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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学37巻6号

1986年12月発行

雑誌目次

特集 神経活性物質受容体と情報伝達

序論—受容体の構造と機能をめぐって

著者: 栗山欣弥

ページ範囲:P.534 - P.534

 受容体(レセプター)の概念とその存在は,1905年Langley,そして1906年にEhrlichにより提唱され,その後Hillにより受容体と薬物の複合体の形成速度の計算式が1909年に提示されるに及んで,本格的な研究が開始されたのである。それ以来実に70年以上の歳月を経過した訳であるが,最近の10〜20年における受容体機構の研究の進歩はとくにめざましく,いわゆる生物科学系の各種の雑誌をみても,受容体機構に関する論文のないものを見出すのが困難なほどになってきている。
 このような隆盛を迎えた理由には多くのものがあげられようが,本来薬理学者の研究対象であった受容体が,生化学,生理学,内分泌学,さらには臨床医学の各分野の研究者などの興味の対象として取り上げられ,またこれらの関連分野で新しく開発された諸種の研究技法が有効かつ適切に組入れられるようになったことによることが大きいと考えられる。

ムスカリニックアセチルコリン受容体におけるアゴニスト結合の多様性—サブタイプ,受容体反応との関連

著者: 内田修次

ページ範囲:P.535 - P.538

 ムスカリン様アセチルコリン受容体(mACh-R)は,主として副交感神経支配器官の細胞膜上に存在して,副交感神経の興奮により,その末端より遊離したアセチルコリン(ACh)と結合してその細胞に反応を起こす。
 器官レベルでのムスカリン様反応としては,消化管,膀胱,気管,瞳孔などの平滑筋収縮,外分泌腺における分泌促進,心臓での心拍減少(negative chronotropiceffect),心収縮力抑制(negative inotropic effect)などがある。神経節では,ニコチン様の神経伝達が主であるが,mACh-Rも存在しており,補助的に伝達に関与していると考えられる。

ニコチニックアセチルコリン受容体

著者: 高橋智幸

ページ範囲:P.539 - P.544

 I.受容体の概念
 今世紀初頭,英国の生理学者Langleyは,ニコチンによって生じる筋収縮がクラーレによって拮抗を受けることを見出した1,2)。彼は,ニコチンおよびクラーレの作用が除神経の後にも存在することから両物質の作用点は神経でなく,筋細胞であることを示した。さらに,ニコチンによる筋収縮作用がクラーレによって完全に抑制された後にも,電気刺激によって筋収縮がひき起こされることから,両物質の作用点は収縮系でなく,筋細胞固有の「受容物質」(receptive substance)であると結論した。
 その後,約30年を経て,アセチルコリンが神経筋接合部の伝達物質として同定され3),ニコチン様の作用が,生理的にアセチルコリンによってひき起こされることが明らかになるに至り,受容物質は,ニコチニックアセチルコリン受容体と称せられるようになった。

α-アドレノセプターとCa拮抗剤結合部位

著者: 鬼頭昭三 ,   松林弘明 ,   三好理絵

ページ範囲:P.545 - P.553

 著者らはこれまで主として心血管系に作用する薬物として開発が進められてきたCa拮抗剤(Caチャネルブロッカー)が血管平滑筋のみならず,中枢神経細胞自体にも特異的結合部位を有することを見出し中枢への薬理作用に注目してきた。一方,カテコールアミン受容体は生体内に広く分布し種々の機能を営んでいる。この受容体に対する薬剤の開発は,主として循環器系疾患に対して行われてきた。われわれは脳ホモジネイトのP2分画を用いた薬理学的結合実験を通じて,類似した目的のために開発が進められてきたα-アドレナリン作動薬とCa拮抗剤の結合部位が,血管平滑筋のみならず,中枢神経細胞においても相互関連を有することを確認している。本稿では.まずα-アドレノセプターについて述べ,Ca拮抗剤,α-アドレノセプターとCaチャネルとの相関,ついで中枢神経系におけるCa拮抗剤結合部位に関する最近の知見を,われわれの実験を含めて概説する。

ドパミン受容体とサブタイプ

著者: 朝倉幹雄 ,   今福淳 ,   塚本徹 ,   長谷川和夫

ページ範囲:P.554 - P.559

 ドパミンは神経伝達物質およびノルエピネフリンの前駆物質として種々の生理機能に深く関与している。とくに中枢神経系では,その異常としてパーキンソン病で代表される運動機能疾患や,精神分裂病で代表される高次精神機能疾患およびプロラクチンをはじめとする脳下垂体ホルモン分泌調節など,多彩な脳機能の制御に関与していることが知られている。さらに近年,末梢臓器においても,心臓血管系,消化器系,網膜,腎血管系などにおける機能調節にも重要な役割を果たしていることが明らかにされている。ドパミン受容体は,当初その本態はGreengardら1)が発見したドパミン感受性アデニレートサイクレースと考えられたが,薬物感受性による違いなどから,単一なものでなく,D1とD2の二つのサブタイプを持つことが明らかにされた。ドパミン受容体のサブタイプの分類は薬理学的,生理学的実験などから,いくつかの分類方法が提唱されていた。その後,放射性リガンドを用いた受容体結合実験の進歩とともに,ドパミン受容体サブタイプはさらにD1〜D4にまで細分化され,ここ数年前まではサブタイプの分類は混乱していた。しかし最近,受容体と膜内共役物質とくにグアニンヌクレオチド結合調節蛋白との関連性などから,ドパミン受容体のサブタイプの議論は一応整理されつつある。

