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文献詳細

雑誌文献

生体の科学39巻2号

1988年04月発行

文献概要

連載講座 脳の可塑性の物質的基礎

神経成長因子:最近の知見と問題点

著者: 久野宗1

所属機関: 1京都大学医学部生理学教室

ページ範囲:P.143 - P.147

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 I.神経成長因子の新たな研究基盤
 神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)の研究は,その発見の糸口となったBueker1)の実験以来約40年の歴史を持っている。神経成長という漠然とした用語から,NGFを投与すればどの神経にも成長の促進が見られると誤解されがちであるが,末梢神経系でNGFに応答を示すのは発生的に神経堤(neural crest)から派生する感覚神経細胞と交感神経細胞のみである2)。これらの神経細胞に対してNGFは基本的に二つの効果を示す3)。第一は,trophic(栄養因子的)効果であり,この効果によってNGFは神経細胞の生存と正常機能を維持する。第二はtropic(趨行性,方向ずけ)効果で,これにより,発芽,再生時には神経細胞は高濃度のNGFに向って軸索を伸展する。NGFの一次分子構造と,その生物活性効果の特異性に関する情報は十分に得られており,国内の総説にもよく紹介されている4-6)。しかし,生体内のNGFの分布およびその効果の発現機構は明らかでなく,したがって,NGFの生理的意義の理解は完全でない。たとえば,NGFは血清中に存在するのか7,8)否か9,10)も未確定であり,NGFが液性栄養因子としての意義を有するかは不明である。また,NGFが雄マウスの顎下腺に多量に存在することはよく知られているが11),その他にどのような細胞においてNGFが産生されるかもまだ結論が得られていない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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