「生体の科学」では,年1回,増大特集号として実験法マニュアルを発行してきた。今回は「細胞測定法」と題して,細胞がもついろいろな性質を量的にとらえる方法を集大成することにした。
細胞の形態的,化学的,および物理的パラメーターは細胞型によって実に多様である。同じ型の細胞間でも機能状態や発達段階によってその性質を異にする。さらに同じ細胞内でも局所的差がある。このような多様な性質を正しく理解するには単に細胞集団の平均化というアプローチでは不十分なことはいうまでもない。
雑誌目次
生体の科学39巻5号
1988年10月発行
雑誌目次
特集 細胞測定法マニュアル
序 フリーアクセス
ページ範囲:P.346 - P.346
細胞内イオン濃度測定法
微小電極法による各種イオン濃度測定
著者: 藤本守 , 窪田隆裕 , 萩原暢子
ページ範囲:P.348 - P.351
細胞内イオン動態の分析は,イオン電極法,X線微小プローブ元素分析法そのほか指示薬法,核磁気共鳴法(NMR)など新しい方法が開発され,名種の実験条件で多くの臓器で細胞内イオン活性の定量化が試みられている。本稿においては,主として細胞内微小イオン交換性電極法を中心に述べることにする。
細胞内カルシウムイオン濃度測定
Ca選択性微小電極法
著者: 岡田泰伸 , 挾間章博 , 老木成稔
ページ範囲:P.352 - P.354
細胞内において情報伝達・機能分子制御に重要な役割を果たすところの遊離のCa2+イオンの濃度を測定する方法には,Ca2+電極法とCa2+感受性色素法がある。前者の法はセンサー膜を挾んだCa2+濃度差を物理化学的電位差として測定するもので,原理的には細胞内Ca2+環境に何らの攪乱も与えることなしに測定が可能である点で他の方法より優れている。この原理・方法については前稿1,2)で概説したので,本稿ではより実際的にわれわれがルーチンに用いている方法について述べるとともに,新しいセンサーを用いて得られた最新の知見について触れる。
エクオリン発光法—卵細胞を中心にして
著者: 吉本康明
ページ範囲:P.355 - P.358
1962年に下村ら1)は発光クラゲ(Aequorea aequorea)から,Ca2+またはSr2+で特異的に発光する発光タンパク質(photoprotein)を抽出することに成功し,エクオリン(aequorin)と名づけた。このエクオリンの発光には酸素やATPは不用で,Ca2+を引き金として発光する特異な性質を持っているので,現在微量のCa2+を測定するのに広く利用されている。
とくに卵細胞においては,1976年にRidgwayら2,3)がエクオリンをメダカ卵に注入し,直接卵内のCa2+濃度変化を測定するのに成功して以来,この方法がさまざまな卵で幅広く応用され,成熟,受精,卵割などの現象とCa2+濃度との関係が研究された。この手法はそれまで筋細胞4)や神経細胞5)などで細胞内Ca2+の測定に用いられていた感度の高い測定法で,現在では卵細胞のみならず,さまざまな動,植物細胞で利用されている。また最近の高感度ビデオカメラの発達にともなって,エクオリンの発光による細胞内Ca2+の映像化の研究も進んでいる。
エクオリン発光法(培養細胞)
著者: 小島至
ページ範囲:P.359 - P.360
エクオリンは発光クラゲより抽出精製されたカルシウム感受性発光蛋白である1)。クラゲの発光器官の細胞において,エクオリンは細胞質Ca2+濃度(〔Ca2+〕c)の上昇を感知して光を発するという目的を担っている。したがってその発光特性,Ca2+感受性などは細胞質のCa2+濃度を測定する上できわめて好都合なものとなっている。近年細胞内Ca2+濃度を測定するための螢光色素が開発され,比較的簡単に〔Ca2+〕cがモニターできるようになった。しかしこれらの色素はその程度に差こそあれいずれもCa2+キレート作用をもち,正常な細胞内Ca2+の分布や濃度変化に影響を与えることが予想される。さらに細胞機能に影響を与える場合があることも知られている。エクオリンにはそのような作用はなく,さらにエクオリンの発光はCa2+濃度の増加とともに指数関数的に増加するので,〔Ca2+〕cの微細な変化や細胞内の一部に限局した変化を測定するにはきわめて有用である。われわれの経験では,エクオリンは受容体刺激によるCa2+influxを測定するうえで非常に有利であると思われる。
Fura-2を用いた螢光顕微画像解析法
著者: 田代裕 , 角田康弘
ページ範囲:P.361 - P.365
最近種々の螢光色素を用い,生きた細胞質内の遊離Ca2+濃度(〔Ca2+〕i),pH,電位などを測定し,かつ画像化する方法が開発され,細胞生物学の重要な研究手段となりつつある。これがディジタル画像顕微鏡法(Digital imaging microscopy;DIM),または螢光比画像顕微鏡法(Fluorescence ratio imaging microscopy;FRIM)で,ここではDIMという略語を使用する。fura-2を用いた〔Ca2+〕i測定については,最近小倉・工藤1)によって紹介されているので,できるだけ重複を避けて記述したい。
Ca濃度指示螢光色素法(筋細胞)
著者: 金出英夫
ページ範囲:P.366 - P.368
Ca濃度指示螢光色素とその問題点
1.色素
筋細胞の収縮弛緩は,細胞質Caイオン濃度,〔Ca〕iの増減によって制御されている。このため,従来,種々の方法によって筋細胞の〔Ca〕i記録が試みられたが,細胞を傷つけることなく,これを行うことは困難であった。ことに血管平滑筋細胞のように小さな細胞では,〔Ca〕iの記録は不可能に近いとされていた。
1980年,Tsienは細胞内イオン環境に似た状態(K125mM,Na20mM,Mg1mM,pH7.05,37℃)で,きわめて高いCa親和性(Kd=115nM)を有し,Caとの結合によって螢光を発する螢光色素quin 2の合成に成功した。quin 2は,一般的な細胞の〔Ca〕iレベルと考えられる10−7〜10−6MのCaを検出し,細胞内レベルのMgやpHの影響を受けにくい1)。quin 2はEGTAに類似の構造を有し,四つのカルボキシル基においてCaと1:1の錯形成をすると,螢光強度は5倍となる。励起および螢光スペクトルのピークは,それぞれ339nm,490nmにある。quin 2自身は細胞膜を通過しないので,細胞内に取込ませるためには,quin 2の四つのカルボキシル基のすべてにアセトキシメチル基を結合させたquin 2/AMが用いられる。
Fura-2法(筋組織)
著者: 尾崎博 , 唐木英明
ページ範囲:P.369 - P.371
緒言
平滑筋の細胞内Ca量を測定する方法としては,原子吸光光度計などを用いて総Ca量を測定するもの,放射性Caを用いて交換可能分画のCaを測定するものなどがあるが,いずれを用いても遊離と結合のCaを分離して測定することは困難である。最近,quin 2やfura-2などのCa螢光指示薬が開発された1,2)。ここではfura-2を用いて平滑筋組織の細胞内遊離Ca濃度と収縮を同時に測定する方法を紹介する。
XMA(培養細胞)
著者: 佐々木貞雄
ページ範囲:P.372 - P.375
細胞内の微小部または小器官内の各種イオン(元素)濃度を測定する方法に,電子プローブX線微小部分析法(electron probe X-ray microanalysis:XMA)がある。この方法は,まず各種細胞の凍結超薄切片を作製し,電子顕微鏡でその切片上の細胞および細胞内小器官を観察しながら,その時,照射される電子線によって細胞内の微小各部より二次的に生ずるX線を,電顕に装着したX線検出分析装置でとらえ,そのX線スペクトラムより細胞内微小部の元素濃度を,標準試料より得た検量線を用いて測定する方法である1,2)。
このようにしてXMAで細胞内微小部(直径約0.1μm)のNa,Mg,P,S,Cl,K,Caのような元素の濃度を得ることができるが,Na,Cl,Kのようなイオン化傾向の強い元素は,そのままイオン濃度を反映する値として考慮し得るが,Ca濃度の場合はイオン化傾向がきわめて小さいので,その値はイオン濃度とはまったく違った値となることに注意が必要である。細胞内あるいは細胞内小器官内のCaは,大部分がカルシウム結合蛋白のような物質と結合して存在しているのであり,XMAで測定されるのはこれらの結合Caと遊離Ca(Caイオン:Ca2+)の総量である。
骨格筋細胞のカルシウムイオン濃度測定—EPMA(XMA)による