GABA受容体とベンゾジアゼピン受容体

著者: 栗山欣弥

ページ範囲:P.560 - P.565

 γ-アミノ酪酸(GABA)は,哺乳動物の中枢神経系においても重要な抑制性神経伝達物質の一つと考えられているが1),その重要な根拠の一つとなるGABA受容体の脳内における存在様式と生化学・薬理学的性質についても,最近多くの研究成果が発表されるようになってきた。
 このようにGABA受容体の生化学的研究が活発になった理由の一つは,本受容体がマイナートランキライザーであるベンゾジアゼピン系薬物(benzodiazepines:BZP)に対応するとされるベンゾジアゼピン受容体(benzodiazepine receptor:BZP-R)と機能的共役のみならず分子上の結合を持ち,BZPの薬理作用発現に重要な関係を持つと考えられること,また同様なGABA受容体を介する作用発現の可能性が,バルビツール酸誘導体の場合にも考えられるようになったことである(図1)2)

ヒスタミン受容体のサブタイプ

著者: 大石了三 ,   佐伯清美

ページ範囲:P.566 - P.574

 ヒスタミン受容体のサブタイプは,1972年以降に登場した新型のヒスタミン受容体拮抗薬が消化性潰瘍に優れた治療効果を発揮することが判明し,一般の関心をひくようになった。本稿では,内因性ヒスタミンの機能とできるだけ関連づけながら,各ヒスタミン受容体サブタイプをめぐる研究の成果を概説してみたい。

オピオイドペプチドの受容体と不活性化酵素

著者: 岡哲雄 ,   平沼豊一 ,   久野良樹 ,   坂本順司 ,   石塚善久 ,   松宮輝彦

ページ範囲:P.575 - P.581

 オピオイド受容体のきわめて近くに3種類のペプチダーゼが存在すること,これらの酵素はオピオイドペプチドの不活性化に重要な役割を演じていること,ならびに,3種類の酵素を阻害するとエンケファリンの加水分解はほぼ完全に阻止できること,などが最近の一連の研究で次第に明らかにされてきている1-5)
 これらのオピオイドペプチド不活性化酵素に関する研究は,オピオイドペプチドの,①遊離,②効力の大きさ,③受容体のタイプとの関係,ならびに④生体内における役割などに関する研究を行う時の基礎となるもので,きわめて重要と考えられる。換言すれば,これら3種の不活性化酵素のことを考慮に入れないで,これらの研究を行うことは困難である。

受容体の変化と神経疾患—ACh受容体を中心として

著者: 中村重信

ページ範囲:P.582 - P.586

 神経疾患のあるもの,たとえばAlzheimer型痴呆などの疾患では,情報受容の障害が主症状として現われることが多い。さらに,これらの疾患の形態学的所見として,樹状突起の短小化や消失などの変化が初期に出現し,刺激伝達受容機構の障害が主な病変と考えられるものもある。このような神経疾患の生化学的異常の一つとして,神経伝達物質に対する受容体の異常が報告されている。本稿では,その中でも,とくにacetylcholine(ACh)受容体の異常を中心に紹介する。
 ACh受容体についてはすでに述べられたように,nicotine性受容体とmuscarine性受容体に分けられる。nicotine性ACh受容体はヒトをはじめラットなどの動物の脳のほか,脊椎動物骨格筋の神経—筋接合部やシビレエイ発電器官のシナプス後膜に存在する。nicotine性受容体は京都大学の沼教授のグループによりシビレエイの電気器官より抽出したmRNAの逆転写によってcDNAライブラリーを作って,それをもとにして全アミノ酸配列が明らかにされた1)。しかし,骨格筋ニコチン性ACh受容体の抗体に結合する蛋白は脳に認められず,脳のnicotineやAChの結合部位とα-bungarotoxinの結合部位が異なるところから,中枢性(脳)nicotine性受容体と末梢性(骨格筋)nicotine性受容体は異なると考えられる2)

