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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学38巻5号

1987年10月発行

雑誌目次

特集 細胞生物学における免疫実験マニュアル

ページ範囲:P.346 - P.346

 免疫学的実験手法はいまや広く生物学・医学分野の研究において欠かせない基礎的技術の一つになっている。
 この技術についてはすでに国の内外で数多くの集成が刊行されていることは周知の事実である。そこで,「生体の科学」編集室では今までの集成とは一味違ったものを企画してみた。その要諦は,1.古い技術でも基本的なものは改めて採録すること,2.一般的細胞生物学的研究にすぐに応用できるものに重点を置くこと,3.新しい工夫・考案はかなり特殊なものでも採り上げること,4.免疫学的手法を用いる上で問題となる落とし穴に注意を喚起すること,5.免疫実験操作そのものではないが深い関連性のある特殊技術をも紹介すること,6.免疫学そのものは対象外としたこと,などである。

抗体の作製と吟味

モノクローン抗体の原理についての考察

著者: 矢原一郎

ページ範囲:P.348 - P.350

 モノクローン抗体が医学生物学に与えたインパクトは,はかり知れない。事実,モノクローン抗体法の潜在的価値によって,モノクローン抗体市場などという言葉がいちはやく世の中を駆け巡った。しかし,一方では,名ばかりのモノクローン抗体ブームが,役に立たない研究用モノクローン抗体試薬をモノクローン抗体であるというだけの理由で無数に世の中に送り出したこともあった。せっかく購入した抗体試薬が使いものにならず,腹の立つ思いをした研究者も少なくないと思われる。だが,KöhlerとMilsteinがモノクローン抗体を開発(1975年)1)してから年を経るにつれて,単なるブームを離れて本当に有用なモノクローン抗体が続々と作成されてきた。たとえば,Tac抗原に対するモノクローン抗体2)によってIL2レセプターの研究は飛躍的に進展した。各種の細胞を区別する特異的抗原に対するモノクローン抗体は,免疫学ばかりでなく,細胞生物学,発生学,形態学,解剖学,生理学,生化学,薬理学などで不可欠な試薬となっている。また,臨床検査試薬として役に立っているモノクローン抗体も少なくないであろう。
 以下にモノクローン抗体について,その原理と方法に由来する若干の問題点を考えてみたい。

ポリクローン,モノクローン抗体の選択,使い分け

著者: 真崎知生

ページ範囲:P.351 - P.352

 モノクローン抗体作製技術がはじめて発表されてから10年余りを経ている。今では簡単に作り,応用する時代となっている。またいくつかの抗体は市販されているし,米国には抗体を供給するバンクも存在する。したがって一部にはモノクローン抗体を用いないとその結果を信じないような風潮さえもみられる。しかし実験によっては従来のポリクローン抗体の方がずっと信頼性の高い結果を期待できるような研究も多い。そこで実験をはじめる際に,どちらの抗体を選択するかという問題は重要でありその際の参考として,私たちの今までの経験をもとにしたガイドをまとめてみた。これら指針の総合的な結論として,モノクローン抗体,ポリクローン抗体のそれぞれの利点と欠点か浮び上がってくる。

抗体とそのフラグメントの調製,精製法

著者: 遠藤聡史 ,   西村実和 ,   荒田洋治

ページ範囲:P.353 - P.355

 伝統的に行われている抗体とそのフラグメントの精製の方法については,実験書1-4)に詳述されている。ここでは,とくにIgGの精製およびFab,F(ab′)2,Fcなどのフラグメントの調製の方法,その問題点を,主として,著者の研究室のこれまでの経験をもとにしてまとめる。

免疫アジュバント

著者: 東市郎

ページ範囲:P.356 - P.358

 一般に血中抗体産生および細胞性免疫を中心とする免疫応答を強化する物質を免疫アジュバント(免疫強化剤,免疫賦活剤ともいう)と総称する。実験的に従来よりFreundによって創製されたフロイントアジュバント,グラム陰性菌より抽出されたリポ多糖体(LPS),またLPSのアジュバント活性,毒性を示す活性画分であるLipid Aが広く用いられてきたが,近年に至り種々の合成化合物が免疫アジュバントとして用いられるようになった(表1)。
 本章では,一般に入手可能で本書の読者が実験的に用いうる免疫アジュバントを中心に,その特色を述べるとともに免疫アジュバント研究の現況についてもふれる。

小動物からの採血法

著者: 野本亀久雄

ページ範囲:P.359 - P.360

 小動物から,必要な量の血液を,必要な時期に得るには,多少の工夫が必要である。とくにマウスから採血する方法を理解しておくと,他の小動物からの採血にも応用可能である。マウスの末梢血中のリンパ球や食細胞系の機能を測定するには,やはり全血を用いて測定法に工夫を加える必要がある。しかし本項目では,抗体測定を目的とした採取に限定して,工夫の一部を紹介したい。

免疫法の実際(リンパ節注射法を含む)

著者: 若林克己

ページ範囲:P.361 - P.362

 ここで取り上げるのは,通常ポリクローン抗体と言われているものである。抗体を作るには抗原が必要であるが,多量の抗原が使用可能な場合はともかく,できるだけ少量の抗原で,力価の高い抗血清を得たいというのが,一般的な要求であろう。ここでは,少量の抗原で,目的を達成できるとされる,二種類の方法を述べることにする。

アフィニティクロマトグラフィーを用いたIgGの精製

著者: 飯田孝

ページ範囲:P.363 - P.365

 免疫グロブリンの分離法として従来から硫安分画法,DEAEセルロースカラム法1a),あるいは,それらの併用法が広く用いられてきた。しかし,これらの方法を用いたIgGの精製には,1)純度の高いIgGを得ることが容易でない,2)操作が煩雑で時間がかかる,3)微量のサンプルから特異的なIgGを得ることが難しい,4)血清プロテアーゼが混入する,などの欠点のあることが知られている。一方,アフィニティークロマトグラフィー法を用いると,これらの欠点を補うことができることから,最近,IgGの分離精製にはこの方法が汎用されるようになっている。
 このアフィニティークロマトグラフィーによるIgGの精製には,単に免疫グロブリン中のIgG,あるいはそのサブクラスの精製を目的とした非特異的なIgGの精製法と,ある特定な抗原に対応するIgGの精製を目的とした特異的なIgGの精製法がある。

特定生体物質に対する抗体作製・使用法—神経ペプチド

著者: 矢内原昇

ページ範囲:P.366 - P.368

 神経ペプチドの単離・構造決定法の改良により,一方では遺伝子組み換え技術の発展により,新しい各種の神経ペプチドが発見されるとともに,その前駆体の全アミノ酸配列が提出されるようになった。こうした神経ペプチドやその前駆体の化学構造に関する情報はきわめて重要であるが,それらを再び生体に還元し,その機能の解析に応用する必要がある。その第一の方法として,神経ペプチドの産生細胞を特定することにより,その機能の解析に必要な手がかりを得ることができる。ここに,各神経ペプチドまたは前駆体に関連する特異抗体が必須の基質となり,その特異抗体を用いる免疫組織化学やラジオイムノアッセイにより,神経ペプチドの産生細胞,組織内分布を明らかにすることができる。また,特異抗体を用いて,それぞれの神経ペプチドの作用部位さえも同定することが可能である。
 一方,神経ペプチドの単離技術の発展にともないその解析が微量の天然物で可能になるとともに,天然品の入手ができなくなった。ここに,神経ペプチドやその前駆体の化学構造が明らかにされると,ただちにその提出構造に基づき,神経ペプチドそのもの,あるいは前駆体の部分構造に相当するペプチドが化学合成されるようになった。これらの合成神経ペプチドはいずれも抗原としての抗体の作製に用いることができる1)