著者: 𠮷岡利忠
ページ範囲:P.376 - P.378
骨格筋細胞に限らず細胞内のカルシウムイオン濃度を測定する方法として,カルシウム指示薬(antipyrylazo Ⅲ,fura-2)を用いる方法,発光タンパク(aequorin)を用いる方法,螢光色素(quin 2など)を用いる方法があるが,ここで延べる電子プローブ法では細胞内小器官に局在するカルシウムだけではなく各種元素(Na,Mg,P,S,Cl,K)を同時に分析することが可能である。正確にはこの方法を電子プローブX線マイクロアナリシス法(electron probe X-ray microanalysis method,EPMAまたはXMA)といい,元来,金属材料,鉱物などを対象として発展してきたものであるが,生物を材料にした場合,その試料作製に工夫,改良,調整を加えることによって上述の元素を分析できるようになった1,6)。生物を用いた場合,それぞれの研究室でその材料によって独特な手段がとられていることから,ここではEPMAに関する基本的事柄にも多少触れることにする。
粘液細胞果粒の元素組成—新鮮凍結乾燥超薄切片によるX線微小部分析
著者: 高屋憲一
ページ範囲:P.379 - P.380
新鮮凍結乾燥超薄切片を用いた定量的X線微小部分析による微細構造レベルの元素組成の研究はいくつかの組織,細胞,細胞小器官で多くの報告がなされ,安定した結果が得られるようになった1,2)。今回はラットとアマガエルの組織の粘液細胞の果粒の元素組成を二つの切片作製法を用いて調べたものを述べる。
細胞内マグネシウム測定法(NMR)
著者: 山田和廣
ページ範囲:P.381 - P.382
生体の細胞内には10mMに達するMg2+イオンが存在している。細胞内に存在するMgイオンの大部分はいろいろな細胞内のサイトに結合していると考えられるが,それぞれのサイトにどの程度結合しているかについては,詳しいことは知られていない。また逆に細胞内に存在している遊離Mg2+の濃度についても同様である。これらのことは,生物学上非常に重要な問題である。
燐NMRスペクトルにおいてATPの3種の燐に由来する三つの共鳴線の位置(化学シフト)はMgイオンの結合によって大きく変化することが知られている。細胞内におけるATP由来の共鳴線の位置を知ることによって,ATPがどれ位Mgイオンを結合しているか,ひいては細胞内における遊離Mgイオンの濃度がどれくらいであるかを知ることができると考えられる。ATPにはCaイオンも結合するが静止の生体細胞においてはCaイオン濃度は非常に低く調節されている。
イオン電極法による〔K+〕oと〔Ca2+〕oの測定
著者: 渋木克栄
ページ範囲:P.383 - P.384
細胞外イオン電極法は,実験手技が容易で費用もかからず,記録の安定性,再現性も良い方法である。この稿では筆者の経験に基づきliquid ion exchangerを用いたKとCa電極法について述べる。
細胞内pH測定法
pH微小電極法
著者: 飯尾隆義
ページ範囲:P.394 - P.395
pHの定義は操作的定義である。電池
比較電極|濃KCl溶液 溶液|H2|Pt
の起電力をpHが異なる溶液1と2について測定する。それらをE1とE2とすると,それぞれのpHの間にはpH2=pH1+(E1-E2)F/RT ln10の関係式が成立するものとしてpHを定義している。ここでFはファラデー定数(9.648×104 C mol−1),Rは気体定数(8.314J mol−1K−1),Tは絶対温度である。
このpHの定義に従えば,pHの値を知るにはpHの値の基準となるpH標準液が必要である。一般の実験室では,水素電極とほぼ同様の水素イオン選択性をもつガラス電極を用いて,異なるpH標準液における比較電極とガラス電極間の起電力の値をそれぞれpH目盛上の値に変換した場合に,それらがpH標準液のpHの値と等しくなるように校正されたpH計によって通常の溶液のpHの測定を行っている。
NMR
著者: 山田和廣
ページ範囲:P.396 - P.397
細胞内pHの測定に多く用いられる方法についてはすでにこれまでに述べられている。これらの方法には,それぞれ固有の長所と欠点があるであろう1)。
燐(31P)NMRを細胞内pH測定のために用いることができる。この方法は細胞に対してとくに侵害を加えることなく,細胞が生きたままの状態で連続的に測定が行えるという大きな特徴をもっている。また,pH以外の多くの情報を伴っていることも大きな特徴であろう。
螢光法
細胞質pH(フルオレッセイン法)
著者: 大熊勝治
ページ範囲:P.386 - P.389
概要
細胞内pHの測定には,微小電極法,標識弱塩基・弱酸の分布測定法,[31P]NMR法,吸光性・螢光性pH指示薬法などがあるが,感度がよく,少量の細胞で連続測定が可能で,現在もっとも繁用されている,螢光性pH指示薬を用いた細胞質pH測定法について,その具体的な方法を記す。この方法の測定原現の詳細や細胞質pH測定に関する一般的総説は成書を参照されたい1-4)。
細胞内小器官のpH(FD法,AO法,含む:単離小器官のpH)
著者: 大熊勝治
ページ範囲:P.390 - P.393
概要
細胞内小器官〔オルガネラ,すなわち,核,小胞体(ER),ゴルジ体,ミトコンドリア,ペルオキシゾーム,空胞系の顆粒(コーテッドベジクル,エンドゾーム,リソゾーム,分泌顆粒など)等々〕のpHの測定法について,とくに(1)螢光性pH指示薬を用いる方法と,(2)螢光性弱塩基・弱酸の分布測定による方法とを取り上げ,生細胞での測定と単離オルガネラでの測定に分けて記す。なお核,ミトコンドリア,ペルオキシゾーム,ERおよびゴルジ体のpHを生細胞の状態で選択的に測定する一般的方法はまだ確立されていない。
核酸・蛋白質定量法
螢光多重染色法(DNA・蛋白)
著者: 浦田洋二 , 蒲池正浩 , 芦原司
ページ範囲:P.410 - P.411
顕微螢光測光法は細胞核DNA量をはじめとする細胞内生理活性物質の超高感度測定法として発達し,細胞学研究における増殖動態解析の有力な手法となっている。しかし,機能状態や分化段階の異なる細胞系や複数の細胞種からなる混合細胞集団を解析するには,DNA定量のみでは不十分である。RNA,蛋白,螢光抗体法による特異抗原の認識などのパラメータを新たに導入することにより,複雑な細胞系の増殖動態や細胞機能を詳細に解析することが可能となる。本稿では細胞内総蛋白定量法と,定量的螢光抗体法について述べる。
フローサイトメトリー(セルソーター)
著者: 久下栄 , 岡部哲郎
ページ範囲:P.412 - P.416
フローサイトメトリー(FCM)とは,細胞を浮遊液の状態で本法特有の測定部を高速で通過させながらレーザー光などで照射することで,各細胞から放射される細胞個々の特徴を示す散乱光,螢光の強度を検出して電気信号に変換し,コンピュータで目的に応じた処理を行い,短時間に大量の細胞についての生物学的特性を解析する自動分析法である。
このFCMの応用分野としては,従来から細胞生物学や免疫学などの基礎研究の分野で使われてきたが,近頃ではリンパ球サブセット分析のように臨床検査の分野でも応用されるようになり急速に普及してきた。
定量的免疫電子顕微鏡法
著者: 山本章嗣 , 田代裕
ページ範囲:P.417 - P.418
タンパク質などの抗原を電顕レベルで定量的に検出しようとするのが定量的免疫電子顕微鏡法である。定量的解析には,フェリチンや金コロイドなど計数可能な均一粒子を標識に用いる。抗原に対して特異性の高い抗体を用いることがとくに重要である。そのため,アフィニティ精製した特異抗体を用いることが望ましい。抗体の特異性は免疫ブロット法などにより確かめておく必要がある。また,抗体量が抗原に対して飽和した領域で反応を行い,検出すべき抗原分子をすべて標識することも定量的解析には重要である。本稿では,フェリチンを用いた包埋前定量的免疫電子顕微鏡法と金コロイドを用いたLowicryl K 4 M超薄切片上でのプロテインA・金コロイド法について紹介する。一般的な問題については箸者らの総説を参照して頂けると幸いである(電子顕微鏡,21:207-214,1987)。
単一神経細胞の蛋白質および酵素活性測定法
著者: 加藤尚彦
ページ範囲:P.419 - P.422
