDTの殺虫作用は1939年に発見され,その昆虫に対する強い毒性,ヒトおよび動物に対する低毒性,広い殺虫スペクトル,残効性,製剤化および散布法の容易さ,低価格の故に最も著名な殺虫剤の一つとして広く用いられるようになった。特にマラリアの流行阻止に果たした功績は大きい。しかし,生態系において分解されにくく,環境に長く残留する性質を持っているため,特に欧米およびわが国などの先進諸国では強い批判にさらされるようになった。

バトラコトキシン(矢毒カエル毒)

著者: 徳山孝

ページ範囲:P.412 - P.413

 南米コロンビア,サンジュアン川,サイジャ川流域に棲息する矢毒蛙,Phyllobates aurotaeniaおよびP. Terribirisの皮膚抽出物より得られた毒成分の一つである。バトラコトキシンはLD50,2μg/Kg mice s. c. に示されるように,非常に強い神経毒であって,明らかに心臓に作用して不整脈,心臓停止に至らしめる。化学構造式(1-1)に示されるように,ステロイド系アルカロイドに属する。ステロイド部分には,強心配糖体類と共通した構造のほかに,篭型骨核を持つなど特異な構造を有するが,とりわけ20-α-2,4-ジメチルピロール-3-カルボン酸エステルであることは大きな特徴である。バトラコトキシンの強い毒性の発現はこの部分によると考えられる。すなわちバトラコトキシニンA,毒成分の一つで,ステロイド塩基部自身(1-2)の毒性はLD50,1,000μg/kgであり,このカルボン酸部を種々変換したものの毒性が,ほぼ両者の間に分布することから明らかである。20α-2,4,5-トリメチル-3-ピロールカルボン酸エステルの場合,バトラコトキシンの毒性の2倍という値が得られた。なかでも20-α-安息香酸エステルがバトラコトキシンとほぼ同程度の毒性ならびに生理活性を示すことが見出されたのは,試薬自身の安定化,部分合成の容易さからも極めて興味深い。

グラヤノトキシン

著者: 瀬山一正

ページ範囲:P.414 - P.416

 グラヤノトキシン類は四環性ジテルペンでツツジ科(Ericaceae)植物に広く含まれている生物毒である。動物に対し毒性を持つ誘導体は特に新芽の中に多く含まれている。グラヤノトキシンの毒性に関する記録は,古くはXenophonの著わした「The Persian Expedition」の中にアレクサンダー大王の東征途上ギリシャ兵が村で調達した蜂蜜で中毒した記述として残っている。日本でも東北地方ではハナヒリノキ(Leucothoe grayana Max.)の葉を乾燥させて苗代のユリミミズ駆除に利用していた。

Toxins Isolated from Sea Anemone Anthopleura

著者:

ページ範囲:P.417 - P.420

 ■Introduction
 Neurotoxins have been isolated from a variety of sea anemone species and have become useful tools in physiological, pharmacological and biochemical studies.
 It has been known for a decade that a polypeptide from the Bermuda anemone Condylactis gigantea, greatly prolongs the closing(inactivation)of Na channels in crustacean(but not squid)axons.These, and other, effects can now be associated with specific polypeptides from several coelenterates.Many neurotoxins are also cardiotoxins.

Ciguatoxin

著者:

ページ範囲:P.421 - P.423

 ■Introduction
 Among a number of toxins found in marine organisms, some are direct threats to public health as they are responsible for food poisoning caused by ingestion of marine products.The most serious and urgent among these poisonings in the tropical and subtropical Pacific is the sporadic outbreak of human intoxications from eating various species of fishes from tropical coral reefs.This phenomenon is known as ciguatera.
 Ciguatoxin(CTX)is a toxic substance which is extracted from a variety of fish inhabiting tropical and subtropical seas(Scheuer et al.,1967).

マンダラトキシン(スズメバチ毒)

著者: 阿部岳

ページ範囲:P.424 - P.425

 ■特性
 マンダラトキシン1)はスズメバチVespa mandariniaの毒中に含まれる神経毒である。分子量が約20,000の塩基性蛋白質(等電点9.1)で,リジン残基に富んでいる。マンダラトキシンは神経膜へ特異的に作用し,そのナトリウムイオンの流れを不可逆的に阻害する。また,マンダラトキシンは神経伝達を阻害する濃度(10−6Mol)では溶血作用,エステラーゼ活性,ホスファターゼ活性,ホスフォリパーゼ活性,プロテアーゼ活性がみられない。

アパミン

著者: 山中清一郎 ,   栗山煕

ページ範囲:P.426 - P.428

 古くからハチ毒には中枢神経興奮作用があることが知られていた。HahnとLeditschke(1936)はハチ毒をセロハンで漉した成分がマウスにけいれんを発生させると報告し,またGerlich(1950)はハチ毒の投与によりマウスの物理的刺激に対する感受性を増し,barbiturateによる睡眠時間を短縮すると述べている。HabermannとReiz(1965)はハチ毒を,生化学的方法によりhyaluronidase,phospholypase Aとpolypeptideに分離し,更にこのpolypeptideから低分子の塩基peptideを分離しこれをアパミン(apamin)と名付け,このアパミンに中枢神経興奮作用があると報告した。彼らはまた,アパミンのアミノ酸組成についても分析した。この結果はShipoliniら(1967)により追試され,彼らにより三つの主なpeptideの構造が決定され,更に遊離arginineの存在も確認された。
 そしてHauxら(1967)やCallewaertら(1968)により二つのdisulphide bridgeの位置が決定された。

ホスホリパーゼC

著者: 池沢宏郎

ページ範囲:P.429 - P.431

 ホスホリパーゼC(phospholipases C)は,生体膜を構成しているグリセロリン脂質やスフィンゴミエリンを加水分解する酵素の中で,リン脂質の疎水性部分と親水性部分(polar head)の間のリン酸ジエステル結合を切断する一群の酵素の総称である。これらの酵素は,基質特異性の点から,ホスファチジルコリン分解型,スフィンゴミエリン分解型,ホスファチジルイノシトール分解型の3種に分類することができる。通常ホスホリパーゼCと呼んでいるのは,ホスファチジルコリン分解型の酵素であり,この酵素で細菌由来のものが神経軸索や興奮性膜に作用する毒素として知られている。本酵素は,ホスファチジルコリンやホスファチジルセリンなどのホスファチドを,次のように加水分解する1,2)
 本酵素の代表的な基質はホスファチジルコリンであるが,Clostridium perfringens(Cl.welchii)の酵素のように,スフィンゴミエリンを次のごとく加水分解できるものもある2,3)

神経終末作用薬

β-ブンガロトキシン

著者: 阿部輝雄

ページ範囲:P.432 - P.434

 ■構造と性質
 β-ブンガロトキシンは,α-ブンガロトキシンと同様に,アマガサヘビ(Bungarus multicinctus)粗毒中に存在する神経毒素である。分子量21,500の塩基性(等電点9.5)蛋白質で,ホスホリパーゼA2活性を有する。この酵素活性にはCa2+が必須である。1Mのβ-ブンガロトキシンあたり1MのCa2+が結合し,そのKdは1.5×10−4Mである。他の2価の金属イオンはほとんど無効である。蛇毒中に存在するものも含めて,ホスホリパーゼA2は一般に神経毒性が弱いが,β-ブンガロトキシンのマウス1匹あたりの致死量は0.2μg程度であって,きわめて強い神経毒性を示す。
 β-ブンガロトキシンは120残基のA鎖と60残基のB鎖から成っており,両者はS-S結合で結ばれている。A鎖およびB鎖の一次構造を図1に示す。A鎖は,他の蛇毒および膵臓のホスホリパーゼA2に類似した一次構造を持ち,β-ブンガロトキシンのホスホリパーゼA2活性は,おそらくA鎖によって発揮されているものと考えられる。A鎖のN末端から48番目に位置するヒスチジン残某基は他のホスホリパーゼA2にも共通しており,活性中心の一部を成している。