特定生体物質に対する抗体作製・使用法—Gap junction蛋白質

著者: 太田英彦

ページ範囲:P.369 - P.370

 肝臓のギャップジャンクシヨン(以下Gap J)蛋白質はHertzbergのアルカリ処理を用いた方法1)により収量のよい精製が可能になり,抗体を作ることも容易になった。ここではラットの肝臓からGap J膜を単離してこれに対する抗体を作成し,抗体をアフィニティ精製する方法を記す。Hertzbergはゾーナルローターを用いた大量精製を行っているが,筆者は少量精製の経験しかないのでそれを紹介したい。子宮からのGap Jの精製もこれと似た方法で行われている2)が,その他の臓器に使う場合,たとえば心臓では単離操作中,蛋白質分解酵素の作用をおさえることが大切と考えられる3)

特定生体物質に対する抗体作製・使用法—(Na+,K+)ATPase

著者: 大森浩一郎 ,   田代裕

ページ範囲:P.371 - P.372

(Na+,K+)ATPaseはcatalytic subunitであるαsubunit(分子量〜10万)と糖蛋白質であるβ subunit(分子量〜5万)より構成されている。この酵素は細胞が生存していく上に必要不可欠であり,動物間の類似性も非常に高いため,抗体の作成が困難な蛋白質の一つである。
 われわれはイヌ腎由来の(Na+,K+)ATPaseのα,βsubunit1),およびホロ(Na+,K+)ATPaseに対する抗体2),またラット腎のホロ(Na+,K+)ATPaseに対する抗体3)を作製した。以下その方法を簡単に解説する。

特定生体物質に対する抗体作製・使用法—細胞骨格成分に対するウサギ血清の作り方

著者: 藤原敬己

ページ範囲:P.373 - P.375

 細泡骨格という言葉は,もともと細胞(主に培養細胞)をdetergentなどを含む塩溶液で処理したとき,抽出されずにあとに残った構造をさして用いられた1)。現在もこの意味で使われる場合もあるが,細胞にある線維構造やそれを作っている蛋白をさすこともある。ここでは主に後者の意味で使っている。ここ十年ばかりの間にみられる,細胞骨格研究の目ざましい発展の推進力となったことに抗体の利用がある。ここでは筆者らの経験をもとに,細胞骨格蛋白に対するウサギ抗血清を作る場合の作戦と手法について述べるが,本質的には細胞骨格蛋白以外のものに対する抗血清を作るのとまったく同じである。紙面の都合で割愛したこともあるので,詳しくは文献2を参照されたい。

特定生体物質に対する抗体作製・使用法—エストロゲン等低分子化合物

著者: 田中建志

ページ範囲:P.376 - P.378

 ここではペプチド以外の低分子の抗体作製法の実際について記す。
 タンパク質などの高分子化合物に対する抗体の作製に比べて,エストロゲンなどのステロイドホルモンあるいはその他の低分子化合物に対する抗体の作製はいろいろな点で困難を伴うことが多い。それ自体では免疫原性を持たないが,抗体との反応性は持っているハプテンを,キャリアである免疫原性の高い物質と結合させるとそのハプテンに対する抗体が産生される。エストロゲンなどのステロイドホルモンでは,カルボニル基にカルボキシメトキシルアミンを結合させてO-カルボキシメチルオキシム誘導体を作り,BSAやヘモシアニン(KLH)などのタンパク質のアミノ基と結合させ,免疫原として用いる。または水酸基に無水コハク酸を反応させて,ヘミコハク酸エステル誘導体として用いる方法などが一般的である1)。また合成ペプチドなどで最近良く用いられているPVP(Polyvinylpyrrolidone)に物質を吸着させて免疫感作する方法もある2)

特定生体物質に対する抗体作製・使用法—プロテインカイネースC

著者: 田中千賀子 ,   坂上元祥

ページ範囲:P.379 - P.381

 1977年西塚らによって発見されたProtein Kinase C(以下PKCと略)は細胞膜のイノシトールリン脂質代謝回転と共役してホルモンや神経伝達物質などのシグナルを細胞内伝達するセカンドメッセンジャー系に重要な役割を持つことが明らかになってきている1)。PKCはまた細胞の増殖・分化・機能発現などにも関与し,生体情報伝達に中心的な役割を演じている酵素であることが示唆されており,医学・生物学の各領域の注目を集めている。PKCは脳に高濃度に存在しているものの他の臓器にも広く分布しており,その局在を明らかにすることはPKCの機能を解明する上で重要な問題と考えられる。今まで,ブタ2)やラット3)脳より精製したPKCを抗原としてポリクローナル抗体の作製が試みられ,グリア細胞や神経終末でPKC免疫反応が検出されているが,神経細胞体はほとんど染色されず,必ずしも十分なものとはいえなかった。また,PKCのDNA配列の解析からPKCには少なくとも3種類のサブタイプ(α,β,γ)が存在し,βにはさらにβ1,β2の亜型の存在が示唆されている。精製PKCを抗原として作製したポリクローナル抗体ではPKCのサブタイプを識別することが困難であり,PKCに対するモノクローナル抗体の作製が必要とされる。

エメチン/アクチノマイシンD法を用いたハイブリドーマ取得法

著者: 樋口昌宏

ページ範囲:P.382 - P.383

 Köhler Milsteinらによって開発された細胞融合技術1)はモノクローナル抗体取得という大きな成果をもたらしたが,その後その応用範囲はB細胞のみにとどまらず,T細胞,マクロファージその他多くの細胞へ応用されてきた。T細胞に関しても従来の方法であるhypoxantineguanine phosphoribosyl transferase欠損株またはthymidine kinase欠損株とTリンパ球とを融合させHAT培地で選択するという方法が一般的にとられるが,この際チミジンがT細胞系の増殖を抑制するため融合効率がその結果として低かった。
 われわれはこの問題点について改良したemetine-actinomycin D法という新しい融合方法を確立した2)。タンパク質の不可逆的合成阻害剤であるemetineはリボソームがmRNA上を移動することを阻害し,またポリゾームが単独ポリゾームに分離する過程を阻害することが知られている3)。一方RNAの不可逆的合成阻害剤であるactinomycin Dは低濃度では核小体におけるリボソームRNAの合成を阻害することが知られている4)。そこで両者を併用した場合,細胞内の使用可能なリボソーム量が減少し,かつ新たな合成を抑制するため,この処理を受けた親株は数日後に死滅する。

無血清培地を用いたハイブリドーマ

著者: 福本哲夫 ,   藤倉義久

ページ範囲:P.384 - P.387

 1975年に細胞融合法による単クローン性抗体産生の技術が開発1)されて以来,生物界におけるきわめて多くの物質に対する抗体産生が試みられ,生物界に存在する生体の構造と機能の解明に大きく貢献してきている。
 細胞融合法に使われる技術の基本をなすものは,細胞培養法である(参考書1-3参照)。どのような細胞を培養するにあたっても,電解質や栄養源としての既知のアミノ酸や糖が必要である。それらに加えて細胞の増殖を支える優れた微小環境としてのホルモン様物質を含めた複数の未知の活性物質が有効であり,血清成分によってそれを置換しきわめて良い増殖を得てきているのが実状である。その場合,成熟動物の血清に比べ,胎仔血清の方がより不都合な成分を含んでいないということで好んで牛胎仔血清(Fetal calf serum,以下略してFCS)が用いられている。細胞融合に用いられる骨髄腫細胞,あるいはTリンパ球由来の腫瘍細胞,ならびにそれらと感作リンパ球との融合細胞腫(ハイブリドーマ)についてもFCSが有効であり,通常10%-FCSの入ったRPMI-1640培地(以下略して10%-1640)などできわめて良い増殖が得られている。

in vitro immunizationによるモノクローナル抗体作製法

著者: 黒田洋一郎 ,   小林和夫

ページ範囲:P.388 - P.390

 モノクローナル抗体作製のための感作脾細胞を得るには,動物に抗原を注射し免疫するin vivo immunizationが一般に行われる。これに対し,マウスなどの脾細胞をin vitroで,抗原およびアジュバント・ペプチドとともにcultureして,感作細胞を得る方法が,in vitro immunizationである。in vitro法はin vivo法に比べて,①必要な抗原量が少なくてすみ(μgオーダー)貴重なサンプルでも免疫できる。②免疫期間が短くてすむ。③invivoで起こるtoleranceやsuppressionをさけやすく抗原性が低すぎたり,高すぎたりする抗原からも抗体がとれやすい,④動物に毒性の強い抗原でも免疫できる,⑤動物に毒性の強い抗体を作らせる抗原でも免疫できる,⑥ヒト抗体産生が可能である,などの利点がある。

