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特集 細胞生物学実験マニュアル 基本技術
凍結置換法
著者: 市川厚1
所属機関: 1横浜市立大学医学部解剖学教室
ページ範囲:P.424 - P.425
文献購入ページに移動 凍結置換法は,氷点以下の温度に保たれたアセトンやアルコールなどの有機溶媒中で,氷が溶ける性質を利用して凍結試料の脱水を行おうとするもので,Simpson1)によって開発された。その後,Feder & Sidman2)は置換剤の中にあらかじめ四酸化オスミウム(OsO4)やピクリン酸,昇汞などの化学固定剤を溶かしておくことによって,脱水と同時に化学固定を行うことを考えた。これが,今日の凍結置換法の基礎になっている。この方法は,通常の化学固定法では溶出してしまう細胞や組織中の可溶性物質を氷の中に閉じ込めたままの状態で脱水処理を行うことができるので,可溶性物質が良く保存され,したがって組織化学の分野では不可欠の手法として広く利用されてきた。しかし,これまでの凍結法は氷晶形成による構造破壊が著しく,形態の保存という点で難点があった。これを防ぐため,組織を軽く化学固定してから,グリセリンのような氷晶防止剤に浸し,凍結する方法もあるが,はじめの化学固定の段階で生じる人工的な形態変化や,ある程度の可溶性物質の抽出は避けられない。近年,急速凍結法の開発が進み,数ミリセカンドという早さで細胞や組織を凍結することによって,氷晶形成に伴う構造破壊を最小限に止めることが可能となった3)。
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