一次培養神経細胞やクローン化した神経芽細胞は,insituにおける神経細胞(ニューロン)とは異なった性質を持つことが知られており,これらの培養細胞を分析しても,in vivoの分化したニューロンの特性を完全に知ることはできない。そこで直接ニューロンを単離して,種々の超微量測定法を用いて,単一ニューロンの持つ物質や酵素活性を分析することが試みられてきた1)。ここでは単離ニューロン細胞体内の酵素活性の超微量測定法と,酵素免疫測定法を応用した蛋白質の超微量測定法について,実例を引きながら解説する。
単一細胞内プロテアーゼ活性測定法
著者: 村松睦
ページ範囲:P.423 - P.425
蛋白質の消化吸収に関する研究から始まったプロテアーゼの研究は,プロテアーゼの生体制御機構への関与が明らかになるとともに,体液性のプロテアーゼ,とくに血液凝固系,線維素溶解系,血管作動性ペプチド生成系などの研究へと進展した。さらに今日では,細胞内諸現象へのプロテアーゼの関与が注目され,細胞内プロテアーゼの研究が主流をなしつつある。このようなプロテアーゼ研究の流れは,また同時にプロテアーゼ活性測定法の原理的および測定機器の技術的進歩によって促進されている。すなわち1950年代においては,基質に10−3M以上の変化がなければ,プロテアーゼ活性の測定ができなかったが,現在では10−9Mの変化をも追究可能となり,きわめて微量のプロテアーゼの存在をも認識できるようになった。プロテアーゼの種類によっては数万コの細胞があれば,十分測定が可能になっている。
このような研究の流れの中にあって,われわれの研究室では,数年前から,肥満細胞からのヒスタミン遊離機構の研究,およびHeLa細胞の増殖機構に関する研究を行っているが,いずれも,これらの機構には,細胞内プロテアーゼの関与が推測される結果を得ている。細胞内プロテアーゼのこれらの機構への関与,作用機構を解明するためには,細胞を磨砕することなく,生きた状態でプロテアーゼ活性を測定する必要が生じ,その測定法を案出した。
DNA定量
DAPI螢光測定法
著者: 浜田新七 , 藤田哲也
ページ範囲:P.400 - P.402
4',6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)(図1)は1971年Dannらにより殺トリパノソーマ剤として合成された。その後,DAPIは2本鎖DNAのminor grooveに入り込んでDNAのAT部分と結合し,このDNA-DAPI結合物が紫外線励起により強烈な青色螢光を発することがわかった。
DAPIは,その高感度特性を生かして種々の微生物の超微量DNAの検出と観察に応用されてきたが,定量的染色法1,2)と螢光減衰防止法2-4)が開発されるに至って脊椎動物の細胞核DNA定量のみならず,原生動物の核DNAやミトコンドリアDNAあるいは葉緑体DNAなどの超微量DNAの定量5)にも応用されるようになった。
フォイルゲン染色
著者: 福田優 , 杉原洋行 , 中西和夫 , 三好憲雄
ページ範囲:P.403 - P.406
Robert Feulgen(1924)1)によりDNAの特異的染色法として提唱されたFeulgen反応は,その後40年間にわたる論争を経て,今日もっとも確実なDNAの定量的染色法とみなされるに至っている2)。
しかし,最近Feulgen反応の動態論的研究によって,DNAの塩酸加水分解は塩酸の濃度と温度はもちろんのこと,試料の固定条件,核蛋白との結合状態を含めたDNAの存在様式,DNA損傷の有無などによって大きく変化することが知られるようになった。とくに最近好んで用いられている高濃度(2〜5N)低温(20〜30℃)での塩酸加水分解条件ではこの傾向が著明で,本来同じDNA量を持つはずの異なった細胞種間で加水分解カーブが大きく異なり,同じ値を示す共通の加水分解時間,つまりDNA定量のための至適条件を見出すことができない。これに対してRobert Feulgenが提唱した1N塩酸60℃の加水分解条件では,加水分解カーブの下降部は異なる細胞種で違いはあるものの,ピーク時間は一致し,ピーク値も予想されるDNA量とよく比例する。すなわち,高濃度低温加水分解はDNAの質的変化や損傷を知るのに適し,DNA定量の目的には1N60℃の古典的方法が優れている。本章ではFeulgen反応の原理と定量的染色法を述べる。Feulgen反応を利用したDNAの質的変化の解析法については文献を参照されたい3,4)。
プロピジウム・アイオダイド法によるDNA定量
著者: 鈴木孝仁
ページ範囲:P.407 - P.409
核酸に特異的結合するフェナントルイジン系色素のうちエチジウム・ブロミド(EB)は,電気泳動分離したDNAバンドを染色したり,閉環状および開環状のDNAを塩化セシウム浮遊密度勾配遠心で分ける際に,二塩基間挿入(intercalation)を起こしたりする目的で広く使われている。同じフェナントルイジン系色素であるプロピジウム・アイオダイド(PI)もEBによく似た性質をもち,intercalationを起こしてDNAと結合する1)。図1に両者の構造式を示した。両者とも300nm付近の紫外線を吸収し,または核酸に吸収された260nmの紫外線がPIまたはEBにエネルギー転移されたりすると,590nmの赤い螢光を発する。さらに500nmの緑色励起によってもこの赤い螢光を放射させることができるため,致死効果の高い紫外線を使いたくない条件下でDNAを検出するのに適している。たとえば生きた状態で細胞やオルガネラのDNA領域を検出するのに試みられた2)。しかし,両者ともRNAに親和性があるため,RNA含量の高い酵母菌のような試料では,RNase処理などであらかじめRNAを除去しておく必要がある。一方,DNAに対する結合には塩基特異性がないため定量という点では優れている。
細胞内ATP測定法
ルシフェリン・ルシフェラーゼ発光によるATPの測定
著者: 吉本康明
ページ範囲:P.428 - P.430
最近細胞のATP量を測定する方法として,ATPのみならず他のヌクレオチドも同時に測定することが可能な高速液体クロマトグラフィーが主に利用されている。また,なまの試料が使用可能なNMRによる測定もよく行われている。したがって現在では,ホタルのルシフェリン・ルシフェラーゼの発光を利用する方法はやや古典的になった感があるが,微量の試料でごく手軽に測定できる点,生きた細胞やなまに近い試料にも応用できる可能性がある点など利点も多く,この方法を利用する研究者もまだ多い。
NMR
著者: 山田和廣
ページ範囲:P.431 - P.433
燐原子核(31P)はプロトン(1H核)に次いでNMR測定の感度が高い。このことは天然に存在する燐核がすべて31Pであることにもよっている。燐NMRを利用した生体のエネルギー代謝の研究が進んだのはこのような理由による。
最初に生体組織の燐NMRスペクトルを記録したのは,オックスフォード・エンザイム・グループによるラットの筋肉を対象としたものであった1)。筋肉はとくにエネルギー変換を行うために分化した組織であって,研究対象としての魅力が大きい。Wilkieら2)はチェンバー内の筋肉をリンガー液によって灌流する方法を確立し,より生理的条件下で測定ができるようになった。さらに,山田らは沢山の筋肉をチェンバー内に装着することによって,燐NMR測定の感度,ひいては測定の時間分解能の向上をはかった3,4)。
細胞内ピリジンヌクレオチド・フラビン蛋白質の測定法
フルオレッセン法(筋収縮との同時測定)
著者: 尾崎博 , 唐木英明
ページ範囲:P.434 - P.435
エネルギー代謝の研究にはATP,DP,無機リン酸,クレアチンリン酸などの量や酸素消費の変化を知ることが重要である。しかしこれらの物質の測定には時間分解能に限界があり,細胞機能,たとえば筋組織であれば収縮との対応を観察するには不十分であった。呼吸においてピリジンヌクレオチド(NAD,NADP)およびミトコンドリア内膜の蛋白質に補欠分子として結合するフラビンヌクレオチド(FMN,FAD)(フラビン蛋白質)は電子伝達体として働く。ピリジンヌクレオチドは還元に伴って螢光が増加し,フラビン蛋白質は酸化に伴って螢光が増加するが,これらの螢光特性は,ミトコンドリア分画はもとより幾つかの組織でそれらの酸化還元状態を知る手段,すなわち細胞のエネルギー代謝を知る手段として利用されている(文献1参照)。本稿では平滑筋組織を例にとり,還元型ピリジンヌクレオチドと酸化型フラビン蛋白質の螢光(それぞれピリジン螢光およびフラビン螢光と略す)と収縮との同時測定法を紹介する1)。
細胞内浸透圧測定
植物
著者: 岡崎芳次 , 田沢仁
ページ範囲:P.436 - P.437