特定細胞に対するモノクローナル抗体作製法—神経細胞

著者: 田中英明

ページ範囲:P.391 - P.393

 神経系は多種類の神経細胞が特異的な結合を形成して神経回路網として機能する。したがって,発生過程においては選択的なシナプス形成を可能にする認識分子や標識分子,さらにはそのシナプスを維持するための栄養因子など神経細胞種ごとに特異な分子が発現されていることが期待される。モノクローナル抗体法は未精製のサンプルをもとにある分子に対する特異抗体を得ることを可能にしているため,このような未知の分子を検出する強力な方法である。たしかに,ヒルの神経系のホモジネートを抗原にして神経節の個々の神経細胞を染めわけるモノクローナル抗体がとれた例1)や,ニワトリ胚の網膜細胞を抗原としてTOPと呼ばれる抗原分子が網膜内で片寄った分布をしていることを示した例2)などは,モノクローナル抗体法を神経系に応用した初期の仕事であり,モノクローナル抗体法の有効性が大変印象的であった。しかしながら,このような未精製のサンプルをもとに偶然性によって抗体を得るショットガン方式では抗原性の強いものや存在量の多い分子に対する抗体ばかり取れてきて目的とする抗体を得る可能性は非常に少ない。筆者の場合,運動ニューロンやそのサブタイプは,それぞれ異なる膜表面抗原を持っていることを期待してそれらを検出する抗体を取るため,ニワトリ胚の脊髄全体または膜分画を抗原にしてすでに10回以上細胞融合を行ったが,運動ニューロンに選択性をもつ抗体はただ一つ取れただけである3)(図1)。

スクリーニング(ELISA法)

著者: 新井孝夫

ページ範囲:P.394 - P.398

 モノクローナル抗体の作製には,①免疫,②細胞融合とHAT培地選択,③スクリーニングの三段階がある。①には動物を免疫することによって脾細胞を感作するin vivo免疫法と培養脾細胞を抗原と直接反応させるinvitro免疫法が用いられ,この段階は全ハイブリドーマクローンに対する目的の抗体を分泌するクローンの割合(陽性クローン率)に関係する。②は増殖するハイブリドーマクローンの総数を左右する。融合方法,条件や選択培地の組成のみを気にする人が多いが,融合に用いたミエローマ細胞の状態(対数増殖期前中期が良い)やHAT選択の際のはじめの細胞濃度もハイブリドーマの増殖に大きく影響することを忘れてはならない。③は個個のモノクローナル抗体作製に要する手間の大変さを左右するばかりでなく,得られる抗体の量と質に関係する。したがって,短時間内に多数の検体を処理できる感度の高い方法が要求される。この条件を満足するのが,固相に吸着させた抗原と結合したモノクローナル抗体を酵素標識された2次抗体で検出するELISA法(enzyme-linked immumo sorbent assay)である。この方法は上述のほか標識抗体の長期保存が可能なこと,放射線実験施設が不要なこと,肉眼でもある程度の定量性をもって判断できることなど多くの利点をもっている。

スクリーニング(リポソーム法)

著者: 梅田真郷 ,   井上圭三

ページ範囲:P.399 - P.401

 脂質二分子膜よりなる閉鎖小胞すなわちリポソームは,生体膜類似構造を有し,生体膜モデルとして,これまで広く利用されてきている。リポソーム膜に疎水性抗原(とくに脂質抗原)を組み込み,それに対する抗体を加えると,膜上で抗原-抗体反応が起こり,リポソームの凝集や,補体が存在する場合には,リポソーム膜上での補体の活性化,さらには活性化補体による膜損傷反応が起こる。
 したがって,リポソーム内の水層にマーカーを保持させ,抗体とリポソーム膜上の抗原との結合,およびそれにひき続くリポソーム膜の崩壊によるマーカーの遊離を測定することにより,抗原-抗体反応を感度良く検出することができる1)。ここでは,当研究室で現在行っている,4-methylumbelliferyl phosphateをマーカーとしたリポソーム膜崩壊反応を利用した抗膜脂質モノクローナル抗体のスクリーニング法について簡単に解説する。

定量的沈降法

著者: 武居能樹

ページ範囲:P.402 - P.403

 可溶性多価抗原と抗体の反応でもっとも基本的なのが沈降反応であり,定量的沈降法は試験管内でこの反応を利用したものである。
 定量的沈降法では,一般に,一定量の抗体に添加した抗原量を横軸に,生じた沈降物量を縦軸にプロットして定量的沈降反応曲線を作成する(図1参照)。沈降反応曲線は,上清に抗原も抗体も検出されない当量域(沈降物量最大点またはこれよりやや抗体過剰域側の狭い領域)と,これを挟んで左側の抗体のみ検出される抗体過剰域,右側の抗原も抗体も検出される抗原過剰域の三つに区分できる。抗体過剰域および当量域では加えた抗原がすべて沈降物に移行しているので,沈降物量を測定すれば反応に与った抗原と抗体の量が容易に求まり,当量域での値から抗体標品の抗体含有量が計算できる。一般に,抗体過剰域から当量域にかけては沈降物中の抗体量と抗原量との比(R)は抗原添加量(A)の一次式(R=a-bA;a,bは実験で求まる定数)で表される。したがって,精製抗原を用いて定量的沈降反応曲線を作成しておけば,同じ抗体標品を用いて粗抗原標品中の抗原量を知ることができる。

免疫拡散法

著者: 大日方昻

ページ範囲:P.404 - P.405

 免疫拡散法は,抗原,抗体あるいはその両者を種々の支持体内で拡散させ,生じた沈降線(帯)を観察する方法であり,ゲル内拡散法ともよばれている。支持体としては寒天(またはアガロース)ゲル,セルロースアセテート膜その他が用いられている。近年,モノクローン抗体法の登場およびそれに関連して,イムノブロット法などの新しい抗体検定法の開発により,免疫拡散法の重要性はやや薄れたかにみえる。しかし,依然として重要な実験手技であることに変わりはない。この方法の利点として,1)抗体,抗原が拡散過程で希釈されてそれぞれの濃度勾配ができ,適切な濃度域で沈降線を生ずる。したがって,かなり広範囲の抗体,抗原濃度で免疫反応を検出できる,2)免疫沈降線の数と位置関係から,抗体の純度,抗原蛋白質の免疫学的類似性を知れる,3)抗原濃度の算出ができること,などがあげられよう。一般的に,モノクローン抗体の場合には免疫沈降を生じないので,この方法は使えない。免疫拡散法には種々の方法があるが,紙面の制約からここでは,主にOuchterlony法について述べ,他の方法はごく簡単にふれるにとどめる。不足の点は,他の実験書1-4)を参照されたい。

