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連載講座 脳の可塑性の物質的基礎
海馬の長期増強の発現機構
著者: 小澤瀞司1
所属機関: 1群馬大学医学部第二生理学教室
ページ範囲:P.589 - P.596
文献購入ページに移動 海馬(hippocampus)は大脳皮質側頭葉の下内側面の深部に横たわる系統発生学的に古い脳の一部分である。1953年にカナダの脳外科医Scovilleはてんかんの治療のために当時27歳であった男性の患者H.M.の海馬を中心として鉤・扁桃体を含む両側側頭葉内側部を切除した。H.M.は術後重篤な前向性健忘に陥り,遂に回復することはなかった。Milnerら1)はこの患者の生活を14年間にわたり詳細に観察するとともに,種々の心理テストを課すことにより,海馬を中心とする内側側頭葉に瞬時的な記憶を長時間持続する記憶に変換する機能が局在することを示唆した。その後,サル,ラットなどの動物実験でも海馬およびそれを含む大脳辺縁系の損傷が記憶障害をもたらすことから2,3),現在では,海馬が脳の記憶装置の重要な構成部分であり,とくに長時間持続する記憶を形成する過程でもっとも枢要な役割を果すという考えが有力である。
以上のように巨視的な観察と実験から,脳内で記憶にもっとも深く関わる部位とされている海馬のシナプスに長期増強という記憶と学習の成立に必須と考えられる可塑的な性質のあることが,1973年にBlissとLφmo4)によって見出された。本稿では海馬の長期増強の諸性質について解説し,その発現機構に関する知見を紹介したい。
以上のように巨視的な観察と実験から,脳内で記憶にもっとも深く関わる部位とされている海馬のシナプスに長期増強という記憶と学習の成立に必須と考えられる可塑的な性質のあることが,1973年にBlissとLφmo4)によって見出された。本稿では海馬の長期増強の諸性質について解説し,その発現機構に関する知見を紹介したい。
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