黒後家グモ毒

著者: 川合述史

ページ範囲:P.435 - P.437

 ■特性
 黒後家グモ(Black widow spider;Latrodectus mactans)の毒腺中に含まれる神経毒(Black widow spider venom),またその精製成分α-latrotoxinは化学伝達シナプスに作用して伝達物質の過剰の放出と喪失(depletion)を起こす。

ボツリヌストキシン

著者: 久保周一郎

ページ範囲:P.438 - P.439

 ■分類
 ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の産生するボツリヌス毒素は抗原性の相違によりA,B,C1,C2,D,E,FおよびGの7型8種に分類されている1)。これらの毒性はいずれも現在知られている毒素のうちで最も強く,一つの菌株は一つの型の毒素だけを産生する。しかし,C型およびD型菌は1グループを形成し,抗原性の異なる3種の毒素(C1,C2,D)を産生すると考えられており,C1型毒素を最も多量産生する菌はCα型,またC2型あるいはD型毒素を最も多量産生する菌はそれぞれCβおよびD型毒素と命名された2,3)。最近,C1,C2およびD型毒素が精製され,それぞれの構造および生物活性が検討された結果,C2型毒素の構造はC1およびD型毒素のそれとは異なり4,5),さらにC2型毒素は神経組織には作用せずボツリヌス神経毒素の範疇には属さないことが明らかにされた6,7)。また,精製C1およびD型毒素に対する単クローン性抗体とそれぞれの毒素との交叉反応性から,C1およびD型毒素間には多くの共通抗原部位が存在することが判明した8,9)

6-ハイドロキシドーパミン

著者: 樋口宗史 ,   吉田博

ページ範囲:P.440 - P.442

 ■特性
 6-ハイドロキシドーパミンはドーパミンの水酸化物でノルエピネフリンの異性体にあたる。1967年にTranzerとThoenenによって,末梢交感神経の神経終末叢に対する破壊作用が発見された。DAに関係したpolyphenol化合物の中では,特に大きな負の酸化還元電位を持ち,非酵素的に自動酸化をおこして分解しやすい。特にアルカリにおいて酸化されやすく,p-quinone構造に変化した後,水酸基フリーラジカルなどを産生する。安定性のため,塩酸塩,臭酸塩として用いられるが,これらの塩も空気中の酸素で酸化されやすい。これらの塩は吸湿性があり,水に中等度溶ける。融点は211〜212℃(臭酸塩)である。

テタヌストキシン

著者: 松田守弘

ページ範囲:P.443 - P.445

 ■特性
 テタヌストキシン(Tetanus toxin,破傷風毒素)はグラム染色陽性の嫌気性芽胞形成桿菌である破傷風菌Clostridium tetaniが産生する蛋白毒素で,神経毒である。テタヌス(Tetanus,破傷風)は,毒素性感染症(toxiinfection)の典型の一つであり,致死率が極めて高く(30〜80%),治療の最も困難な病気の一つで,近年の年間死亡数は,世界で約100万人と推定されている。テタヌストキシンは,この破傷風の病原因子である。破傷風菌が産生するもう一つの毒素であるテタノリジン(溶血毒,心臓毒)と区別して,厳密にはテタヌストキシンを破傷風神経毒素(tetanus neurotoxin)とよび,またその中毒症状の特徴にちなんで,ときにテタノスパスミンとよんでいる。テタヌストキシンは,ボツリヌス神経毒素と並んで,これまで知られている天然および人工のあらゆる毒性物質の中で最も毒性が高い。

カプサイシン

著者: 小西史朗

ページ範囲:P.446 - P.448

 ■特性
 カプサイシンは植物成分に由来する神経細胞毒の中でもユニークなものの一つである。カプサイシンが作用する神経細胞の種類はかなり限られている。数多くの神経細胞群のうち,カプサイシンはある種の一次感覚神経細胞(primary sensory neurons)に選択的に作用して各種の薬理効果を発現すると考えられている。このような理由から,カプサイシンは特定の生理学的反応に関与する感覚神経の役割を明らかにする目的で用いられている。また感覚神経に含有される神経ペプチドの機能的役割を解明するための薬理学的手段として,カプサイシンの有用性が注目されている。特に植物から得られた天然化合物の中で,ペプチド含有神経系に影響を与えるものとしてカプサイシンは稀少な例である。作用の性質や作用機序について未解決の問題が残されているものの,カプサイシンは特異的神経毒として興味深い物質である。実験的応用について主に注目してカプサイシンの性質を要約する。詳しい性質に関する文献は,最近のカプサイシンについての広範囲に及んだ包括的総説1〜3)の中に見出すことができる。

シナプス後膜作用薬

α-ブンガロトキシン

著者: 葛西道生

ページ範囲:P.449 - P.451

 α-ブンガロトキシンは台湾に棲息するアマガサヘビ(Bungarus multicinctus)の毒腺中に存在する神経毒で,神経筋接合部などのニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)に特異的に結合して神経伝達を阻害する毒蛋白である。この性質を利用し,nAchRの同定,精製,単離が行われている。

女郎グモ毒

著者: 川合述史

ページ範囲:P.452 - P.454

 ■特性
 女郎グモ毒腺中に見出されたグルタミン酸作動性シナプスに対する特異的遮断物質である。

コンカナバリンA

著者: 篠崎温彦

ページ範囲:P.455 - P.457

 ■特性
 植物レクチンのコンカナバリンA(Con A)は赤血球やグリコーゲン,デキストランなどの多糖類と凝集沈降反応を起こし,またメチル-α-D-マンノピラノシドやメチル-α-D-グルコピラノシドのような単糖グリコシド誘導体に対しても極めて特異的な結合をする。この二つの単糖グリコシド誘導体に共通していることは,2位炭素以外の全骨核原子における置換基の立体配置が全く一致していることであり,これはまたそれぞれ凝集反応を起こす多糖類の非還元末端残基に対応している。このように,Con Aは極めて特異的に一定の糖構造と結合することが明らかにされたのに伴い,これを用いて生理学的,生化学的に多方面の研究が進み,Con Aの各様の生理活性が報告されるに至っている。この項ではシナプス後膜に対する作用に限定して解説する。神経伝達物質の受容体は糖蛋白も関与していると考えられることから,伝達物質応答に対するCon Aの作用が調べられ,特に興奮性神経伝達物質の有力な候補であるグルタミン酸による受容体の脱感作(desensitization)を抑制することが報告された。グルタミン酸が受容体に長い間(おそらく5msec以上)作用し続けると,グルタミン酸が存在するのにもかかわらず,グルタミン酸に対する受容体の反応が低下(desensitization)する性質がある。