免疫組織化学的観点からの抗体吟味

著者: 瓦井康之

ページ範囲:P.406 - P.409

 免疫組織化学は,組織や細胞内に存在する物質を,抗原抗体反応の特異性と鋭敏性を利用して検出する方法であり,抗原物質に対する特異抗体にある物質(マーカー)を標識して用いる場合を標識抗体法,抗体に標識せず,抗原抗体反応後にマーカーを使う非(未)標識法の二種類の方法がある。いずれの方法にしろそのマーカーを可視物質として,螢光顕微鏡,光学顕微鏡,電子顕微鏡などで,抗原の局在を観察する。免疫組織化学は,染色の一方法でもあるので,免疫染色とも呼ばれる。
 この方法は,検出しようとする物質が抗原物質であり,特異抗体を必要とすることと,その物質の抗原性を保ちながら,組織や細胞の微細構造を保存する—固定を行わねばならないという二点が大きなポイントとなる。

ラジオイムノアッセイ(RIA)のための抗体吟味

著者: 若林克己

ページ範囲:P.410 - P.412

 抗原で動物を免疫して得られた抗血清が,ラジォィムノアッセイに使用できるか否かは,それがラジオイムノアッセイで要求される諸性質を持っているか否かで決まる。その調べ方を以下に記す。

抗体の標識

直接法と間接法の問題点

著者: 中根一穂

ページ範囲:P.414 - P.415

 ■原理
 免疫組織化学の実施にあたり,直接法(Direct method)と間接法(Indirect method)が多く利用されているが,最近では他の数種の方法もある(酵素抗体法:抗体の免疫形態学的応用の項を参照)。

螢光物質標識法

著者: 太田英彦

ページ範囲:P.416 - P.417

 螢光色素標識抗体は特定の細胞や抗原を顕微鏡やセルソーターにより検出・選別するためのマーカーとして用いられる。現在は種々の動物由来のIgG,IgMなどにたいするFITC,TRITCなどの標識抗体が市販されているので,間接法を用いる場合は抗体の螢光色素標識を自分で行う必要はまずないし,多量に必要なのでもなければ市販品を使う方が経済的であろう。しかもすでによく知られたFITCやTRITICによる抗体の標識法をいまさらあらためて紹介する必要もないかもしれない。しかし直接法を用いる場合などは自分で標識しなければならないし,種々の記載を比較してみると案外不統一がみられる。

酵素標識法

著者: 中根一穂 ,   和泉伸一

ページ範囲:P.418 - P.420

 抗体にペルオキシダーゼを標識する操作であるが,初期にはペルオキシダーゼと抗体分子中のアミノ基をFNPS(p,p′-difluoro-m,m′-dinitro diphenyl sulfone)やグルタールアルデヒドなどのbifunctional reagentを用いて結合する方法がとられた。しかし,ペルオキシダーゼ中のfreeなアミノ基が少ないため効率よい標識ができなかった。そこで考案されたのがNakane and Kawaoiによる,ペルオキシダーゼ中の糖を利用し,アルデヒド化させ,それを抗体分子中のアミノ基に結合させる方法である(図1)。これにより効率の良い標識抗体が作製されるようになった。現在までに本法にいくつかの改良が加えられている。本免疫実験マニュアルでは当教室で現在施行しているWilson and Nakane1)による改良方法の手順を記載する。

フェリチン標識法

著者: 山本章嗣 ,   田代裕

ページ範囲:P.421 - P.422

 ■概要
 フェリチンは分子量約80万の含鉄タンパク質で,直径約10nmの粒子状をなし,その中心部に水酸化鉄のミセルからなる,電子密度の高い約5nmのコアをもっている。1959年にSingerがフェリチン抗体法を開発して以来,電子顕微鏡レベルの解析に適した大きさをもつ天然の均一粒子として,フェリチンは抗体やレクチンなどの標識に広く用いられている。シグナル/雑音比が高く,計数可能なことはフェリチン標識法の大きな利点である。とくに,フェリチン1分子に抗体1分子とが結合したフェリチン・抗体等モル複合体を用い正確に抗原抗体反応を行わせると,生化学的定量法に匹敵する感度と精度をもって電顕写真上で抗原を定量的に検出することが可能である。この定量的フェリチン免疫電顕法の詳細については前報を参照されたい1,2)
 本稿では,抗体活性の低下が少なく,収量の安定しているKishidaら3)のグルタールアルデヒド2段階法を用いたフェリチン・抗体等モル複合体の作製法4)を紹介する。

コロイド金標識法

著者: 内田隆

ページ範囲:P.423 - P.424

 コロイド金は,塩化金酸の水溶液を還元することによって得られる親水性コロイドである。このコロイド金は次のような特徴を持っており,電顕免疫組織化学のための標識として好適である。
 1)金粒子の電子密度が高く,抗原の局在を明瞭に観察できる。2)金粒子の直径は自由に変えられ,多重染色が可能である。また直径の小さい金粒子を使えば,高い分解能と感度が得られる。3)標識された抗体やプロテインAなどの生物学的活性はほとんど変化しない。4)作製や標識に,形態学者に馴染みの薄い生化学的手法や装置をほとんど必要としない。5)定量化が可能である。ここではコロイド金の作製とプロテインAおよび抗体との結合について解説する。

アイソトープ標識法

著者: 若林克己

ページ範囲:P.425 - P.427

 抗体は蛋白質であるので,放射性同位元素(RI)による標識は一般の蛋白質の場合に準ずる。通常トレーサー用として使用されるRIは,3H,14C,32P,125I,131Iなどであるが,蛋白質のようなすでにでき上がっている分子でしかもPを含まないものは,3Hか放射性ヨウ素が用いられる。標識には直接RIを導入する直接的標識法とRIを含む分子を添加する間接的標識法とがある。3Hによる直接的標識は蛋白質の場合ほとんど行われない。ここでは,放射性ヨウ素による標識法を主として述べることにする。

抗体の免疫化学的応用

イムノブロッティング(ウエスタンブロット,ドットブロット)

著者: 尾形研二

ページ範囲:P.430 - P.431

 イムノブロッティングは1980年代に急速に発達した蛋白質の分析技術の一つであり,高分解能のポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)と組み合わせることにより,きわめて有用な技術となった1)。現在ではスラブゲルによるSDS-PAGEと組み合わせて使うのが一般的である。その原理はSDS-PAGEによって分離された蛋白質をさらに電気泳動によってスラブゲルからニトロセルロース膜へ転写し,膜上に固相化された蛋白質を特異抗体によって検出するというものである。それに対し,ドットブロッティングは蛋白質溶液を直接ニトロセルロース膜上に滴下し,膜に結合した蛋白質を上記と同様に検出するものである。抗体を使ってニトロセルロース膜上の抗原を検出する方法には多くのバリエーション2)が考えられるが,ここでは高感度で利用価値の高いストレプトアビジンとビオチンの系を使った酵素抗体法について述べることにする。またSDS-PAGEについては紙面の都合上ここでは省略するので,他の文献3,4)を参考にしていただきたい。

レクチン吸着交叉免疫電気泳動法

著者: 石黒達也

ページ範囲:P.432 - P.434

 糖蛋白のアスパラギン結合糖鎖は,ゴルジ装置で一連の酵素反応による糖添加・除去を受けて完成し,そのプロセッシングは正確な順序に従っている。ところが,同じ糖蛋白でありながら糖鎖の分子構造に異性の存在することがあり,これを分子異性(microheterogeneity)という。この分子異性は,一定の糖構造と特異的に反応するレクチンによって識別することができる。
 本法は,このようなレクチンの作用を利用して糖蛋白の糖鎖を解析する方法であり,原理的にはすべての糖蛋白に応用することができるが,本稿ではわれわれの研究室で行っているα-フェトプロテイン(AFP)を例にしてその手技を紹介する。AFPは,コンカナバリンA(Con A),レンズ豆レクチン(LCH),フィトヘマグルチニンE(PHA-E),ヒマ豆レクチン(RCA)などと結合する分子異性をもつが,技術的にはどのレクチンを使用しても同じであるので,ここではCon Aを例に話を進めていく。

