特集 医学におけるブレイクスルー/基礎研究からの挑戦
心不全:分子生物学的アプローチと研究展望
著者:
多田道彦1
葛谷恒彦2
所属機関:
1大阪大学医学部第一内科・病理病態
2大阪大学医学部第一内科
ページ範囲:P.70 - P.74
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心臓は,循環系の中枢にあって循環ポンプとして機能する。したがって心不全は,より直接的に全身循環に影響し致死的な多臓器不全を招来する重篤な病態であるため,これまでその研究も循環生理学的なアプローチに重点が置かれてきた。かかる研究は心収縮弛緩の心室ポンプ特性を血行力学的に解析することによって数量化し,これをもって病的心を記述することをある程度可能としたが,心不全を治療・防御するにはこれらのアプローチだけでは限界があり,その根幹をなす心筋細胞障害の本態を細胞・分子レベルで究明することの必要性が最近ますます認識されつつある。このような研究進展の方向づけがより具体化した背景には,細胞培養,モノクローナル抗体の応用,遺伝子工学などの細胞生物学的研究手法の開発のみならず,核磁気共鳴,ポジトロンCTなどの新しい生体解析法が心臓研究にも導入されつつあることが大きなきっかけとなっている。
心筋細胞は,脳細胞と並んで好気的代謝に依存し,虚血にきわめて感受性の高い細胞であるため,心筋障害の成因として虚血の占める位置は大きいが,心筋症などに代表される遺伝的細胞障害や,高血圧心のごとく圧負荷や神経・体液因子にも大きく影響されるため心筋細胞障害の成因も単一ではない。