一般に植物細胞の浸透圧は外液より高いので,水は細胞内に入ろうとする。ところが原形質膜の外側には力学的に強固な細胞壁があり,それが細胞体積の自由な増加を阻み,細胞内圧力(膨圧)を発生させている。膨圧は植物細胞の形の維持や伸長成長,気孔の開閉運動などにとって不可欠なものである。したがって,植物細胞における水の輸送は浸透圧と膨圧の二つのパラメーターを考慮する必要がある。
細胞内外の水ポテンシャル差(⊿Ψ)(水ポテンシャルとは水の化学ポテンシャルを水の部分モル体積で割ったもの)は次式で表わされる。
細胞膜透過性
物質透過性変化
著者: 北川隆之
ページ範囲:P.440 - P.442
細胞膜における物質透過性や輸送は細胞に必要な栄養素やイオンの吸収・排出を行うと同時に,その調節により細胞内イオン濃度,pH,代謝産物濃度などの内部環境を一定に保ち細胞活動の維持に役立っている。この細胞膜における物質透過系は,1)単純拡散(simple diffusion),2)促進拡散(facilitated diffusion),3)能動輸送(active transport)に大きく分類できる。1)と2)はともにエネルギーを必要とせず,細胞内外の濃度差によって物質透過が起こるのに対し,3)はエネルギーを利用して濃度差に逆らった物質輸送を行う。また,2),3)は細胞膜に存在する特異的な輸送担体(carrier protein)を介する点で1)と区別される。薬物などの吸収・排出も多くの場合これらの物質透過系によって行われている。
物質透過性に関する研究は微生物より高等動物に亘る各種生物において広範な研究が行われている。各透過系に関する詳細な研究に加えてその調節機構についての研究も興味深く,動物細胞においては成長因子などのホルモン作用,細胞増殖,癌化や分化に伴い種々の物質透過性変化が起こることが知られており,この方面の研究も活発に行われている1)。
イオン透過性
45Caトレーサー法
著者: 唐木英明
ページ範囲:P.443 - P.445
細胞内外には多くのカルシウム結合部位が存在する。平滑筋組織におけるカルシウムの存在とその動態を図1に示す1,2)。ここでは各種の細胞へのカルシウムの出入の測定法とその問題点につき説明する。
MDCK細胞
著者: 佐藤温重
ページ範囲:P.446 - P.448
MDCK細胞は1958年にMardinとDarbyにより正常雌成犬(コッカスパニエル)の腎より分離された上皮性の培養細胞である。この細胞は培養下で細胞が相互に接触する密度になると細胞間に閉鎖帯ができ,また細胞には極性が分化し,apical側とbasolateral側とが区別でき,いわゆる単層上皮が形成され,経細胞膜輸送に加えて経上皮輸送を行う。シャーレなど非透過性基材上に細胞を播種したとき,経上皮輸送に伴い溶液が単層上皮と基材との間に貯留し,domeあるいはblisterとよばれる構造が認められる。メンブランフィルターなど透過性基材に細胞を播種したときも単層上皮を形成するが,基材と細胞単層上皮との間に溶液の貯留はなく生体内の上皮のように経上皮輸送を行う。MDCK細胞の単層上皮は遠位尿細管,ヘンレ係蹄の太い上行脚の上皮細胞の輸送系に類しているため,腎上皮輸送とその制御の研究モデルとして注目されている1)。
ここではMDCK細胞の単層上皮形成法,単層上皮全体および細胞膜イオン輸送測定法,単層上皮の特性について述べる。
細胞レオロジー特性測定
動物細胞の力学的性質の測定
著者: 米田満樹 , 山本謙也
ページ範囲:P.450 - P.451
ここで紹介するのは,細胞を既知の外力で変形させて,細胞の「かたさ」(stiffness)を数量的に定める方法である。一定の力のもとでの変形が小さい程,また逆に一定の変形に要する力が大きい程,細胞はより「かたい」といってよい。細胞のかたさの変動は疑いもなく細胞質の何らかの活性の反映だから,「かたさ」の観察により,細胞質の変化が連続的にモニターされる。私達が扱ってきた動物の卵細胞は,本来球形で,かつ内部細胞質には外力に抗する構造がないと考えられるから,細胞の形は細胞表層の張力で支えられているといってよい。そこで私達は,測定された「かたさ」(=力と形の比)という経験的な量を,より具体的な物性定数である「表層張力」(ダイン/cm)に換算する。こうすれば,種々の方法で得られた「かたさ」を,張力という共通の単位で比べることができる。
赤血球変形能
著者: 昆和典 , 志賀健
ページ範囲:P.452 - P.454
循環流動中の赤血球は流れによる応力をうけ流体抵抗を減ずるように容易に変形する。このような挙動は次のような生理的意味をもっている。①血液粘度を低下させる,②赤血球直径より細い毛細血管内の赤血球通過を可能にさせる,③赤血球変形に伴って起こる赤血球内部の流動により赤血球内のガスの拡散を促進する。このように重要な意味をもっているため,赤血球変形の容易さ(変形能)を測定し,末梢循環動態との関連性を検討した報告が多数みられる。しかし,変形能を異なる方法で測定した時,ある方法で有意な変形能の差が検出されても他の方法では有意差なしということも時にみられる。このことは,赤血球変形能を画一的に定めることの難しさに起因すると考えられる。これらの現状を踏まえて,本稿では代表的な変形能測定法1)について述べる。
細胞膜流動性測定法
スピンラベル(ESR)
著者: 野沢義則
ページ範囲:P.455 - P.457
1968年にHubbellやKeithらによって生体膜に応用された電子スピン共鳴法(ESR法)は,フリーズ・エッチング電顕とともに流動モザイク膜モデル説の重要な根拠を提供した。膜流動性(fluidity)を調節する因子にもいろいろあり,そのなかでも脂質の果たす役割は大きいが,タンパク質の関与も重要である。主要な脂質因子として,リン脂質の脂肪酸側鎖とステロールがあり,この両者の変化によって膜流動性は著しい影響をうける。一般に,不飽和脂肪酸は膜流動性を高め,飽和脂肪酸はそれを低下させる。またステロールは,相転移(phasetransition)より高い温度では流動性を減少させる作用があり,相転移温度より低いところではむしろ流動性を増すように働くという二役作用(dual effect)を示す。ところで,膜脂質分子の運動には側方拡散(lateral diffusion)とフリップ・フロップ(flip-flop)とがあり,タンパク質の膜内の運動には側方拡散,回転(rotation)とがある。ここでは,膜脂質層のスピンラベル法による流動性の測定について述べる。
細胞骨格による流動性の制御—概論
著者: 浅野朗
ページ範囲:P.458 - P.460
膜成分の流動性が細胞骨格系,および膜骨格系によってどのように制御されているかは種々の手法で調べられているが,ここでそれぞれの方法を詳しく述べることはできないので,現状ではどのような系にいかなる方法が適用できるかを概観することにする。それぞれの方法については引用文献を参照されたい。
流動性が何らかの方法で制御されていると考える根拠は表1にまとめられた実験に基づいている。たとえば,細胞表面の糖タンパク質などをそれに対する抗体で架橋すると,そのタンパク質はエネルギー依存的に細胞の一端に集まりキャップを形成する4,5)。後で述べるように,キャップ形成は用いた抗体に特異的であり,どのような膜骨格タンパク質が同時にキャップに集まるかによって,何と何とが結合しているか見当を付けることができる。ただこの方法は流動速度の定量化はできないので,そのためには他の方法を用いる必要がある。
細胞体積測定法
平均細胞体積測定法
著者: 挾間章博 , 岡田泰伸
ページ範囲:P.462 - P.464
これまで細胞体積測定は,細胞膜の輸送能や脆弱性の評価,細胞内物質濃度の計算などのために主として行われてきた。最近,多くの細胞がその体積の調節能を持ち,たとえ異常浸透圧下に置かれたとしても元の体積へと復帰しうることが明らかとなった1,2)。細胞体積の変化は,たとえば小腸上皮細胞の糖・アミノ酸能動輸送時や運動神経の興奮時のように,生理的条件下においても発生しており,この場合にも細胞体積調節能が重要な役割を果たしているものと考えられる。今後,細胞体積の連続的・定量的測定法はこれまで以上に有用となるだろう。