マイクロタイタープレートの使用法と測定法

著者: 保田立二

ページ範囲:P.435 - P.436

 マイクロタイタープレートは1954年にTakatsyが考案しSeverが改良して,血清学的な測定法に急速に普及した方法である。それまでに行われていた試験管を使う方法に比べて微量な試料で,簡便に,しかも多数の試料を同時に扱えるようになり,また血球凝集のような反応では判定も容易となった。現在では血清学的な方法のみならず,酵素免疫測定法(EIA),ラジオイムノアッセイ(RIA),細胞培養などを含めた広い範囲で使われるようになっている。それに伴いいろいろな便利な器具が登場している。それらをうまく利用することにより実験の能率を著しく高めることが可能である。ここではマイクロタイタープレートを使ううえでの基礎知識と測定法について述べる。

ビオチン-アビジン酵素免疫抗体法

著者: 白石広行

ページ範囲:P.437 - P.438

 ビタミンの一種であるビオチンと卵白中に存在するアビジンの結合定数(Affinity Constant)は1015M−1,すなわち抗原・抗体反応の100万倍の強さで,不可逆的な反応であることが知られている。この特異性の高いビオチン-アビジン反応を,抗原あるいは抗体の検出に感度のすぐれた方法として広く使用されている酵素免疫抗体法と組み合せたのが,このビオチン-アビジン酵素免疫抗体法(BA-EIA)である。
 アビジンは分子量68,000の塩基性糖タンパク質で,その1分子にビオチンの結合部位を4個もっている。そして,ビオチンが共有結合したIgGは多くのアビジンとの反応部位を持ち,反応の特異性とともに,感度をあげることが可能である。さらに,ビオチンは小分子(MW 274)なので温和な条件で,IgGのような蛋白質の生物活性を低下させることなく結合が可能であるのがビオチン-アビジン系のもう一つの特徴である。

二段ロケット免疫電気泳動法

著者: 清野仁

ページ範囲:P.439 - P.441

 二段ロケット免疫電気泳動法(double decker rocketimmunoelectrophoresis:DDRIE)は1981年に,Brand-slundらにより,補体C3のfragmentであるC3dの測定法としてはじめて報告された1)
 C3dはC3分子の一部分を形成しておりC3dに対する特異抗体もC3,C3b,iC3b,C3dとそれぞれ反応するため,補体活性化の結果生じたC3dの定量は11〜12%のpolyethylene-glycol(PEG)でC3dとC3またはC3 fragmentを分画して行うことが必要であった。しかしPEGによる分画はC3dと他のC3 fragmentを厳密に分けることは不可能であり,この方法も精度を欠いた測定法であった。

EIA

著者: 石川榮治

ページ範囲:P.442 - P.443

 ■測定系の選択
 抗原抗体反応は一般に特異性が高いうえに,低濃度の抗原と抗体の間でも反応が起こりやすく,抗原抗体結合物は比較的解離しにくく安定である。このような抗原抗体反応を利用すると,生体試料中の抗原や抗体を分離することなく,簡便・迅速に,あるいは高感度に測定することができる。これを免疫測定法という。免疫測定法には種々のやり方があるが,図1のように分類することができる。何らの標識をも用いない,沈降法,ネフェロメトリーなどの非標識免疫測定法は簡便であるが,高感度にはならない。標識を用いる方法のうち,標識体などの試薬と試料とを混合して,そのまま標識を検出する均一法は簡便・迅速であるが,高感度とはならないばかりか,この方法は主として,いわば密室の企業内で開発されることが多く詳細は不明である。不均一・標識免疫測定法のうち,競合法は非競合法に比べ感度が低いうえに,抗原量の測定範囲がせまく,再現性も悪い。したがって非競合・不均一・標識免疫測定法が,感度,測定範囲,再現性などの点でもっともすぐれており,サンドイッチ法(図2)がその代表的なものである。

ラジオイムノアッセイ

著者: 若林克己

ページ範囲:P.444 - P.447

 ラジオイムノアッセイ(RIA)はS.A.BersonとR.S.Yalowにより創始された微量定量法である。血中のホルモン濃度を測定するのに十分な感度を持ち,かつ良好な測定精度を持つために,基礎的な研究にはもとより,臨床診断のためにも広く使用されている。

ゼラチン粒子凝集法

著者: 吉田勉 ,   山本直樹

ページ範囲:P.448 - P.450

 動物血球に抗原を吸着させ,抗体と反応させると肉眼で観察できる凝集が生じる。この受身赤血球凝集反応は操作が簡単なことや,測定感度が高いことなどから微量の抗体検出には欠くことのできない方法である。しかし,担体である血球はロット差があることや抗原性を有し,非特異凝集が起こりやすいなどの問題があった。そこで,このような血球に代り得る担体として,安定性および品質性の優れた合成高分子のポリスチレンラテックスやマイクロカプセル,それに天然高分子のゼラチン粒子が開発された。ここではゼラチン粒子を用いたマイクロタィター法による抗体検出について解説する。

プロテインA結合ヒツジ赤血球簡易作製法

著者: 吉田直隆 ,   横田俊平

ページ範囲:P.451 - P.452

 プロテインA結合ヒッジ赤血球は各種免疫学的実験および検査法に広く利用されており,その代表的な検査法としてProtein A reverse hemolytic plaque formingcell assay(PFC法)がある。PFC法は,1976年にGronowiczら1)が最初に報告して以来,免疫グロブリン分泌細胞を直接検出する抗体産生能の検査法として普及している。
 このGronowiczらの報告の中で紹介されているプロテインA結合ヒツジ赤血球作製法(原法)は免疫実験操作法にも記載され,現在でも各研究施設でPFC法を実施する際に利用されている。

免疫吸着法による蛋白質精製法

著者: 中山仁

ページ範囲:P.453 - P.454

 抗体と抗原との相互作用は,生物学的な分子認識機構のうちもっとも特異性の高いものの一つであって,この特異性を利用した精製法(イムノアフィニティクロマトグラフィー)により一段階で高度の精製が行えることが多い。この方法で抗体または抗原のいずれをも精製することができるが,前者は他の項で記述されるので,ここでは抗体カラムを用いた蛋白性抗原分子の精製について述べる。
 抗原分子の精製法には,(1)試料中の目的物質を特異的に抗体カラムに吸着させた後,抗原分子を解離・溶出させて精製抗原を得る直接的方法と,(2)試料中の夾雑物質を抗体カラムを用いて吸収除去し,試料中の抗原分子純度を上げていく間接的方法がある。後者はポリクローン抗体(抗血清中の抗体)の特徴である関連抗原とも反応する性質によって,複数の夾雑物を除去しうる利点がある。現在汎用されているのは(1)が大部分であり,とくにモノクローン抗体を利用することによりこの精製法の特徴が一層発揮される。もちろんポリクローン抗体を用いることもできるが(参考書1を参照),ここではモノクローン抗体カラムを用いた蛋白質の精製を述べる。

抗体の免疫形態学的応用

チミン二量体化DNAプローブを用いての免疫組織化学的 Histo in situ hybridization法

著者: 小路武彦 ,   中根一穂

ページ範囲:P.456 - P.458

 ■概要
 細胞個々の生理状態を正確に把握するためには,蛋白質のみならず核酸,とりわけmRNAの細胞レベルでの解析が要求される。Histo in situ hybridization(HISH)法とは,組織切片上や細胞標本上で既知の塩基配列を持つ核酸分子をプローブとしてin situ(その場)でhybridizationを行い,プローブ核酸と相補的な塩基配列を持つ核酸分子の有無ならびに局在を細胞個々のレベルで検討していこうという新しい組織化学的方法論である。現在,放射性同位元素標識プローブを用いる方法に比べて操作上要する時間,解像力,使用設備などの点で有利なハプテン標識プローブを用いた免疫組織化学的HISH法がさかんに開発・検討されており1),すでにハプテンとしていろいろな物質が報告されている。しかしそれぞれ一長一短があり,最近われわれはもっとも標識が簡便で短所が少ない方法として,チミン二量体(T-T dimer)法を開発した2)。本稿では以下T-T dimer法を中心として述べる。

