特集 脂肪組織
寒冷適応と脂肪組織—グルカゴンを中心に
著者:
黒島農汎1
八幡剛浩1
葉原芳昭1
所属機関:
1旭川医科大学医学部生理学第一講座
ページ範囲:P.594 - P.601
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寒冷に対する生体反応は熱放散の抑制と熱産生の増大の二つのカテゴリーに集約される。ラット,マウスのような小型の哺乳動物や,毛のないヒトではとくに熱産生の増大が寒冷下での体温調節にとって重要になる。寒冷に対する通常の熱産生反応は骨格筋の不随意的収縮,すなわちふるえであるが,寒冷に適応すると骨格筋の収縮によらない熱産生である非ふるえ熱産生non-shiveringthermogenesis(NST)が促進してくる。NSTの促進は代謝性寒冷適応の特性であるが,またヒトを含めた哺乳動物の新生時期の体温調節や,冬眠哺乳動物の覚醒期の体温上昇に重要であることが知られている1)。さらに食事摂取,とくに過食時に促進する摂食性熱産生diet-induced thermogenesis(DIT)が寒冷適応によるNSTと同質のものであることが示され,生体のエネルギー・バランスにおける意義が明らかにされつつある2)。
最近ラットで拘束ストレスを反復負荷するとNSTの促進による耐寒性の改善すること,すなわちストレスと寒冷の間に交叉適応の存在することが示されている1a)。したがって不可避的NSTである基礎代謝以外のNSTとして,体温調節性NST,DIT,ストレス性NST(stress-induced NST)の三つが挙げられる。そしてこれらのNSTはいずれも後に述べるような同一のメカニズムと部位で発現するものと考えられている。