特集 細胞生物学実験マニュアル
細胞培養
マウスFM3 A細胞のS期同調法
著者:
清水喜美子1
所属機関:
1埼玉県立がんセンター研究所血清ウイルス部
ページ範囲:P.260 - P.262
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増殖状態にある真核細胞はG1→S→G2→M→G1期という細胞周期を経て,分裂増殖する。その細胞集団を均一にすることは研究目的によって必須である場合もあるが,100%均一に同調することは,未だに困難である。しかしDNA合成に関係する研究やS期特異的な変異株の分離などにS期同調法が用いられており,多くの成果を上げている。S期に同調するにはヒドロキシウレア(HU)1),過剰チミジン(dThd)2),フルオロデオキシウリジン(FdUrd)3),アフィディコリン(Ac)4)を用いる方法がよく知られているが,使用目的と用いる細胞によって一番良い条件を選ぶ必要がある。この中でHUは細胞毒性が強く,細胞周期の進行を止める作用が必ずしも可逆的ではないと一般に言われている。過剰dThd法,およびFdUrd法は浮遊細胞でも用いられており,良い結果を得ている場合がある3)。
われわれの研究室では浮遊状態で増殖するマウスFM3A細胞をDNA合成阻害剤であるAcを用いてS期に同調している。この方法は過剰dThd法などでは同調しにくいdThd要求性変異株に対しても,野生株と同様に用いることができる。Acは細胞増殖を停止させるのに必要最低限の濃度を選べば細胞毒性も低く阻害は可逆的であり,方法も簡単である。現在では国内のメーカーから市販されているので入手は容易である。難点は少々高価な点である。