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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学37巻2号

1986年04月発行

雑誌目次

特集 血小板凝集

形態から見た血小板凝集反応

著者: 服部晃 ,   小池正 ,   曾我謙臣 ,   柴田昭

ページ範囲:P.82 - P.88

 血小板は活性化されると様々な形態変化,生化学反応を起こし,接触のチャンスがあればお互いに付着する。この凝集Aggregationは血小板の止血(血栓形成)機能上必須な過程で,さらに顆粒の分泌(放出),フィブリン血栓形成に進行することがある。本稿では,凝集反応について形態面からのアプローチを,最近の知見をもとに解説する。

血小板膜

著者: 河和善

ページ範囲:P.89 - P.94

 血小板はヒトの細胞(片)の中でもっとも小さいものである(直径2〜4μm,体積5〜17μ31)。また物理的,化学的刺激に応じて粘着・凝集,顆粒の放出,収縮・変形を行うきわめてユニークな機能を有す。血小板膜についてはすでに優れた総説1-3)があるので本稿では従来とは少し違った角度から捉え,考察してみたい。

血小板とアラキドン酸カスケード

著者: 久米章司 ,   東原正明

ページ範囲:P.95 - P.100

 血小板は止血血栓過程において重要な役割を果しているが,この過程において粘着,放出,凝集などの血小板活性化反応が惹起される。この血小板活性化反応は種々の刺激によって引き起こされるが,この反応過程において血小板膜リン脂質よりアラキドン酸(arachidonicacid,AA)が遊離され,このAAより種々の代謝産物が生成され,これらの代謝産物が結局は血小板のCa2+代謝を介して血小板活性化反応に関与している。このAAより種々の代謝産物が生成される過程がアラキドン酸カスケード(arachidonate cascade)と呼ばれている。本稿では,この血小板のアラキドン酸カスケード(図1)について簡単に述べてみたい。

血小板収縮蛋白

著者: 巽典之 ,   橋本幸藏 ,   任太性 ,   橋本孝二 ,   瓦林佳子

ページ範囲:P.101 - P.109

 ヒト血小板をトロンビンなどで刺激すると形態変化(shape change)—粘着・凝集—放出の一連の反応がみられる。これらの反応はATPやCa2+を除くことにより抑制をうけることから1),血小板内には細胞運動の基本となる各種の収縮関連蛋白,すなわちアクチンやミオシンの存在が想定され証明されており2),現在の研究の焦点はこれら諸蛋白間の相互反応機構に向けられている。本稿においては血小板収縮蛋白の概念と,これら蛋白質の血小板凝集への関与について述べることにする。

血小板に作用する薬剤—ADP,PAF,アドレナリン,セロトニン

著者: 高野静子

ページ範囲:P.110 - P.114

 血小板は血液凝固に重要な機能を持つばかりではなく,凝集,粘着,分泌,能動輸送,免疫など各力面で広く研究されている。血小板は表1のごとく種々な生理活性物質により凝集を起こす。それらの物質は細かな違いはあるが,一連の過程,すなわち粘着,形態変化(shape change),凝集,放出と血小板を活性化し,凝集塊を作る。この一連の反応は凝集物質の種類と,刺激の強さに関係する。たとえばセロトニン(5-HT)では可逆的凝集のみで,放出反応は伴わない。本小文では表1のうちで,生理的にも血小板に由来するADP,血小板活性化因子(platelet activating factor,PAF),アドレナリン,5-HTの凝集について概説し,アラキドン酸(AA)代謝物については他の執筆者に譲ることにする。なおそれぞれの凝集物質および血小板活性化の詳細については他の章および成書を参考にされたい1-3)

