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特集 細胞生物学実験マニュアル 細胞培養
細胞周期同調法
著者: 西本毅治1
所属機関: 1九州大学医学研究科分子生命科学専攻細胞工学講座
ページ範囲:P.258 - P.259
文献購入ページに移動動物個体から分離された細胞はアミノ酸,ビタミン,無機塩類やグルコースなどの考えられるすべての栄養源を与えても血液成分の血清がないと増殖できない。これは生体内での細胞の増殖が血液内にあるホルモンや増殖因子によって調節されていることを反映している。ホルモンや増殖因子は細胞表面にあるレセプターに結合する。これによって刺激が細胞質を通って核内のクロマチンに伝わり,mRNAの転写が始まる。そして細胞増殖が開始するという図式が考えられている1)。事実,細胞増殖因子やホルモンが不足すると増殖は止る。この時,増殖は細胞周期のどの時期でも止るのではなく必ずG1期で止る。これはG1期の特殊性によっている。G1期には細胞が置かれている周囲の状況,たとえば増殖因子や栄養素(必須アミノ酸など)の有無,細胞の密度といったものをチェックする機構がある。そしていったん細胞増殖に不利な状況であると判断したらそれ以上の増殖を止める。またいったんG1期を通過したものは,次のG1期までは周囲の状況に関係なく進行する。このため増殖因子が不足したり,必須アミノ酸が欠乏すると細胞増殖はG1期で止まる。ただし癌細胞ではこのG1期停止がなく担体動物を死に到らしめる6)。それで癌細胞の場合のG1期同調はM期の細胞が円くなってシャーレからはがれやすいことを利用した同調法が有効と思われる2)。
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