クラーレ

著者: 鷲尾宏

ページ範囲:P.458 - P.460

 ■特性および構造
 クラーレとは南米インディアンが用いた種々の矢毒の総称でありStrychnos(フジウツギ科)やChondodendron(ツヅラフジ科)などの種々の植物から得られる天然の抽出物である。因みに"curare"とは毒を意味するインディアンの言葉のwoorari,urariに由来すると言う1)。歴史的には19世紀中頃Claude Bernard2)がクラーレによる麻痺とその作用部位が運動神経と骨格筋の接合部であることを見出している。その後King3)が初めて天然の試料より結晶性アルカロイドの構造を明らかにしd-tubocurarineと名づけた。図1に示すように4級のアンモニウム塩基で光学異性体としてd型とl型があるが,前者は後者の数十倍の効果を持つ。臨床的には1942年最初に骨格筋弛緩剤として用いられた。現在でもこの目的のために広く使われており,ヒトの場合20〜30mgの静脈内注射によって約30分間の麻痺を生ずる4)。しかし,経口的には無効である。また一度血液中に入っても速やかに消失する。そのため濃度は13分で半減し,投与量の約1/3は尿中に排泄され,その他は数時間内に体内において不活性化される5)

抗コリンエステラーゼ剤

著者: 野々村禎昭

ページ範囲:P.461 - P.463

 ■特性
 運動神経終末および自律神経コリン作動性神経終末の伝達物質としてアセチルコリン(ACh)が放出される。これらの神経終末と効果器の間隙,および効果器上にはAChの分解酵素であるコリンエステラーゼ(ChE)が存在し,放出されたAChをただちに分解する。抗コリンエステラーゼ(抗ChE)といわれる一群の薬物は,ChEの活性中心部に結合して,AChとChEの結合を妨害しChEによるACh分解を抑制し,効果器官部位にAChを蓄積させ,結果としてACh作用を増強,持続させる作用がある1)
 抗ChEは構造と作用持続の点で2群に分けられる。第1群はChEに結合してもすぐに加水分解され可逆性に作用するもので眼科領域での治療薬,骨格筋神経筋接合部でのACh作用持続のための実験薬として用いられる。これらはAChと類似の構造をもつ。第2群は有機リン化合物といわれ,ChEとの結合は強固で加水分解には長時間かかり,不可逆的に作用するといってよい。昆虫類では卵,幼虫にも作用し,殺虫剤の農薬として用いられる毒物である。第1群のものはChEに対して特異的であるのに対し,第2群はChEのみならず広くセリン,チオール酵素である蛋白質分解酵素を含んだエステラーゼを抑制する。

アトロピン

著者: 久場健司 ,   簑田曻一

ページ範囲:P.464 - P.465

 ■特性
 アトロピンはAtropa belladonna L. やDatura Stramonium L. などのナス科の植物の葉に含まれるアルカロイドである。マスカリン様アセチルコリン受容体(m-ACh受容体)の競合的阻害剤である。従って,副交感神経の作用を遮断し,散瞳,心拍数増加,消化管運動抑制,唾液分泌抑制などの薬理作用を示す1)。しかし,高濃度ではニコチン様ACh受容体—チャネル複合体(n-ACh受容体チャネル)を非競合的に阻害(block)する。

カイニン酸

著者: 篠崎温彦

ページ範囲:P.466 - P.468

 ■特性
 そもそもカイニン酸は,紅藻類Rhodophyceaeフジマツモ科Rhodomelaceaeに属する海人草より抽出された駆虫成分であったが,哺乳類中枢神経細胞を著しく興奮させることが報告されて以来,神経研究における重要なtoolとなった。カイニン酸を動物に皮下または静注すると痙攣を起こす。また,その微量を神経組織に注入すると,注入部位の神経細胞体と樹状突起を破壊するが,神経線維やシナプス前軸索にはほとんど影響を与えない。また下等動物神経筋接合部にあっては,カイニン酸はグルタミン酸の作用をmodulateする。
 融点約252℃の白色針状結晶または結晶状の粉末で無臭,旨味または酸味がある。水に可溶であるがやや溶け難く,メタノールに溶け難く,エタノールに極めて溶けにくい。クロロホルム,エーテル,ベンゼンなどにほとんど溶けない。稀塩酸または水酸化ナトリウム溶液に溶ける。水溶液(1→100,無色透明)のpHは2.8〜3.5であり,pKは2.05,4.30,10.08である。

プロカイン

著者: 前野巍

ページ範囲:P.469 - P.471

 ■構造および特性
 プロカイン,リドカインなどの局所麻酔剤は一般に芳香族より成る疎水基部と,アルキルアミンより成る親水基部とがエステル結合したもの(プロカイン,テトラカインなど),またはアミド結合した構造(リドカイン,ジブカインなど)をとる。アミド型の局所麻酔剤はエステル型のものよりも生体内で分解されにくいため,その興奮伝導遮断効果が長時間持続するという特徴がある。
 また,局所麻酔剤としての効力は,非解離型塩基よりもアミノ基が荷電したカチオン解離型の方が強い。しかし,細胞膜内の作用点に到達するためには,膜透過性の高い非解離型塩基の方が望ましい。これらの矛盾した特性を満足するべく,市販の局所麻酔剤は一般にpKa=7.5〜9.0の3級アミンである。

ピクロトキシン

著者: 栗山欣弥 ,   大熊誠太郎

ページ範囲:P.472 - P.473

 ■特性
 分子量602.57。Anamirta cocculus(ツヅラフジ科の植物)の種子に含有される苦味を有する光沢のある偏菱形の結晶である。融点203℃。1gのピクロトキシンは水350ml,沸騰水約5ml,13.5mlの95%エチルアルコールに溶け,エーテルおよびクロロホルムにはわずかに溶解する。強アンモニア水および水酸化ナトリウム溶液にはよく溶ける。ピクロトキシンはそれぞれ1分子のピクロトキシニン(picrotoxinin;分子量292.28)とピクロチン(picrotin;分子量310.29)より成る化合物で,前者には生物活性があるが,後者にはみられない。

ビキュキュリン

著者: 小幡邦彦

ページ範囲:P.474 - P.476

 ■特性
 ビキュキュリン(図1,左上)はケマンソウ科(ケシ目)の植物の塊茎から得られるphthalide isoquinoline系のアルカロイドで,けいれんを起こすことが知られていた(ウサギのけいれん量0.2mg/kg,静脈内注射)。また咳止めに用いられていたという。これが神経科学で注目され,利用されるようになったのは,1970年,オーストラリアのCurtisら1)が,抑制性シナプスのうちGABAが伝達物質と考えられるシナプスを選択的にブロックすることを発見してからである。
 当時,中枢神経系の抑制性伝達物質が盛んに検索され,CABAが有力候補に挙げられた。ストリキニーネは脊髄などの抑制性シナプスをブロックするが,上位中枢のほとんどのシナプスには無効であり,投与したGA-BAの作用も影響されなかった。甲殻類でGABA作動性抑制性シナプスの遮断薬であるピクロトキシンも,溶解度が低いことや容易に発生するけいれんに妨げられて,中枢神経系で明確な結果を得ることが困難であった。そこでCurtisらは広くアルカロイド類を集めて検討し,ビキュキュリンが選択的なGABAのアンタゴニストであり,ストリキニーネで影響されない中枢の抑制性シナプス作用をも抑えることを発見した1,2)

ヒストリオニコトキシン(カエル皮膚毒)

