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特集 脳のモデル
序:脳のモデルを求めて
著者: 伊藤正男1
所属機関: 1東京大学医学部第一生理学教室
ページ範囲:P.2 - P.3
文献購入ページに移動 近年脳の研究は隆盛の一途を辿り華々しい進歩が見られる反面,その行先に立ちはだかっている大きな困難もまた次第に姿を明らかにしてきた。脳には複雑な物質系としての側面と膨大な情報系としての側面があるが,この二つの側面の間の空隙は現在むしろ広がる一方であり,両者を統合して,「機能し,心を生み出す脳」の実体を把握するには程遠い状況にある。
このような困難な状況を打開するためには脳のモデル観の有無が重要な意味をもってくる。デカルトの時代にはパイプオルガンや時計が脳のモデルであった。これら金属でできた構造物が音を発し,時を刻むように,脳の構造は考え,悩み,実行するとなぞらえたのであろう。近年になって電話が普及するとそのスイッチボードに脳がたとえられ,テレビが普及するとその走査方式と脳波の発生機序との類似が論じられた。さらにコンピュータは真に迫った機能する脳の類似物としてわれわれに一種の安堵感を与えたのであるが,しかしやがて脳の実際の内部構造はコンピュータのそれとは類似点よりもかえって本質的な相違点を多くもつことが判明してきた。何かコンピュータのようなものであるが,現在のコンピュータとはひどく違った原理で働いており,現在のコンピュータが苦手とするような働きをやすやすとやってのける能力のある膨大な構造物,というのが現在の大方の脳のイメージであろう。ではそのアナロジーを与えるもっとも端的なモデルはないであろうか。
このような困難な状況を打開するためには脳のモデル観の有無が重要な意味をもってくる。デカルトの時代にはパイプオルガンや時計が脳のモデルであった。これら金属でできた構造物が音を発し,時を刻むように,脳の構造は考え,悩み,実行するとなぞらえたのであろう。近年になって電話が普及するとそのスイッチボードに脳がたとえられ,テレビが普及するとその走査方式と脳波の発生機序との類似が論じられた。さらにコンピュータは真に迫った機能する脳の類似物としてわれわれに一種の安堵感を与えたのであるが,しかしやがて脳の実際の内部構造はコンピュータのそれとは類似点よりもかえって本質的な相違点を多くもつことが判明してきた。何かコンピュータのようなものであるが,現在のコンピュータとはひどく違った原理で働いており,現在のコンピュータが苦手とするような働きをやすやすとやってのける能力のある膨大な構造物,というのが現在の大方の脳のイメージであろう。ではそのアナロジーを与えるもっとも端的なモデルはないであろうか。
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