平均細胞体積を測定する方法としては,1.ヘマトクリット法,2.形態学的方法,3.光散乱法,4.セルソーター法,5.マーカーを用いての細胞内空間測定法,6.細胞外water space測定法,7.いわゆるコールター・カウンターによる電気的測定法などがある。ここで述べるのは最後の方法である。これまで,この原理に従った細胞体積測定装置3)が,主として血球の計数および体積測定に用いられてきた。近年,この装置に専用コンピュータを内蔵させて連続的に細胞体積測定ができるような工夫もされている4)。われわれは市販の血球計数計(東亜医用電子CC-150 A)に汎用パーソナルコンピュータ(NECPC 9801-VM 2)を接続し連続的に細胞体積を測定できるシステムを開発し,実験に用いている2)。
細胞間隙測定法
著者: 唐木英明
ページ範囲:P.465 - P.466
組織は空間的には細胞と細胞間隙(extracellular space;ECS)とに大別される。細胞間隙は細胞間液とコラーゲン線維などの細胞間物質からなる。細胞は細胞内液と細胞内物質とに分けられる(図1)。細胞間隙量の測定は電子顕微鏡を用いる組織学的方法と指示物質を用いる方法とがある。組織学的方法を使えば細胞,細胞間物質,細胞間隙の割合を詳細に検討できる。連続切片を作製すればさらに多くの情報が得られるが,方法的に繁雑である。指示物質を用いる方法は細胞間隙のみに分布する物質を組織に取り込ませてその量から組織内の細胞間隙量の割合を計算するものである。簡便であるが,この方法で測定できるのは組織全体に占める細胞間液の割合であり,細胞間物質と細胞との区別はできない。ここでは指示物質を使用する方法について概説する。
細胞間隙の指示物質(extracellular marker)として利用される物質は,以下の条件を満たすことが必要である。
細胞表面積
著者: 富田光子
ページ範囲:P.467 - P.469
細胞の表面積を求める方法としては形態より算出する方法がよく用いられる。これは絶対値を計算するのにむいている。しかし単に同種の細胞集団間の表面積の大小を相対比較する目的であれば,細胞膜を透過しにくい分子半径および性状の核種を用いて表面ラベルし,放射活性を測定し,相対値から間接的に算定することができる。前者は細胞を顕微鏡下で取捨選択して目的とするものについて調べることも可能であるが,後者はそれができないため,あらかじめ細胞の純度を高くしておく必要がある。
細胞発熱測定法
細胞発熱測定—観察から測定へ
著者: 山村雅一
ページ範囲:P.470 - P.472
細胞の研究は顕微鏡で観察することから始まった。電子顕微鏡の開発はそれまで不可能であった細胞の微細構造を観察できるようにした。このような光,工学装置の開発とともに,多くの研究者によって染色技術が開発され細胞の形態のみならず染色による細胞内物質の定性を可能とし,最近では分光光度計の進歩から定量も可能に成りつつある。またコンピュータの進歩によるパターン認識が可能となり細胞を人が観察しなくても顕微鏡に直結したコンピュータが細胞の形態を認識することが現在可能である。このような進歩はしかしながらいまなお観ることが主体である。
細胞数の検索も機器による測定が可能であり,さらに現在では細胞の染色のされ方によって分画できるほどになっている。
超微量熱測定
著者: 児玉孝雄
ページ範囲:P.473 - P.475
単一細胞あるいは湿重量1mg以下の組織の活動に伴う微少な熱産生の測定を行うには,酵素反応素過程の熱測定1,2)の場合と同様に,研究者自身が装置を組み立て,使いこなすことが必要である。ここでは,その基本となる温度センサを中心にして,必要な技術の要点を述べる。筋肉の熱測定法については,米谷と山田による詳細な解説がある2)。
細胞運動測定法
細胞移動 金貪食法
著者: 児玉隆治 , 江口吾朗
ページ範囲:P.478 - P.479
金貪食法は,培養細胞が移動した軌跡を可視化する方法として,1977年にAlbrecht-Buehlerによって紹介された1)。この方法は,塩化金酸溶液を還元してえられた直径数ミクロンの金の微粒子をカバーガラス上に一面に付着させた上に細胞をまき,一定時間培養してから検鏡すると,細胞の軌跡が金微粒子の排除された部分として観察できるという簡便な方法である。この軌跡は,細胞移動と食作用との両方の効果によるものと考えられたので,phagokinetic trackとよばれる。高価な設備を用いることなく,多くの細胞について観察できるという点ですぐれている。
その用途は,①軌跡の形態の観察,および②軌跡の距離・面積の測定による運動性の定量,の二つに大別できる。Albrecht-Buehler自身は主に前者の用いかたをしており,分裂後の娘細胞の軌跡の間に鏡像関係があることや,細胞の移動方向と中心体の位置との間に一定の関係があることを報告している。後者の例は数多いが,そのほとんどは細胞の変異株(mutant,variant)の間の比較や,ある細胞に薬剤などの液性因子(血管新生因子,EGF,TFPなど)を加えた場合の運動性の変化をみるためのパラメータとして用いられている。細胞が異なると,その軌跡の形状も大きく異なるので単純な定量化が難しいことがその理由であろう。
細胞移動 ソフト寒天法
著者: 山口寿夫
ページ範囲:P.480 - P.484
生物学で用いる実験法を開発する際,もっとも心掛けなければならないことは,如何にして素直に自然をして語らしめるかということである。その場合対象となるものが細胞のように複雑,多岐にわたる機能を有し,またなお多くの点でその機能や構造について不明の点の多いものである場合には,なおのこと細胞をしてその行動の規範について語らしめることは難しい。すなわちこのような実験法の採用に当って,著しく自然に傾斜した方法にのっとればその定量化や解析が難しいし,また他方定量化を厳密に行おうと試みれば,その自然のもつ反応性なり,行動のあり方をそこない素直な形で自然律を表現し得ないことになる。この点についての理解と洞察が多くの生物学的実験法確立の岐路となり,それを用いる人についてもその点について十分な配慮を行いうるかどうかでその方法の評価なり採用なりについて異なった姿勢が示される。
私どもは長年炎症を取り扱う研究にたずさわってきたが,その際炎症巣における細胞のあり方,ことにそのdynamicな側面を理解するためには,その細胞の出現頻度や形態学的特徴よりも,その細胞が何を反応すべき対象として認識し,また如何なる要因に基づいて基質を含む結合織内を運動し,反応していくかをもっとも自然な形で語らしめる必要を感じてきた。
細胞移動 ゾウリムシの遊泳軌跡の測定法—遊泳軌跡からの繊毛活性の推定
著者: 杉野一行 , 内藤豊
ページ範囲:P.485 - P.490
ゾウリムシやテトラヒメナなどの原生動物繊毛虫類の遊泳運動は,細胞表面を覆う数多くの繊毛の動きに依存している。繊毛は,丁度ガレー船のオールのように周囲の水を後方へ押し,その反動で細胞を前進させる。しかし繊毛虫はいつも前進ばかりしているわけではない。ゾウリムシは,障害物や有害な化学物質に出くわしたり光が当たったりすると,泳ぐ方向を変えたり(回避反応)泳ぐ速さを変えたり(逃走反応)する。このような運動性反応は,すべて繊毛の動き(繊毛運動)の刺激に対する変化(繊毛反応)に依存している。運動性反応の結果,繊毛虫はいろいろな刺激に対する走性行動を示すことになる1)。
繊毛の運動活性は,水を押す方向に当たる有効打の方向と,水を押す強さに当たる繊毛打の強度の二つのパラメーターで記述することができる。繊毛打の形状すなわち繊毛打中の繊毛の形の変化がいつも同じであれば,繊毛打の強度は繊毛打の頻度と見なすことができる。ゾウリムシは主に有効打の方向と繊毛打の頻度を環境条件に応じて変化させている。
鞭毛運動の記録と解析
著者: 真行寺千佳子 , 高橋景一
ページ範囲:P.491 - P.492
真核生物の鞭毛運動の研究には,ウニの精子やクラミドモナスがもっともよく用いられている。これらの鞭毛の運動はほぼ一平面内で起こるため,波形の記録と解析を高い精度で行うことができる。鞭毛波形の解析に当って,基礎的で重要な運動のパラメタがいくつかある。中でも,鞭毛打頻度・屈曲角度・屈曲の曲率の解析は,鞭毛運動の原動力である鞭毛軸糸内部での微小管すべり運動がどのような制御を受けて屈曲波の形成と伝播に変換されるのかを解明する上で重要な意味を持つ。ここでは,主にこれらのパラメタについて解析方法を述べる。
nm精度での顆粒運動の解析
著者: 上村慎治
ページ範囲:P.493 - P.495