螢光抗体法の実際(細胞透過性亢進法,二重免疫染色法を含む)

著者: 北島康雄

ページ範囲:P.459 - P.461

 螢光抗体法は細胞骨格の形態学的研究手段として電子顕微鏡法と並んできわめて有効な方法である。電子顕微鏡法は細胞骨格線維構造の細胞内における局所的な存在様態や線維間の局所的相互関係の研究に用いられる。これに対し,螢光抗体法は細胞1個の細胞質内全体に分布する細胞骨格の構築様態や隣接する細胞のそれとの相互分布様態を観察するのにより優れている。さらに,この方法は,培地中の生きた細胞を位相差顕微鏡で観察しながら,ただちに固定し,その同一細胞における各種外的刺激に対応する細胞骨格の動的構造の観察を可能にする。
 ここでは,螢光抗体法の実際について,数多くのバリエーションのある方法のうち,われわれの教室で用いて成績のよかった方法を中心に具体的に記載する。

酵素抗体法(PAP,Alkaline phosphatase,ABC,double staining)

著者: 中根一穂 ,   和泉伸一

ページ範囲:P.462 - P.464

 ■原理
 酵素抗体法の実施にあたり,(1)直接法(Direct method),(2)間接法(Indirect method),(3)PAP法(Peroxidase-anti-peroxidase),(4)ABC法(Avidin-biotin-complex)などの他,数種の方法があるが,上記四つの方法について説明する。
 1.直接法(図1,414頁「直接法と間接法の問題点」 図1参照)
 この方法は抗体に直接,酵素(horseradish peroxidase,HRP)を標識して,HRP標識抗体(図省略)と組織内抗原(図省略)とを反応させる。この反応後,酵素組織化学的に3,3'-diaminobenzidine(DAB)とH2O2を基質として,HRPの局所分布を検出することにより,組織内抗原の局在の証明をする。

免疫組織化学における染色増強法

著者: 嶋田修 ,   石川春律

ページ範囲:P.465 - P.466

 1955年,Coonsら1)によって初めて螢光抗体法が発表されて以来,フェリチン抗体法,酵素抗体法,銀,金コロイドの標識抗体法などの種々の免疫組織化学的方法が開発されてきた。それらの方法を用いて,免疫染色を行う場合,しばしば染色性が悪く,抗原の検出が困難なことがある。そのため,組織切片上でいかに免疫染色性を高め,抗原の検出感度を上げるかが,重要な課題になってくる。検出感度を高めるためには,affinityの高い,そして,specificityの高い抗体を作製,精製することが重要なことは言うまでもない。しかしながら,そのような抗体が得られないときや,抗原が微量のため検出が不十分である時には,抗体染色性を何らかの方法で増強する必要がある。そのために,アビジン-ビオチン法,酵素組織化学の発色法の改良やGold-substituted silver-intensified DAB法2),Silver-immunogold法3)など種種の方法が工夫されている。
 ここでは,免疫染色増強法として,われわれの教室で行っている方法のうち,光顕レベルのDAB-PAP重金属増強法および免疫金-銀増強法について紹介したい。

光顕レベルの免疫金染色法

著者: 佐藤英美

ページ範囲:P.467 - P.470

 ■何故金コロイドを?
 金コロイドは,銀微粒子やフエリチンと比べて電子密度が高く,スペクトル測定や円偏光二色性の検出が容易であるばかりでなく,任意な大きさの均質なコロイドとして調製し,また選択できるという利点を持つ。経験的には最小径3.8nmの金コロイドが作れるというが,直径5nmの均質な金コロイドが下限と考えてよい6,8)
 一般に金粒子は蛋白質と化学結合はしないが,非常に強い親和性を持つ。したがってIgGの分子サイズを考えれば,直径5nmの金微粒子ならばほぼ1:1の量比での抗体標識が可能であり,抗原物質の視覚化のみならず,たとえば生体内分子重合の定量も不可能ではない。金は螢光物質と異なって励起光吸収による褪色がないし,また異なったサイズの粒子の使い分けで異種抗体の分別標識と,生体内での同時追跡も可能である。5〜20nmの金コロイドから任意のサイズを選べばよいのである。

電顕レベルの研究法—全載標本

著者: 勝本哲央

ページ範囲:P.471 - P.473

 全載観察法によって培養細胞の細胞骨格を詳細に観察するためには,細胞内の可溶性蛋白質を抽出しなければならない。この細胞抽出方法としては低濃度のグルタルアルデヒドとTriton X-100の混液で細胞を処理する方法など種々考案されているが,細胞膜や他の細胞構造物の保存の点から,サポニン1)で細胞を処理する方法がもっとも優れている。
 ここでは細胞膜に隣接して存在するアクチンフィラメントを同定するために,細胞をサポニン処理して,それに金粒子標識抗体法を応用した全載観察法について述べる。

電顕レベルの研究法—凍結超薄切片法

著者: 徳安清輝

ページ範囲:P.474 - P.476

 ■材料と器具
 燐酸緩衝生理食塩水(PBSと略)。
 2.3M蔗糖-0.1M燐酸緩衝液。
 ゼラチン平板:1%ゼラチンと0.3%アガロースとの混液(60℃)を小プラスチック皿に流し,室温で冷却後,気密の容器に入れ,冷蔵庫に保存する。使用の際,表面乾燥の疑いがある場合は表面をPBSでしめらせた後使用する。この平板および上記2品目を長期保存するに当っては,0.02%NaN3を加えて,雑菌の繁殖から守る必要がある。

電顕レベルの研究法—凍結置換切片

著者: 市川厚

ページ範囲:P.477 - P.478

 凍結置換切片とは,生きている細胞や組織を急速凍結法で物理的に固定したのち,凍結置換法1)で脱水と同時に化学固定し,常温に戻してから樹脂に包埋して,通常の薄切法により超薄切片にしたものである。
 急速凍結法は,生体から切り出した組織片,または培養細胞を,液体ヘリウム(-269℃)や液体窒素(-196℃)温度に冷やした純銅ブロックに圧着して瞬時に凍結するので,氷晶形成による構造破壊を最小限度に抑え,細胞の微細構造を生きているときの状態で固定し,保存することができるばかりでなく,動的な形態変化を瞬間像として把えることができる。凍結置換法は,氷点以下の低温で氷が有機溶媒に溶ける性質を利用して,凍結試料を-80℃に保った化学固定剤を含むアセトン中に入れ,1〜2晩放置して脱水と同時に化学固定を行うもので,細胞内の諸構造を氷の中に閉じこめたまま化学的に安定化するので,微細構造とその構成物質が良く保存される。したがって,これに免疫細胞化学的方法を適用すれば,従来の化学固定試料における包埋後の免疫染色に比して,格段に優れた微細形態の上に,高い検出率で抗原の局在を証明することができる。

光顕から電顕への相関研究

著者: 中井康光 ,   落合英彦 ,   塩田清二

ページ範囲:P.479 - P.481

 細胞の構造や性質を形態学的に調べる場合,まず光顕で細胞の全体像や染色性などの特徴を観察し,次いで電顕でその細胞の超微細構造の特徴を観察することがしばしば必要になる。免疫組織化学によって細胞の形態や細胞相互間の関係を調べる場合も,光顕と電顕の両レベルで細胞を同定し,観察することが多い。同一細胞を光顕と電顕で免疫組織化学的に観察する方法がいくつか考案されている。大きく分けて,同一切片法と隣接切片対応法の二つの方法がある。