著者: 久場健司

ページ範囲:P.477 - P.479

 ■特性
 ヒストリオニコトキシンは,コロンビア産のカエル(Dedrobatidae科の数種,主にDendrobates histrionicus)の皮膚から抽出したアルカロイドで,原住民の矢毒として使われる。ニコチン様アセチルコリン受容体—イオンチャネル複合体(ACh受容体チャネル)を非競合的に阻害(ブロック)する作用が主で,他に神経や筋細胞膜の遅延整流性Kチャネルのブロックを起こす。多くの誘導体があり,広義にはこれらを含めてヒストリオニコトキシンと呼ぶ。

膜一般に作用するもの

DIDS 4,4-diisothiocyanostilbene-2,2'-disulfonic acid

著者: 濱崎直孝

ページ範囲:P.482 - P.484

 ■一般的諸性質
 DIDSは図1に示す構造を有するスチルベン誘導体で,赤血球膜陰イオン透過系に対する選択的な阻害剤である。
 スチルベン誘導体のSITS(4-acetamido-4'-isothiocyanostilbene-2,2'-disulfonic acid;図1)は細胞膜を透過しないアミノ基化学修飾剤としてMaddyによって細胞膜表面の標識に用いられた1)。他のアミノ基化学修飾剤と異なり,SITSは赤血球膜陰イオン透過系の特異的な阻害剤であり,陽イオン透過に対しては何ら影響を与えない。図1に挙げているスチルベン誘導体はすべて同様の性質を示す。この特異的な性質はスチルベン誘導体の構造に由来しており,スチルベン骨格は疎水性を,また二つのスルホン酸基はこれらの誘導体が陰イオンとしての性質を示すのに必須である2)。DIDSの二つのイソチオシアノ基(-NCS)は阻害効果発現には必須ではなく,-NCS基がニトロ基(-NO2)に置換されたDNDS(4,4'-dinitrostilbene-2,2'-disulfonic acid)でも赤血球膜陰イオン透過系は阻害される。スチルベンにはトランス型とシス型の立体異性体が存在するが,トランス型のスチルベン誘導体が陰イオン透過系に対して阻害効果を示す3)

N-エチルマレイミド

著者: 原諭吉

ページ範囲:P.485 - P.486

 ■特性
 白色結晶,融点45℃,水溶性,水溶液中ではpH5で安定(22時間)であるが,アルカリpHでは加水分解が進行する。中性でチオール基の選択的なアルキル化試薬として用いられるが,アルカリpHではさらにイミダゾール基やアミノ基とも反応する1)。チオール基は蛋白質の機能に関与することが多く,N-エチルマレイミド処理によって広汎な細胞機能の障害がひき起こされる。N-エチルマレイミドはSH基の関与を推定する手段としてのみならず,酵素反応機構の解析,蛋白の構造変化追跡にも用いられ,さらにN-エチルマレイミドと蛋白とが安定な結合を形成することを利用して,N置換マレイミドが螢光標識試薬や架橋試薬の反応基として用いられる。

アトラクチロシド

著者: 曾根旉史

ページ範囲:P.487 - P.488

 ■特性と構造
 アトラクチル酸〔atractylic acid〕C29H40O16S2のNaまたはK塩。図1のような化学構造を持つ硫酸化された配糖体である。水に可溶,アルコール,エーテル,クロロフォルムには溶けない。地中海産アザミAtractylis gummiferaの根から得られ,ミトコンドリア内膜に存在するADP-ATP交換輸送体の特異的阻害剤1)として知られている。

ウアバイン

著者: 松井英男

ページ範囲:P.489 - P.490

 ■特性
 ウアバインは別名Gストロファンチン(G-Strophanthin)という。白色粉末または結晶。分子量,C29H44O12=584.7。結晶は8H2Oを含む。広義のジギタリス系強心配糖体の一種で,最も水溶性が高い(約1.3g/dl)ので好んで実験に用いられる。水溶液は中性。アルコールにもあまり溶けない(1g/dl)。ラクトン環由来の紫外部吸収に基づく分子吸光係数ε220=14,500。室温で割合安定。要遮光。
 臨床的に強心作用は有名であるが,中毒作用も含めて,その作用の根本は動物細胞のNaポンプ(=Na,K-ATPase)の阻害である1)

アンホテリシンB

著者: 吉岡亨

ページ範囲:P.491 - P.492

 ■特性と構造
 アンホテリシンBは1951年にバージニアの牧場の土から分離された細菌の産生するポリエン抗生物質と呼ばれているもののうちの一種で,主に難治とされた真菌症の治療に用いられて来た。
 この物質の化学構造の特徴は図1に示すように,大きな環状構造(マクロライド環)を持ち,この環の上半分には多数のOH基(親水性)があり,また下半分には多数の二重結合(疎水性)があって,典型的な両親媒性の構造をしている。このためにこの抗生物質は極めて特異的な膜作用を有している。すなわち,①膜構造の破壊(不規則な膜蛋白の凝集が起こる),②膜透過性の亢進(イオンやグルコースなどについて),③イオン孔の形成(陽イオン選択性,陰イオン選択性が可能),などがそれである。これらの特異な膜作用はいずれも抗生物質と膜内コレステロールの相互作用の結果であると考えられている。

サポニン

著者: 大槻磐男

ページ範囲:P.493 - P.494

 ■使用目的
 細胞内の分子機構は通常生化学的に分離した分画についてしか詳しく検討することができない。何とか細胞全体の構造を保ちながら調べられないだろうか。そのためには細胞の外周を形成する形質膜に小さな"穴"をあけた細胞モデルが作製できればある程度目的が達せられる。
 1972年から1974年にかけて,細胞内消化酵素の免疫電子顕微鏡的な同定を目標にして,細胞の全体構造を保ちつつ細胞形質膜に穿孔する方法を検索した結果,サポニンがこの目的に適していることが見出された1,2)。以来,今日まで約10年の間にサポニンは細胞形質膜を穿孔する試薬として広く用いられるまでになってきた。

フィリピン

著者: 藤田尚男

ページ範囲:P.495 - P.496

 ■特性
 フィリピンは放線菌のうちのStreptomyces filipinesisによって生産されるポリエン(抗カビ)抗生物質(polyeneantifugal antibiotics)の一つである。
 ポリエン抗生物質は幾つかの共役二重結合とマクロライド環をもつのが特徴で,共役結合の数によりtetraenepentaenc,hexaene,heptaeneの四つのグループにわけられる。

バリノマイシン(イオノフォア)

著者: 平田肇

ページ範囲:P.497 - P.499

 ■特性
 Streptomyces fulvissimusによって産生される分子量1,111のペプチド性抗生物質で,生体膜や人工リン脂質膜に直接作用し,それらの陽イオン透過性を高めるイオノフォアの一種である。Kなどの1価陽イオンと1:1で結合した脂溶性の錯体(包接化合物)を形成し,本来これらの陽イオンに対して不透過性の膜に入りこむことによってイオンの透過を促進する。バリノマイシンは環状構造をもち,分子の外側に多数のメチル基やイソブロピル基が配列するため,分子として疎水性で,水にほとんど不溶で,有機溶媒などに溶ける。また,分子中に解離しうる残基をもたず,分子自身としては電気的に中性であるが,Kなどとの錯体は,全体として陽イオンとしての性質を帯びる。従って,生体膜や人工リン脂質膜にバリノマイシンを与えることにより,膜内外のKなどの電気化学的ポテンシャル差に従ってKなどを移動させる。
 また,バリノマイシンの特徴は,極めて高いKあるいはRbの選択性であり,Naに対し17,000倍以上の選択性を示す。これは陽イオンを包みこむ分子中の空洞が直径2.7〜2.9Åであって,イオン径(γ)1.33ÅのKや1.45ÅのRbとは安定な錯体を作りうるが,少し大きなCs(γ=1.69Å)や,小さなNa(γ=0.95Å)やLi(γ=0.60Å)とは安定な錯体を作りえないことに起因する。