植物細胞の原形質流動や神経軸索輸送(早い軸索流)は,光学顕微鏡で容易に観察でき,ビデオや16mm映画として記録できる。撮影記録のコマごとに原形質顆粒の移動距離を測ってゆけば,運動速度を求めることもできる。分解能(厳密には分解能resolutionではなく,精度accuracyというべき)の制限から,このような解析結果は,ある繰り返しのATP加水分解反応に伴う分子,あるいは分子集団によって起こる運動の平均的な速度を調べていることになろう。もし,単一分子による運動が分子のスケールであるnmの精度で,しかも十分な時間分解能で解析できるならば,細胞運動の分子機構の解明についてきわめて有力な手法となる。光学顕微鏡下の単一の(または,単一に近い)分子による運動を観察するには,たとえば,近年分子に螢光標識し,螢光顕微鏡下で運動を追跡するという実験や,画像処理技術を使い,数十nmの微小な顆粒の運動を直接観察1,2)する実験などがある。この章では,もう一つのアプローチ,顆粒の運動をnmの高い精度で解析する新手法について紹介する。
軸索内輸送(AVEC-DIC)
著者: 竹中敏文 , 川上倫
ページ範囲:P.496 - P.499
光学顕微鏡は電子顕微鏡ほど解像度はないが,生きた細胞をそのまま観察できるという大きなメリットがある。ここで述べる装置は光学顕微鏡にコンピュータ技術を加えて像のコントラスト増強をはかり,今まで観察できなかった細胞内の微細構造を,生きたままの姿で鮮明に映し出し,その動的変化を解析しようというものである。
光学の発展に伴い顕微鏡の精度はどんどん良くなってきた。分解能が上がると微細構造が見えるようになるが,そこで障害に突き当たった。それは,拡大して組織を見ようとすると,無色透明であり,明暗の差や色の差がないため構造が良くみられないことであった。これを解決する方法として開発されたのが位相差顕微鏡であり,微分干渉顕微鏡であった。一般に原形質の各部分は,屈折率や厚みの差があり,これを直進した波は位相の変化を受ける。これらの顕微鏡は,この位相変化を光の振幅の差,すなわち明暗の差に変えたものである。これらの顕微鏡により,標本を染色することなしに,生きたまま観察することができるようになった。このようにして微細構造が見えてくると,次に望むものは,少しでも微小なものを見ようということである。近年めざましい発展を遂げたコンピュータ技術は,光学顕微鏡の分野にも大きな影響をもたらした。すなわち,得られた画像をコンピュータでビデオ・デジタル処理することにより細胞の微細形態を見ることができるようになった。
原形質流動 原形質流動の研究における遠心処理の適用
著者: 菊山宗弘 , 上坪英治
ページ範囲:P.500 - P.501
原形質流動の研究において遠心処理は,それによって細胞内に細胞構成要素の不均等分布などを起こすための使い方と,遠心加速度下での細胞全体やある部分の挙動を直接観察する使い方の,大きく分けて二通りがある。前者の場合には通常のスイング型遠心機で十分であるが,後者の場合には「遠心顕微鏡」が必要となる。これらについてはすでに詳細な総説がある1,2)。
原形質流動 車軸藻類アクチン線維を用いたミオシン運動の解析
著者: 新免輝男 , 河野匡
ページ範囲:P.502 - P.503
アクトミオシン系による運動の分子機構としてはアクチンとミナシン間の滑り説が確立している。最近,植物細胞における原形質流動もアクトミオシン系によることが明らかとなりつつある。原形質流動の機構は車軸藻類においてもっとも研究が進んでいる。車軸藻類は湖や沼などに生える淡水産の藻である。実験に用いられる節間細胞は直径1mm,長さ十数cmにも達する円柱形の巨大細胞である。その利点を生かして,切断,くくり,灌流などの細胞手術を施すことができる。細胞の最外層はセルロースより成る細胞壁であり,その内側に原形質膜がある(図1)。細胞内は液胞膜によって原形質と液胞に分けられ,液胞が全細胞体積の90%以上を占める。原形質膜の内側にはゲル状の原形質外質に固定した一層の葉緑体がある。その内側のゾル状の原形質内質が活発に流動している(原形質流動)。葉緑体の内表面にアクチン線維の束が極性をそろえて配列している。ミオシンは原形質内質中の細胞器官に結合していると考えられている。すなわち,原形質流動の流動力は「固定したアクチン線維の上を細胞器官に結合したミオシンが滑る」ことにより発生する1)。動植物界を通じて車軸藻類のアクチン線維ほど配向のそろったものは他にない。また原形質流動の速度はアクチンとミオシンの滑りそのものを反映している。
分泌量測定(微量定量測定) 蛋白質分泌
著者: 菅野富夫
ページ範囲:P.504 - P.505
分泌細胞の分泌物質を測定するには,多種多様の方法が採用される。どの方法を採用するかは,分泌物質の種類と特性によって決められる。分泌物質が蛋白質であれば,蛋白質定量法を採用するが,その方法のうちもっとも広く採用されており,かつ簡便なのは,Lowryら1)(1951)の方法であり,次のようにして測定する。
分泌量測定(微量定量測定) 培養細胞からのカテコールアミン放出測定法
著者: 熊倉鴻之助
ページ範囲:P.506 - P.509
培養細胞からのカテコールアミン(CA)放出の測定には一般に,単位時間当りに細胞外液中に放出蓄積されたCAを抽出定量する,いわゆるバッチ法が用いられる。この方法には,(1)放出された内因性CAを定量する方法と,(2)あらかじめラジオアイソトープで標識されたCAを細胞に取り込ませた後に放出された放射活性を測定する方法がある。後者の方がより微量な放出を測定できるが,近年の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と電気化学検出器(ECD)の発達により,前者の方法の測定感度もまた飛躍的に増大している。総量として単位時間当りにどれだけの量が放出されたかは,このバッチ法で十分に測定できるが,放出現象を時間軸上で解析することは困難である。この点は電気生理学的手法に比較して生化学的手法の大きな弱点であり,測定感度の増大では克服できない点である。
筆者らは,副腎髄質細胞からのCA放出過程を時間軸上でより正確にとらえることを目的に,CA放出過程を連続測定する手法(リアルタイム・モニタリング法)を開発した1)。この手法には電気化学的検出法を用いているために,実験条件の設定やデータ解析で特に慎重を要する点もあるが,放出動態を連続的に測定できる点以外に,極微量の放出も測定できる,直接的測定であるので放出の大きさをただちに知ることができる,細胞への繰り返し刺激や多重刺激を与えて各々の刺激への応答成分を検出できるなど,測定法として優れた点がある。
分泌量測定(微量定量測定) 個々の細胞からのホルモン放出量測定法—reverse hemolytic plaque assay
著者: 服部淳彦 , 鈴木卓朗
ページ範囲:P.510 - P.512
従来,"ホルモンの放出量"といえばin vivo,in vitroを問わず,それぞれの内分泌器官における細胞群全体の反応としてしか取り扱うことができなかった。本稿で紹介するreverse hemolytic plaque assayは,1個の細胞からのホルモン放出量を測定できる画期的な方法である。元来この方法は,B cellの抗体産生能を検定するhemolytic plaque assayの変法として,抗原放出能の検定に開発されたものである1)。1983年Neillら2)の一派によって初めて下垂体学に導入されたが,現在まで筆者ら3)を含めても世界で3,4のグループから発表されているのみである。下垂体にとどまらず,抗原を放出する細胞であればどんな細胞にでも適用できる特徴を持っており,今後急速に普及していくものと思われる。
この方法の原理は,細胞の回りに放出されたホルモンが抗体と結合し,さらにprotein Aを介して赤血球と結合した後,補体によってホルモン—抗体のcomplexが形成された赤血球のみに溶血が生じるというものである。したがって,細胞の回りに形成された溶血斑の面積を測定すれば,1個の細胞から放出されたホルモン量が算出できるわけである。本稿では現在当教室で行っている方法について紹介する〔なお本法の基礎となっているNeillら(1986)4)の方法を合せて参考にされるとよい〕。
シナプス伝達物質放出の素量解析
著者: 山本長三郎
ページ範囲:P.513 - P.515