細胞・組織内の抗原局在への応用—ホルモン

著者: 黒住一昌 ,   田中滋康

ページ範囲:P.482 - P.484

 ホルモン研究の領域への免疫細胞化学的技術の導入は,ホルモンを産生している細胞の同定とその細胞の組織内における分布を明らかにした。またその電子顕微鏡レベルへの応用(免疫電顕)は細胞小器官レベルでのホルモンの局在を解明し,ホルモンの生合成過程の形態学的解析を可能にした。以下,免疫細胞化学技術によってもたらされた最近の内分泌形態学の進歩と展開を,下垂体を中心に述べたい。

細胞・組織内の抗原局在への応用—ニューロン抗原

著者: 小幡邦彦

ページ範囲:P.485 - P.487

 ニューロンには非神経組織の細胞や神経組織のグリア細胞とは異なる化学的特徴があり,さらにニューロン自体が多種多様である。また1個のニューロンでも細胞体,樹状突起から軸索末端まで,機能の違いに対応して分子構成も異なる。このような神経系の分子多様性を示すのに免疫組織化学はきわめて強力である。
 抗体として,精製された物質に対しては抗血清が作製されるが,近年,精製されていない標品を免疫原としてモノクローナル抗体が作製されるようになった。これには,1)抗原が既知物質であることが判明したもの(ニューロフィラメント蛋白,ガングリオシドなど),2)抗体から抗原物質が同定,発見されたもの,3)抗原は同定されていないが,神経組織での分布が特徴的なもの,が利用されている。なおこの領域のわが国研究昔による成果の多くが文献1)に述べられている。

細胞・組織内の抗原局在への応用—細胞骨格蛋白の免疫染色法

著者: 藤原敬己

ページ範囲:P.488 - P.490

 顕微鏡で観る生物試料は,通常染色してあるが,その染色法のほとんどが生体分子に対し厳密な意味での特異性は持っていない。免疫染色法は,抗原抗体反応という特異反応を利用し,細胞・組織を形成する多くの分子のなかから選択的に,ただ一種類の分子を染色する手段である。抗体は,原則的にはどんな分子に対してでも作れるので,免疫染色法は,特異性を自在に指定して行える組織化学の方法であるといえる。ここでは免疫染色法一般について考慮すべきことを述べるとともに,細胞骨格蛋白の免疫染色で,とくに注意すべき点につき検討する。なお,詳しくは文献1を参照されたい。

細胞・組織内の抗原局在への応用—細胞間接着分子の免疫学的検出法

著者: 平野伸二 ,   竹市雅俊

ページ範囲:P.491 - P.493

 細胞間接着分子カドヘリン1)を例にとって述べる。カドヘリンは,Ca2+依存性細胞間接着分子で,細胞表面に存在し,細胞間の接着,ひいては,形態形成などに重要な役割を果たしている。したがって,カドヘリンの分布や発現パターンを解析することは,その機能を知るうえで大きな手がかりとなる。モノクローナル抗体を用いた染色は有効であり,これまでいくつかの成果をおさめた2,3)。ここでは培養細胞,組織切片の染色法を中心に述べるが,その前に機能阻害によってスクリーニングするという接着分子に特徴的なモノクローナル抗体作製法について解説する。

特殊技術

エクスプレッションベクターを用いたcDNAクローニング

著者: 浜田義雄

ページ範囲:P.496 - P.497

 cDNAライブラリーをexpression vectorの一つであるλファージ由来のベクターλgt11を用いて作製し,そのライブラリーを特定のタンパクまたはペプチドに対する抗体でスクリーニングする方法を説明する。プラスミドをベクターとした場合のスクリーニング方法は文献1を,またcDNAライブラリーの作製については文献1および2を参照されたい。一部のcDNAライブラリーは東洋紡で市販されているので,それを利用するのも一つの方法である。ここではcDNAライブラリーがすでに出来上っているものとして実験操作を述べる。

リポソームの作製法と利用法

著者: 梅田衞 ,   保田立二

ページ範囲:P.498 - P.500

 リポソームは二分子膜構造を持つ脂質小胞体で,近年免疫学の領域においても広く用いられるようになった1,2)。これは,多くの免疫反応が細胞膜上で起こる現象であり,それを研究するためのモデル系としてリポソームが適しているからである。また,癌の化学療法の一つのアプローチとして,薬剤を特異的に特定の組織に送り込むためのキャリアとしても用いられている。ここでは比較的作製法が簡単であり,応用範囲の広い多重層リポソーム(multilammellar vesicle:MLV)と一枚膜リポソーム(small unilamellar vesicle:SUV)の作製法について述べ,これらのリポソームの利用法として,リポソームへの抗体結合法およびリポソーム膜の補体依存性膜損傷反応を基にした抗体価測定法について述べることにする。

抗体の細胞内注入

著者: 馬渕一誠 ,   浜口幸久

ページ範囲:P.501 - P.503

 蛋白質の細胞内での機能は様々な手法により類推することはできる。しかしそれを直接的に証明できている例は少ない。われわれは蛋白質に対する特異抗体を生きた細胞に注入し,その細胞に対する影響を観察するという方法を用いた。この方法は,とくに細胞骨格系の研究に成功をおさめている。現在までに,細胞質分裂へのミオシンの関与(図1)1),染色体の移動におけるミオシンの不関与1,2)などがこの方法により明らかにされてきた。

セルソーターによる細胞分離への応用

著者: 本村光明 ,   渡辺武

ページ範囲:P.504 - P.506

 ■定義
 フローサイトメトリー法(FCM)とは細胞・染色体などの細胞成分を浮遊液の状態にして流体系の中を高速で通過させ各細胞から検出部を通して得られる光学的・電気的信号により各細胞の生物学的特徴を解明していく分野である。測定対象は二つに大別され細胞の大きさ・形態の把握など染色を必要としないもの,DNA量・RNA量・表面形質・染色体など染色を必要とするものがある。

ハムスターを利用したヒトリンパ芽球の増殖

著者: 今西二郎

ページ範囲:P.507 - P.509

 ■ハムスターを利用したヒトリンパ芽球の増殖の目的と利点
 異種動物に腫瘍細胞を移植する目的として,次の三つが考えられる。
(1)抗がん剤や放射線などの効果をみるための実験のモデルとすること。とくにヒト腫瘍ではヒトに腫瘍細胞を移植することが人道上できないので,ヒト以外の動物にヒト腫瘍細胞を移植して上記の目的を達することが可能となる。
(2)ヒト腫瘍細胞を異種動物に移植することにより,腫瘍細胞の悪性度を判定すること。
(3)目的とする腫瘍細胞を大量に得ること。
 現在では,(3)の大量の細胞の確保とそれを用いた有用産物の生産が広く行われている。

BrdUモノクローナル抗体の細胞動態解析への応用

著者: 多田利彦 ,   楠川禮造

ページ範囲:P.510 - P.511

 細胞動態解析の一方法として,Pulse Labeling Methodがある。本法は,DNA合成期(S期)にある細胞をlabelし,認識することにより,増殖期にある細胞の割合・分布・増殖の速さ・治療への反応性などを見る方法で,臨床面でも重要な意義を有する。
 従来行われているH3thymidine法は,アイソトープを使用するため,限られた施設でしか実施できず,しかもAutoradiography法を用いるため,結果を得るまでに長時日を要し,臨床応用には不便であった。