血小板によるセロトニンの取り込み,運搬,放出

著者: 渡辺泰子 ,   小林凡郎

ページ範囲:P.115 - P.121

 血小板セロトニン(SER)は,1層の単位膜に囲まれた小胞(SER顆粒)の中に貯蔵されている。オスミン酸固定により,この小胞は電顕的に電子密度のきわめて高い顆粒として観察されるので濃染顆粒(dense body)とも呼ばれる。血小板SER含量は種によって著しく異なり,ウサギ(38.5nmol/mg protein)ではヒト(2.2)の20倍も高い1)。濃染顆粒の中には,SER,ヒスタミン,カテコラミンなどの他,大量のアデニンヌクレオチド(主としてATP)と相当量のCa,Mgが含まれている。顆粒内の蛋白濃度はきわめて低く,SERが蛋白との複合体として存在しているとは考えられていない。また,ウロン酸やヘキソサミンは検出されず,神経細胞内顆粒で見られるようなグルコサミノグリカン鎖との結合体もないものと考えられる1)
 濃染顆粒は流血中の血小板にのみ認められ,血小板の母細胞である骨髄の巨核細胞には認められないが,多量のSERを繰り返し投与すると巨核細胞中にも濃染顆粒が出現し,SERも検出されるようになる。このことは巨核細胞の中にもSERの取り込み能を持つ顆粒のあることを示している。巨核細胞にはウラン親和性でヌクレオチドや金属を含む顆粒が存在するが,血小板貯蔵顆粒欠乏症のヒトや動物ではこの顆粒が非常に少ない2)。このウラン親和性顆粒がSER顆粒の前駆顆粒であろうと考えられている1,2)

血小板特異蛋白

著者: 村田満

ページ範囲:P.122 - P.127

 血小板には形態学的に異なった数種の顆粒(granules)が存在し,放出反応(release reaction)に際してその内容物が血小板外へ分泌されることが知られている。電子顕微鏡を用いた組織化学的手法により各顆粒に含まれる物質がそれぞれ明らかにされている。濃染顆粒(densebody)と呼ばれる顆粒には,セロトニン,カルシウム,ADP,ATPやピロリン酸などが含まれている1-5)。ライソゾームには,β-グルクロニダーゼ,N-アセチルグルコサミニダーゼなど諸種の水解酵素が存在する。一方,α顆粒(α-granule)と呼ばれる電子密度の低い顆粒には表1に示すごとく数多くの蛋白が貯蔵され,外来刺激に応じて血小板外へ放出される。それらの蛋白は大きく二つのカテゴリーに分類される。すなわち,(1)血漿中にも多量に存在する蛋白,(2)血小板特異蛋白と呼ばれる蛋白,である。表26)は非活性時血小板に含まれるこれらの蛋白の濃度を血漿中のそれと対比して示したものである。

血小板疾患

著者: 間瀬勘史 ,   安永幸二郎

ページ範囲:P.128 - P.132

 血小板異常による止血異常は,血小板数の異常(減少と増加)と機能の異常に大別される。血小板機能異常症は先天性または後天性に血小板の機能,すなわち血小板粘着,放出反応,血小板凝集の過程でいずれかの部位に欠陥があり止血異常を呈する疾患である。本稿では血小板凝集に何らかの異常のある疾患を中心に現在までの報告をもとにして述べる。

血小板凝集における代謝—糖およびヌクレオチド代謝を中心に

著者: 木村昭郎 ,   藏本淳

ページ範囲:P.133 - P.138

 血小板機能として一般に確認されているものには,粘着,形態変化,凝集,濃染顆粒放出,α-顆粒放出,acidhydrolase放出,血餅退縮などがある。血小板凝集はトロンビン凝集を例にとると,トロンビン刺激による膜受容体(GPⅠ,V)との結合反応とphosphatidyl inositol(PI)化謝,C-キナーゼの活性化が明らかにされつつあると同時に,GPⅡbとGPⅢaによる複合体形成と,フィブリノーゲン受容体機能の発現が連動し,フィブリノーゲン結合が完結する。これが凝集の本体と考えられる。GPⅡb-Ⅲa複合体の形成はCa2+濃度に依存性であり,アクチンフィラメントの重合やミオシンとの結合など骨格蛋白の動態と密接に関連している1)。これらの血小板反応,とくに凝集反応を支える糖,エネルギー代謝についてはすでにいくらか紹介してきたが2,3),本稿では最近の話題にも少し触れながら概説する。