シナプス前線維終末からの伝達物質放出に際して,伝達物質の数千分子の塊(素量)が放出の最小単位となる。つまり終末に達したインパルスは終末から整数個の素量を放出させ,それに対応した電位変化をシナプス後細胞に誘発する。1個の素量によって発生する興奮性シナプス後電位(EPSP)を微小EPSPという。適当な方法を用いると,1本のシナプス前線維と1個のシナプス後細胞の間のシナプスについて,線維の各インパルスに応じて放出される素量数の平均値(m)や微小EPSPの平均振幅(q)を計算することができる。この方法を素量解析法という。シナプス伝達の修飾が観察された場合,素量解析法を用いれば修飾の原因を終末に求めるべきか,シナプス後細胞に求めるべきかを推定することができる。つまり,mの変化は伝達物質放出量の増減を意味する。またqの変化は,例外も考えられるが,一般にはシナプス後細胞での修飾,たとえば伝達物質に対する受容体の感受性の増減を反映すると理解される。
ザリガニの神経筋伝達では,mやqの値を直接計測することが可能である。また脊椎動物の神経筋伝達では,自発する微小終板電位の振幅の平均値がqに等しいと考え,運動神経の刺激に応じて発生する終板電位の振幅の平均値をqで割ればmが求められる。一方,多数の求心線維がシナプスを作っている中枢ニューロンでは,自発する微小EPSPの振幅を計っても特定の線維末端から放出される素量についてのq値を知り得ない。
細胞接着能測定
著者: 藤原敬己 , 増田道隆
ページ範囲:P.516 - P.519
細胞の接着性は,細胞が組織や個体を形成するために重要であるばかりでなく,細胞と細胞のコミュニケーションや物質透過にも大きな役割を担っている。したがって,いろいろの細胞の,いろいろな物質や細胞に対する接着能や接着力を知ることは,生物学的意義が深いと思われる。現在のところ細胞の接着能や接着力を定量することはできないが,細胞のこれらの性質を調べる試みはいろいろな方法でなされている。ここでは,まず簡単に細胞接着とは何かということについて考え,次に細胞の接着能や接着力の程度を推定する方法について述べることにする。
単一細胞の測定 単一平滑筋細胞の張力測定法
著者: 八木忍
ページ範囲:P.520 - P.522
平滑筋の収縮は,基本的には骨格筋と同様に,微量の細胞内カルシウム(Ca2+)濃度によって制御されている。しかし,その収縮機構の解明は骨格筋に比べて,未だ不明の部分が多く,はるかに遅れている。その理由の一部は平滑筋の細胞が小さいために骨格筋の単一筋線維のような標本で力学的性質を調べられなかったことに起因しているであろう。1971年,Bagbyら1)により初めて酵素処理による単一平滑筋細胞の作製法が紹介され,さらに1976年,Fayら2)の高感度微小張力トランスジューサーによって張力測定が可能となって以来,単一平滑筋細胞の研究は急速に発展してきた。筆者は1983〜86年の間にFay研究室に滞在する機会を得て,単一平滑筋細胞の短縮速度,およびCa2+感受性螢光色素Fura 2による細胞内Ca2+濃度と張力の同時測定の研究に従事してきた。そこで,ここでは単一平滑筋細胞の張力測定法について紹介したい。
単一細胞の測定 Single fiber張力測定(骨格筋)
著者: 飯野正光
ページ範囲:P.523 - P.524
骨格筋単一線維(single fiber)は,イカの巨大軸索とともにもっとも古くから研究に用いられてきた単一細胞であり,興奮収縮連関および筋収縮機構の研究に重要な役割を果たしてきた。単一線維は全筋標本に比べて調整が格段に難しいが,次のような点で優れており,定量的な実験に欠かすことができない。1)細胞周囲の溶液を急速に変えることができる。これに対し全筋では,標本の最外層と中央部では拡散に要する時間のために実際に溶液が変わるには何十秒もの時間差が生じる。2)腱の長さを短くすることができ,それに起因するコンプライアンスを小さくできる。3)個々の細胞の反応を知ることができる。一方,全筋は速筋と遅筋という性質の異なった筋線維が混じり合っているので全体の平均しかみることができない。また骨格筋の収縮は筋節長に強く依存するが,全筋ではすべての筋線維の筋節長を一つの値にすることは困難である。
単一線維は,種々の方法論と組み合わせて用いられる。たとえば,最近ではエクオリンやカルシウム指示薬を注入して細胞内カルシウム濃度を測定したり,X線回折法で微細構造の変化を調べたりする。また,細胞膜を除去してスキントファイバー標本として用いることもある。張力にしても,筋線維の一部分の筋節長を常に一定に保つようにして測定が行えるようになってきた。ここでは,もっとも基本的な張力測定法について述べる。
粘菌変形体小片の周期的収縮運動の解析
著者: 石上三雄
ページ範囲:P.525 - P.526
粘菌Physarum polycephalum変形体は,その流動方向が周期的に反転する往復原形質流動を示す。この往復流動は変形体内に生じる圧力差が周期的に変化することによっているが,その圧力差ができるのは,変形体ゲル層に存在するアクトミオシン-ATP系の収縮装置による周期的張力発生のレベルおよび位相が位置的にずれているためだと考えられている1)。変形体ゲル層の収縮装置はアクトミオシン線維(電顕的には巨大な微小線維の束)という形態をとるが,これは骨格筋の筋原線維のように構造的に安定なものではなく,変形体の収縮弛緩と同期して形成崩壊を繰り返すきわめてダイナミックな構造である。これらのことから粘菌変形体はアクトミオシン系の非筋細胞運動装置の動的変化を張力発生と結びつけて研究する恰好の材料だと考えられている。
ここでは,種々の生理的条件でのアクトミオシン系収縮装置のダイナミックスの研究に有用な変形体小片の周期的収縮弛緩運動と,それに同期して生起するアクトミオシン線維の動的変化について方法論的観点から述べる。
貪食能定量
著者: 富田光子
ページ範囲:P.527 - P.528
貪食(phagocytosis)の機能をもつ細胞はアメーバのような原生動物(protozoa)と後生動物(metazoa)内のマクロファージ(mononuclear phagocyte)とミクロファージ(polynuclear phagocyte)である。これらの細胞の貪食能を調べた文献は多いが,定量方法として満足のゆくものとなると決して多くはない1-3)。本項では臨床的にも最近脚光を浴び,初心者にとって取り扱いの難しいマクロファージを例にとって述べることにする。被験粒子には,赤血球,ラテックス,オイルレッド,スターチ,バクテリア,酵母などがよく用いられるが,これらに10〜20%ほどの適当な血清をまぶして用いれば,オプソニン効果が得られる。
なお,in vitroで貪食能を測定する方法としては,1.被験粒子を細胞内へ最大限取り込ませ,細胞の外側の粒子の減少を測定する方法1)と,2.貪食が細胞の外側のメディウム中の粒子の濃度または体積に比例する事を利用して,最大速度(Vmax)の得られる条件下で定時間あたりの細胞内への取り込み量を測定する方法2,3)とがある。
細胞光学特性測定法
偏光による構造測定
著者: 佐藤英美
ページ範囲:P.530 - P.533
現代の顕微光学の進歩は著しく,屈折率の差がほとんどないために観察し難かった生体細胞内構造を,僅少な屈折率差を増幅してコントラストに変え,あるいは僅少な干渉によって膜や線維性構造に立体感を与える陰影を作り,視覚化することを可能にした(位相差法;ノマルスキー微分干渉位相差法)。
さらに,偏光を効果的に利用することで,これまで見ることができなかった細胞内超微細構造や分子配向の動態を,複屈折性または光干渉を強調してコントラストに変えることによって可視化し,定量する方法が確立された。これまでの形態学の泣き所であった時間軸の導入は大きい。これで細胞に直接問いかけ,反応を追跡することが可能となり,細胞学は細胞生物学へと大きく変貌することになる。
局所分子運動測定 時間分解ラマン分光法
著者: 小林孝嘉
ページ範囲:P.534 - P.536
細胞内の分子の構造を見る方法としてレーザーを用いたラマン分光法には次のような特徴がある。まず第一に空間的コヒーレンスの良さを利用してレンズで空間的に狭い領域にたとえば細胞内の特定の細胞内器官に集光し,そこにおける生体高分子の構造情報を得ることが原理的に可能である。ラマン散乱は,他のX線解析やNMR,あるいは赤外吸収スペクトルと異なり,結晶と水溶液のいずれも観測可能なので,結晶と水溶液とでの状態でアミノ酸残基などのコンフォメーションの違いなどの分子構造の差異があるかどうかを明らかにできる。
