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文献詳細

雑誌文献

生体の科学38巻4号

1987年08月発行

文献概要

特集 視覚初期過程の分子機構

網膜における情報処理

著者: 金子章道1

所属機関: 1国立生理学研究所

ページ範囲:P.299 - P.304

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 視細胞でとらえた視覚情報は脳へもたらされて解読される。しかし,個々の視細胞と脳とは1対1の専用回線で結ばれているのではない。多くの動物において網膜と脳を結ぶ視神経の数は視細胞の数の約1/10にすぎない。視覚情報は網膜内の神経回路網で処理され,その結果が脳へ運ばれるのである。脊椎動物網膜は発生学的に見ても中枢神経系の一部であり,神経系における情報処理機構を研究するのにもっとも適した組織の一つである。網膜には6種類の神経細胞が3層に規則的に配列されており,細胞間にはフィードバックを含む複雑な連絡が存在する(図1)1)。細胞内記録法や細胞内染色法による知識の集積によって,現在では,各網膜細胞の特徴や神経ネットワークの中における役割の概略を理解することができるようになってきている。
 しかし,桿体視細胞が暗所視に寄与し,錐体視細胞が明所視に関与しているように,形状視,色受容,動きの受容など個々の機能に注目すると,それぞれサブタイプが異なった細胞の働きによるところが明らかである。網膜研究における目下最大の問題点は,こうした情報処理に関連した各サブタイプの細胞を同定すること,またそれぞれのネットワークを作動させる網膜ニューロンの伝達物質を同定することである。このような研究によって網膜内情報処理を単に現象としてだけでなく,その分子機構を知ることによってより深く理解することができる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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