連載講座 哺乳類の初期発生

着床

著者: 舘鄰

ページ範囲:P.589 - P.596

 哺乳類は脊椎動物の主要なグループの一つとして,約4,000種(Cobert and Hill, 1980)1)が知られているが,研究者によって種や亜種の分類が異なるものが少なくないので,だいたい4,000±500種の範囲と考えるのが適当であろう。この中で,単孔類に属する3種〔これにも古くから議論が多いが,ここでは,Griffiths(1978)に従った〕が卵生(oviparous)である以外は,すべて,胎生(viviparous)である。後にも触れるが,胎生種は,爬虫類,両生類,魚類に,その例が数多く見出され,無脊椎動物においても,決して稀な生殖様式ではない。実際,無脊椎動物の主要な門(phylum)にはほとんどすべて胎生種の例が見出されている。
 胎生は,有性生殖と並び,主要な生殖様式の一つとして,生物進化の歴史の上で早くから出現したが,胎生を代表的な生殖様式としてほとんどすべての種が用いている動物グループは,哺乳類のみである。そして,そのことが,哺乳類の初期発生の様式を大きく決定ずけている。

実験講座

セルソーターによる染色体の分離とその応用

著者: 本村光明 ,   渡辺武

ページ範囲:P.597 - P.604

 フローサイトメトリーを応用することにより,ヒト細胞から染色体を分離しフローサイトメトリーのソーティング機能によって,おのおのの染色体を分離・精製することが可能である。また精製した染色体からDNAを抽出し染色体遺伝子ライブラリーを作製し,DNA断片の制限酵素に対する多型性(RFLP:restriction fragmentlength polymorphism)を検討することにより,遺伝的疾患の診断・予防に有用であると思われる。
 真核生物の遺伝子の構造解析・染色体地図の作製において,分離・精製された染色体は重要な遺伝子ライブラリー源となる。ヒトの染色体は46本(2n=46)で,常染色体22対と性染色体1対からなる。現在までにヒト遺伝子の約900個についてどの染色体のどの部分に位置しているのかという遺伝了地図が作製されている1)

解説

新しい解糖調節因子フルクトース-2,6-二リン酸の合成と分解を行う単一酵素Fructose 6P,2 kinase/Fructose 2,6 bisphosphatase

著者: 北嶋繁孝 ,   仁保喜之

ページ範囲:P.605 - P.608

 フルクトース-2,6-二リン酸(fructose-2,6-bisphos-phate,Fru-2,6-P2と略)はホスホフルクトキナーゼ(phosphofructokinase,PFK)の活性化因子として新しく発見された糖リン酸化合物であり,図1に示す構造をもつ。よく知られた糖リン酸のフルクトース-1,6-二リン酸(fructose-1,6-bisphosphate,Fru-1,6-P2)とはC1位のリン酸エステル結合がC2位であることが異なるだけだが,両者の役割は大きく相違し,Fru-1,6-P2が解糖の代謝中間体であるのに対しFru-2,6-P2は解糖および糖新生の調節因子として働いている1-4)。すなわち図2に示すように,Fru-2,6-P2はPFKを活性化し,逆反応を触媒するフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(fru-1,6,-bisphosphatase,Fru-1,6-Pアーゼ)を阻害する5,6)。PFKに対しては,その活性化部位に結合することで,ATPによる阻害に拮抗し,Fru-1,6-Pアーゼに対しては,触媒部位で基質のFru-1,6-P2と競合しその活性を抑制する7)。このように解糖と糖新生との両酵素に相反的に作用することで種々のホルモン作用時あるいは病態時において糖代謝の流れを鋭敏にかつ精緻に調節する。

話題

トランス・スプライシング—二本のmRNA前駆体からmRNAができる

著者: 高橋豊三 ,   重松貴 ,   満田年宏 ,   奥田研爾

ページ範囲:P.609 - P.611

 真核細胞では,タンパク質をコードしている遺伝子のほとんどが介在配列,すなわちイントロンを有している。これはいくつかの原核細胞においても見出されている。このイントロンは成熟mRNA(mRNA)が形成される過程において取り除かれる。すなわち,イントロンが取り除かれ,コード領域であるエキソンが正しい秩序で互いに正確にスプライスされるのである。このスプライシングの機構に関しては,二年前にin vitro splicingsystem1)が開発されて以来,長足の進歩を遂げたにもかかわらず,未だに不明なままである。しかし,明白と思われていたことが一つある。それは1本の成熟mRNAは,スプライシングの過程で一つの前駆体分子(pre-mRNA)から産生されるということである。いい換えれば,これは分子内反応だと信じられていたのである。しかし,何か驚くべきことのように思われるかもしれないが,適切な条件下でスプライシング反応を行うと,お互いに別個の二つのmRNA前駆体分子から容易に,お互いのエキソンを繋ぎ合わせることができるのである2)
 マサチューセッツ工科大学(MIT)のPhilip Sharpとその一門のRichard Padgett,Maria Konarskaは人工的にメッセンジャーRNAの前駆体を二つ作った。

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生体の科学 第37巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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