このラマン分光法が広く応用されるようになったのは,レーザー技術および微弱光測光技術の進歩に負うところが大きい。レーザー光の高い空間的および時間的コヒーレンスにより,ラマンスペクトル測定データのS/Nは飛躍的に向上した。またこれに伴って同時に測定時間が短縮され,必要な試料の量が少なくて済むようになった。ラマン散乱は赤外吸収と異なる遷移選択測をもつので相補的な情報が得られる。またたとえば,分子の可視・紫外吸収に近い波長の単色レーザー光でラマン散乱を励起すると,電子遷移に共鳴する効果のため特定の振動モードが非常に強いラマン線を与える。そのラマン散乱強度の励起波長依存性により,電子励起に伴う原子配置の変化,振動と電子状態の相互作用,可視吸収帯の帰属の情報を得ることができる。
局所分子運動測定 レーザー光散乱スペクトロスコピー
著者: 吉岡亨
ページ範囲:P.537 - P.539
光散乱法の生物学的応用はすでに30年余の歴史を持つものであり,古くはDebyeによる高分子の分子量の測定から新しくはレーザー・ドップラー顕微鏡による原形質流動の測定が挙げられる。しかしながらこれらの測定法は,より正確でより新しい方法によってとって代られつつあり,光散乱法でなければ測定できない物理現象とは一体何か?を指摘するのにむしろ困難を覚える程である。しかしこのような時期にあえて光散乱法を取り上げる理由はもちろん十分に存在する。いまもしわれわれが,(a)膜融合現象をリアルタイムで観測する,(b)伝達物質の遊離初速度と方向を測定する,といったような問題に直面したとするならば,多分レーザー光散乱スペクトロスコピーを用いるのが現在でももっとも良い方法であろうと思われるからである。なおここでは紙数の制約から,データの解析法などについては一切触れない積りである。
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30巻4号(1979年8月発行)
輸送系の調節
30巻3号(1979年6月発行)
特集 網膜の構造と機能
30巻2号(1979年4月発行)
特集 神経伝達物質の同定
30巻1号(1979年2月発行)
特集 生物物理学の進歩—第6回国際生物物理学会議より
29巻6号(1978年12月発行)
特集 最近の神経科学から
29巻5号(1978年10月発行)
特集 下垂体:前葉
29巻4号(1978年8月発行)
特集 中枢のペプチド
29巻3号(1978年6月発行)
特集 心臓のリズム発生
29巻2号(1978年4月発行)
特集 腎機能
29巻1号(1978年2月発行)
特集 膜脂質の再検討
28巻6号(1977年12月発行)
特集 青斑核
28巻5号(1977年10月発行)
特集 小胞体
28巻4号(1977年8月発行)
特集 微小管の構造と機能
28巻3号(1977年6月発行)
特集 神経回路網と脳機能
28巻2号(1977年4月発行)
特集 生体の修復
28巻1号(1977年2月発行)
特集 生体の科学の現状と動向
27巻6号(1976年12月発行)
特集 松果体
27巻5号(1976年10月発行)
特集 遺伝マウス・ラット
27巻4号(1976年8月発行)
特集 形質発現における制御
27巻3号(1976年6月発行)
特集 生体と化学的環境
27巻2号(1976年4月発行)
特集 分泌腺
27巻1号(1976年2月発行)
特集 光受容
26巻6号(1975年12月発行)
特集 自律神経と平滑筋の再検討
26巻5号(1975年10月発行)
特集 脳のプログラミング
26巻4号(1975年8月発行)
特集 受精機構をめぐつて
26巻3号(1975年6月発行)
特集 細胞表面と免疫
26巻2号(1975年4月発行)
特集 感覚有毛細胞
26巻1号(1975年2月発行)
特集 体内のセンサー
25巻5号(1974年12月発行)
特集 生体膜—その基本的課題
25巻4号(1974年8月発行)
特集 伝達物質と受容物質
25巻3号(1974年6月発行)
特集 脳の高次機能へのアプローチ
25巻2号(1974年4月発行)
特集 筋細胞の分化
25巻1号(1974年2月発行)
特集 生体の科学 展望と夢
24巻6号(1973年12月発行)
24巻5号(1973年10月発行)
24巻4号(1973年8月発行)
24巻3号(1973年6月発行)
24巻2号(1973年4月発行)
24巻1号(1973年2月発行)
23巻6号(1972年12月発行)
23巻5号(1972年10月発行)
23巻4号(1972年8月発行)
23巻3号(1972年6月発行)
23巻2号(1972年4月発行)
23巻1号(1972年2月発行)
22巻6号(1971年12月発行)
22巻5号(1971年10月発行)
22巻4号(1971年8月発行)
22巻3号(1971年6月発行)
22巻2号(1971年4月発行)
22巻1号(1971年2月発行)
21巻7号(1970年12月発行)
21巻6号(1970年10月発行)
21巻4号(1970年8月発行)
特集 代謝と機能
21巻5号(1970年8月発行)
21巻3号(1970年6月発行)
21巻2号(1970年4月発行)
21巻1号(1970年2月発行)
20巻6号(1969年12月発行)
20巻5号(1969年10月発行)
20巻4号(1969年8月発行)
20巻3号(1969年6月発行)
20巻2号(1969年4月発行)
20巻1号(1969年2月発行)
19巻6号(1968年12月発行)
19巻5号(1968年10月発行)
19巻4号(1968年8月発行)
19巻3号(1968年6月発行)
19巻2号(1968年4月発行)
19巻1号(1968年2月発行)
18巻6号(1967年12月発行)
18巻5号(1967年10月発行)
18巻4号(1967年8月発行)
18巻3号(1967年6月発行)
18巻2号(1967年4月発行)
18巻1号(1967年2月発行)
17巻6号(1966年12月発行)
17巻5号(1966年10月発行)
17巻4号(1966年8月発行)
17巻3号(1966年6月発行)
17巻2号(1966年4月発行)
17巻1号(1966年2月発行)
16巻6号(1965年12月発行)
16巻5号(1965年10月発行)
16巻4号(1965年8月発行)
16巻3号(1965年6月発行)
16巻2号(1965年4月発行)
16巻1号(1965年2月発行)
15巻6号(1964年12月発行)
特集 生体膜その3
15巻5号(1964年10月発行)
特集 生体膜その2
15巻4号(1964年8月発行)
特集 生体膜その1
15巻3号(1964年6月発行)
特集 第13回日本生理科学連合シンポジウム
15巻2号(1964年4月発行)
15巻1号(1964年2月発行)
14巻6号(1963年12月発行)
特集 興奮收縮伝関
14巻5号(1963年10月発行)
14巻4号(1963年8月発行)
14巻3号(1963年6月発行)
14巻1号(1963年2月発行)
特集 第9回中枢神経系の生理学シンポジウム
14巻2号(1963年2月発行)
13巻6号(1962年12月発行)
13巻5号(1962年10月発行)
特集 生物々理—生理学生物々理若手グループ第1回ミーティングから
13巻4号(1962年8月発行)
13巻3号(1962年6月発行)
13巻2号(1962年4月発行)
Symposium on Permeability of Biological Membranes
13巻1号(1962年2月発行)
12巻6号(1961年12月発行)
12巻5号(1961年10月発行)
12巻4号(1961年8月発行)
12巻3号(1961年6月発行)
12巻2号(1961年4月発行)
12巻1号(1961年2月発行)
11巻6号(1960年12月発行)
Symposium On Active Transport
11巻5号(1960年10月発行)
11巻4号(1960年8月発行)
11巻3号(1960年6月発行)
11巻2号(1960年4月発行)
11巻1号(1960年2月発行)
10巻6号(1959年12月発行)
10巻5号(1959年10月発行)
10巻4号(1959年8月発行)
10巻3号(1959年6月発行)
10巻2号(1959年4月発行)
10巻1号(1959年2月発行)
8巻6号(1957年12月発行)
8巻5号(1957年10月発行)
特集 酵素と生物
8巻4号(1957年8月発行)
8巻3号(1957年6月発行)
8巻2号(1957年4月発行)
8巻1号(1957年2月発行)