モネンシン

著者: 池原征夫

ページ範囲:P.500 - P.501

 ■特性および構造
 モネンシンはStreptomyces cinnamonensinから抗生物質の一種として分離された。in vitroではグラム(+)菌や抗酸菌に対して弱い抗菌作用がみられるが,in vivoではほとんど抗菌作用を示さない。モネンシンは典型的なcarboxylic ionophoreの一つであり,生体膜や人工膜における一価陽イオンの膜透過の担体として機能する。イオンの選択特異性は,Na>K>Rb>Cs>Li>NH4であり,Naに特に親和性の高いのが特徴である1)。最近,本薬剤が種々の細胞の分泌過程ならびにエンドサイトーシス過程に著しい影響を与えることがわかり,注目されるようになった2)(表1)。
 市販されているナトリウム塩の構造は図1に示すとおりで,実験式C36H61O11Na;分子量692.9;融点267〜269℃である。水にはほとんど不溶性であるが,メタノール,エタノール,クロロホルムのような有機溶媒にはよく溶ける。遊離酸としてのモネンシンは酸性溶液中では不安定で,室温以上の温度で容易に分解を受けるが,ナトリウム塩は有機溶媒や水・有機溶媒混液中でかなりの温度にも安定である。紫外吸収スペクトルでは波長220nm以上に吸収はない。

コレラ毒素

著者: 黒木登志夫

ページ範囲:P.502 - P.506

 今年(1984年)はコレラ菌が発見されてからちょうど100年にあたる。1884年7月26日,ベルリンで開かれた第1回コレラ会議において,ロバート・コッホはコレラ菌の発見を報告した。このコレラ菌発見にまつわる興味深い物語は,竹田,神中によって紹介されている1)。コッホはコレラ菌発見の最初の報告で,コレラの症状は,コレラ菌の産生する菌体外毒素──コレラ毒素──によることを述べている。しかし,コレラ毒素の存在が明らかになるには,それから四分の三世紀もまたねばならなかった。それから25年の間にコレラ毒素の研究は急速に進歩し,遺伝子がクローニングされるまでになった。しかし,コレラ毒素がどのようにして下痢をはじめとする生物学現象を起こすか,そのメカニズムはまだ不明の点が多い。以下,コレラ毒素の構造と生物学的作用についてまとめてみたい。

フロリジン

著者: 武居能樹

ページ範囲:P.507 - P.508

 ■特性
 リンゴ,ナシ,サクラなどのバラ科果樹の樹皮や根皮などに含まれる配糖体(フロレチン-2'-β-D-グルコシド)。分子量,436.41。通常,2分子の結晶水を持つ針晶(分子量,472.43)。融点,110℃。甘い(後味は苦い)。沸騰水,アルコール,アセトン,アルカリ性水溶液に易溶。室温で1lの水に約1g溶ける。エーテル,クロロホルム,ベンゼンには不溶。
 フロリジンのアグリコンであるフロレチン(phloretin)はフロリジンと対比的に使用されることが多いので,これの性質も記しておく。分子量,274.27。260〜270℃で分解。アルコール,アセトンに易溶。クロロホルム,ベンゼンに僅かに溶ける。水には難溶だが,アルコールの添加で水への溶解性は増加する。弱酸(pK〜7.3)。pHによりケト-エノールトートメリーを示す。従って,紫外吸収スペクトルもpHにより大きく変化する;ケト型:λmax284mμ,εmM12.5;エノール型:λmax320mμ,εmM21.3。

ブピバカイン

著者: 石川春律

ページ範囲:P.509 - P.510

 塩酸ブピバカイン(Bupivacaine hydrochloride)は長時間作用性の局所麻酔剤として開発された。神経ブロックや硬膜外麻酔に広く使用されているが,特異的筋毒性が見出され,実験室では筋の再生の研究に有用な手段として応用されている。

マストパラン(ハチ毒)

著者: 若松馨 ,   宮沢辰雄

ページ範囲:P.511 - P.512

 ■特性
 マストパラン類は中嶋暉躬教授(東京大学薬学部)らによりスズメバチの毒液から単離精製された一群のペプチド性トキシンで1,2),数μMの濃度でラット腹腔マスト細胞の脱顆粒,ヒスタミン放出を引き起こすことからこの名がつけられた。マストパラン類はまた,ウシ副腎クロマフィン細胞からのカテコールアミン放出3),神経の脱分極4)なども引き起こす。表1にこの他の活性を含めて,マストパランについて現在判明している活性についてまとめてある1)

パリトキシン

著者: 伊藤勝昭

ページ範囲:P.513 - P.515

 海洋腔腸動物には強心作用を有する毒を産生するものが多く,それらのほとんどはポリペプチドであるが,同じ腔腸動物で亜熱帯サンゴ礁に棲息するイワスナギンチャクPalythoaが産生する毒パリトキシンは強心活性を有するものの,ペプチドではなく薬理学的性質もそれらとかけはなれている。パリトキシンは①分子構造,②毒性,③生理活性,④作用点の4点で他に類例をみない特異な毒である。

細胞骨格に作用するもの

コルヒチン

著者: 石川春律

ページ範囲:P.518 - P.519

 ■特性
 コルヒチン(colchicine)は微小管毒として最も広く用いられる薬品である。ユリ科の植物,とくにイヌサフラン(Colchicum autumnale)から抽出されるアルカロイドで,古くから痛風発作に劇的に効く薬として有名であった。19世紀後期にはすでに純粋なものとして結晶化されていた。コルヒチンの副作用として下痢や腸潰瘍などが知られているが,それに関連して,腸陰窩など細胞増殖域に分裂像が増加するのが見出された。この像から,はじめコルヒチンが細胞分裂を促進すると信じられていたが,のちに,細胞分裂像の増加は,分裂期に入った細胞が分裂中期で滞められるためであることが明らかになった1)。コルヒチンは他の分裂間期(G1,S,G2)の時間進行には特に変化を与えない。動物細胞では,処理により,分裂中期停滞を起こすのみであるが,植物細胞では紡錘体なしで,数回の核分裂を繰り返し,2倍ないし4倍の数の染色体をつくり出す。染色体の増加によって巨大核が誘起される。この特性は農学において育種に広く応用されてきた。
 コルヒチンが分裂細胞の紡錘体を阻害することによって,分裂を障害することは1930年代に明らかになったが,微小管毒であるという現在の認識は1960年後半のE.Taylorらの一連の研究にその端を発している2)