連載講座 哺乳類の初期発生

哺乳類の生殖と初期発生の諸問題

著者: 舘鄰

ページ範囲:P.139 - P.146

 哺乳類の初期発生に関する諸問題は,生殖現象と密接に関連したものが多い。したがって,これから本講座で取り上げる課題にも,発生学と生殖生物学の両分野にまたがったものが少なくない。
 最近,バイオテクノロジーの発展とともに,哺乳類の初期発生や生殖に関する話題がマスコミや一般向けの科学雑誌で取り上げられる機会が著しく増えたが,これらの分野は従来の発生学や一般生物学では比較的軽視されていたところから,適当な教科書も少なく,系統立てられた基礎的知識が得難いために展望を欠き,単にトピックスとして扱われるに止まっている場合も少なくない。また,日本の生命科学の一般的な特徴であるが,技術的側面の導入に急で,その土台となった基礎研究や,基礎概念を等閑視する傾向も,相変らず強い。

解説

蛋白質分子の重合の理論—Ⅰ.平衡論

著者: 大沢文夫

ページ範囲:P.147 - P.152

 Fアクチン(F-actin),マイクロチューブル(microtubule),バクテリア鞭毛(Bacterial flagellum),種々の中間径線維(Intermediate flaments)などの蛋白質分子重合体が蛋白質分子から形成される現象は,自己集合(SelfAssembly),動的平衡(Dynamic Equilibrium)の概念を基礎に理解される。現在,研究は重合体形成における蛋白質分子間相互作用,重合体形成の制御機構のより定量的な解析の方向へ進んでいる。そこで,蛋白質分子の重合に関する理論を概説し,どのような実験からどのような知識がえられるかを説明する。

話題

エネルギー転換ATPaseに関する第11回山田コンファレンス—故殿村雄治教授への追悼を兼ねて

著者: 福島義博 ,   中村洋一

ページ範囲:P.153 - P.155

 生前の殿村先生は収縮性ATPaseをはじめとして,輸送ATPase,さらにATP合成酵素へと反応機構の面から研究を推進され,生体エネルギー転換の基本原理を求めようとされた。その先生の余りにも急だった逝去から早や2年半にもなる1985年5月27〜31日,上記標題のコンファレンスが,外国人招待者約30名を混じえて関西セミナーハウスで開催された。
 1日目夕刻からのオープニングに続くパーティーに始まり,2日目は主として収縮性ATPase,3日目に輸送ATPasc,4日目ATP合成酵素について46の講演と100余りのポスター発表が行われた。最後の5日目には総合討論があった。

謎シリーズ

動物の寿命は何によってきまるのか

著者: 江上信雄

ページ範囲:P.156 - P.159

 「動物」の「寿命」
 今回与えられた謎(問題)は「動物の寿命は何によってきまるのか」である。この設問にある「動物」と「寿命」という二つの名詞の定義をしておかないと,問題の意味があいまいになる。
 第一の「動物」である。動物学者にとって動物というと,アメーバ,ゾーリムシ,カイメン,ヒドラ,ワムシ,セミなどからヒトに至る多様な種が頭に浮ぶ。これらの中には,無性的な分裂によって増殖するものや,悪い環境条件の下では,乾燥に強い卵や芽球の形で休眠したり,代謝をほとんど止めて,永生きするものもあって,永生き競争のパターンが異なる。しかもこれらの動物の寿命についての研究は行われている。しかしそれらをすべて解説していては紙数も不足するし,話が散漫になる。また仮に話を脊椎動物に限定したとしても,太古に生存していた恐竜の寿命や,氷の中で凍結状態で永く生きていたという両生類の話まで考慮すると,謎の意味が明確でなくなる。そこで今回は便宜的に「動物」を「現生の脊椎動物」に限ることにしたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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