受動免疫への応用

著者: 森昌朋

ページ範囲:P.512 - P.514

 受動免疫とは抗血清または免疫動物のリンパ細胞を正常動物に移入しておくことにより,移入を受けた動物が免疫を獲得することであるが,現実には受動免疫法としては抗体補給の方法が主であり,細胞の補填はなお不可能であることが多い。抗体補給の方法はジフテリア毒素が抗血清により中和されることや,抗毒素血清を正常動物に移入することにより破傷風毒素に対する受動免疫が成立することがBehring,北里の発見などから判明されており,現在でも特定のウイルスに対する高力価γグロブリンの注射によるウイルス感染症の治療として応用されている。また一方生体内に存在する未だよく生理学的機能が判明していない生理活性物質のその作用を解明するために,生理活性物質に対する高力価γグロブリンを作製し,その抗体を動物に移入することにより,生理活性物質の生体内における作用を解明することも可能である。本稿においては脳内生理活性物質の一つであるTRH(thyrotropin-releasing hormone)の生理学的作用を解明するための受動免疫方法を中心として述べる。

自己抗体のスクリーニング

著者: 諸井泰興

ページ範囲:P.515 - P.517

 各種の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス,強皮症,多発・皮膚筋炎など)では疾患に対応して患者血中に特異的自己抗体,とりわけ細胞核成分に反応する抗核抗体が検出され1),診断,治療の指標に有用である。同時に近年この抗体を用いて細胞生物学的にも重要な知見がもたらされつつある。本項では筆者が抗体検出に日常用いている方法を述べるが,誌面の都合から文献も必要に応じて参照されたい2,3)

病態診断への応用(心疾患を中心に)

著者: 矢崎義雄

ページ範囲:P.518 - P.520

 モノクローナル抗体は単一の免疫細胞から産生される抗体で,一つの抗原決定基にのみに反応することから結合特異性が高く,類似した構造を有する蛋白のなかから特定のものを識別することに用いられ,病態生理の解明や診断学への応用が試みられている。われわれは,心筋に特異的に存在する主たる構造蛋白で,しかも収縮機序の中心的な役割を担っている心筋ミオシンに対するモノクローナル抗体を作製し,心疾患,とくに急性心筋梗塞の新しい観点に立った診断法の開発を試み,その臨床的有用性を確認し得たので紹介する。

腫瘍細胞分類のための染色法

著者: 中里洋一

ページ範囲:P.521 - P.523

 生体に発生する腫瘍は多種多様であり,それぞれが特徴ある生物学的性質を持っている。腫瘍を正確に分類し,診断することは腫瘍学の第一歩であるとともに,臨床医学的には患者の治療のためにきわめて重要な意味を持っている。現在広く普及している腫瘍の分類法は,腫瘍細胞の示す様々な形質を手掛かりとして,その発生母細胞を推定してゆく組織発生学的な考え方を基本としている。腫瘍細胞の形質としては,従来,細胞形態,組織構築などの形態学的側面が分類上重視されてきたが,最近では細胞の生化学的,機能的形質も考慮されるようになってきた。とくに免疫組織化学的技術の進歩によって細胞の抗原を詳細に解析することが可能となり,抗原発現のパターンから腫瘍細胞の同定と分類が行われている。
 本稿では腫瘍の分類,診断を目的とした免疫組織化学的検索の実際,技術的要点,注意事項について解説する。

モノクローナル抗体によって認識される腫瘍マーカー

著者: 漆崎一朗

ページ範囲:P.524 - P.527

 1975年KöhlerとMilsteinが体細胞融合法を用いたモノクローナル抗体の作製法を確立して以来,この方法を用いたヒト癌関連抗原の探索が精力的になされてきた。得られたモノクローナル抗体の中には反応する抗原の同定がなされていないものもあるが,癌細胞表画の糖脂質や糖蛋白の糖鎖と反応するものが多いことがわかってきた。細胞の癌化に伴う糖鎖の変化については,箱守ら1)によって主として糖脂質を中心とした生化学的解析によって明らかにされていたが,モノクローナル抗体の検出する癌関連抗原のエピトープが,その癌に発現する糖鎖であることがわかり,腫瘍マーカーの研究に拍車がかけられた。

抗癌遺伝子産物モノクローナル抗体

著者: 堂坂弘俊 ,   川上義和

ページ範囲:P.528 - P.529

 近年の分子生物学の著しい発展に伴い数多くの癌遺伝子が発見され,細胞の癌化における癌遺伝子の役割が注目されている。癌遺伝子産物は,細胞の増殖因子や増殖因子リセプターとして機能する場合や,細胞内情報伝達系や核内の遺伝子発現の調節に関与する場合が知られている。また,発癌に関与するだけでなく,その前身遺伝子である癌原遺伝子は,巧みな調節機構を介して正常細胞の発生,増殖,分化にも関与することが次第に明らかになってきており,細胞生物学的にも関心を集めている。一方,癌遺伝子産物を腫瘍関連抗原としてとらえ,これを癌の診断や治療の標的分子としようとする研究も行われている。いずれの研究においても癌遺伝子産物に対するモノクローナル抗体の作製がより詳細な解析を可能にした。
 本稿ではページ数の都合もあって,著者の知る主な抗癌遺伝子産物モノクローナル抗体を各癌遺伝子毎に免疫原,参考文献とともに表に示した。なお,一般的なモノクローナル抗体の作製やスクリーニングの方法に関しては,本特集の「抗体の作製と吟味」の項を参照していただきたい。

モノクローナル抗体によるインフルエンザウイルス抗原ドリフトの解析

著者: 山田明

ページ範囲:P.530 - P.531

 インフルエンザウイルスのantigenic driftの解析は,従来よりフェレット,マウス,ニワトリなどの動物を免疫することによって得られた抗血清を用いて行われてきた。しかし,これには動物の個体差による抗体価のばらつき,抗血清の量が限られているなどの欠点があった。近年,モノクローナル抗体の導入により上記の欠点は克服され,赤血球凝集素(HA)の変異の解析はより詳細になされるようになってきた1)
 ここでは主に,インフルエンザウイルスのHAのモノクローナル抗体の作製法とこれを用いてのantigenicdriftの解析例を示す。

薄層クロマト上での糖脂質バインディング法

著者: 西村顕治 ,   佐藤英二

ページ範囲:P.532 - P.533

 糖脂質に対する抗体や毒素その他の特異的な結合性を利用して,展開後の薄層板上で糖脂質を検出するバインディング法は急速に普及しているが,基本的には,最初にその方法を用いたものの一つ,Magnaniら1)の方法に従っているとおもわれる。具体例として,以下にわれわれの実験室で用いている手順を述べよう。

抗イディオタイプを利用した抗体の作製法

著者: 米原伸

ページ範囲:P.534 - P.535

 この方法の応用として,ワクチンの設計やレセプターに対する抗体の作製があげられる。その基礎として抗原分子と抗体分子との間に相補性が存在し,抗体分子が新たな抗原となりうるという事実がある。わかりやすく説明しよう。動物に抗原分子を免疫すると抗体分子が産生され,抗原分子上の抗原決定基(エピトープ)と抗体分子中の結合部位の構造には相補性が成立するため特異性の高い結合が生じる。一方,抗体分子上にも他のタンパク質と同様,さまざまなエピトープが存在する(同一個体内で抗原となる抗体分子内のエピトープをイディオタイプという)。抗体を別の個体に投与すると,それに対する様々な抗体が産生される。その中には「抗原と結合する部位」に対する抗体も含まれる。最初の抗体をAb1,2番目をAb2と表示する。両者の結合部位には相補的関係が成立する。同じように,Ab2を投与するとAb3が産生される。抗原分子が細胞膜上のレセプターと結合する時には,これらの相補性のなかにレセプター分子も含まれうるわけである。これらの関係を図に要約した。Ab2がレセプターと結合できる仕組がおわかりいただけると思う。
 実際にタバコモザイクウイルスではAb1とAb2がウサギ血清抗体として,Ab3とAb4がマウスモノクローン抗体として得られている1)。Ab3はウイルスと結合し,Ab4とAb1と結合するという。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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