ビンブラスチン

著者: 佐藤英美

ページ範囲:P.520 - P.523

 ■特性
 チュブリンダイマーまたはオリゴマーと直接結合し,微小管特に紡錘体微小管を脱重合させることで細胞分裂を抑制し,あるいは阻害する薬物を一般に核毒(mitoticpoisons)と呼ぶ。薬理作用の類似性からコルヒチンとその同族体,ビンブラスチンなどのVinca系のアルカロイド,かびから抽出されたグリセオフルビン,ポドフィロトキシン,除草剤などに分けられるが,構造上からはmethoxy基の存在のほかには共通点はない2)
 ビンブラスチンはキョウチクトウ科のVinca roseaLinn(和名つるにちにち草:俗称"仏さんのお花")から抽出されたアルカロイドである。白色または淡黄色の結晶性粉末で無臭。水,クロロフォルムに可溶。水に溶けやすくするために硫酸塩として使用される場合が多い。Vincaの薬効については古くから各地で知られており,ジャマイカでは糖尿病用の薬湯として用いられた。Eli Lillyの研究陣がVinca系のアルカロイドを多年にわたって追求したのもその理由からであった。中世にはマダガスカル島原産のこの植物のアルカロイドを媚薬として使う試みもあったという。

ポドフィロトキシン

著者: 室伏擴

ページ範囲:P.524 - P.525

 ■特性
 ポドフィロトキシンはメギ科植物Podophyllum peltatumやPodoPhyllum pemodiの根茎に含まれるアルカロイドである。Podophyllumの樹脂は,古くは下剤として使用されていた。ところが,1940年代になって,樹脂の主要成分であるポドフィロトキシンが,ある種の皮膚がんに対して治療効果を持つことが見出された。以来,多くの研究が行われ,ポドフィロトキシンにはコルヒチンと同様,細胞分裂を阻害する作用があることがわかった。さらに分裂装置の主要成分であるチュブリンにこの物質が結合することによって,細胞分裂阻害が引き起こされることが明らかになった。

重水

著者: 佐藤英美

ページ範囲:P.526 - P.529

 重水とはD2Oのほかに酸素の重い同位体18O,17Oを多量に含む水をいい,D2O,HDO,H217O,H218O,HD17O,HD18O,D217O,D218Oの総称である。通常の水にはH216O(99.76%),H218O(0.17%),H217O(0.037%),HD16O(0.032%)などが含まれる。18Oと17Oを含む重水はD2Oのように電解法では濃縮されないから,主に分別蒸留法によって濃縮される。しかし,17O,18Oを含む重水の生理学的・生化学的効果については十分な検討はなされていない。一般にはD2Oを重水と呼ぶことが多い。D2Oは自然状態では0.0139〜0.00151mol%の割合で存在するが,UreyらはD2OがH2Oよりも比較的電解し難い点に着目し,数か月がかりで装置を連続作動させ,水素の同位体で質量数2の重水素(Deuterium)の分離に成功した。1932年のことであった。しかし,重水の分離・濃縮の難しさは高価格と夾雑物という問題を生んで,重水の生物学的検討という試みを阻んだ。重水のアイソトープ効果が検討されるようになったのは,新製法による高純度・低価格の重水の供給が可能となった1950年代以降のことである。

タクソール

著者: 外山芳郎

ページ範囲:P.530 - P.531

 タクソール(taxol)はWaniらにより1971年に分離された7)。いくつかの実験系では抗癌性をもつことが知られているが7),1979年にin vitroで微細管(microtubule)の重合を促進させる作用のあることが報告されて以来,おもに細胞生物学的な興味で用いられるようになった。

サイトカラシン

著者: 飯田和子 ,   矢原一郎

ページ範囲:P.532 - P.533

 サイトカラシンは1960年代半ばに真菌類から単離同定された一群の代謝産物である。細胞の核分裂は阻害しないが,細胞質分裂を阻害して多核細胞を形成し,細胞運動を阻止する1)。その名称はギリシャ語のcytos(cell),chalasis(relaxation)に由来する。サイトカラシンは細胞の運動性の関与するさまざまな現象,例えば貪食,分泌,輸送,血小板凝集などの現象を解析する手段として広く使われてきたが1),その作用機作が分子レベルで明らかにされたのは最近のことである。

ファロイジン

著者: 福井義夫

ページ範囲:P.534 - P.536

 ■特性
 タマゴテングタケ(Amanita phalloides)に含まれるファロトキシンのひとつ。分子量789で針状結晶。毒性強く,ヒトをしてチアノーゼ,筋れん縮の末,数時間で死に至らしめる18)。欧米ではこの茸を"緑色の死の帽子"と呼ぶ地方もあるが,米国産には白色の変種もある。米国産の茸はファロイジンの類似体であるファラシジン(分子量847)を含む。0℃の水に0.5%可溶。アルコールやDMSOには良く溶け,pH3〜9の範囲で安定8)

IDPN

著者: 横山和仁

ページ範囲:P.537 - P.539

 ■特性
 分子量123.16,融点-5.5℃,沸点173.0℃,強アルカリ性の無色の液体。

クロールペプタイド(黄変米毒)

著者: 上野芳夫

ページ範囲:P.540 - P.541

 ■特性
 第二次大戦直後に海外より輸入された米粒より,多数の有毒Penicillium属の真菌が分離された。それらのうち,P. citreoviride Biourgeからは神経毒チトレオビリジン(citreoviridin)が,P. citrinum Thomからは腎臓毒チトリニン(citrinin)が,そしてP. islandicum Soppからは肝臓毒,ルテオスカイリン(luteoskyrin)とクロールペプタイド(chlorine-containing peptide)が分離され,それらの中毒学的,病理学的研究が行われた。
 P. islandicum Soppの二つの肝臓毒のうち,ルテオスカイリンはアントラキノン系の黄色色素で菌体内に生産されるが,一方,クロールペプタイドは環状ペプタイドで水溶性であり,菌体外毒素である1)

転写・蛋白合成に作用するもの 転写阻害剤

アクチノマイシンD

著者: 田中信男

ページ範囲:P.544 - P.546

 ■特性
 アクチノマイシンD(actinomycin D)=アクチノマイシンC1=ダクチノマイシン。C62H85N12O16,分子量1255.47。Streptomyces purvullus,S.Chrysomallus,S.antibioticsなどの培養から溶媒抽出法などによって得られるペプチド抗生物質。橙赤色〜赤色の結晶。メタノール,エタノールまたはプロピレングリコールに溶けやすく,水に極めて溶けにくい。UV:λMeOHmax:244,441nm(E1%1cm281,206)。
 グラム陽性菌と抗酸菌に強い抗菌作用を示し,動物の移植性腫瘍を阻止する。臨床的には小児のウィルムス(Wilms)腎腫瘍,胞状奇胎,絨毛上皮腫などが適応症とされている。

アクリジン

著者: 田中信男

ページ範囲:P.547 - P.549

 ■特性
 C13H9N,分子量179.21(図1)。コールタールに含まれ,高沸点のタール油から分離することができる。N-phenylanthranilic acid,Ca-anthranilate,またはbenzylanilineから合成することができる。
 アクリジンの誘導体に抗菌作用,抗原虫作用など生物活性を示すものがあり,アクリジン色素と総称されている。一般に弱塩基性で,強い螢光を示す。

α-アマニチン

著者: 中村清二

ページ範囲:P.550 - P.552

 α-アマニチンはAmantia phalloides(タマゴテングダケ)が生成する2群の有毒環状ペプチド,amanitine群(amatoxin)とphallotoxin群(phalloidine,phalloineなど)のうちの前者に属する代表的な毒物である。α-アマニチンのchemistryやtoxicologyに関しての研究は比較的長い歴史を持つものであり,その成果は例えば1959年のPharmacological ReviewにT. WielandとO. Wielandにより総説としてまとめられているが1),作用機構の分子レベルでの解明が進んだのは,比較的最近になってからである2〜4)

リファマイシン

著者: 石浜明

ページ範囲:P.553 - P.556

 ■特性
 リファマイシンは,放線菌Streptomyces mediterraniの産生する抗生物質リファマイシンBとその誘導体の総称である。グラム陽性菌に対して抗菌作用を示すリファマイシンBは,酸化,加水分解,還元を経てリファマイシンSVとなり(図1,表1),主として細胞内への透過性が増すために抗菌作用が強まる。リファマイシンSVを出発材料として合成された誘導体リファンピシン(図1)では,大腸菌などのグラム陰性菌への透過性が改良され,抗菌スペクトラムが拡大した。リファンピシンは,少量で有効な抗菌作用を示すために,結核をはじめとした細菌感染症の治療薬として広く用いられている。

翻訳阻害剤

グウゲロチン

著者: 塚田欣司

ページ範囲:P.557 - P.558

 ■特性
 グウゲロチンは,武田薬品KKの神崎らにより,京都の土壌より分離された放線菌Streptomyces gougeroti,No.21544の培養濾液から単離された物質で,グラム陽性菌,グラム陰性菌および抗酸性菌に抗菌力を有している。1962年,彼らは,その有効成分を結晶状に単離し,グウゲロチンと命名した1)

フシジン酸

著者: 田中信男

ページ範囲:P.559 - P.560

 ■特性
 1)フシジン酸(fusidic acid)=ラマイシン(ramycin)
 真菌Fusidium coccineumの培養によって得られるステロイド抗生物質。C31H48O6,分子量516.69。融点192〜193℃。UV:λmax=204nm(ε9900),220nm(ε9400)。pKa:5.35(水)。アルコール,アセトン,クロロホルム,ピリジン,ジオキサンに溶けやすく,水,エーテル,ヘキサンに溶けにくい。

ジフテリア毒素

著者: 内田驍

ページ範囲:P.561 - P.563

 ■特性
 ジフテリア毒素はジフテリア菌から菌体外へ分泌される酸性の単純蛋白質であり,この蛋白の物理化学的性状は表1に示してある。
 感受性動物(ヒト,サル,モルモット,ウサギ,ハムスターなど)に強い毒性を示し,約250gのモルモットの最小致死量(MLD;筋注して2〜3日後に死ぬ)は約0.02μgである。標準抗毒素血清1国際単位で中和される毒素量を1Lfという。1Lfは約2μg毒素蛋白に相当する。

ピューロマイシン

著者: 田中信男

ページ範囲:P.564 - P.566

 ■特性
 放線菌Streptomyces albonigerの培養によって得られるアミノアシル・ヌクレオシド抗生物質。C22H29N7O5,分子量471.51。塩基性の白色結晶。融点175.5〜177℃。UV:λmax275nm(ε20,300)(0.1N NaOH);267.5nm(ε19,500)(0.1N HCI)。2塩酸塩または1硫酸塩をつくり,水に良くとけるようになる。グラム陽性菌を比較的強く阻止し,グラム陰性菌には弱い抗菌作用を示す。抗原虫作用および制癌作用を示す。
 副作用のため,臨床的には余り用いられていない。

サイクロヘキシミド

著者: 田中信男

ページ範囲:P.567 - P.569

 ■特性
 サイクロヘキシミド(cycloheximide)=アクチジオン(actidione)=ナラマイシンA(naramycin A)。C15H23NO4,分子量281.34。ストレプトマイシンを生産するStreptomyces griseus,S. Noursei,S. naraensisなどの放線菌の培養によって得られるグルタリミド(glutarimide)系抗生物質。無色針状結晶。微酸性,比較的安定な物質で,UV:末端吸収およびλMeOHmax 287nm(ε=36.7)。水溶性は2.1g/100ml(2℃)。抗真菌作用,抗原虫作用および制癌作用を示すが,毒性が強く臨床的には使用されていない。

DNAに作用するもの

6-アザウリジン

著者: 中村典

ページ範囲:P.572 - P.573

 ■特性
 ウリジンのアナログで,リン酸化されて6-アザウリジン-1-リン酸となり,ピリミジンde novo合成系路のオロチジル酸脱炭素酵素(orotidylate decarboxylase)(オロチジル酸からデオキシウリジン-1-リン酸を合成)を阻害する。従って,ピリミジンの合成が減少するので核酸合成が抑制される。

エチジウム・ブロマイド

著者: 塚田欣司

ページ範囲:P.574 - P.575

■特性
 エチジウム・ブロマイド(3.8-Diamino-6-ethyl-5-phenantridium bromide)は化学的に合成され,結晶形として得られ市販されている。分子量は394.3でC21H20N3Brで示され,図1に示した構造式を持ち,水やクロロホルム,アルコールに溶解しやすい。融点は238〜240℃である。アルコールから暗赤色の結晶を生ずる。室温で安定であるが,光を遮断して保存する

マイトマイシンC

著者: 塚田欣司

ページ範囲:P.576 - P.578

 ■構造と特性
 マイトマイシンは,1956年に初めてHataら1)によって,Streptomyces caespitosusより生成される抗生物質として報告された。マイトマイシンAとBが最初に結晶として取り出され,1958年に,WakakiらによってCが結晶として分離された。1961〜1962年にかけてDeBoerらやLefemineらによって,類似の構造を持つポルフィロマイシン(porfiromycin=N-methyl-mitomycin C)とミトロマイシン(mitromycin=N-methyl-mitomycin A)がそれぞれ同定され,その後Webbら2)により構造が解析された。その結果"mitosane"を共通の骨格として有しており,①aziridine ring(1-1a-2),②amino-or methoxy-benzoquinone(5a-5-6-7-8-8a),③pyrrolizine configuration(1-2-3-4-5a-8a-9-9a),と④a methylurethane sidechain(10-10a)を含んだ構造を示している。図1にマイトマイシンCの構造を示しているが,AはCの7のNH2がOCH3に,またBは,Cの7のNH2がOCH3に,9aのOCH3がOHに,1aのNHがCH3にそれぞれ置換した構造式を示している。

Ara-Cほか

著者: 中村典

ページ範囲:P.579 - P.580

 ■特性
 Ara-Cの化学名は1-β-D-arabinofuranosyl cytosine,バクテリアから哺乳動物に至る広い範囲の生物のDNAポリメラーゼの阻害剤として知られている。

5-プロモ−2'-デオキシウリジン

著者: 中村典

ページ範囲:P.581 - P.582

 ■特性
チミジンのアナログで,DNAにとりこまれる。チミジンと比べて分子量が大きいので,これをとりこんだDNAは浮遊密度が大きくなる。またブロム原子の存在によりDNAが光感受性になる。

5-アザシチジン

著者: 中村典

ページ範囲:P.583 - P.584

 5-アザシチジンの化学名は4-amino-1-β-D-ribofuranosyl-1,3,5-triazin-2-oneあるいは1-β-D-ribofuranosyl-5-azacytosineである。

発癌剤

著者: 伊東信行 ,   白井智之

ページ範囲:P.585 - P.586

 発癌剤は発癌物質,発癌性化学物質あるいは癌原性物質とも呼ばれ,ラット,マウスなどの小動物をはじめウサギやイヌなどの中,大動物に投与した場合癌が発生してくる物質を指している。もちろんヒトに対しても発癌性のあるものも多数知られている。発癌剤には天然産物と人工産物とがあり,それらの化学構造は多種多様であるとともに発癌性の程度にも大きな幅がある。

代謝系に作用するもの

シアンと電子伝達阻害剤

著者: 曾根旉史

ページ範囲:P.588 - P.590

 ■特性
 KCN,NaCNなどのシアン化物は白色結晶で,水に易溶してアルカリ性を呈する。HCNまたはCN-の形で各種金属原子に強力に配位して錯体を形成するので,多くの金属酵素の活性を阻害する可能性がある。特にミトコンドリア内膜に存在し,呼吸鎖を形成するチトクロームc酸化酵素に対する50%阻害濃度は0.5μMと低く,その結果,細胞内呼吸は停止するので,強力な呼吸毒として知られている。経口致死量(イヌ)は1.6mg/kgと低い。

ジニトロフェノール

著者: 曾根旉史

ページ範囲:P.591 - P.593

 ■特性および構造
 2,4-ジニトロフェノール,C6H4N2O5,分子量184.11。アルコールに可溶,弱アルカリ性では水に溶ける。古くから知られた酸化的リン酸化反応の脱共役剤で,解離型は360nmに吸収極大を持つ。ミトコンドリアとほぼ完全に脱共役(呼吸開放,ATPase活性の促進およびATP合成阻害)する濃度は50μMであるが,表1のように殺虫剤,除草剤の開発の副産物としてより強力な脱共役剤が知られるようになった1)

バナデイト

著者: 誉田晴夫 ,   松井英男

ページ範囲:P.594 - P.595

 ■特性
 バナジウムは,酸化数が+2から+5までのものが一般的に知られている。このうち,+5の酸化状態であるパナジン酸イオン,VO3-またはVO43-を含む塩をバナデイト(バナジン酸塩)と総称し,この中でVO3-を含む塩をメタバナデイト,VO43-を含む塩をオルトバナデイトと呼ぶ。バナジン酸イオンはグルタチオンやアスコルビン酸などの還元剤によって,+4の酸化状態であるバナジルイオン(VO2+)に変わる。バナジルイオンは空気中の酸素によって容易にバナジン酸イオンに酸化されてしまう。しかし,生体内,たとえば赤血球中では,大部分のバナデイトはグルタチオンによって還元され,バナジルイオンとしてヘモグロビンと結合し,安定化されている。
 バナデイトは,Na,K-ATPaseのようにリン酸化中間体を形成する酵素の活性を強く阻害する1)。一方,バナジル塩はリボヌクレアーゼを阻害するという報告もあるが,Na,K-ATPaseに対する阻害作用は弱く,生体内では蛋白質などと結合しているので,阻害作用はないと考えられている。いずれにしろ,不安定で取り扱いにくい。

アメトプテリン

著者: 清水喜美子 ,   瀬野悍二

ページ範囲:P.596 - P.598

 ■特性
 葉酸類似物質。黄色粉末。アルカリに溶解。哺乳類細胞,細菌類に対し細胞毒性を示す。代表的な癌化学療法剤。ジヒドロ葉酸還元酵素(EC 1.5.1.3,系統名5,6,7,8-tetrahydrofolate:NADPoxidoreductase)を標的とし,強固に結合して失活させる。結合の特異性は非常に高い(解離定数3×10−11M)。

3-デアザアデノシン

著者: 綿矢有佑

ページ範囲:P.599 - P.600

 ■構造および特性
 3-デアザアデノシン(3-deazaadenosine,4-amino-1-β-D-ribofuranosyl-l H-imidazo-〔4,5-c〕pyridine)はプリン環3位の窒素が炭素に置き換えられたアデノシンアナログで,S-Adenosylhomocysteine hydrolaseを強力に阻害する化合物である(図1)。この化合物には抗ウイルス作用1),免疫抑制作用2)および抗炎症作用3)などの生物活性のあることが知られている。
 3-デアザアデノシンの分子吸光係数(ε)

コルジセピン

著者: 中里紘

ページ範囲:P.601 - P.602

 3'-Deoxyadenosine。最初に報告されたヌクレオシド抗生物質。Cordyceps militaris(Linn)Link,Aspergillusnidurans培養液中から単離された。

蛋白分解酵素阻害剤

著者: 佐々木實

ページ範囲:P.603 - P.613

 蛋白分解酵素阻害剤(プロテアーゼインヒビター)は動物,植物,微生物の細胞内や組織液中に含まれており,人工的にも多くの阻害剤が合成されている。一般に動物と植物に存在するインヒビターは高分子で蛋白性(ポリペプチド)のものであり,微生物由来のものは低分子のものが多い。したがって,微生物由来のもので特色あるすぐれたインヒビターは人工的にも合成され量的生産も可能になっており試薬としての利用価値も高い。一方,蛋白分解酵素(プロテアーゼ)には系統的に分化したいろいろなタイプがあり,それらは活性中心の構造に差違があるので,1種類のインヒビターがこれらすべてのプロテアーゼを阻害することはできない。特種の例外を除き1種類のインヒビターは一般にそれに対応する限られた種類のプロテアーゼを阻害する。すなわち,酵素が基質に対して特異性をもっているように,インヒビターもプロテアーゼに対して特異性または選択性をもっている。そのためインヒビターを有効に使用するにはプロテアーゼに関する最少限の知識が必要となる。
 プロテアーゼの系統的な分類は図1のようである。プロテアーゼは蛋白質を構成するポリペプチド鎖の中ほどを水解するエンドペプチダーゼと末端のペプチド結合を水解するエキソペプチダーゼに大別される。エンドペプチダーゼはさらに活性中心の触媒部位を形成するアミノ酸の種類によりセリン,システイン,アスパルティック,メタロプロテアーゼの4種類にわかれる。

フェノバルビタール

著者: 加藤隆一

ページ範囲:P.614 - P.616

 ■一般的性質
 フェノバルビタールは次に示す構造をもつ分子量232の脂溶性化合物であり,通常はナトリウム塩として用いる。ナトリウム塩は水に高い溶解性を示す。
 フェノバルビタールはバルビチュレートの一種であり,一般的な中枢神経抑制作用を示す。その血漿半減期が長い点から,睡眠薬および抗てんかん薬として臨床的に用いられている。

トリフロペラジン

著者: 佐々木泰治 ,   日高弘義

ページ範囲:P.617 - P.618

 トリフロペラジンは他のフェノチアジン系抗精神薬同様,脳内ドーパミン(DA)受容体を遮断することが知られている。シナプス前膜からのDA放出が一連の抗精神薬によって阻害され,かつハロペリドールのシナプス後膜への結合をも阻害する1,2)。抗精神薬のこの阻害効果と臨床有効容量との間に高い相関性が得られている。更には,DA感受性アデニレートサイクレース活性がトリフロペラジンなどの抗精神薬にて阻害されることも知られている。
 一方,1975年LevinとWeissらによって,トリフロペラジンがカルモジュリン(CaM)依存性phosphodiesterase(PDE)活性を阻害するということが報告された3)。その後種々の研究室から,CaM依存性酵素の活性がトリフロペラジンを含む"CaM antagonist"によって阻害されるという報告が相ついだ。そしてCaMantagonistsがCaM研究の有力なtoolとして登場した。本稿では,CaM antagonistとしてのトリフロペラジンの性質,有用性について述べる。

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生体の科学 第35巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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